バッティングセンター

紬「まぁ~♪ ここがバッティングセンター!
  なんだかちょっと暗くてジメジメしてて狭っ苦しいところだけど素敵!」

唯「ややっ!? あれは!?」

澪「姫子と春子だ」

姫子「あ、軽音部と委員長」

春子「うーっす」

律「おいっすー!」

唯「何やってんの~?」

姫子「ここに来て何やってんのって聞かれるとは思わなかったよ」

澪「バッティングセンターなんだから打ちに来たに決まってるだろ唯」

唯「あ、そっか~」

姫子「春子にバッティング教えろって言われてさ」

和「練習が無い日も自主練なんて関心ね」

春子「そういうあんたらだって」

律「まぁな」

いちご「あ……」

澪「あ、いちごまで」

紬「いちごちゃんも練習しに?」

いちご「……ここはたまたま家までの帰り道だから、ちょっと寄ってみただけ。
     別に何をしに来たわけでもない」

和「でも、その手に持ってるバットとヘルメットは?」

いちご「……」

春子「ピンク色のバットなんて初めて見た」

唯「このバットのグリップエンドに苺のマークがあるね」

紬「それに、そのヘルメットにも同じマークがあるわ」

澪「あのさ、まさか……」

いちご「……マイバットとマイヘルメット」

律「いちごちゅわん! 可愛いっ!」

いちご「……うるさい」

 ・ ・ ・ ・ ・

律「さ~て、唯、かっ飛ばすか!」

唯「あいよ、りっちゃん! めざせホームラン!」

律 コツン コロコロ…

唯 コツン コロコロ…

律「よっしゃ~三塁線ギリギリのバント!」

唯「送りバント成功だね! りっちゃん!」

律「唯も絶妙なバントだったぞ!」

唯「内野安打も狙えるね!」

律「って! しまった! ついついいつもの練習の癖でバントから始めてしまった~!
  一球もったいねぇ!」

唯「ああっ! うっかりだよ! うっかりだよりっちゃん!」

澪「楽しそうだな~、お前らは」

律「ほっ!」カキン!!

律「うんうん。昔はここのバッティングセンターでいきがって打席に立ったりしたけど
  そのときはバットにカスリもしなかったからなぁ~」

律「そのころと比べたらなんという成長具合かっ!」

唯「とりゃ~! 宇宙感!!」ブンッ!! コツン… コロコロ…

律「なんで、そんなに勢いのあるスイングなのに打球はそんなんなんだよ……」

唯「宇宙感への道は厳しいね……」

律「もう素直に唯は三遊間方向へ転がしとけ」

紬「よいしょー!」ガッキーン!!

春子「相変わらず飛ばすね~」

和「えいっ!」カキン!!

姫子「その隣では委員長がこれまた相変わらずセンター返しや右方向へ流してるんだよね」

いちご コツン コロコロ…

澪「あの……いちごはなんでバントばっかりしてるの?」

いちご「私、バトン部だから……」

澪「うん、知ってる」

いちご「……」

澪(……えっ? だから何!?)

紬「ところで唯ちゃん。どこまで飛ばせばホームランなの?」

唯「えっとね……あれ? そういえばホームランボード無いね」

律「本当だ、どうなってんだ?」

姫子「ああ、それならさっきここの店員さんに聞いたんだけどさ」

姫子「なんでも、ここ最近ホームランを連発する人がいたらしくて」

春子「その人が景品を洗いざらい持っていったんだってさ。
    私もあのうまい棒の詰め合わせ狙ってたのに……」

姫子「だから、当分の間は景品は無しにするって」

律「へ~、凄い人もいるもんなんだな~」

紬「そうなんだ、残念……」

 ・ ・ ・ ・ ・

澪「とりゃ」カキン!!

澪「ふぅ~……」

唯「ねぇ、澪ちゃん」

澪「なに?」

唯「なんで澪ちゃんはピッチャーなのに野手の私よりバッティングが上手いの? ズルイよ」

澪「ズルイって……仕方ないだろ、やってたら出来るようになったんだから」

唯「澪ちゃんは頭も良いし、ベースも上手いし、運動神経も良いし、おっぱいも大きいし」

澪「む、胸は関係ないだろ!」

唯「不公平だよ!!」

律「そうだ! 天は二物を与えずじゃなかったのか!」

澪「うるさいぞ! 周りの人に迷惑だろ」

律「私たち以外にお客さんいないも~ん」

唯「ねぇ、姫ちゃんと春ちゃんもそう思うよね?」

姫子「え? ああ、えっと……そう言われればそうかな」

春子「特にあの胸がズルイな」

澪「お前らまで……!!」

紬「ズルイズルイ~」

澪「なんでムギまで一緒になってるんだよ!」

紬「エヘヘ……つい」

澪「まったく……」

曜子「はい、秋山さんタオル」

澪「ありがと……って!? 佐々木さんいつの間に!?」

和「私が呼んどいたの。一人だけ仲間はずれも可哀相でしょ」

曜子「私は断然秋山さんの胸を支持します!」

澪「もう勝手にして……」トホホ…

  •  ・ ・ ・ ・

澪「……」

和「どうしたの、澪。そんなにぼーっとして」

澪「いや……本当にこんなことしてていいのかな、って」

和「?」

澪「受験生だしさ、2学期始まってちょっとしたら学園祭だろ。私たちにとっては最後の学園祭ライブだし」

澪「それなのに……野球なんてしてていいのかなって、ふと思ってさ」

和「いいんじゃない? 別にずっと野球やるわけでもないんだし、球技大会が終わればまた軽音部で活動するでしょ?」

澪「そうだけど……」

和「それに、どうせあなた達、練習やらないでずっとお茶してるんでしょ?」

澪「うっ……痛いところを……」

和「大丈夫よ今までもそうやって乗り越えてきたんだから」

澪「そう、かな……」

和「私はやって良かったと思ってるわ」

和「普段こんな外で遊ぶだなんて思ってもみなかった子と練習と言えど交流することが出来たんだから」

和「姫子と春子といちごと佐々木さん。これがなかったらきっと教室の中だけのただのクラスメイトだったでしょうね」

和「それが、ほら」


曜子「えいっ!」カキン!!

唯「おおっ! よーちゃん私より飛ばしてる!」

律「やるな~曜子!」

唯「私だって~」

姫子「がんばれ、唯」

春子「すげーないちご、このバットどこで作ってもらったん?」

いちご「ネットで探した」

紬「私も作ってもらおうかしら?」

いちご「いいと思う」


和「ね、以前よりも打ち解けてると思うわ」

澪「うん」


和「それに球技大会で優勝することが出来たら更にその絆は深まっていくと思うの」

和「確かに部活も大事かもしれないけど、この期間だけはクラスのみんなと一緒に過ごすのも悪くないんじゃない?」

和「それが一生の絆になるかもしれないし」

澪「……わかるよ、和の言うこと」

唯「和ちゃんも澪ちゃんもこっちにおいでよ~」

和「今行くわ」

和「ほら、澪も」

澪「私はこのベンチでちょっと休んでるよ」

和「そう? じゃあお先に行ってくるわ」

澪「ああ」

唯「この中で一番バッティングが上手いの誰かな~?」

律「はい! 立候補します!」

曜子「じゃあ、私は秋山さんを推薦します!」

和「やっぱり姫子なんじゃない?」

律「まさかの無視!?」

姫子「バットコントロールだけで言ったら委員長が一番かもしれないよ」

いちご「バントだったら負けない」

春子「私は大食いだったら誰にも負ける気しないよ」

律「おいおい、なんか話がおかしくなってきてるぞ!」

  「あはははははは!」


澪「……」

澪「でも、和。私は正直早く終わってほしいって思ってるんだ……」

澪「投げるのはしんどいし……早く終わってくれるんなら勝ち負けなんてどうでもいいって思ってる」

澪「ただ皆が楽しそうにしてるから私は我慢してやってるだけなんだ……」

澪「……それに」

澪「早くこの投手育成ギプスを着なくてもいい生活に戻りたいっ!!」

 紬から貰った投手育成ギプスという名の肌着を律儀に毎日着ていた澪だった。



平沢家

唯「は~、楽しかった~」

憂「お姉ちゃん、おかえり」

唯「ただいま~」

憂「どこ行ってたの?」

唯「皆でバッティングセンター行ってたんだ~」

憂「今日は勉強してたんじゃなかったっけ?」

唯「和ちゃんや澪ちゃんやムギちゃんの協力もあり無事宿題も終えることが出来そうなので、ちょびっと息抜きに……」

憂「そっか、良かったねお姉ちゃん」

唯「たくさんバット振ったからお腹すいたよ~」

憂「ごめんね、ご飯の用意はもうちょっとかかりそうなんだ」

唯「あう~」

憂「うまい棒ならあるよ」

唯「おお! そういえば、ちょっと前に憂が商店街の福引で貰ってきたって言ってたうまい棒詰め合わせがあったんだった」

憂「あんまり食べ過ぎ無いようにね」

唯「憂の部屋にも大きなぬいぐるみが増えたよね~。脱衣所には見慣れない洗剤や石鹸もたくさんあったし」

憂「それも商店街の福引で当てたんだよ」

唯「運がいいねぇ~」

憂「えへへ」

唯「あれ? でもこの時期に商店街で福引なんてしてたっけ?」

憂「秘密の福引なんだよ、お姉ちゃん」

唯「そっか~秘密なら仕方ないね」


 そして新学期が始まり幾日が過ぎ、球技大会前日

さわ子「ついに決戦は明日ね!」

律「さわちゃん気合入ってるな」

さわ子「当たり前じゃない! この日のためにユニフォームも作ったし、私の分だけ!」

唯「え~、なんで自分ばっかり。私もユニフォーム着たい!」

さわ子「学校行事だからあなた達は体操服じゃないと駄目だって言われちゃったのよ」

律「生徒はジャージで先生はユニフォームっていうのもどうかと思うけど……」

さわ子「いい? あなた達、絶対に勝つのよ!」

姫子「まぁ、やるからには勝ちたいよね」

春子「勝ったらさわちゃんを胴上げだ!」

さわ子「いいわよ! 近田さん! ぜひ私を皆で天高く胴上げしてね!」

いちご「たぶんそんなに高く上がらないと思う」

律「ああ、さわちゃん重そうだもんな」

さわ子「なっ!?」

和「それに、素人の胴上げで失敗して死亡事故なんてことも聞きますし」

さわ子「えっ、そうなの!? やめやめ! 胴上げは無しの方向で!」

曜子「私、秋山さんのピッチングにすごく期待してるから!」

澪「う、うん……」

曜子(もし勝つことが出来たら、秋山さんのいるマウンドに一番に駆けつけてハグしたい!)

曜子「絶対に勝とうね!」

澪「そうだね」

澪(なんで皆こんなに乗り気なんだよ……。なんかプレッシャーかかるなぁ……)


さわ子「さて、じゃあ当日のオーダーをあなた達に伝えるわ」

さわ子「これは私が皆の練習を見て、最適な打順と守備位置を判断したつもりよ」

さわ子「なんせ私は監督だからっ!」

唯「いよっ! 監督!」

さわ子「ありがとう。それじゃあ言うわよ」

さわ子「一番 セカンド 真鍋さん」

さわ子「まずはバッティングの上手さと選球眼の良さで出塁を期待できる真鍋さんがトップバッター
     本人の希望もあってのセカンドだけどその守備の安定感は目を見張るものがあったわ」

律「まぁ順当だな」

さわ子「2番 レフト 若王子さん」

さわ子「なんといってもその器用さは2番にぴったりね。真鍋さんの出塁と若王子さんのバントなり進塁打なりが
     この打線のキーポイントとなりそうね」

紬「確かに、いちごちゃんのバント技術は一級品だもんね」

いちご「バトン部だから」

澪(前から言ってるけど、いったい何のことなんだろう……?)

さわ子「3番 ショート 立花さん」

さわ子「ソフト部でもクリーンナップを打つその打撃には期待大よ」

さわ子「守備に関しては部活ではサードを主に守ってたって話だけど、やっぱり経験者だし
     どうしてもセンターラインをしっかりさせたいのよね。お願いできるかしら?」

姫子「任せて下さいよ」

さわ子「頼もしいわね。他の内野手が慣れてない子だからこの二遊間にはかなり広く守ってもらわないといけないと思うけど
     私が見た限りでは3年2組のアライバになれると思ってるから」

唯「3年2組の洗い場?」

さわ子「4番 ファースト 琴吹さん」

さわ子「飛ばし屋としての才能を開花させた琴吹さんは間違いなくウチの4番よ!」

紬「はいっ! がんばりまっす!」

さわ子「で、5番は……」

律「ち、ちょっと待ったさわちゃん!」

さわ子「なに? 何か異議でもあるの?」

律「私がなんでキャッチャー引き受けたか覚えてないの?」

さわ子「秋山さんがピッチャーするからでしょ?」

律「それもあるけど、4番を打たせてくれるって約束したじゃん!」

さわ子「……そんなこと言ったかしら?」

紬「あの、先生。私だったら別に4番じゃなくてもいいですよ
  それに、なんだかりっちゃんの方が4番って感じだし」

律「さすがムギ! 良くわかってる!」

さわ子(う~ん、本当はりっちゃんには6番辺りで自由に打ってもらった方がいい気がするのよねぇ……)

さわ子(でも、ヤル気を削ぐのはもっと駄目か……)

さわ子「よしわかった! 田井中さん、4番頼んだわよ!」

唯「いよっ! さすが軽音部部長!」

さわ子「サブロー的な繋ぎの4番を期待するわっ!」

律「おう! なんか良く知らないけど任せろ!」

さわ子「じゃあ、琴吹さんが5番ね」

紬「お任せあれ~」

さわ子「6番 サード 近田さん」

さわ子「とにかく何の制約もなしで自由に力を発揮してほしいわ、クリーンナップが返しそこねたランナーを頼むわね」

春子「おう! まぁ見てなって」

さわ子「7番 ピッチャー 秋山さん」

曜子「秋山さんがラッキー7! きゃー」

律「お前は澪が絡んできたらもうなんでもいいんだな」

澪「私、9番じゃないんですか?」

さわ子「ちょっと待ってね、あとで説明するから」

さわ子「8番 センター 平沢さん 9番 ライト 佐々木さん」

唯「ええ~、もっと前の方で打ちたい~」

曜子「私も、出来れば秋山さんの次がいいです。もっと言うなら内野でお願いします
    外野からだと秋山さんがよく見えないので」

さわ子「佐々木さん、強い打球避けちゃうじゃない……」

曜子「ううっ……そうでした……」

さわ子「守備位置はこれで行くわ。っていうかこれ以上はいじりようがないってのが正直なところね」

さわ子「で、打順の話に戻すけど、平沢さんと佐々木さんの打順はとても重要なの」

唯「ほうほう、詳しく聞きましょうか」


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