『ヨッパラうい』


<憂20歳の話>


商店街のアーケードに、憂の叫びがこだまする。


憂「ちくしょー!」バンバンバン


純「まぁまぁ落ち着いて」

憂「うぅ、う~」

梓(もしかして憂、酔っぱらってる?)


憂「どうして……どうしてよぉ~」

憂「うわああああああああああん~」

純・梓「……」


純「一体何があったのよ憂。あんたさっきの合コンで男子から一番モテてたじゃん」

憂「うん。私がいちばんモテてたよ」

梓「」イラッ

憂「でも、だめ。それじゃだめなのおおおおおおお」

純「えー」


梓「モテたのが嫌だったの?」

憂「違うの。そうじゃなくて……」








憂「お姉ちゃんが、男の子から見向きもされてなかったのがくやしい~~~~~~!」

純・梓(あ~~~~)


純「まぁ確かに律さんや澪さん。紬さんはそこそこチヤホヤされてたけど、」

梓「なんか唯先輩だけはどの男子からも反応薄かったね……」

純「好みの問題なんだろうけど」

梓「……明らかに、女子の中で1人だけ、ね」


憂「でしょう! だからお姉ちゃん空気を読んで配ぜん係とか注文係とかやってたのよ!」



憂「そういうのは私の役目なのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


純(まぁねぇ)

梓(分かる気はするけど…)


憂「しかも、男の子たちがお姉ちゃんに絡むのはお酒を飲んでるときくらい!」

純「だったねぇ」

憂「お姉ちゃん男の子たちに乗せられてドンドンお酒飲んじゃって、そのせいでさっき道端に吐いちゃった!」

梓「いま、澪先輩たちが介抱してるところね……」

憂「……そんなのってないよぉぉぉぉぉぉ!」

梓「そうだね。ないよねぇ…」

純(憂、だいぶ酔っぱらってる)


憂「ニクイ! ヤツラガニクイ!」

憂「う、うぅぅぅぅうぅぅぅ……」

純「まぁちょっと、ペットボトルの水でも飲んでアルコールを薄めなよ」

憂「ぐすん。そうする」


ごくっごくっごくっ


憂「もう……飲まなきゃやってられないよ」

梓(水飲みながらそれを言うのね…)


憂「お姉ちゃぁん。お姉ちゃァん……」


澪「おーい! 唯が元気になったぞー!」

律「女子だけのカラオケ二次会やるから3人とも早くこーい!」


梓「はーい! 今行きまーす!」

純「ほら、カラオケだって。歌ってウップンふっ飛ばそっ。ね」

憂「……うん」


憂「2人とも、1つだけいい…」


純・梓「?」







憂「お姉ちゃんは、すっごくかわいいんだからねっ!」

純・梓「はいはいww」

(おわり)


『憂「大きくなあれ!」』


それは……突然のことでした。

唯「憂! お胸を分けてはくださいませんか!」

憂「えっ!? お姉ちゃん?! どうしたの急に?」

夕飯が終わり片付けをする為、席を立とうとした瞬間の出来事でした。

唯「憂の立派なお胸を少しだけでいいからわたしに転送してくださいお願いします」

お姉ちゃんが机に頭を擦り付けながらひたすらに懇願する、「お胸を分けてください」と。

憂「……何かあったの? お姉ちゃん」

胸を分け与えるのは現実的に無理だとわかっていても心なら、分け与えられる。
そう思い懸命に話を聞くことにした。

唯「……ってことなの…」

憂「そうなんだ…」

お姉ちゃんの話はこうだった。
毎年合宿に行った時、自分と同学年の澪さんや紬さんの胸を見て愕然とした。

目の前が真っ暗になり、所持金が減りそうな感覚に陥った……と。

お姉ちゃんだってもう胸のサイズだって気にしちゃうちょっぴりセンチメンタルなお年頃。

好きな男の子でもいるのかな……?

気にはなるけど…お姉ちゃんの悩みは私の悩み!

憂「わかったよお姉ちゃん! 私も協力するよ!」

唯「憂! お胸分けてくれるの!?」

憂「それは無理だよぉ」フフフ


こうして、お姉ちゃんのお胸おっきくしよう大作戦が始まった。

憂「インターネットで皆さんから知恵を借りよう!」

憂「えっと……、お胸 大きく なる方法 でいいかな?」

憂「いっぱいでた~」

憂「う~ん……」

憂「豊胸手術? ダメダメ! お姉ちゃんの体にメスなんて入れさせません! 次つぎ!」

憂「サプリメントかぁ……でも高いなぁ。今月お小遣いも残り少ないし無理そう」

憂「つぼを刺激する……かぁ。でもお姉ちゃん痛いの苦手だからダメかな~」

憂「なかなか見つからないなぁ」


憂「マッサージとかどうかな?」

憂「お風呂場で……」
__________

憂『ええのんか~? ここがええのんか~?』

唯『うっ、ういいいっ! 大きくなるよぅっ』
__ ______
  ∨
   0o。
    憂「///」

憂「い、いくら姉妹でもいけないよねっ! それに私が恥ずかしくて耐えられないよぉ///」

憂「じゃあどうしよう……」


憂「!」

憂「やっぱり大きい人に直接聞くのが一番かな! 私の知ってる範囲じゃ……純ちゃん…はどうなんだろう。身体測定の時大きかったような……でもあの二人と比べちゃうと…」

憂「あずさちゃ……」

憂「……」

憂「直接澪さんや紬さんに聞こうかな」

憂「でもお姉ちゃんはきっと澪さんや紬にはこの悩みは知られたくない筈…! かと言って律さんに相談しても……」

憂「……私凄い失礼なこと言ってる…。梓ちゃん律さんごめんなさい」

憂「やっぱりインターネットで情報を集めよう!」

そうして憂の夜更けは続いた。


翌朝──

唯「ふぁ~…憂ぃ~おは…よっ!?」

憂「お、おはよ~お姉ちゃん。朝ごはん出来てるよ」

唯「顔色悪いよ憂? どうかしたの?」

憂「ううん。ちょっと寝不足なだけ。さ、朝ごはん食べよっ」

唯「うん…」

二人仲良くテーブルにつくと、そこには……!

唯「う、憂! これ朝ごはんだよね?」

憂「そうだよ~」

唯「でも……これはちょっと多すぎるんじゃ……それに」

チラッチラッとお姉ちゃんが二度見したのは今日朝一で買ってきたお魚。

唯「まぐろ様の頭が……」ガクガク

憂「コラーゲンたっぷりだよっ!」

そうです! 昨日インターネットで調べたお胸にいい食材を吟味し作った朝ごはんなのです!

唯「豆腐…湯豆腐…たまご豆腐…大豆…黒豆…豆…」

憂「大豆にはいそふらぼんって言うのが入ってて食べるとおっきくなるんだって! だからいっぱい食べてねお姉ちゃん!」

唯「いそふらぼん…! 名前からして大きくなりそう! って憂! ……もしかしてわたしのために?」

憂「えへへ/// 朝から頑張ってみました」

唯「ううっ……苦労かけるねぇ妹とよ」メソメソ

憂「お姉ちゃんのためだもん! これぐらい当たり前だよっ」

唯「ならば残すわけにはいかないね! いただきます!」

憂「いただきま~す」

唯「お胸大きくなあれ」もぐもぐ

憂「大きくな~れ」もぐもぐ

唯「大きくなあれ」もぐもぐ

憂「大きくな~れ」もぐもぐ

──

唯「げぷっ……。ごぢぞうさまでずた」

憂「お粗末様でした」

唯「早く学校に行かないと!」

憂「待ってお姉ちゃん! 行きながらでいいからこれをやって!」

唯「……こ、この動きは!」


通学中──

「おっおっきっくなぁれ」

「お~きくな~れ///」ボソボソ

朝の通学路に似つかわしくない奇声が響く。

唯「おっおきっくなぁっれっ」フンスフンスフ-ンス

憂「お姉ちゃんわたしは……///」

唯「だよね……憂は元々大きいからこんなことしなくても…」ナガシメ~

憂「わっ、わかったよぉ! 大きくなあれ!///」

大きくなるだけじゃ形が悪くなるという情報が多々あったのでそうならない体操(ラジオ体操の深呼吸みたいなの)をしながら行った方がいいって言ったけど……まさか私まですることになるなんて。

でもお姉ちゃんと一緒ならちょっと楽しいから不思議です。

唯「つきました!」

憂「もうやめよ、ね?」

唯「さすがに学校の中まではしないよぉ。あくまで隠密行動ですから!」

憂「(やっぱり秘密なんだ)」

「お、唯~おはよー」

「おはよう唯。憂ちゃんも」

「おはよう二人とも」

唯「あっ、りっちゃん澪ちゃんムギちゃん! おはよう!」

憂「おはようございま…」

紬「」バイーン
澪「」ドデーン

律「」チョコン

憂「(律さんっ!)」

律「ん? 憂ちゃんなにやってんだ?」

憂「(律のお胸お~きくなぁれ!)」フンフンフーン

唯「う、うい!? な、なんでもないよ! あはははは…」

憂「(やっぱり澪さんと紬さんの胸は大きかったなぁ…)」

憂「(このままお姉ちゃんのお胸が大きくなったらああなるのかな?)」

憂「……」

憂「(あんまり似合わないような気がしなくも……。でもお姉ちゃんがなりたいって言うなら……その成長を私は止められないよ)」ウーンウーン

純「なにウンウンうなってるの憂」

憂「あっ、純ちゃんおはよー」

純「おはよ」

憂「」ジー

純「憂? どこ見てんの?」


憂「なっ、何でもないよっ(純ちゃんもなかなか……こう……)」

純「憂…どうしたのさ? 手つきがなんか怪しいよ」ブルッ

梓「おはよー憂、 純」

憂「おはよう梓ちゃん」

純「あれっ!? わたしの名前呼ぶの間がなかった!?」

梓「気のせいだよ」

純「気のせいじゃないよ! おはよー憂、  純って確実に間があったよ!?」

梓「違う違う。憂、   純だよ」

純「もっと長くなった!?」

梓「捕捉するのに時間がかかっただけだよ」

純「捕捉ってあずさは戦闘機なの!? そのお下げがレーダー的な」

梓「純は朝から元気だね~……。で、憂は何してるの?」

憂「(梓ちゃんのお胸おっきくなぁれ!)」フンフンフーン

純「こういうところはやっぱり平沢妹だね~」

梓「心が痛いのはなんでだろう……」

お姉ちゃんがこのことを秘密にしてる限り周りの人に聞くと言う選択肢は絶たれた……。

もう私しかいないんだ! お姉ちゃんのお胸を大きく出来るのは!

憂「恥ずかしいけど……やるしかないよね!」

──

唯「ただいま~憂~」

憂「……」

唯「憂~?」

憂「よ、よぉ。帰ったか姉貴。今飯作るからよ」

唯「ういいいっ!? どうしたのそのかっこ!?」

白のシャツを乱暴に着こなし、黒のデニムにどくろのチェーン。
片目を軽く髪で隠しながら、スリッパもダルそうに履くパンクファッション!

憂「べ、別に。イメチェンだよイメチェン(///)」

唯「そ、そうなんだ……なんかカッコいいね!」

憂「(よしっ! 計算通り! 後はここで……ここで……あのセリフを///)」

憂「お、お姉ちゃん!」

唯「ふぅん?」

憂「わ、私に……ほ、惚れてしまってもええのんよ?///」

唯「ほえ?」

憂「ご、ご飯作ってくるっ!」

憂「(恋をすることによってホルモン分泌が良くなるから大きくなるらしいけど……恥ずかしすぎるよぉ///)」

唯「? 変な憂~。でもかっこ可愛かったなぁ。わたしもあんなかっこうが似合うお胸になりたいのです」

それからそんな日が続き……ある日のこと。

唯「うぅ~ん…。なんかちょっとキツい」

澪「わ、私も……」

梓「あれ? サイズちゃんと伝えたんですよね?」

紬「ええ。でも成長期だから…少し合わないかもって言ってたの」

律「どこが苦しいんだ?」

澪「え、えっーと……、私はウエストが」

唯「わたしは胸が苦しい…」

澪「」ズーン

唯「み、澪ちゃん?」

唯「はっ!(胸が苦しい……ってことは!)」

唯「わたしの胸が成長期!?」

紬「おめでとう唯ちゃん」

澪「なんで唯は太らないんだ……」

梓「……むぅ」

律「へ、へーんだ! 胸なんかなぁ! 歳とったら垂れるし肩もこるしいいことないんだぞー!!!」

唯「そ、そうなのっ!?」

紬「肩がこるのは本当ね」

澪「歳をとったら……ってまだまだ先の話だろ?」

律「うるさいうるさい! 胸なんかいらないやいっ!」

梓「律先輩……惨めですよ」

唯「(肩こるのはやだなぁ……)」

澪「それにサイズが大きくなるほど高くなるしな……確かに律の言う通りいいことばっかりじゃないよ」

紬「そうね…」

唯「そうだったんだ……」

梓「(自慢ですかこのやろう!!!)」

──

憂「ふ~んふふ~ん」

唯「憂!!」

憂「あ、お姉ちゃんお帰りなさい。今日は遅かったね。ご飯もう出来てるよ~」

唯「憂……お胸大きくなったよ!」

憂「ほんとに!? やったねお姉ちゃん!」

唯「うん! でもね、もういいんだ…これで」

憂「? 澪さんクラスになるぞーって言ってたけどもういいの?」

唯「うん。大きいのは大きいので大変なんだよ! 肩がこるんだよ! 値段が高いんだよ!」

憂「」ビクッ

唯「憂?」

憂「う、うん、そうだねお姉ちゃん……」

唯「だからもういいのです。それに大豆にはもう飽き飽きなのです」

憂「だいぶ量減らしたんだけどなぁ。大豆は健康にもいいからこのままずっと食べ続けて欲しかったんだけど」

唯「たまにならいいけど毎日……ちょっと」

憂「ふふ。じゃあお姉ちゃんのお胸大きくなった記念に今日はおかずもう一品追加しちゃうね! 何がいい?」

唯「ハンバーグ!」

憂「うんっ、わかったよ」

こうしてお姉ちゃんと私の戦いは終わった。

胸を含めて今のお姉ちゃんが私は大好きだよ!

そう、心の中で思いました!

お姉ちゃんのお胸おっきくしよう大作戦。

それに付き合っていた私にも当然その成果は出ていたわけで……。

憂「また合わない……。もっと大きいの買わなきゃ…」

憂「最近肩こりも酷いなぁ」

始める前より2サイズも大きくなったのはお姉ちゃんには内緒。


おしまい



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最終更新:2011年01月30日 00:44