校内階段

律「あー、階段かったるいな」

澪「このくらいで面倒がってどうする。きりきり登れ」

紬「でも階段でよかったわよね。怖い方の怪談だったら、大変だもの」

澪「え」 びくっ

唯「そういえばこの学校って、七不思議とかあるのかな」

紬「たまに、林で見かけるわよね」

律「何が擬態してるんだよ」



   軽音部部室

律「あー、やっと着いた」 どたっ

唯「よく考えると、この部室って元は音楽室だよね」

紬「となると、独りでに鳴るピアノ?」

律「オルガンはあるけどな」

澪「鳴らない、鳴らない。大体どんな事にも、理由があるんだ」

唯「例えば?」

澪「怖いと思うから怖いんだよ。お化けなんて、目を閉じてれば勝手に通り過ぎてく物だ」

律(可愛いから、突っ込まないでおこう)

梓「済みません、遅れました」

澪「ひぃっ」 びくっ

梓「ええっ?」 びくっ

律「二人とも落ち着け。梓は、七不思議って知ってるか?」

梓「一般的な話は知ってますけどね。つまりはオカルトでしょう」

律「醒めてるな、おい」

梓「私はそういう、不確実な話は信じてないんです」

紬「梓ちゃんは、お化けとか怖くないの?」

梓「本当にいるなら怖いですけど。でも、いませんから」

澪「誰が決めたんだ、それは」 ぎろっ

梓(何故、真顔)

唯「ピアノ以外だと、なんだっけ」

紬「銅像が動くとか」

梓「理科室の人形が動くパターンもありますね」

律「澪じゃないけど、何となく怖いって部分が多いな」

紬「結局オカルトって、そんな物なのかしら」

澪「当たり前だろ。さっきも言ったように、あると思うからあるように思えるんだ。確かな物は、自分自身だけなんだよ」

唯「我思う、故に我ありだよね」

律「一応突っ込むけど、デカルトな」

梓「七不思議ではないですけど、身近なのはこっくりさんですよね」

紬「確かに定番ね、それは」

澪「やるとか言うなよ」

律「やんないけどさ。というか、今の唯がこっくりさんだしな」

澪「寝てるって意味か」

唯「・・・ね、寝てないよ」 じゅるっ

梓「でも唯先輩はキツネよりも、タヌキってイメージですけど」

唯「もう、あずにゃんの意地悪。私、ポンポンしちゃう」

澪「ゆ、唯がタヌキになった?それとも、タヌキが唯?」

律「うん、どっちも違うから」


唯「・・・」 こっくり、こっくり

律「だったら唯は、どうして寝てるんだ?」

澪「何事にも理由がある。例えば、早起きしてギターの練習をしてたとか」

紬「・・・謎は解けた」

律「違うと思うけど、取りあえず名探偵の推理を聞いてみるか」

紬「犯人はこのアップルパイに、睡眠薬を仕込んでたのよ」

梓「僭越ながら突っ込みますけど、それムギ先輩が持って来たんですよね」

紬「はっ。という事は、犯人は私っ?」

律「ヤス以上に唐突な真犯人だな」


梓「唯先輩、調子悪いんですか?」

唯「・・・ん?昨日は憂と、遅くまで一緒に起きててね。ちょっと眠いんだ」

梓「ゲームでもしてました?」

唯「まあね。後は一緒にお風呂に入ったり、夜空を見たり。お茶飲んだりしてたよ」

紬「まったりした、良い時間の過ごし方ね♪」

唯「そかな」

紬「平穏な日々こそが、一番の幸せなのよ」

澪「今ムギが、良い事言ったぞ」

律「へー。マヤ歴だと、2012年に世界滅亡だってさ」

澪「人の話を聞け」 ぐりぐり

梓「世界が滅亡するような出来事なんて、突然起きますか?」

律「彗星が来るのかもな」

澪「でも、落ちてくる訳じゃ無いだろ。せいぜい、彗星の尻尾。ガスが地球をかすめるくらいだ」

唯「だったら、息止める練習しないとね」

紬「私、全員分の浮き輪を買うわ♪」

唯「ムギちゃん頭良いー♪」

律「JAXAも真っ青だな、お前らは」

律「このままじゃ、埒が開かん。ちょっと聞いて回るか」

澪「何を聞くんだよ」

律「七不思議だよ、七不思議。7つ出揃ってないだろ」

梓「でも7つ揃う事は無いと思いますよ。中学校でも4つか5つでしたし」

唯「はっ。もしかして、それ自体が七不思議の一つ?」

紬「ありうる。ありうるわよ、唯ちゃんっ」

澪「あー。なんだか、鳥肌が立ってきた」 ぶるぶるっ

梓(怖い割には、先輩達楽しそうだな)


   職員室

さわ子「七不思議?多分、あなた達が知ってる事と同じだと思うわよ」

紬「さわ子先生は、ここのOGですよね。当時は、何か噂とかありませんでした?」

さわ子「獅子舞のお化けが出るって噂は、一時あったわね」

唯「それって、もしかして」

さわ子「そうよ。尖ってた頃の、私の事よ」 ふっ

梓(格好いいんだか、格好悪いんだか。でも、大人の匂いがするんだよね♪) くんかくんか

律「職員室は、・・・出そうにないか」

さわ子「宿直もするけれど、出た事無いし聞いた事も無いわね。そういうのは大抵、何かの見間違いか思い込みよ」

澪「そうですよね。お化けが歩き回るなんて、人間が寝静まった後ですよ」

さわ子「・・・その辺は知らないけれど、お化けも幽霊もこの学校にはいないわよ」

律「さわちゃんの年齢自体が、オカルトだったりしてな。だははー」

さわ子「神隠しに遭わせるぞ、このデコッパチ」


   廊下

律「あー、ひどい目に遭った」

澪「自業自得だ。さわ子先生以外で知ってそうなのは、和か」

紬「生徒会長だし、むしろさわ子先生より色々情報を持ってるかも知れないわね」

唯「和ちゃんが、妖怪博士って事?」

澪「侮れないな、和も」

梓(唯先輩の発想の方が、侮れないけどな)


   生徒会室

律「頼もー」

和「あら、みんな揃ってどうしたの。それと律、講堂の使用許可申請をまだもらってないわよ」

澪「お前なー」

唯「鬼じゃ、鬼が出たぞっ。あー、くわばらくわばら」

和「それは雷でしょ。今日はお化けでも探してるの?」

唯「さすが和ちゃん。良く分かったね」

和「唯のやる事は何でも分かるわよ♪」

唯「てへへー♪」

梓(すごいな、真鍋先輩は。それに、凛とした匂いがするし♪) くんかくんか

和「・・・七不思議か。音楽室や歴史室の肖像画の目が動くとか?」

律「あー、なんかあるな」

和「それと、プールで足を引っ張られる話」

紬「定番ね、それも」

和「・・・後は、部員が一人多かったって話とか」

澪「えっ」 びくっ

紬「わー、なんだか怖そうー♪」

梓(何故、笑顔)

和「学園物のオカルト話で良くあるパターンだと思うけれど。クラスメートが一人少ないとか」

律「そう言われてみると、なんかあるな」

梓「それは、どんな理由なんですか」

紬「・・・謎は解けた」

律「全員突っ込みたいだろうが、一応名探偵の意見を聞いてみるか」

紬「簡単よ、明智君。それは、自分自身をカウントしていないんだわっ」

律「ぼけたオチだけど、それなりには斬新だな」

梓「明智君が助手なのも含めてですけどね」

和「ピアノ、銅像、人形。肖像画、プール。それと部員。・・・これで、6つまでは出てきたわね」

律「最後の1つは何だろう」

澪「・・・というか、最後の1つが見つかったら何が起きるんだ?」 ぶるぶるっ

律「百物語じゃないんだからよ。さわちゃんと和が知らないなら、この辺で打ち止めか」

和「それは知らないけど、そろそろ終業時間よ。帰る準備でもしたら?」

唯「・・・今日、学校に泊まり込むのは?」

澪「えっ」 びくっ

和「駄目です。唯は早く帰って、憂を安心させなさい」

唯「はーい♪」


   軽音部部室

律「泊まり込むのは、良いアイディアだったけどな」

澪「私は絶対泊まらないぞ」

唯「でも暗い中一人で帰るのも、ちょっと怖いよね」 ぼそっ

澪「えっ」 びくっ

紬「引くも地獄進むも地獄ね♪」

梓(何故、良い笑顔)

澪「早く、早く帰るぞ」

律「慌てるなよ。まだ終業時間になってないだろ」

唯「でも澪ちゃんが怖いなら、やっぱり早く帰った方が良いよ」

澪「唯ー♪」

律「一人でなっ」 びしっ

澪「ひぃっ」 びくっ

紬「冗談よ、冗談。今日はりっちゃんが一人で泊まり込むらしいから、私達は帰りましょ」

梓「律先輩、お先に失礼します」

唯「りっちゃん、また明日ねー」

律「え、ええーっ」 びくっ

紬「冗談よ、冗談」

律「お、お前らなー。・・・澪、今日泊まりに行って良いか」

澪「あ、ああ。むしろ来い」

紬「うふふ♪」 きらきらっ


   夕方、商店街

澪「それで、和が言ってた申請書は?」

律「ああ、忘れてた。全部書いたから、後は提出するだけなんだけどさ」

澪「ちゃんと書けてるのか?」

律「大丈夫だよ、ほら」 ぱさっ




┌─────────────┐
│  講堂使用許可申請書   ...│
│ ──────────  .....│
│ 部名     軽音部    ......│
│ ──────────  .....│
│ 使用目的 楽曲の発表   ...│
│  ─────────   ...│
│ 顧問    山中さわ子   ....│
│  ─────────   ...│
│                    │
│ 部長     田井中律     .│
│ 部員     秋山澪    ......│
│         琴吹紬     ..│
│         平沢唯     ..│
│         中野梓     ..│
│         ・・・・・      .│
│                    │
└─────────────┘


澪「・・・最後、何?」

律「何が」

紬「書いて、消した跡があるわね」

律「そういう冗談は良いんだってば」

梓「いえ。やっぱり書いてありますよ」

唯「軽音部って、6人だった?」

律「おいおい、本当に止めろよ。・・・あれ」

律「・・・ちょっと待てよ。まずは澪だろ」

澪「それに、ムギ」

紬「ええ。そして、唯ちゃん」

唯「で、あずにゃん」

梓「最後に、律先輩」

唯「5人、だよね」

梓「でもこれは、6人目が書いてあったんですよね」

紬「書いて、消してある。つまり6人いたのに、一人消えたって事?」

澪「誰だっけ、それ」

梓「お、落ち着いて下さい。澪先輩、そんな人はいませんよ」

澪「だったら、誰?」

しーん

澪「・・・私って、本当に私?」

律「怖いから、マジで止めろ」

紬「それとも、まさに幽霊部員?」

唯「で、でも。見た事無いよ」

紬「唯ちゃん落ち着いて。幽霊だから、姿は見えないのよ」

律「いや。まずはムギが落ち着けよ」

梓「あ、唯先輩の後ろに」

唯、澪「ひぇーっ」 


   平沢家、リビング

唯「もう。後ろにいるのが憂なら憂って言ってくれれば良いのに」

梓「だって唯先輩も澪先輩も、その前に走って逃げたじゃないですか」

憂「まあまあ♪・・これ、「トンちゃん」って書いてない?」

唯「そう言われてみると、確かにね」

澪「・・・思い出した。「トンちゃん」って書いた後で、ふざけるなって消したんだ」

律「全く、悪い奴がいるな」

澪「書いたのはお前だろ」 ぐりぐりっ

律「ひぇーっ」

梓「でも良かったですよ、理由が分かって」

紬「ちょっと惜しかったわね」 しょんぼり

梓(何故、残念そう)

唯「せっかくみんな来たんだし、今日は泊まっていってよ」

澪「今日は遠慮なく、そうさせてもらう。はぁ」

律「しゃーない。ここは田井中式ハンバーグを作るとするか」

憂「私、手伝います」

紬「いいから、いいから。憂ちゃんはゆっくり休んでて」

憂「でも」

律「たまにはお姉さん達を頼りなさいって事さ」

憂「はい♪」 

澪「あー、良かった。本当に良かったよ」 ぐったり

唯「はっ、もしかして」

澪「な、なんだ」 びくっ

唯「独りでになるオルガンって、もしかしてトンちゃんが弾いてるのかな」

澪「それはそれで、ある意味怖いな」 くすっ

唯「月明かりを浴びながら、鍵盤から鍵盤へトンちゃんが飛び回るんだよ」

澪「そこまで行くと、オカルトよりもファンタジーだな」

唯「楽しそうで良いよね」

憂「ふふ♪」

澪「駄目だな-、私は」

唯「何が?」

澪「どうしても、ネガティブな方へ発想しちゃうから。唯みたいに、ポジティブに考えられれば良いのに」

憂「でも色々な状況を想定するのは大切ですから、澪さんの発想も良いと私は思いますよ」

澪「ありがとう。・・・私も、憂ちゃんみたいな妹が欲しかったな」

唯「だってさ、憂♪」

憂「私は、お姉ちゃんが私のお姉ちゃんで本当に良かったよ」

唯「憂ー♪」

憂「お姉ちゃん♪」

澪(この姉妹こそ、ある意味奇跡のファンタジー。幸せ膨らむしゃぼん玉だっ)

梓(なんだろ。澪先輩、妙に楽しそうだな)


律「ハンバーグ出来たぞー」

紬「少しだけど、カレーも作りましたー」

唯「ハ、ハンバーグカレー?そんな贅沢良いのかな。憂、良いのかな?」

憂「お姉ちゃんはいつも頑張ってるから、そのご褒美だよ」

唯「憂ー♪」

澪「この姉妹こそ、ある意味奇跡のファンタジー。幸せ膨らむしゃぼん玉。夢のメリーゴーランドだっ」

律「そういう事は口に出すな」 ぽふっ

紬「うふふ♪」

梓(良いな、この雰囲気。それに、温かい匂いがするし♪) くんかくんか


   深夜、唯の部屋

唯「電気消すよー」

律「狭いな、しかし」 ぐいぐい

澪「仕方ないだろ」 ぐいぐい

梓「私、憂の部屋に行っても良いんですけど」

紬「駄目駄目♪」 きゅっ

梓(まあ、良いか♪) くんかくんか

澪「でも良いよな。こうして、みんなと一緒に眠るのは。すごい安心出来る」

律「本当に澪は恐がりだな」

唯「りっちゃんも、さっき震えてたじゃない」

律「そ、それはその。・・・怖い物は怖いじゃんよ」

紬「うふふ♪澪ちゃんが言ったように、みんなで一緒に寝れば安心よね」

律「そう、それ。私もそれが言いたかったんだ」

律「あー、一生こうして寝てたいなー♪」

梓(ボケ?それとも本気?)


唯「・・・なんだか、眠くなってきたね」 ふぁー

律「寝るんだから、当たり前だろ」 くすっ

澪「・・・私達は、5人だよな」

紬「勿論♪」

梓「5人で一つ。一致団結、軽音部です」

澪「そうだっ。私達に怖い物なんて、何も無いっ」

唯「うーん、アイスが怖いよー」 むにゃむにゃ

律「お前は、寝ててもそれか」 ぽふっ

澪、紬、梓「あはは♪」



                               終わり



最終更新:2011年01月27日 22:00