8月某日



純「面白かったねー、祭り!」

憂「うん!」

純「あー、でも焼きとうもろこし…私も食べればよかったかなー?」

憂「純ちゃん…あんまり食べると…」

純「ストップ!それ以上はダメだよ、憂!」

憂「う…うん」

純「って、もう着いちゃったか…憂の家」

憂「あ…葉書来てる…。梓ちゃんからだ」

純「なになに?あぁ…残暑見舞いだね。私もジャズ研の先輩達に出そうかなー?」

憂「………」


純「おっと…じゃあ私そろそろ帰るね!」

憂「…あ!待って!送って行くよ!」

純「でも…いいの?そろそろ唯先輩帰ってくるんじゃ…?」

憂「ちょっと待ってて。葉書置いてくるから…」

純「うん…」


◇  ◇


純「…」

憂「…」

純「憂?さっきから何か変だけど…どうしたの?」

憂「純ちゃん…あのね…?」

純「?」


◆  ◆


翌日


梓「…暇だなぁ」

梓「夏休みの宿題…は殆ど終わったし」

梓「トンちゃんの餌…はさっきあげたし」

梓「…練習しようかな」

ピリリリリリ ピリリリリリ

梓「電話…憂からだ」

ピッ

梓「もしもし?憂?」

憂『……』

梓「もしもーし?」

憂『梓ちゃん…』

梓「どうしたの?何かあったの?」

憂『今からお家に行っても…いいかな?』

梓「え?…いいよ?…実は留守番してて、退屈だったんだ」

憂『それじゃあ…行くね?』

梓「うん!待ってるから」

ピッ

梓「憂…どうかしたのかな…?」


◇  ◇


ピンポーン

梓「はーい!」

ガチャ

憂「……」

梓「いらっしゃい。憂」

憂「梓ちゃん…」

梓「憂?」

憂「…ごめんなさい」

梓「え…?」

憂「ごめんなさい…!」

梓「あの…えぇと…」

憂「…」

梓「と…とりあえず上がってよ!…ね?」

憂「…うん」


◇  ◇


梓「…はい、麦茶」

憂「…」

梓「憂?」

憂「ごめんなさい…」

梓「もぅ…謝ってばっかじゃわかんないよ?」

憂「…」

梓「説明…してくれる?」

憂「うん…」

憂「昨日…プール行ったでしょ?」

梓「うん、面白かったね!」

憂「あの時…お姉ちゃんの話…したよね?」

梓「え?…あぁ…ごめん、あの時ちょっと言い過ぎたかも」

憂「ううん…いいの。…私、やっと気付いたんだ」

梓「気付いた?」

憂「お姉ちゃんを分かってくれる人はいるんだ、って」

憂「梓ちゃんは…お姉ちゃんの良いところも、そうじゃないところも分かってくれて、それでも見放さないんだ、って」

梓「あ…でも、それは…」

憂「うん…『普通』なんだよね」

憂「私はそんな『普通』のことも…気付かないでいたの」

梓「憂…」

憂「私はお姉ちゃんの良いところたくさん知ってるけど…」

憂「昔から周りの人は…ほとんど分かってくれなくて」

憂「だから私が…お姉ちゃんのことを助けてあげようって思ったの」

梓「…」

憂「でも…いつの間にか私は、周りが見えなくなってた」

憂「軽音部に入ったって聞いたとき…本当は不安だったの」

憂「新しい場所で新しい事を始めて…良く思われないんじゃないかって」

憂「部活なんて、やらなくていいのにって」

梓「……」

憂「だけど、軽音部の皆さんは優しくて…お姉ちゃんを悪く言わなくて」

憂「お姉ちゃんも変わらなくて…私は安心してた。…ううん、しちゃってたんだね」

憂「…そんな時、梓ちゃんに会ったの」

梓「私…?」

憂「新勧ライブの日のこと…覚えてる?」

梓「うん…なんかもう懐かしいね」

憂「私はきっと…『身代わり』が欲しかったんだと思う」

梓「身代わり?」

憂「私の代わりにお姉ちゃんのそばにいてくれる人…」

憂「私が軽音部に入ったらきっと…比べられちゃうから…」

梓「…」

憂「酷いよね…こんなの…お姉ちゃんのこと助けたいって思ってるくせに…」

憂「お姉ちゃんに縋りついて…縛りつけて…」

憂「周りの人も…気付かないうちに傷つけてた…」

梓「それで…『ごめんなさい』?」

憂「うん…」

梓「……憂さ、何か忘れてない?」

憂「え…?」

梓「ライブに誘われてついて行ったのも…軽音部に入ったのも」

梓「いま続けてるのだって…私の意思なんだよ?」

憂「…!」

梓「…傷つけられたなんて全然思ってないし…むしろ感謝してるよ」

憂「…」

梓「あの時、憂が背中を押してくれなかったら、きっと軽音部に入ってなくて」

梓「固い考えのまんま音楽続けて…そのうち挫折しちゃってたんじゃないかな」

憂「え…っ?」

梓「音楽はもっとストイックに追求すべきだー、とか考えてさ」

憂「…梓ちゃんギター上手いのに」

梓「そういう事じゃないんだよ、憂」

梓「上手い下手がないわけじゃないけど…その人にはその人だけの音があって」

梓「その一生懸命な音をみんなで合わせるから、きっといいものになるんだよ」

梓「なんて、これは澪先輩の受け売りなんだけどね」

憂「…」

梓「でも、よく考えたらこれも『普通』なんだよ」

梓「私も『普通』のことに気付かないでいたんだ」

憂「梓ちゃん…」

梓「それに、知らないうちに人を傷つけるなんて…誰だってあるよ」

梓「私なんか凄いかもね?」

憂「そんな…」

梓「自分で言うのもなんだけど、頑固だし、不器用だし、融通利かないし」

憂「そんなことないよ!梓ちゃんのこと優しくて好きだって言ってる子、いっぱいいるよ!」

梓「そう?」

憂「そうだよ!」

梓「…きっとそれも憂のおかげだね」

憂「私の…?」

梓「憂と一緒にいると…なんて言うか、あったかい気分になって」

梓「優しくなれる気がするんだよね。上手く説明できないけど」

憂「………」

梓「憂?」

憂「…ゆうべね、梓ちゃんと別れたあと、純ちゃんをバス停まで送っていって」

憂「純ちゃんにも謝ったの」

梓「…うん」

憂「そしたら、いまの梓ちゃんと同じこと言ってたから…」

梓「だったらそうなんだよ!絶対!」

憂「…」

梓「憂は、優しい子だよ」

梓「それに、憂はさっき唯先輩のこと縛り付けてるとか言ってたけど…」

梓「きっと唯先輩はそんな風には思ってないよ」

憂「そう…かな…?」

梓「部活終わったあとの帰り道って、最後は私と唯先輩のふたりになるんだけど」

梓「そしたら大抵、憂の話だもん」

憂「…」

梓「『ねぇねぇあずにゃん、聞いて聞いて~!憂がね~』って」

憂「本当…?」

梓「うん。唯先輩も憂のこと大好きなんだね…。じゃないとあんな風に笑って話さないよ」

憂「でも私…お姉ちゃん離れしないと…いけないよね…」

梓「…」

憂「…」

梓「ゆっくりで…いいと思うよ」

憂「…」

梓「私でさえ…こんな…なんだもん」

梓「ずっと…一緒だったんでしょ?」

憂「うん…」

梓「だから…ゆっくりでいいと思う」

憂「梓ちゃん…」

憂「私…軽音部…」

梓「それも…ゆっくり考えてよ」

梓「憂が決めたことなら私は絶対、恨んだりなんかしないし…!」

憂「…うん」

憂「ありがとう、梓ちゃん」

梓「お互いに不安になることも…きっとあると思うけど…いっしょに頑張ろ?」

憂「うん…!」


◇  ◇


梓「あ…麦茶、ちょっとぬるくなっちゃってる…」

憂「ごめんね、私のせいで…」

梓「いいっていいって!また氷入れればいいんだし」

憂「そう…だね。きっと他のことも…そうなんだよね」

梓「……うん」

憂「…梓ちゃんが友達になってくれて…よかった」

梓「それは私も同じだよ」

憂梓「…えへへ」

ピリリリリリ ピリリリリリ

梓「あ…純だ」

ピッ

梓「もしm」

純『あずさあああああああああああ!!!』

梓「うわっ!な…なに!?」

純『暇!』

梓「純…宿題は?」

純『それはそれ、これはこれ』

梓「……」

純『今から遊びに行ってもいいよね?』

梓「まぁ…いいけど」

憂「純ちゃんもおいでよー!」

純『え!?何!?憂もいるの!?行く!絶対行く!今すぐ行くから!!』

プツッ

ツー ツー

梓「まったくもぅ…」

憂「今日も元気だね、純ちゃん」


ピンポーン ピンポーン

憂梓「はやっ!!」

梓「絶対近くまで来てたな…」

憂「あはは…」

梓「やれやれ」

梓「行こっか?憂」

憂「うん!」

ガチャ

純「ぃやっほーぅ!」

憂梓「いらっしゃーい!」



おしまい