律「さ~て、梓の寝顔も納めたことだし……次はムギだな」

澪「まだ撮る気なのか……」

律「へっへ~ん、ムギもまさか協力者の自分が撮られるとは夢にも思ってないだろうし!」

澪「……おいおい」


二年目の合宿。
去年に引き続き私は、皆の寝顔をカメラに収めている。


律「っと、ここがムギの部屋だな……」

澪「眠い……もうこんなことやめてさっさと寝ようよ……」


今回無理やり起こして付き合わせている澪は、かなり眠そうだ。


澪「ていうかなんで私起こしたのよ……やるなら一人でやってよ……私もう寝ていい……?」

律「ダ~メダメ、こういうワルダクミには、相棒役が必要なの」

澪「わるだくみって分かってるなら付き合わせるなよ……というかやるなよ……」


そう言いつつも強く止めないのは、眠くて頭が働いてないからか、はたまた諦めているからか。
まあどの道やめるつもりはないから、賢明な判断だろう。


律「さてと、それじゃ早速――おじゃましまーす……て、あれ?」

澪「……? どうしたんだ、律?」

律「いやその……鍵が掛かってないし……ムギもいないみたいだ」

澪「トイレにでも行ってるんじゃない……? 諦めて、今日はもう寝よう」

律「うん、そうだな。今戻って来られたら言い訳できないし」

澪「……そもそも、言い訳しなきゃならないようなことをするなよ……」


ごもっともな意見だが、聞き流すことにしておく。
でないと、私という存在が成り立たなくなる!


律「仕方ない、また次の夜にリベンジしよう」

澪「……だから、するな!」


怒られた。
けど、拳のツッコミが無かったのは、やっぱり眠かったからだろう。

――

律「さーてムギめ……今日こそその寝顔をこの手に収めてくれよう」


軽くボケを呟いてみるが、今回はそれに返してくれる相方はいない。
流石に二日連続で起こすと真面目にキレられてしまいそうなので、起こせなかったのだ。


律「……うん、やっぱり一人ボケは寂しいな……」


そんなこんなで、昨夜に引き続き再びムギの部屋。
いざ参らんとドアノブに手をかけるが――


律「――あれ、また……?」


またもや鍵は掛かってないし、ムギも居なかった。


律「またトイレ……じゃあなさそうだな」


二日連続で偶然私が来たタイミングでトイレ行ってる、なんてことはちょっとありえない気がする。
寄り道してない分、昨夜とは時間帯もずれてるし。


律「となると、どっか出掛けてるのか……?」


いや、今は深夜だから出掛けてるってことはないか。
店も閉まってるだろうし。


律「つまりは屋敷のどっかにいるってことだけど……どこにいるやら」


といっても、こういうパターンのときにいる場所なんて、一つしか心当たりがない。
もうそこに居なかったら、どこに居るんだってぐらいの勢いで。


律「ま、隠れて練習なんてよくある話だよなー」


ムギの部屋に最後のセリフを残して、私はスタジオへと足を向けた。


――


律「――って居ないのかよ!! うおーい!!」


思わず突っ込んでしまった。
いやだって、100%居ると思ったのに居ないんだもん、仕方ないさ。


律「……まあ軽い逃避はここまでにして……ホントにどこに居るんだムギのやつ……?」


スタジオに居るんでもなければ、一体どこに居るというのだろう。
こうなってしまうと、見当もつかない。


律「もしかして、マジにトイレだったとか……?」


だとしたら、かなり恥ずかしいぞ私。
さっき方『ちょっとありえない』なんて寝言抜かしちゃったよもう。


――


律「しかしムギは居ないのでした、チャンチャンっと」


再び部屋に向かってみたものの、ムギは戻っていなかった。
念のため途中トイレにも寄ってみたけど、そこも空振り。
とりあえず、無駄に恥をかくことは避けられたけど――


律「でもなあ……ホントどこに居るんだムギのやつ……」


最初の目的はムギの寝顔を激写するという軽いものだったけど、
こうなるとムギがどこで何をしているのかが気になってしょうがない。


律「――ええい、ここまで来たら意地でも探し出してやるぜあのお姫様め!」


……明日には家に帰るというのに、私の夜更かしは決定事項となった――


――


律「い、いねえ……どこにも……」


さっきの決心から数十分。屋敷中を探し回ったけど――影も形も見当たらないとはこのことで。
結局、私が疲れただけに終わったのだった。


律「てあれ、影も形も見当たらないなんて言葉あったか……?」


何かどこかが間違っている気がするが、っていやそんなことはどうでもいいんだ。
ひょっとすると、私はかなり眠いのかもしれない。


律「だーもう……ムギのやつー、どこにいるんだー」


このセリフも何回目だろうか。
しかし屋敷内を(明らかに居ない場所除き)ほとんど捜索した後と前では言葉の重みが違う。
……疲れてる所為で、言い方はかなり軽いが。


律「しっかし……屋敷の中には居ないし、出掛けてる線もないってなあ……」


もうさっぱり、お手上げである。
――ん? ちょっと待てよ……


律「屋敷の『中』……?」


そういえば。
外にはいないって先入観から一つ、『屋敷内に』探してないトコがあった。


律「……はあ。そこに居てくれないと、もう探してあげないからなー」


思い浮かんだ場所に、見慣れた笑顔があることを祈って。
私は、『テラス』へと足を向けた――


――


律「……いよう。探したぜーお姫様」

紬「え――? ……り、りっちゃん!?」


私は何とか正解を引き当てられたようで、やっとピーチ姫――もとい、ムギに会うことが出来た。
まったくもって、長い道のりだった……


律「何やってるんだ、こんな夜中に」


いままで聞きたかった疑問を、ストレートに投げかける。
このためだけに、どれだけ迷走したことか……


紬「……りっちゃんこそ、どうしてここに?」


……ううむ、質問を質問で返されてしまった。
しかしまあ、ムギからすればそれは当然の疑問だろう。
ムギの回答は、しばしお預けか……


律「お前を――ムギを、探してたんだ」

紬「……え……わ、私を……?」


おー驚いてる驚いてる。
……そして、顔を赤くしている。
いや、確かにそれっぽい勘違いさせちゃうような言い回ししたけどね。


律「ムギの寝顔撮ろうと思ったら、居なかったからさ」

紬「あ……もう、りっちゃんってば」


私が正直に話した理由にムギは、首から下げられたカメラを見て納得したようだった。
久々に見た気がする笑顔が、やけにかわいく感じられた。


律「で――ムギは何をしているんだ?」


今度こそ、私のターン。
さて、どんな答えが返ってくるやら。


紬「――星をね、見ていたの」

律「星?」


言われて、見上げてみる。
するとそこには、キラキラと輝く星たちが、これでもかという位夜空に散りばめられていた。


律「……これは……すごいな。すごい、キレイだ……」

紬「うん、綺麗。とっても、いつまでも眺めていたいくらい、綺麗」


……おいおい。
いつまでもって、ムギ――


律「まさかだけど、昨日もここにいたのか?」

紬「え? そうだけど……もしかしてりっちゃん、昨日も撮ろうとしたの?」

律「は、ははは……図星です」

紬「――もう、りっちゃん!」


昨日に引き続き、今度はムギに怒られてしまった。
とはいえ、澪みたいに本気で怒っているわけではないのはわかるけど。
セットの笑顔がやけにかわいらしいのは、ムギだからだろうか。


律「隣、いいか?」

紬「ええ、もちろん」


許可を貰って、ムギの隣に腰を下ろす。
……別に隣に座るのに許可が必要な関係ではないけども、なんとなく、必要な気がした。


律「……」

紬「……」


そして、しばしの静寂。
でも、けっして心地の悪いそれじゃなくて。
しばらくの間、二人で静かに星を見ていた。


紬「……ねえ、りっちゃん」


ふと。
ムギが、口を開いた。


律「どうした、ムギ」

紬「私ね――ずっとずっと、輝いてる星たちを見ていたいの」

律「ん……?」


ムギの目は、真剣で――だけどどこか、物悲しそうだった。
ずっとずっと、か……
だから、昨日も今日も、こんな時間まで起きていたのだろう。


律「……好きなのか? 星を見るの」

紬「ええ。でも、星だけじゃないわ。――キラキラ輝いてる、綺麗なものを見るのが、好きなの」

律「ああ、なるほどな」


それで、女子同士の絡みとか澪のコスプレとか見てうっとりしてたのか……
納得の理由だ。


紬「でもね――」

律「ん?」

紬「どんなに頑張って起きていても――朝がくると、星たちは見えなくなってしまうの」

律「……ムギ……?」


もしかして、それは、


紬「ふふ、わかってるけどね? わかっているけど、悲しいの。――星たちが、見えなくなるのが」


私たちの……?


律「……」

紬「私は……いつまで、星たちを眺めていられるのかな」


――だったら。

律「心配しなくても――大丈夫だよ、ムギ」

紬「……え?」

律「大丈夫、私たちなら。いつまでも、輝いていられるさ」

紬「りっちゃん……」

律「それに」

紬「?」

律「――ムギも、一緒に輝いてるから」

紬「わ、私も……?」

律「ああ。――知ってるよな? 星は朝がきても見えなくなるだけで、ちゃんとそこにいて、ちゃんと輝いてるって」

紬「……うん」

律「だから、さ。大丈夫。ずっと一緒に輝いて――ずっと一緒にいられるさ」

紬「――うん、そうね! ありがとう、りっちゃん!」

律「!! ――っへへ、どういたしまして」


満天の星空をバックにしたムギの笑顔は、輝いていて。
一瞬――ほんの一瞬だけど、私は見惚れてしまった。
ていうか、ストレートにお礼言われると照れるなこれは……


律「そ、そうだムギ――せっかくだからさ、一緒に写真とろう」

紬「写真?」


ちょうどいい照れ隠しに、カメラの存在を思い出す。
というか、元はといえばムギの写真を撮るんだったな。


律「そ、写真。星空をバックにさ――二人だけの、秘密の写真!」

紬「……二人だけの、秘密――うん、私、撮りたい!!」

律「お、ノリがいいなー……よし、じゃあ肩組むぞー!!」

紬「おー!!」


――そして私とムギは、これでもかってくらいギュっと密着して、写真を撮った。
誤魔化しと勢いで写真撮ろう、なんて言ったけど――シャッターの瞬間。
私は、これが今回の合宿で一番の宝物になるって。
そう感じた。


――


律「――ふわ~あ、眠い。今何時だ……?」

紬「ふふ。明日帰るのに、夜更かししちゃったね」

律「明日ってか、今日だけどな」


ムギと写真を撮ってから少しの間また、二人で星を眺めていたけど――いかんせん、眠い。
そりゃあ、仮にも合宿ということで昼間練習したりとかもあったから、眠くて当然なわけだが。


紬「じゃあ、そろそろ寝よっか」

律「ん、そうだな」


あっさりと、眠ることが決定する。
まるで、この星空には未練なんて無いみたいに。


紬「ねえ、りっちゃん。……お願いがあるの」

律「ん、なんだ?」

紬「あのね……一緒に、寝てくれる――?」

律「――もちろん!!」


――


律「こ、れは……」


合宿が終わって、数日後。
私は澪たちに見せる前に、一人で出来上がった合宿の写真をチェックしていた。


律「……どう考えても、あの時……だよな」


その中で、私の目に真っ先に飛び込んできたものが、一つ。
それは――ムギと一緒に撮ったあの写真。
……ではなく。


律「やられたーーーー!!!」


――私の寝顔が写った写真、だった。
あの後ムギが、「合宿の写真、絶対見せてね」と言った真の理由が、今判明した。


律「あーあー……ま、いっか」


脱力して、大の字にドサッと寝転がる。
風圧で少しばかり、写真が飛ぶ。
……かなり悔しい。けど、怒る気にはなれない不思議な気持ちだ。


律「まったく、お茶目なことしてくれるな……」


まあ、怒ってないけど――りっちゃんらしく、何か仕返しは考えておくか。
なーんて考えて、再び起き上がり胡坐をかく。すると――


律「……ん?」


今度こそ、ムギと一緒に撮ったあの写真が目に入った。
肩を組んで、カメラに向かって二人でVサインをしている、そんな写真。
それを拾い上げて、しばし眺める。


律「はは、我ながら――眩しい笑顔だな」


その中では、ムギも私も――眩しいばかりに輝いていた。
後ろの星たちなんて、目じゃないくらいに。


律「――ずっと一緒に、輝いていような……ムギ」


終わり



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