『妹の可愛さについて』

 こんにちは、平沢唯です。
 今日は三千世界を駆け巡るわたしの妹の可愛さについて、皆さんにお伝えしたいと思います。

 シチュエーションその一、「おはよう」。
 わたしの妹、平沢憂はとてもいい子です。
 毎日早起きして朝ごはんをつくり、姉であるわたしを起こしに来てくれます。

憂「お姉ちゃん、起きてっ、朝だよー」

 部屋の扉を開けて、憂が起こしに来てくれました。
 しかしただでは起きません、それではわざわざ階段を上って部屋まで来てくれた憂に失礼というものです。

唯「ういー……おこしてえー……」

 手を差し伸べると、やれやれというように憂が手を握って引っ張ってくれます。
 わたしはその力よりも強く憂の小さく柔らかな手を引っ張って、ベッドに引きずり込みました。

 お約束です。

憂「もう、ちょっとだけだよ?」

唯「えへへ……うん、ちょっとだけ……」

 ちょっとだけといいつつあわよくば午前中はずーっとこうしていられたらなぁ、とも思います。
 だけれど憂の作ってくれた朝ごはんが冷めてしまってはいけないので、ぎゅーっと強く抱きしめて、こっそりと鎖骨の辺りに唇を当てて、それからいっしょにベッドから這い出ました。


 朝ごはんを食べ終わると、身だしなみを整える時間です。
 憂といっしょに鏡の前に立って、顔を洗ったり、髪型を整えたりします。

唯「ういー、髪の毛結んであげるー」

憂「あ、うん」

 最近のマイブームは憂の髪を結んであげることです。
 髪の毛を結ぶときに覗く白いうなじがまぶしくて、思わず撫で回したくなります。

憂「くすぐったいよお姉ちゃん……」

 ……撫で回してしまいました。

唯「はい、できたよー」

憂「ありがとうお姉ちゃん」

唯「どういたしましてー」

憂「お姉ちゃんも寝ぐせ、ひどいことになってるよ、直してあげるね」

 今度は憂がブラシとドライヤーを両手に持って、寝ぐせを直してくれます。

 やさしい手つきで髪を撫でられ、見る見るうちにいつもの髪型に整えられました。

 クセっ毛冥利につきます。
 わたしの髪の毛がクセっ毛なのはこのためなのだとわたしは確信しています。


 シチュエーションその二、「おでかけ」。
 わたしたち姉妹は冬のお出かけが好きです。
 クリスマスにプレゼントしあったマフラーと手袋を介して繋ぐお互いの温もりにささやかな幸せを感じます。

憂「お姉ちゃんのマフラー、暖かいよー」

唯「ういの手袋も、あったかあったかだよお」

 ああ、冬の寒さもどこへやら、わたしたちの間にだけはもう春が到来しているかのようです。


 さて、今日は映画館に来ました。
 見る映画は今話題の恋愛映画です。
 姉妹で見るような映画ではない気もしますが、二人でいっしょに幸せな物語を見るのは二乗で幸せになれます。

 ……キスシーンで目があっちゃうのもまた一興です。
 頬染めた憂がごまかすようにポップコーンに手を伸ばすのがとてもかわいらしいです。

 そしてクライマックス。
 いつの間にやらわたしたちは手を繋いでいました。

 嗚咽を抑えながら涙を目に湛えながら強くわたしの右手を握ってきます。
 憂は昔から涙もろいです。憂の泣き顔はとても可愛いのですが、故意に泣かせたりはもちろんしたくありません。

 ……今日は憂のこの顔が見たくて映画を見に来たようなものです。

――――
――

憂「おもしろかったねー」

唯「うん、すっごく可愛かった!」

憂「あ、あの女優さん? 可愛かったよねー!」

 そういうことにしておきましょう。


 シチュエーションその三、「おやすみ」。
 今日は憂の可愛さをお伝えしなくてはならないので、少々照れくさいですが、憂のベッドにお邪魔させてもらうことにします。

唯「ういー、いっしょに寝ていい?」

憂「うん、いいよー」

唯「えへへ……」

 憂があけてくれたスペースにもぞもぞともぐりこむと、お互いに向き合うような姿勢になりました。
 こうして薄暗い中で目が合うと、ふと昼の映画館のことを思い出してしまいます。
 憂も同じことを思ったのか、さっと目を逸らされてしまいました。

唯「なんで目を逸らすの?」

 我ながら意地悪な質問です。

憂「別に……ちょっと照れくさいだけだよ……」

唯「そっか、……ところで映画、面白かったねー?」

憂「そうだね……」

唯「キスシーンとか」

憂「う、うん……」

 だんだんと灯りがなくてもわかるほどに憂の顔が赤くなっていきます。
 わたしはそんな憂の顔があまりにも可愛くて愛おしくて、素敵な思いつきをしてしまいました。

唯「……してみる?」

憂「へっ……?」

唯「あの映画みたいに、してみよっか」

憂「ちょ、ちょっとお姉ちゃん、だめだってば――」

 憂の制止も聞かずに少しずつ距離をつめます。
 唇と唇が近づくにつれて慌てる憂の吐息とその熱もだんだん近づいていきます。

憂「うぅ……もう……!」

 観念したのかついに憂はその目を閉じました。キス待ち顔というやつです。
 すぐにでもそのさくらんぼをいただきますしたいところですが、いざするとなるとさすがに恥ずかしいです。
 なのでわたしは憂のおでこにそっとキスをしました。
 憂が少しがっかりしたような顔をして、それを見てまたキスをしたくなってしまいましたが、これ以上は……妹の教育上よろしくありません。

唯「はい、もう終わりだよ! うい、おやすみー」

憂「……うん、おやすみ、お姉ちゃん……」

 どうですか、これがわたしの妹、平沢憂です。
 わたしの貧弱なボキャブラリーでは語りつくせない彼女の愛らしさ可愛らしさの、ほんの少しでも伝わっていれば幸いに思います。
 さぁ、今晩は冷えるので思いっきり憂に抱きついて寝ることにしましょう。それではみなさん、よい夜を。


―――――
―――
――

唯「…………」

 お姉ちゃんがすうすうと寝息を立てています。
 今日のお姉ちゃんは映画に連れて行ってくれたり、いっしょに寝ようだなんていってきたり、なんだったんでしょう。
 おかげで一日楽しかったけれど、最後の最後であんなことして、先に寝ちゃうだなんて……。
 おでこをさすりながらあの感触を思い出していると、なんだかもやもやとした感情が生まれてきました。

 こうなったら、仕返しです。
 無防備に眠るお姉ちゃんの顔にずいと近づいて、優しく、気づかれないような控えめなキスをしました。
 お姉ちゃんのやわらかい唇に触れた瞬間、消化不良だったもやもやは一気に晴れて、幸せな気持ちでいっぱいになりました。

 意識があるのかないのか、お姉ちゃんの両腕がわたしの体をぎゅっと抱きしめます。
 わたしはもう一度お姉ちゃんに小さくおやすみをいって、今日のことを思い出しながらゆっくりと目を閉じました。


 おわり!



『憂「アンチほのぼの戦線!』


憂「……もうわかってないなぁ」

憂「いくら私をかわいく書く企画だからってさ」

憂「私はそこまで乙女チックというわけでもないし幼くもない」

憂「そうそうぽわぽわもしてないし、ましてや重度のシスコンだったりもしないんだけどなぁ」

憂「はぁ……」

憂「……今日くらいはほのぼのをストライキしたって、罰は当たらないよね?」

憂「お料理もお洗濯もぜーんぶ投げ出しちゃってどこかに遊びに行k

ガチャッ

唯「ただいまーっ! 憂ー? 今日みんなが遊びに来たよー!」

律「お邪魔しまーす!」

憂「いらっしゃい! すぐお茶いれますね!」

パタパタ

憂「情熱の赤いバラ~♪」

カチャカチャ

憂「そしてジェラシィ~♪」

コポコポ

憂「ふふふ~ふふふん~♪」

憂「……完成!」ジャーン

憂「ふふふふ……ーん……♪……」

憂「……」

憂「……」

憂「……」

憂「……あちゃー」ズーン

オチャドウゾー

デキタコダー!

バタンッ

憂「ふぅ……」

憂「……いやあ、まずいなぁ」

憂「このままいい子ちゃんでいたら、普通にほのぼのSSだよーありきたりだよー……」

憂「ここはひとつ現状打破のために何かしなくちゃ……」

憂「ほのぼのの香りのしない……何かこう、ワイルドなことを……」

憂「ワイルド……ワイルド……」

憂「うーん……難しいなぁ」

憂「むむむ……」

憂「あ」

憂「そうだ。ゲームセンターにに行こう」

憂「なんてったってゲームセンターは不良の根城だもんね」

憂「きっと殺伐としててほのぼのの気配なんて一切ないに違いないよ!」

憂「アンチほのぼのばんざー……」

憂「……」

憂「……いや、それ普通に危ないよね」

憂「カ、カツアゲとかされちゃったりして!?」

憂「……」ブルッ

憂「……」

憂「……そ、そだ。純ちゃんも誘おうそうしよう」

憂「そうと決まればさっそく電話だね」

ピポパ

憂「~♪」

プルルルルルルルル

憂「日曜日だけど純ちゃんなにしてるかなー?」

憂「ゲームセンターついてきてくれるかな?」

憂「……」

憂「……あれ? でないや」

憂「うーん……でも一人で行くわけには

―――ピーンポーン

憂「……」

憂「……はーい」

ガチャッ

純「遊びに来たよ! 冬休みの宿題手伝って!」

憂「……そんなことだと思ったよ」

純「!?」

純「ほのぼのストライキ?」

憂「うん! もうほのぼの飽きたから違うことしたいの」

純「……理屈はわかるけど今は宿題教えてほしいなぁ」

憂「宿題なんて明日もできるよ」

純「えー」

憂「ほらほら、路地裏とか行こうよー」

純「路地裏で何するのさ……」

憂「とにかく、お家で宿題みたいなほのぼのイベントはできないよ」

純「えー……」

純「ん? いや待てよ……そーだ。ほのぼのしないで宿題すればいいんじゃん」

憂「えっ?」

純「なんかこうワイルドさ溢れる感じで宿題教えてちょーだいよ!」

純「こっちもとことん付き合うからさ! ね?」

憂「うーん……じゃあそれやってみよっか」

純「やっほぃ!」

純「……」カリカリ

憂「……」

純「……」ピタッ

憂「……」

純「うーん……わかんないなぁ。ちょっとここ教えt

憂「めっ!」ビシッ

純「あいたっ!? なに!?」

憂「ほのぼの禁止!」

純「今のがダメなの!? 普通に聞いただけなのに!」

憂「ダメなの」

憂「もっとこう……誘い受けみたいな感じで私のワイルドさを引き出してもらわなきゃ!」

純「難易度高っ!」


純「……」カリカリ

憂「……」

純「うーん参った……この問題が解けないぞぅ」チラチラ

憂「!」

純「教えt……じゃなかった。あー……」

憂「……」

純「えー……こんな難問解ける人なんているわけないよなぁ」チラチラ

憂「ここにいるぜ」

純「」

純(……キャラ違ううううぅ!!)

純「あー……っと、何者だ!」

憂「当ててみな、ハワイに招待するぜ」

純「」

純「……」

憂「……」ニコニコ

純「……ね、ねえ?」

憂「なにー?」ニコニコ

純「憂の求めるワイルドさってこんなのなの?」

憂「うん!」ニコニコ

純「へ、へぇー……」

憂「?」ニコニコ

純「いやぁ……あはは」

憂「??」ニコニコ

純「宿題……解いてくれる?」

憂「いいよ!」ニコニコ

憂「ゲッワイエンタ♪ひとりでは~♪」スラスラ

純「いやまあ手伝ってくれるなら何でもいいんだけどね……」

憂「~♪」スラスラリン

純「ふぅ……」

純(……解いてくれるならくれるで暇だねこりゃ)

純(ここはひとつ漫画でも……いや、普通にしてたらダメなんだっけ)

純(漫画に手を伸ばしたが最後、またほのぼの禁止とか言ってひっぱたかれそうだ)

純(漫画禁止かー……)

純(寝るのはなんか申し訳ないしなぁ)

純(うーん……どうしたもんk

憂「純ちゃん!」

純「ひゃい!?」

憂「ボーっとしてたらほのぼのしちゃうよ」

純「考え事も禁止!?」

憂「ほら殺気とか出して出して。ほのぼのをかき消しちゃって」

純「そりゃ無茶だよ!?」

憂「終わったよー」テッテレー

純「おー! 憂えらい! ありがとう!」

憂「いえいえ」テレテレー

憂「これからどうする? 夜の街にくり出す?」

純「いやだから何しに行くんだってば」

純「まぁ、時間も遅いしそろそろ帰るよ」

憂「そっか」

純「うん。今日はホントありがとね!」

純「バイb

憂「……」ガシッ

純「またぁ!?」

憂「『バイバーイ♪』なんてお別れしたらまるっきりほのぼのじゃん!」

純(べ、別にいいじゃん……!)

憂「良くないよ! ラストシーンは大事なんだよ!」

純「心読まれた!?」

憂「というわけでお別れのシーンもワイルドに!」

純「えー……」


純「……」

憂「……」

純「世話……かけたね」

憂「……そんなことないよ」

純「ふっ……」

憂「行ってしまうの?」

純「ああ。最も、もう二度と会うことはないだろうけど」

憂「……」

純「……あばよ」スタスタ

憂「……じゅーんちゃーん!」

 チャーン

 チャーン

 チャーン

   fin





純「……」テクテク

純「……」テクテク

純「……恥ずかしいなこんちくしょー!」

   憂「全然恥ずかしくなんかないよー!」

純「返事せんでよろしい!」


バタンッ

憂「純ちゃん帰っちゃったしそろそろご飯にしようかなぁ」

憂「当然カップ麺だけどね」

憂「ワイルドな私は料理もお風呂もパスパスパス♪」

憂「やっぱりちょっと小汚いくらいがワイルドだよねー」

憂「お湯沸かそっと♪」

憂「~♪」

ドタバタドタバタ

憂「?」

唯「憂ー! 今日みんな泊まってくって!」

律「よろしく憂ちゃん!」

憂「そうですか! じゃあすぐお風呂沸かしますね!」

憂「……」

憂「あ」




ちゃんちゃん



13