律「ちょっと待ってさわちゃん！ せめて一人くらいには投げさせて！」
さわ子「ああん！？」
律「す、すんません……」
唯「りっちゃんのアホ～！！」
律「バックホーム暴投したお前に言われたかないわい！！」
澪「ったく……律のやつ」
和「でも監督、次は誰が投げるんですか？」
さわ子「そうね……。琴吹さん、やってみない？」
紬「私が、ピッチャー？」
さわ子「練習を見たところなかなか速い球投げてたわよ」
紬「で、でも……」
律「そうだな、修学旅行でやった枕投げでもかなり重い球……、いや、枕か？を投げてたし
結構いけるんじゃないかムギ」
さわ子「少なくともこのデコッパチよりは全然ましだと思うわ」
律「で、でこ……」
さわ子「どう？」
姫子「そうだね、やってみなよムギ」
春子「なんか面白そうじゃん」
いちご「その馬鹿力は投げる方にも有効かも」
紬「みんな……」
紬「わかった！ やってみる！」
紬「私、実はピンチでリリーフするのが夢だったの～」
律「相変わらずムギの夢はピンポイントだなぁ～」
『３年２組 守備の変更をお知らせします。ファーストの琴吹さんがピッチャー、ピッチャーの田井中さんがキャッチャー
キャッチャーの真鍋さんがセカンド、セカンドの若王子さんがサード、サードの近田さんがファースト。以上です』
実況「どうやら、ピッチャーの交代は認められたようです」
実況「さぁ、プレイが再開されます」
球審「プレイッ！」
紬「ええいっ！」ﾋﾞｭﾝ!!
ｽﾞｯﾊﾞｰﾝ!!
律「おおっ！ なかなか速いぞ、ムギ！」
紬「そぉれ！」ﾋﾞｭﾝ!!
ｽﾞｯﾊﾞｰﾝ!!
律「それに、かなり重い球だ！ ミットにドスンと来る！」
紬「おりゃ～！」ﾋﾞｭﾝ!!
ｽﾞｯﾊﾞｰﾝ!!
律「相手も手が出ないって感じ！ なんだけど……」
紬「よいしょ～！」ﾋﾞｭﾝ!!
ｽﾞｯﾊﾞｰﾝ!!
球審「ボールフォア！」
律「コントロールがなぁ……」
紬「ごめんなさい、ちゃんとりっちゃんが構えてるところめがけて投げてるつもりなんだけど……」
春子「けど、スピードはかなりあったな」
和「球質も重そうだし」
律「ああ。その点では澪以上かもな」
いちご「でも、ストライクが入らないんじゃ意味ない」
紬 ｼｭﾝ…
姫子「まぁ、もうちょっと力抜いて投げてみれば？」
和「そうね、満塁だしフォアボールじゃどうしようも出来ないし」
いちご「打たせたらいいと思う」
紬「うん、わかった！ ちょっと緩めに投げてみる！」
律「じゃあ、守りは頼んだぜ！ 前進守備でホーム優先な！ 絶対に切り抜けるぞ！」
姫子「オッケー！」
実況「代わりっ端にフォアボールを出してしまった琴吹！ これでノーアウト満塁！」
実況「３年２組、しのぐことができるかっ！？」
紬「ていっ！」
ﾊﾟｼｯ
球審「ッタラーイク！」
律（入った！ 緩い球だったらなんとかコントロールできそうだな）
律（打順が８番でよかった。も１球同じような球で）
球審「ボール」
律（駄目だ……、初球はたまたま入っただけか……）
律（押し出しは絶対に避けたい。ムギ、守備陣を信じてもう真ん中へ投げ込んでこい！）
紬「そぉれ！」
ﾌﾜｯ
ｶｷﾝ!!
実況「打った！ しかしこれは打ち上げてしまった。セカンド後方のフライ」
実況「だが、これは面白いところへ上がっているぞ！ 前進守備を敷いていたセカンドが懸命に追いかける！」
実況「センター前進、ライトも前へ来る！ 間に落ちるか！？」
唯「澪ちゃん！ バックアップお願い！」
澪「わ、わかった」
唯「上がりぃぃぃぃぃぃぃぃぃ！！」
澪（上がりってなんだ！？）
実況「センター平沢さらに前進！ 突っ込んでくる！」
唯「そぉい！！」ｽﾞｻｧｧｧｧ
実況「平沢飛び込んだ！！」
澪「唯っ！！」
実況「捕ったか！？」
「アウトー！！」
実況「捕った！ 捕っています！！ 平沢唯またもや大ファインプレイ！」
実況「３塁走者ハーフウェーから戻ります。これではどうしようもありません」
実況「いやー福本さん、また平沢が魅せてくれましたね」
福本「もっと早ようにスタート切ったらあんな飛び込まんでも捕れたで」
福本「でも、まぁ……。ええプレーやったね」
実況「福本さんも認めた平沢唯の守備。しかしまだ１アウト満塁とピンチが続きます！
はたしてこの厚い守りで乗り切ることが出来るかっ！？」
澪「唯！ 大丈夫か！？ 痛くなかったか！？」
唯「大丈夫だよ、澪ちゃん。ここの芝生もムギちゃんちの家の庭の芝生くらいフカフカしてるから」
唯「それに今まで澪ちゃんが頑張ってきてくれてたんだもん」
唯「ここまで良い勝負が出来てるのも澪ちゃんが頑張って投げてくれていたおかげだよ
私はバックホームを暴投とかしちゃってたし……」
唯「だから、せめて澪ちゃんが投げた分も無駄にしないように、今度は私たちが頑張る番なんだよ！」
澪「唯……」
姫子「唯、ナイスプレー！」
和「助かったわ、唯」
唯「いや～、どうもどうも」
律「よっしゃ～！ あと２アウト、気合入れて無失点で切り抜けるぞー！！」
「おお～っ！！」
澪「そうだ……皆だって頑張ってるんだ」
澪「なのに、私は……、自分が辛いからって……」
・ ・ ・ ・ ・
ﾊﾞｼｯ!!
球審「ボールフォア！！」
実況「ああっと、琴吹痛恨の押し出し！ ２年１組苦も無く１点勝ち越しました！」
紬「ああん！もう！ ストライクが入らない～！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
律（くっ……。ここにきて押し出しか……）
紬「ごめんなさい……」
姫子「仕方ないよ」
和「とりあえず一つずつ取っていくしかないわ」
春子「ああ、ムギも気張らず打たせていけよ」
紬「……うん」
律（緩く投げても入らないんだ……。いったいどうすりゃ……）
いちご「……きた」
律「え？」
実況「あっと、ライトを守っている秋山ですが、内野へ駆け寄っていきます」
澪「……」
律「澪？」
澪「あ、あのさ……」
いちご「ねぇ」
澪「ん？」
いちご「私、澪の投げる姿、嫌いじゃない」
澪「私は、投げるの好きじゃないよ」
澪「でも、嫌いでもないんだ」
いちご「……そう」
いちご「じゃあ私、レフトに戻る」
律「え？ ああ、うん」
紬「いいの？ 澪ちゃん」
澪「皆が、いいなら……」
和「当たり前じゃない。このチームのピッチャーは澪よ」
澪「和……」
姫子「澪が投げてくれるんなら大歓迎だよ」
澪「ありがと」
春子「大丈夫なのか？」
澪「だって、皆が頑張ってるのに、私だけ蚊帳の外だなんて嫌だし……」
律「そんなこと言って～。本当は私と離れるのが寂しくて戻ってきたんだろ？」
澪「そんのあるわけないだろ」
律「私は寂しかったぞ～、澪ちゅわ～ん」
澪「やめろ、離れろ」
紬「ストライィィィィク！！！！」
澪律「！？」ﾋﾞｸｯ!!
実況「どうやら秋山がもう一度マウンドに上がるようです。それぞれ試合開始当初のポジションに戻りました」
レフトにて
いちご「ここが一番落ち着く」
センターにて
唯「かくして澪ちゃんは友の会を巣立って行くのであった……」
ライトにて
曜子「この辺り、この辺りに秋山さんが居た温もりが感じられる」ｸﾝｶｸﾝｶ
梓「やたらとポジションが動きますね」
律「まぁこっちもいろいろあんだよ」
梓（満塁かぁ、願ってもないチャンスだ）
梓「いくら先輩と言えども、私は容赦しませんからね」
律「あったぼ～よ！ どんとこい！」
律（とは言いつつも、澪大丈夫かな……）
澪 ｼｭﾊﾟｯ!!
ﾊﾟｼｯ!!
球審「ッタラーイク！！」
梓（あれ？ なんだか前より遅くなってる気がする……）
梓（目が慣れたのかな）
律（やっぱり、まだ恐る恐る投げてる感じだな）
律（でも、梓のやつも打ち損じてくれるかもしれないし……）
澪 ｼｭﾊﾟｯ!!
梓 ｶｷﾝ!!
「ファール！」
梓「やっぱり、こんなに簡単にバットに当てることが出来るなんて」
梓「澪先輩の球、なんだか遅くなりましたね」
律（梓の言うとおり、まだビビリながら縮こまって投げてるから球がこない）
梓「これだったら私にも打てますね。次は確実に仕留めますよ」
律（クソッ！ なんて憎たらしい奴なんだ）
律（なんとかここを無失点に抑えてせめて１点差で終盤を迎えたい……！！）
律（まだ、梓にはフォークを使ってないし）
律（この球見せるだけでもストレートだけだというそのふざけた幻想をぶち殺すことができる）
律（そして、梓は次の球から迷いが出るはずだ）
律（……試してみるか）
澪「！？」
澪「……」
澪 ｺｸｺｸ
律（よし……来い！！）
澪（後ろに逸らすなよ……！！）ｼｭﾊﾟｯ!!
澪「あっ、しまっ！？」
律「うぐっ！？」ﾄﾞｽｯ
実況「おおっと！ 秋山の投げたボールがホームベースの手前でワンバウンド」
実況「しかしこれをキャッチャーの田井中が体を張って止めました！」
ムッシュ「あれこそキャッチャーの鏡ですよ」
福本「あれ後逸してたら１点入ってましたからね」
澪「律！！」
律「へへ……言ったろ、今度は絶対捕るって」
澪「ば、バカ律！ 怪我したらどうするんだよ」
律「私はさ、澪みたいになんでも上手くこなす事ができないからさ」
律「ドラムも走り気味だし、同じリズム隊として澪にはいっぱい迷惑かけてると思うんだ」
律「だからさ、せめてキャッチャーとしてはお前を支えてやりたいんだよ」
律「怯えながらも投げてくれてる澪に対して私が唯一出来ることが体を張ることなんだよ」
澪「律……」
律「打たれても悔しさの欠片も無いような澪を見て少しカッとなっちゃったりもしたけどさ……」
律「でも澪のがんばりは私が一番知ってるつもりだから！」
紬（これよ！ 私が求めていた展開はっ！！）
律「もちろん、お前が野球を嫌々やっているのは痛いほどわかってるよ」
律「でもせめて、この間だけは、野球やってる間だけは」
律「澪。私を頼って、私を信じて球を投げてくれないか？」
澪「……」
澪「……わかった。あとで受けきれなかったなんて言うなよ」
律「言うもんか！ 澪の投げる球も気持ちも全部私が受け止める！！」
澪「は、恥ずかしいヤツだな……////」
球審「君たち。早くプレイを再開したまえ」
紬（ぷ、プレイって！？ どんなプレイをっ！？）ﾀﾗ～ﾘ…
和「ムギ！？ また鼻血が！ やっぱり熱中症なんじゃ……」
紬「ええ、ある意味熱中しちゃってるかもね」
和「？？？」
律「よっしゃ～！ しまって行こ～！！」
澪（そうだ、私の側にはいつも律がいてくれた）
澪（私が挫けそうになったときも、いつだって律は私を励ましてくれた）
澪（この球はそんな律に対する私からの信頼の証）
澪（そんな……）
澪「そんな、２人の友情ボール！！」ｼｭﾊﾟｯ!!
梓（は、速い！？）ﾌﾞﾝ!!
ｽﾞｯﾊﾞｰﾝ!!
球審「ッタラーイク！！ バッターアウッ！！」
律「よっし！！ 見たか梓！！ これが私と澪の友情が成せる球だっ！！」
梓「はいはい、ごちそうさまでした」ｽﾀｽﾀ…
律「……生意気な奴め」
・ ・ ・ ・ ・
ｽﾞｯﾊﾞｰﾝ!!
球審「ッタラーイク！ バッターアウッ！」
実況「空振り三振！ 秋山続く２番のソフト部セカンドも打ち取り満塁のピンチをしのいだ！ この勢いを裏の攻撃に繋げたい！」
実況「７回表を終わって４－５ ２年１組、押し出しで１点勝ち越しです」
さわ子「秋山さん！ よくやってくれたわ！」
澪「は、はい」
さわ子「こっちは４番からね。しかもラッキー７よ！ 田井中さん頼んだわ！」
律「先頭バッターだからな。何も考えずに思いっきり打ってくる！！」
唯「いってらっしゃい！」
最終更新：2011年01月28日 03:39
