ズバンッ!!
球審「バッターアウッ!!」
律「ふぅ~っ、ただいま」
唯「もうあなた、あまり早く帰ってくるからまだ夕食の準備も出来てないわよ」
律「じゃあ、先に風呂済ませるわ」
唯「そうして下さるかしら」
いちご「三文芝居」
さわ子「こら、田井中」
律「だ、だってさぁ~。憂ちゃんの球、異常に速かったんだもん……」
ズバンッ!!
球審「バッターアウッ!!」
紬「ただいま……」
唯「あら珍しい、今日はお早いお帰りなのね」
唯「ご飯にする? お風呂? それとも……」
紬「唯ちゃんにする~♪」
唯「いや~ん」
紬「ここがええんか~」
唯「だめ~子供が見てるから~」
いちご「存在自体が教育に悪い」
春子 カッキーン!!
さわ子「ほらあなた達、近田さんを見習いなさい」
1塁塁審「アウト」
さわ子「あら……」
律「春子は初球打ちでゴロアウト、けど私は少なくとも3球は投げさせたぜ」
いちご「目くそ鼻くそ」
紬「う、うふふふふ」
唯「ちょ! ムギちゃん! 何だかだんだん洒落になってなくない!?」
紬「ほれほれ、言葉では嫌がってても体は正直やで~」
唯「た、助けて~!」
曜子「こ、琴吹さん! さすがにそんなところに手を突っ込んじゃ駄目だよ!」
澪「えっ!? もうチェンジ!?」
さわ子「仕方がないわね。なんとか1点差で終盤勝負に持ち込むしかないわね」
さわ子「ここもしっかりと守ってちょうだいよ!」
澪(はぁ、全然休めなかった……)
さわ子「澪ちゃん、なんだかダルそうね」
澪「はい、なんだか急に……」
和「さっき交代とかしちゃって気を張っていたものが一回リセットされちゃったから余計に疲労がきてるのかもしれないわね」
姫子「それはあるだろうね」
澪「でも大丈夫。投げるよ」
律「澪……」
実況「8回の表 2年1組の攻撃はクリーンナップから始まります」
澪 シュパッ!!
バシンッ!!
球審「ッタラーイク!」
ソフト部センター「……」
律(よく見てるな……)
律(にしても、確かにさっきの回に投げた球よりもほんの少し球威が無くなったように感じる)
律(とにかく低めに投げさせて早めに打ち取っていくしかないな)
澪 シュパッ!!
カキン!!
姫子「よっと!」パシッ!!
実況「いい当たりではありましたが、ショート立花の正面。ライナーを捕ってアウト」
律(たまたま正面だったから良かったけど、結構捉えられてた)
律(この状態で憂ちゃん山田さんとは厳しいな)
律(さわちゃん)チラッ
さわ子(そうね……)
実況「あっと!? 4番の平沢憂の打席というところでキャッチャー田井中が立ち上がっている」
実況「これは、もしや……」
ムッシュ「敬遠ですねぇ」
福本「1アウトランナー無しで敬遠って、結構思い切ったことしますね」
実況「いやはや……、この試合が一女子高の球技大会だということを忘れさせてしまうくらいの
緊張感が伝わってきます」
ムッシュ「それほど勝ちにこだわってるということが言えると思いますぅ~」
憂「ひ、卑怯ですよ!」
律「ごめんね憂ちゃん」
憂「くっ……」
球審「ボールフォア!」
花子(あたいの前に敬遠か……単純に考えればあたいよりも憂の方を怖がってるってことだけど)
花子(ちっ! 舐められたもんだね)
律 スクッ
花子「えっ?」
実況「ええっ!? 田井中また立ち上がった!」
福本「2者連続敬遠て……」
ムッシュ「この2人はそれほどの打者だということですよ」
Boooooooooooo!!!!
実況「あっと、球場からはブーイングが飛んでいます」
澪「あ、あ……」
律「落ち着け澪、このブーイングはお前に向けられたものじゃなくって、私に対するもんだ」
澪「で、でも……」
律「私たちは勝負をしてるんだよ。ただ見てるだけの奴らなんて勝手に言わせとけ」
澪「……わかった」
純「ち、ちょっと律先輩! これって……」
律「悪いけどそのチームの弱点を突くってのが戦いの基本ってもんだろ?」
純「じ、弱点!?」ガーン!!
澪 シュパッ!!
澪「あっ!?」
実況「秋山の投じたボールは鈴木の体の後ろを通る大暴投!」
実況「それを見たランナーはそれぞれ2、3塁へと進みます」
澪「ご、ごめん……」
律「いや」
律(そういや純ちゃんにはさっき当てたんだったな)
律(それに球場がこれだけ騒然としてるんだ、動揺しないわけがないか……)
和「こうなったら塁を詰めた方がいいわね」
姫子「私もそう思うよ」
律「わかった」
実況「田井中、立ち上がりはしませんが、あきらかにミットを外に構えています」
ムッシュ「こうなってしまったからには塁を埋めてしまった方が守りやすいですからね」
球審「ボールフォア」
純「ふふふっ。結局私とも勝負しなかった」
純「ということは、私も憂やドカ子と同じ強打者の仲間入りってわけだね」
純「今年のドラフトが楽しみだ」
紬「純ちゃんは来年まだ3年生でしょ」
純「あ、そっか」
紬「うふふ、せっかちさんなんだから」
純「えへへ」
和(それ以前にドラフトにかかるわけないってツッコんだ方がいいわよムギ)
実況「3年2組の内野守備陣は前進守備をとります」
澪 シュパッ!!
バシッ!!
球審「ボール」
律(ちょっとボールがお辞儀しだしたな)
律(さっきまでの回だったら低めのこのコースに構えてても入ったのに)
律(無理もないか、もう8回だ)
澪「えいっ!」シュパッ!!
カキン!!
「ファール!」
律(空振りもとれなくなってきてる……)
澪「ふっ!」シュパッ!!
「ボール!」
律(だけど、一生懸命私のミットめがけて投げようとしてくれてる)
律(なんとか……、なんとかここも切り抜けたい!)
澪「それっ!」シュパッ!!
カキン!!
律「!?」
実況「前進守備のセカンドの右っ!!」
和「はっ!」パシッ!!
実況「捕った! 捕りました! セカンドライナーで2アウト。ランナーは慌てて戻ります」
律「ナイス和!」
和「澪が頑張ってるんだからこれくらいはしないとね」
澪「あ、ありがと」
和「あと1アウトよ。なんとか踏ん張ってね」
澪「うん!」
律(さすが和だ。でも気を抜かずにいかないとな)
澪 シュパッ!!
カキン!!
実況「おっと、打ち上げてしまった。打球はバックネット方向に飛んでいる」
律「ぬぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
実況「田井中猛然と突っ込んでいく!」
律「私だってぇぇぇぇ!!」
澪「律っ!!」
実況「田井中ダイビングキャッチ! しかしその勢いで自軍のベンチに突っ込んでしまった!」
福本「うわちゃ~。大丈夫かいな……」
さわ子「ちょっと!? りっちゃん、平気?」
律 スクッ
実況「どうやら大丈夫のようです。果たしてボールをシッカリと掴んでいるのか!?」
律「とったど~~~~!!!!」
球審「アウト~~!!」
実況「雄叫びと同時にミットを天高く突き上げました!!」
ムッシュ「これはピッチャー助かりましたよ」
福本「なんとか最少失点差で終盤を迎えられますね」
ムッシュ「はい~、充分に逆転のチャンスはありますよ」
実況「スタンドからも先程のプレーを讃える拍手が鳴り止みません」
実況「このピンチも堅い守りでしのぐことができました」
実況「さぁ! この守りを次の攻撃へ繋げることが出来るか!」
澪「律、あんまり無茶するなよ……」
律「言ったろ。私が澪を支えるって」
澪「だって、心配するじゃないか……」
律「あ~ら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」ニヤニヤ
澪「バカ律」
律「ふふっ。照れちゃって。カワイイの~」
澪「……ありがと」ボソッ
律「へっ?」
澪「なんでもな~い」
律「な、なぁ! もう一回! お願いだからもう一回言ってくれ!!」
澪「い~や」
律「ああ~~ん。いけず~」
紬「////」
さわ子「ほらほら。邪魔しちゃ悪いわよ」
さわ子「さぁ、ピンチのあとはチャンスありよ!!」
さわ子「ここまできたからには、必ず勝ちましょう!!」
律「あったぼ~よ! 最後に笑うのはこの3年2組だぜ!」
いちご「後輩は跪かせるもの」
和「やるからには勝ちたいものね」
姫子「同感だね」
春子「燃えてきたっ!」
唯「私、絶対出塁するよ!!」
曜子「わ、私だって今度こそは!」
紬「がんばりましょ!!」
澪「うんっ!!」
さわ子「みんなその意気よ!!」
さわ子「そして、なんとしてでも焼肉食べ放題をいただくわ!!」
一同(結局、それかよ……)
実況「さぁ、8回の裏、打席は再三のピンチを切り抜けてきた秋山」
実況「先頭バッターとして塁に出ることはできるか」
バシンッ!!
球審「ッタラーイク!」
澪(確かに速くなってる……)
澪(でも、なんとかしなきゃ)
澪(こ、怖いけど……)ググッ
花子(ちょっと、ベースに寄りすぎだよ)
憂「……」シュパッ!!
バシンッ!!
球審「ボール」
花子(憂だって、それほどコントロールに自信があるわけでもない)
花子(さっきの敬遠の件といい、学校行事とは思えないほど熱を帯びてきてるね)
花子(ピッチャー相手に厳しいコース突く訳がないってタカをくくってるのか?)
花子(けど、そっちがその気ならこっちだってそれなりの攻めをさせてもらうよ)
憂(インコース!?)
花子(速い球じゃなくてもいいから、コントロール重視で。舐められたままじゃ癪だからね)
憂 コクコク
憂 シュパッ!!
澪「きたっ!」カッキーン!!
実況「一二塁間突破! ライト前ヒット! ノーアウトのランナーが出ました!」
さわ子「よっし! この同点のランナーは大事に行くわよ」
唯(送りバント)
花子(そう簡単になんてさせないよ。憂も姉貴だからってもう不抜けた投球は許さないよ)
憂(お姉ちゃん……ごめんね)シュパッ!!
唯「!?」
ズバンッ!!
球審「ッタラーイク!」
実況「平沢唯、初球送りバントの構えですが球を見送ってしまいました」
唯「ふっふっふ……」
花子「?」
唯「憂、やっと私と本気で勝負する気になったんだね」
憂「お、お姉ちゃん?」
唯「お姉ちゃんはこの日を待ちわびていたよ!」
憂「!?」
唯「これで私も心置きなくヒットが打てるってもんだよ」
唯(まぁ、今は打席に入る前にバントって言われたから送りバントだけどね)
唯「さぁ、こい憂! 姉の凄さをとくと見よ!」
憂「うん! わかったよ、お姉ちゃん!」
唯(ふっ……決まった)
憂 シュパッ!!
唯(問題は……)
ズバンッ!!
球審「ッタラーイク! ツー」
唯「なかなかいい球だね、憂。さすが私の妹」
唯(どうやってこの球にバットを当てるか……だね……)
最終更新:2011年01月28日 03:40