実況「7回の表 2年1組の攻撃は5番の山田から始まります」

ムッシュ「同点に追いついてもらった後の回ですからね、ここは秋山大事に行きたいですよ」

福本「そのためにはこの山田をどう抑えるかですね」


律(姫子はどうせなら歩かせてしまえとは言ってたけど、今の澪の球だったら充分勝負出来るんじゃね)

律(どうだ、澪)

澪 コクコク

律(あいつもその気だし、ここはいっちょやってみっか)

澪 シュパッ!!

花子「!?」

   ズバンッ!!

球審「ッタラーイク!」

律(はい、驚いた顔いただきました)

律(この調子なら同じ球で追い込めるな)

澪 シュパッ!!

花子 ブォン!!

   ズバンッ!!

球審「ッタラーイク! ツー」

律(全然合ってないな。ここで変化球混ぜたいところだけど、抜けたりして甘くなるのが恐いし)

律(ストレートに合ってないなら続けるべきだろうな)

律(とりあえず1球外して……)

澪 フルフル

律(3球勝負!?)

澪 コクコク

律(……オッケー。目にもの見せてやる)

澪 シュパッ!!

花子「ふぅん!!」カッキーン!!

澪「!?」

実況「山田が捉えた打球はピッチャー正面!!」

澪「うわっ!?」

律「澪っ!!」

実況「痛烈な打球が秋山に直撃っ!!」

実況「秋山に当たった球は3塁側へと転がる! 1塁へ間に合うか!?」

春子「くっ……!!」

実況「あっと、しかしサードの近田上手く反応することが出来ない!」

実況「その間に山田は1塁へ到達、ピッチャー強襲の内野安打となりました!」

実況「近田の反応がもう少し良ければアウトに出来ていたかも、という微妙なタイミングでしたが」

ムッシュ「ちょっとサード怠慢やったねぇ~」

福本「せやけど、ものすごい打球当たりましたよ……」

ムッシュ「ピッチャー心配やねぇ……」

律「澪! 大丈夫か!?」

澪「う、うん。平気」

律「本当に!?」

澪「グラブに当たっただけだから」

和「体には当たってないのね?」

澪「とりあえず。右手はちょっとビリビリきてるけど」

紬「よかった……」

春子「ごめん、またアウト取り損なっちゃって……」

姫子「あれは仕方ないよ」

審判「君、大丈夫かね?」

澪「は、はい」

和「当たったのはグラブらしいんで」

審判「そうか。でも、ちょっと投げてみたまえ」

澪「はい」

さわ子「みみみみ、澪ちゃん! 大丈夫なの!?」ダダダダダッ

律「さわちゃん落ち着けって」

和「監督、体には当たってないみたいですから」

さわ子「そ、そう」ホッ

春子「にしてもすごい勢いでベンチから飛んできたな」

さわ子「当たり前でしょ。もしあなた達の体に何かあったらと思うと……」

さわ子「私はあなた達の担任なのよ。心配して当然じゃない」

律「焼肉もあるしな」

さわ子「そうそう。……って、ちっが~う!」

律「冗談冗談」


実況「秋山、何球か投球練習をしていますが、どうでしょうか?」

福本「影響はなさそうですね」

ムッシュ「スロー映像見たらグラブに当たっとるね」

実況「そうですね。体に直撃というのは防げたようです」

花子(気分的には左中間狙ってたんだけどな……実際にはピッチャー正面だった)

花子(それだけ球がきてたってことか)

花子「秋山先輩、大丈夫でしたか?」

紬「ええ、グラブに当たってたようだから」

花子「それは……よかった……」

紬「うふふ、心配してくれてたの?」

花子「そりゃそうですよ」

花子「……それに」


曜子「秋山さんになんてことするのっ!」

澪ファンクラブの面々「コラー! おんどら生きて帰れると思うなよ!!」
             「ワレ! いてこますぞ!!」
             「なんかの原料にしたろか! この豚野郎!」


花子「先輩にもしものことがあったら殺されそうなので……」

紬「あ、あはは……」

澪 シュッ

律 パシッ

さわ子「どうやら大丈夫のようね」

澪「は、はい」

さわ子「じゃあ、頼んだわよ」

実況「どうやら投球には影響ないようです」

実況「6番の鈴木がバッターボックスに入ります」

球審「プレイっ!」

実況「秋山、仕切り直しの1球目……投げた!」

澪「あっ!?」

律「げっ!?」

実況「ああっと!? とんでもないところへ投げてしまった! キャッチャー捕れない!」

実況「1塁ランナーそれを見て2塁へ! 記録はワイルドピッチ」

律(ついさっきの投球練習のときは大丈夫だったのに。やっぱりどこか痛んでるのか)

実況「第2球……投げた!」

   バシンッ!!

球審「ボール、ツー!」

実況「田井中、捕りはしましたが、これも大きく外れている」

律(どうしたってんだ、澪)

律(ストレートが駄目なら、カーブで)

実況「第3球……投げた!」

純「ぎゃっ!?」

澪「!?」

律「!?」

球審「デッドボール!」

実況「ああっと! 鈴木に当ててしまった!」

福本「まぁ、変化球の抜け球ですから大丈夫でしょ」

ムッシュ「これはピッチャーの方が痛いデッドボールですよ~」

純「あいてて……」

澪「ご、ごめん鈴木さん!」

純「あ~いや、大丈夫ですよ。ホントのところはそれほど痛くなかったですし」

澪「で、でも……」

純「当たったところもお尻なので」

澪「み、見せて! もし痣にでもなってたら……」

純「ちょ!? やめて下さい澪先輩! 脱がさないでっ!」

律「落ち着け澪!」

 ・ ・ ・ ・ ・

澪「……」

和「澪、大丈夫?」

澪「……げられない」

姫子「え?」

澪「投げられない……」

律「ええっ!?」

澪「バッターと対峙したとき、もしまたあんなピッチャー返しが来るかと思うと……恐くて投げられないんだ……」

澪「だからさっきも手元が狂って……」

紬「澪ちゃん……」

澪「しかも、鈴木さんには当てちゃったし……私、どうすればいいのか……」

澪「投げなきゃいけないってわかってるけど……投げるのはしんどいし……皆見てるし……恐いし……」

澪「なんでこんな思いまでして、投げなきゃいけなんだ……」ウルウル

和「ごめんなさいね澪。私たちあなたに頼りっきりだったもんね」

姫子「そうだね……。素人同然だった澪がここまで頑張ってくれたんだもん。それをこれ以上頑張れだなんて……」

紬「澪ちゃん、泣かないで」

澪「ううっ……グスッ……」

春子「ここまでか……」

和「棄権……しましょ……」

律「ちょっと待った!!」

紬「りっちゃん!?」

律「せっかくここまで練習してきたんだ! せめて最後までしようぜ!」

律「それにここで終わったら、今まで澪が投げた分も無駄になっちゃうってことだろ?」

律「そんなん絶対に嫌だからなっ!」

姫子「だけど律」

律「だから、澪の代わりに私が投げる!!」

澪「律……」

律「澪は外野で見ててくれ」

紬「澪ちゃんはそれで大丈夫?」

澪「うん……グスッ……」

和「わかったわ。そうね、ここまできたら最後までしましょう!」

律「さわちゃん! ピッチャー交代!」

さわ子「ええっ!? ピッチャー交代!?」

律「私が投げるからっ!」

さわ子「え? え? でも……」

和「実は……」

 ・ ・ ・ ・ ・

さわ子「そう……」

澪「すみません……」

さわ子「いいえ、秋山さんが謝ることないのよ」

澪「……はい」

さわ子「で、田井中さんが投げるとして、キャッチャーは真鍋さんよね?」

和「他に出来る子がいないので」

さわ子「秋山さんはライトに回して。だとするとやっぱり若王子さんしか内野に回せないわよね」

さわ子「佐々木さんはレフトに回ってもらって。若王子さんがセカンドか」

いちご「出来る」

さわ子「そう? じゃあそれで行くしかないわね」

さわ子「それにしても、田井中さんピッチャーなんて大丈夫なの?」

律「任せとけ!」

和「一応、練習はしてたみたいですから」

律(ふっふっふ、この日のために温めていた必殺技を披露するチャンスがくるとは)

律「やってやるです!」



梓 ムカッ

憂「梓ちゃんどうしたの?」

梓「いや、なんか一瞬イラッときてさ。何故だかわからないんだけど」

憂「?」


『3年2組 守備の変更をお知らせします。・・・・・・以上です』

実況「これは大幅に入れ替えてきましたね」

福本「ピッチャー代える言うことは、なんかあったんやろうね」

ムッシュ「これは痛いねぇ~」




和「気楽にね律」

律「ああ! 任せとけって!」

和「ふふっ、心強いわね。下位打線だしバックを信じて打たせていきましょ」

律「おう!」


唯「澪ちゃんいらっしゃ~い」

曜子「あ、秋山さんがライト!?」

澪「うん、よろしくな」

唯「まぁ、こっち方面へ飛んできたボールは私に任せて、澪ちゃんはごゆるりとしたまえ」

澪「わかった、唯に任せるよ」

唯「いや~、しっかり者の澪ちゃんに頼られるなんて滅多にないことですねっ!」

澪「頼りにしてるぞ、唯」

唯「えへへ~」

曜子(ど、どうしよう……。まさかさっきまで私が守ってたところに秋山さんが来るなんて)

曜子(こんなことになるならこの回の前にもっと8×4しとけばよかった)

曜子(私の汗臭さがあの周辺に漂ってないかな……)

曜子(でも、私の残り香を秋山さんが嗅ぐって思うとなんだか)ハァハァ

澪「さ、佐々木さん?」

曜子「な、なんでもないよ!」

澪「そ、そう?」

唯「それじゃあ、この外野手友の会に新しい仲間を迎えるにあたって……」

唯「友の会1号!」

曜子「2号!」

澪「さ、3号?」

唯「やった~!」

曜子「きゃ~! 秋山さんと一緒!」

澪(内野と比べてなんだか空気が軽いなぁ……)

球審「プレイッ!」

律(今日は暑い、だから帽子を被りながらのプレイ)

律(この帽子を使った私の必殺技)

律(澪のアクシデントで冷え切った場をまた盛り上げるにはこれしかないっ!)

律(幼い頃にTVで見たプロ野球珍プレー好プレー)

律(それでやっていた今でも鮮烈に記憶に残っているあの秘技!)

実況「おっと? ピッチャー田井中、ランナーがいるにもかかわらずワインドアップで投げようとしている!」

和(ち、ちょっと律!?)

律「くらえ! ピッカリ投法!!」ヒョイ

実況「腕を振りかぶると同時に帽子を落とした! これはまさに元近鉄の佐野慈紀の鉄板ネタ『ピッカリ投法』だ!」

実況「資料の自己紹介の欄にもカチューシャで前髪を上げたおでこがチャーミングだと自己PRをしてくれています」

実況「その特徴を活かしましたネタにスタンドからも笑い声が飛んでいます」

律「へへっ、どうもどうも」

福本「あ~……でも投げんと……」

審判「ボーク!」

律「あ」

さわ子「ピッチャー交代っ!!!!」

実況「なんと田井中、投球動作を途中で止めて帽子を拾いにいってしまった!」

実況「ボークをとられランナーはそれぞれ2、3塁へと進みます」

実況「それと同時にピッチャーの交代が告げられたようです」

実況「しかし、ピッチャー交代の規定では最初の打者とは対戦しなくてはいけない決まりでは?」

ムッシュ「別に公式戦でもないし学校の行事やからええんちゃうかなぁ」

実況「はぁ、そう言われればそんな気もしますが……」


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最終更新:2011年01月28日 03:38