『憂「悪い子になります」』


突然ですが、わたし、平沢憂は悪い子になります。

急に何故?って思うかもしれませんね。

理由は今日学校でのお昼休み。

いつも通り、梓ちゃんと純ちゃんとごはんを食べていました。

その時、「人生最大の悪事」って言う話になったんです。

わたしは考えました。

思いついたのが、幼稚園の時の庭での出来事でした。


唯「うい、ありさんがいっぱいだよ」

憂「小さくってかわいいね」

唯「そうだね~」

憂「みんな、かぞくなのかなあ?」

唯「ありさんはみーんな、かぞくなんだよ~」

憂「いっぱいでたのしそうだね」

唯「きっとこのこがおとーさん、こっちがおかーさんだね」ツンツン

憂「じゃあ、このこがおねーちゃん!」ツン

唯「このかわいいこはういだね!」ツン

憂「おねーちゃんもかわいいね~」

唯「よし、ごはんあげよう」ジャジャーン

憂「くっきー?」

唯「うん、ようちえんのおやつだよ」

憂「ぽっけにいれてたの?」

唯「せんせいに見つからないようにね」

憂「でもちょっと小さくなってるね」

唯「ありさんたちにぴったりだよ!もっと小さくしてっと…」パラパラ

憂「あ、たべてる!」

唯「いっぱいおたべ~」

憂「かわいいね」

唯「かわいいね」

憂「みんなここに入っていくね」

唯「おうちなんだよ、きっと!」

憂「くっきー持ってかえるのかな?」

唯「わたしみたいだね」

憂「どんなおへやなんだろう」

唯「みてみる?」

憂「どうやるの?」

唯「うい、えだをさがそう!」

憂「うん!」

唯「きょうそうだよ、よーい…」

唯憂「どん!」バッ

憂「あった!おねーちゃん、あったよ~!」

唯「ああ、まけちゃった…」

憂「はんぶんこしよう、はい」パキッ

唯「ふふ、ありがとーうい」

憂「これ、どうするの?」

唯「ここに、えだを入れてっと…」

憂「ほじほじ?」

唯「うん、ほじほじ」ホジホジ

憂「ほじほじ」ホジホジ

唯「うい…このありさん、なんか持ってる」

憂「これ…ありさんのたまご?」

唯「そうかもしれないね…」

憂「おねーちゃん…」

唯「ありさんのおうち、こわしちゃったのかなあ…」

憂「みんなこわくて、にげてるのかもね…」

唯「ひどいことしちゃった…」グスン

憂「ありさんごめんなさい…」グスン

唯「ごめんね、ありさん…」

わたしたち姉妹は幼い頃、ありさんのおうちを壊してしまいました。

あの時は2人、抱き合って自分たちの罪に泣きました。

その出来事を目の前の親友たちに話すと、どちらも大笑い。

「平沢姉妹らしい」だとか、「さすが憂」だとか、少しバカにされた気分でした…。

2人の悪事は、彼女たちの名誉に賭けて言いませんが…

いや、そんなことを言っているからわたしはダメなんです。

お父さん、お母さん、そしてお姉ちゃん…ごめんなさい。


今日この日を機会に、わたしは悪い子になります。

やってやるです!(←梓ちゃんの真似)


梓ちゃんも純ちゃんも部活があるので、いつも1人で帰宅します。

この帰路がわたしの「悪い子への道」となるわけです。

さあ、どんな悪さしてやりましょう…。


ピンポーン....ダッ!!!


噂に聞く、ピンポンダッシュをやってみました!

心臓がバクバクします。鳴り止みません。

うまくいったかな?と後ろを振り返ると、誰も出て来ないようです。

…お留守だったのかなあ。

失敗に終わったようです。少しガッカリ…でもよかった。


あ、目の前に大きな地図を広げたおばあちゃんがいます。

きっと何処かへ行きたいけど、道がわからないんだろうと思います。

いつもなら声を掛けますが…今日のわたしはひと味違います。

うーん、と唸るおばあちゃんの横を素通りしました。

少し歩いたところで、振り返りました。

まだおばあちゃんは、唸っているようです。

来た道を戻り、またおばあちゃんの横を素通りします。

少し歩いたところで、また振り返りました。

おばあちゃんは相変わらず、首をかしげたままです。

…またおばあちゃんの横を素通りしようとした、その時。


「どうしたもんかねえ…あの子に会いに来たのに…」


…あー、もう!

憂「ねえ」

婆「はあい?」

憂「見せて」

婆「これかい?」

憂「うん、どこ」

婆「どこ?」

憂「どこ行くの」

婆「ああ、孫たちに会いに来たんだけど場所がわからなくてね
  …この辺のはずなんだけどね~、おばあちゃん困っちゃったよ」

憂「ここ?」ピタッ

婆「そう、ここなんだけどね」

憂「そこの角を左に行って、こう行ってこう」サッサッサッ


婆「あら、案外近くだったんだねえ」

憂「わかった?」

婆「何となくだけどね~、ありがとうお嬢ちゃん」

憂「…来て」

婆「ええ?連れてってくれるのかい?」

憂「…」トコトコトコ

婆「悪いねえ」トコトコトコ


婆「お嬢ちゃんは今いくつ?」

憂「…じゅーなな」

婆「あらあら、うちの孫と同じだねえ」

憂「…そうなんだ」

婆「じゅんって名前の女の子でねえ」

憂(じゅん…!?)

婆「お嬢ちゃんみたいにしっかりした子じゃないから、おばあちゃん心配だよ」

憂(この辺り…純ちゃんのおうちの近くだ…!)

婆「今日は高校生になって、初めて制服姿を見れるのが楽しみでねえ」

憂(まずいよ~…早くおばあちゃんと別れなきゃ…)

婆「お嬢ちゃんみたいに似合ってるといいねえ」

憂「…鈴木さんちはそこですから!」

婆「何で名字知ってるんだい?もしかして純のお友だちかね?」

憂「…じゃあ!」タタタッ

婆「ああお嬢ちゃんお待ちよ、お名前は?」

憂「…ゆいです!」タタタッ

婆「ああ、行っちまったねえ」


危なかったです。

とっさにお姉ちゃんの名前を言って逃げました。

でも…ぶっきら棒に会話出来ました!

親切とは程遠いはずです。

悪い子へのスタートラインは切れたかな?

とにかく、良かったね。純ちゃん、おばあちゃん。


そろそろおうちに着きます。

すると通りかかった公園で、大泣きしている女の子が目に入りました。

ありさんの巣を壊してしまった頃の、わたしぐらいの歳でしょうか。


憂「…ねえ、どうしたの」

女の子「ママ…ママー!」ウエーン

憂「まいご?」

女の子「うん…遠くに行っちゃダメって言われたのに」

憂「大丈夫だから…泣き止みなさい」ビシッ

女の子「だってママが…」グス

憂「…お姉ちゃんも探してあげるから」

女の子「…ほんと?」

憂「うん、ママはどこにいるの?」

女の子「おうち…」

憂「住所言える?」

女の子「うん!えっとね…」

憂「そっか、あんまり遠くないね」

女の子「お姉ちゃん、おてて繋いでいーい?」

憂「…いいよ」


それから手を握って、女の子の家まで歩きました。

悪い子になるのを少しだけ忘れて、たくさんお話をしました。

すると前から歩いてくる見慣れた姿…。


純「あ、憂」

憂(しまった…また純ちゃんちの近くに…)

純「おーい、ういー!」

憂(よし、無視しちゃえ…!)


憂「ねえ」グイッ

女の子「なあに?」

憂「走るよ!」タタタッ

女の子「うん!」タタタッ

憂(純ちゃんごめんね!)


純「あ、無視された!憂ひどー!」

純「しかし何やってるんだろ?」

純「あの子は誰だろ?」

純「まさか…誘拐!?」

純「ってないない、憂に限ってねー」

純「あんないい子いないって!」

純「…おばあちゃん来てるし、早く帰ろ」


……

女の子「さっきお友だち?」

憂「そうだよ」

女の子「ケンカしてるの?」

憂「そうじゃないんだけど、ね」

女の子「仲直りできるといいね!」

憂「…そうだねー」

女の子「あ、おうちここ!」

憂「ふふ、よかったね」

女の子「ママ呼んでくる!」


憂「え!?いいよ!」

女の子「ちょっと待っててね!ただいまー!」タタタッ

憂「ああ!いいのにー!」

憂(えっと…逃げちゃえ!)タタタッ


はあ…悪い子って疲れます。

何か1日で断念しそうです。

それに…罪悪感。皆さんごめんなさい…。

もうすぐお姉ちゃんも帰る頃だし、早く帰らなきゃ。


お姉ちゃんは既に帰ってきてました。

何してたの?と聞かれたので、今日の出来事を話しました。

わたしの悪事をゆっくりと、すべて。

ピンポンダッシュをしたこと。

困ったおばあちゃんを素通りしたこと。

ぶっきら棒に接したこと。

お姉ちゃんの名前を使ったこと。

純ちゃんを無視したこと。

女の子の家の前から無言で逃げたこと。


唯「うい、めッ!」

憂「うう…ごめんなさい」グス

唯「ういはね、人に優しいそのままでいいんだよ!」

憂「そうだね…お姉ちゃんの言うとおりだよ、とっても疲れたし」

唯「もうやめるんだよ?」

憂「はい、お姉ちゃん」グス

唯「わかったならよろしい」ナデナデ

憂「ありがとう」グス


お姉ちゃんはあの時のように、わたしを抱きしめてくれました。



―次の日


純「憂!昨日わたしのこと無視したでしょ!」

憂「えっと…ごめんね純ちゃん」

梓「仕方ないよ、純だもん」

純「純だもん、て何よー!」バシバシ

梓「冗談だよ、痛いからやめてよ」

純「ところであの子はだれ?」

憂「名前聞いてなくて、わからないんだ~」

梓「あの子?」

憂「1人で遠くまで来ちゃって帰れない子が居てね、その子を家まで送ってたの」

純「なんだー、誘拐かと思ったよ」

梓「ないない、憂だもん」

純「ね、憂だもん」

憂「憂だもん、て何よー!」


やっぱり、わたしは悪い子になれそうにありません。

何故なら、悪いことをするドキドキより、

誰かに言ってもらえる「ありがとう」の喜びを、知っていますから。


純「そうだ、昨日からおばあちゃんが遊びに来ててね」

憂(…!)

純「来る途中迷っちゃったみたいなんだけど、
  ゆいって人にうちまで連れて来てもらったらしくて…」

梓「それって、唯先輩?」

純「さあ?でもさ、憂」

憂「えっと…なあに?」

純「ありがとね」

梓「何で憂にお礼なの?」

純「まあ…ね?憂」

憂「ふふふ、そうだね」



終わり。



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