紬「さわ子先生、どうでしたか?」

さわ子「ええ、すごくよかったわ!」

憂「はい、皆さんかっこよかったです!」

唯「いえーい、うい、ぴーっす!」

憂「お姉ちゃんかっこいい!」

さわ子「さ、みんな練習疲れたでしょう! 実は花火持ってきたのよ! これからやらない?」

律「お、さわちゃんさすが!」

純「やっぱり花火……、いいですね!」

澪「おい、まだあんまり練習……、まぁ、いいか……」

梓「そうですね、今のすっごくよかったですし……」

純「おっ、梓の口からそんな台詞が聞けるとはー」

梓「そ、せっかく先生が花火もって来てくれたんだから、それで……」

 素直じゃないですなあ、梓ちゃんたら。

~~~~~

唯「二刀流ー! りっちゃん覚悟ー!」

律「なにー?! ならわたしは……」パクッ

律「はんほうりゅうらー(三刀流だー)!」

唯「あははは! りっちゃん口から火ぃ噴いてる! あははは!!」

さわ子「こら! あなたたち、危ない遊びしない!」

憂「お姉ちゃん、めっ!」

律唯「ひゃい……」

純「梓ー、線香花火? 風情があっていいねえ」

梓「ちょ、純いま集中してるから話しかけないで」

純「むー、なーに真剣になってんのさ」

 線香花火、集中……。
 あぁ、火の玉を落とさないようにしてるのかな?

純「へっへー、梓ー、わたしにも見せてー」

ババッバババッ

純「おぉ、閃光がほとばしり始めたね!」

梓「落とさないようにするのが大変なんだよね……」

純「梓、知ってた? このオレンジの光、触っても熱くないんだよ、ほら」さっ

バババッババッ

梓「そんなの常識でしょ」

純「えっそうなの?」

 自慢げだった分ちょっと恥ずかしい。


律「肝試しをしよう!」

唯「いっえーい!」

澪「き、肝試し?! ぜ、絶対やだぁ!」

律「おやー? 澪しゃん後輩の前でそんななさけない姿を晒していいのかなあ?」

澪「ふ、ふっ、純、梓、憂ちゃんが怖がるだろうと思って、わたしが反対しただけだ!」

純「はい! やりたいです!」

憂「あ、じゃあわたしも……」

梓「……」ノ

澪「あ、梓まで……、む、無理しなくて、いいんだぞ?」ブルブル

さわ子「じゃあくじ引きでペアを決めましょ! 二人ペアで、脅かし役も二人ね!」

 ペアで肝試しかー、澪先輩とがいいなぁ……。
 脅かし役も楽しそうだけど……、

紬「脅かし役……やってみたーい……!」

律「わたしもやりたいぞー!」

 ……ムギ先輩に脅かし役が当たりますように、律先輩は当たりませんように……。

さわ子「さぁ、くじを引きなさい!」

 順々にくじを引いていく、わたしのペアは、誰だろう……?



 急遽開催された"どきっ!? けいおん部だらけの肝試し大会(こんにゃくもあるよ!)"。

 脅かし役は、ムギ先輩とさわ子先生。さわ子先生が凶悪だ……。

 そして第一陣、唯先輩と憂の、平沢シスターズ。

唯「憂、もしお化けが出てもわたしが守ってあげるからね……!」キリッ

憂「お姉ちゃんカッコいい!」

 この小芝居はお約束なのだろうか。

 第三陣、律先輩と澪先輩、幼馴染ペア。

澪「よりによって律となんて……、うぅ……」

律「まぁまぁ、後輩の前でびくびくするよりはいいじゃん?」

 仲むつまじいことである。

 そして第二陣、わたしと梓の新入部員ペア。

純「梓、怖かったらいつでもいっていいからねー」

梓「……純こそ」

 なかなか順当な組み合わせである。


唯「じゃあ、りっちゃん隊員! いってきます!」びしっ

律「おう、無事を祈る! 唯隊員!」びしっ

 びしっと敬礼をして、平沢シスターズが林の中に入っていった。
 この隊員ごっこ、いつかわたしも混ぜられるんだろうか……。

~~~~~

 唯先輩と憂が林の中に入っていって、数分がたった。
 第二陣のわたしたちもそろそろ林の中に入らなければ。

純「梓、そろそろいこ」

梓「うん、行こうか」

 林の中に入っていくと、結構暗くて、怖い。
 懐中電灯の明かりだけが頼りだ。

 ムギ先輩から渡された林の地図を見ながらコースを確認する。
 計算すると……約一キロのコースだ。
 湿気の高い林の中は脅かし役がいなくても、十分雰囲気がある。

純「け、結構暗いね……」

梓「うん……」

 あれ、なんか背骨が妙にがくがくする。
 ……梓の手前、怖がってるなんて思われたくない……。

純「さ、さわ子先生とムギ先輩、どんな脅かしかたしてくるかな?」

梓「そりゃあ……こんにゃくとか……」


「ほぎゃああああ!! う、ういぃい! たすけてえええ!!」

「お姉ちゃん落ち着いて!」

純「……」

梓「……」

 ……どちらからともなく、わたし達は手を繋いだ。

梓「い、今の声、唯先輩と憂だよね……」

純「さわ子先生とムギ先輩……、こりゃあ、手ごわいよ……」

――ざっざっざっ……

純「……なんか変な足音聞こえない?」

梓「……聞こえる気がするね……」

梓「うわあああなんか後ろが気になってきたあああ……!」

純「奇遇だね梓、わたしも後ろが気になってきてるんだよ……」

――ざっざっざっ……

梓「こうなったら、いちにのさんで振り返ろう、純」

純「うん、梓。いち」

梓「にの」

純梓「さん!」くるっ


「じゅ……ん……あず……さ……!!!」


純梓「ぎゃあああぁぁああぁぁあああぁあ!?!?!??」


 なななななにあれ!?!?! さわ子先生の変装!? なんか変な仮面かぶって……こわっ!
 わたしたちは何者かを確認して、叫び声をあげて、同時に駆け出した。

 こんな本気出してくるとは思ってなかった! さわ子先生、あの人ホント大人気ない!

純「な、な、な、なにあれ! めっちゃ怖かったんだけど!!」

梓「さ、さわ子先生だと思うけど! 前のほうで唯先輩たちの叫び声が聞こえたから、そっちにさわ子先生がいると思ったのに!」

純「じゃあ、憂たちをあそこまでびびらせたのは……ムギ先輩ってこと?」

梓「ゆ、ゆだん、出来ないね……」

 ちょっと、帰りたくなってきた……。

純「あれ、絶対澪先輩泣いちゃうよ……やりすぎでしょ……」

梓「ていうか澪先輩、絶対怖がりだよね、隠そうとしてるけど」

純「うーん、まぁそれもまた、澪先輩の魅力って言うかね」

梓「澪先輩、かっこよくていいよね。唯先輩なんて、いっつもなまけてばっかりで……」

純「と、いいつつもなんだかんだ仲良くやってるじゃん」

 わたしは知っている。
 梓が新歓ライブを見て、唯先輩に憧れて入部したことを。

梓「そ、そりゃ、唯先輩も、やるときはちゃんとやってくれるし……」

純「憧れの先輩なんでしょー?」

梓「……まぁ……」

 あれ、珍しく素直だ。雨でも降るんじゃないのかな。

純「そろそろ……唯先輩と憂が脅かされたポイントにつくんじゃないかな……」

梓「うん……、純、周り警戒しといてね……」

純「梓こそ、ちゃんと照らしてよー……」

がさがさっ

純「梓!」

梓「うん!」

 物音から左前方から聞こえる。
 梓が音の聞こえたあたりを照らすと、木陰で何かが動いているようだ……。
 ムギ先輩と思われる。枝を揺らして、がさがさ音を さわ子「わあああああっ!!!!」
 ぎゃああああああああああ!?!?!?!

 わたしの足首を何者かががっしとつかんできた。やばい転ぶ引きずり込まれる。

純「あずさあああ……! た、たすけっ、ひいぃい!!」

梓「じゅん! 落ち着いて、さわ子先生だから!」

 さ、さわ子先生? ……はぁ、よかった……。

さわ子「大成功ねムギちゃん!」

紬「後は澪ちゃんたちだけですね!」

 無邪気にハイタッチを交わす二人、くそう……まんまとはめられた……。

純「あずさあ……ほんっとに怖かった……」

梓「二人がかりで来るとは、思ってもみなかったよね……」

純「……え」

梓「……あ」

 いや、口にするまい……。

梓「……残りの道は、走ろっか……」

純「うん、わたしもいま無性に走りたい。一刻も早く走り出したい」

 なんか後ろから闇に押されてるような、よくわかんない恐怖を感じる。
 さわ子先生とムギ先輩は、これから来る幼馴染ペアの脅かす義務があるから、悪いけど置いていかせてもらおう。

純「い、いやー! びびったね! さわ子先生もムギ先輩も! やるね!」

梓「そ、そうだね! あの変装とか……」

純「その話はやめよう」

 ああ、梓が言うから思い出してしまった。
 でもやっぱり確認せずにはいられない。

 あの仮面をかぶった人間みたいなものは……ほんとにさわ子先生だったのだろうか?
 服装さっきと違ったし……わざわざ着替えるわけもない……。

 考えちゃダメだ考えちゃダメだ……。

「…け………い?」
「うん………かな……」

 おや、前方にいるのは平沢シスターズ。
 走ったからか、いつの間にか追いついていたようだ。すごく安心する。

梓「唯先輩、憂!」

唯「あ、あずにゃん、純ちゃん、さわちゃん先生すっごく怖かったね!」

純「二人がかりは卑怯ですよ……、足首掴まれた時は心臓飛び出るかと……」

憂「お姉ちゃん、すごくびっくりしちゃってね――」

唯「おっとうい、わたしに恥をかかせる気かな?」

純「憂、あれは掴まれた側にしかわからないよ……」

梓「純、取り乱して"あずさああ!あずさああ!!"って必死だったもんね」

純「いやそこまではなってない」

 ……と、信じたい。


――"どきっ!? けいおん部だらけの肝試し大会(こんにゃくはなかった!)"は、澪先輩があまりの恐怖に気絶したところで、閉幕した。

 ……なんか澪先輩がだんだんかわいそうになってきた。
 さわ子先生もさすがにやりすぎたと、反省しているようだ。

 花火の煙や、肝試しで冷や汗をかかされたので、もう一度、お風呂に入った。

 非常に有意義な一日であったと、湯船につかりながら振り返る。

純「けいおん部最高ー……」

律「おっ、純、けいおん部は最高だろー?」

純「はい、もう毎日合宿すればいいのに……梓もそう思うでしょ?」

梓「確かに、機材とかも充実してるしね。……ほんとはもっと練習したかったけど……」

純「なーに言ってんの、あんだけはしゃいでたくせに」

梓「まぁ、一日くらいは、こういう日があってもいいかもね」

唯「あずにゃん、一日といわず、二日三日遊ぼうよおっ」

梓「ダメです、ちゃんと練習はしなきゃ。……めりはりをつけるために、ときどきは、いいですけど」

 唯先輩が梓にじゃれついている。
 なんとも心癒される光景だ。
 ……梓もけいおん部というぬるま湯に、もはや肩までつかっている。
 そのことに気づくのは、いつのことだろうか、なんて考えながら、お湯から上がった。


 お風呂に入った後だからか、血行がいい。
 血行がいいから、汗が出る。
 汗が出るから、涼しいところに行きたい。
 連想ゲームのように思考を進めていると、わたしの足は自然とベランダに向かっていた。

純「あ、澪先輩」

澪「ん、純か」

純「となり、座ってもいいですか?」

澪「うん、いいぞ」

 偶然、ラッキー。
 澪先輩と二人きりでお話……。
 前までは緊張してただろうけど、合宿に来てから、澪先輩のことをより身近に感じれるようになった。

純「今日はいろいろと、災難でしたね……」

澪「……はは、かっこ悪いところ見せちゃったかな」

純「いえ、なんていうか……、嬉しかったです、こう、澪先輩の知らなかった一面を知ることができたというか」

澪「そ、そうか……、それならよかった。……合宿、楽しかったか?」

純「それはもちろん! すごく楽しかったです! けいおん部入って、ほんとによかったなーって」

澪「……遊びだけが部活じゃないからな?」

純「うっ……わかってますって」

純「ところで澪先輩、肝試し中の話なんですけど……」

澪「な、なな、なんだ純」

純「実は、さわ子先生でも、ムギ先輩でもない人が、あの林にいた可能性がありまして……」

澪「いやいやいやないないない、何を言っているんだ純」

 澪先輩は、やっぱり、からかいがいのある人だ。
 それと、怖がらせがいも。

純「梓に聞いてみます? 変な仮面をかぶって、わたしたちの名前を呼ぶんですよ」

澪「うわぁああ! やめてくれえぇええ!」

純「だから怖いから、澪先輩、いっしょの部屋で寝てくれませんか……?」

澪「へっ」

澪「あっ、ああ! そういうことだったのか! そういうことなら、うん、いいぞ!」

純「いやあ、今晩は怖くて一人じゃ眠れそうになくて……、ほら、一人一部屋じゃないですか」

澪「そうだな、確かに、一人一部屋は贅沢だしな!」

純「ありがとうございます。澪先輩!」



――しめしめ今晩は澪先輩と二人っきりだと思ってたら律先輩が部屋に押しかけてきた。

 この二人ほんとに仲いいなぁ、間に割って入れない。
 いつかはもっと、近づきたいと心に決めて、わたしは一人先に寝入るのであった。



そんなこんなでけいおん部の愉快な仲間たちの合宿が、終わった。

 愉快な仲間たちが一人増えた。

 わが親友平沢憂である。

 梓と憂とわたしで、三人組のバンドでも組もうかという話にも至った。
 ビーチバレーではボロ負けだったけれど、音楽では負けない! と、梓は息巻いている。

 合宿先から帰ってきて、一日あけて、現在。
 ミスドで会議中です。


梓「純、節制を心がけるんじゃなかったの?」

純「いや、自分の気持ちに素直になろうと思ってさ」

梓「素直な食欲だね……」

憂「急に、ごめんね、入部するなんて……」

純「確かに……学校祭までに間に合うかなー?」

憂「せめて合宿前に言うべきだったよね……」

純「うそだよ、憂が入ってくれてすごく嬉しいよ」

梓「おかげでもうひとつバンド組めるんだからね!」

 そう、もうひとつバンドを組むからといって、先輩方と演奏できないわけではない。
 部活動だし、人数が多いほど楽しくできるだろう。
 憂みたいな子ならなおさらだ。

純「いやー、それにしても、合宿楽しかったねー」

梓「うん、楽しかった」

憂「ところで梓ちゃん、合宿の日の夜、肝試しのことが怖くてお姉ちゃんの部屋に行ってたってほんと?」

梓「なっ……唯先輩……内緒にしてって言ったのに……///」

純「おやあ、梓、かわいらしいところあるねえ」

 ……といいつつ、内心ひやひやである。
 澪先輩が口外することはないだろうけど……、律先輩にネタにされそうだ。

梓「ああもう……澪先輩の部屋に行けばよかったかな……」

純「まぁまぁ、同じパートの先輩と親睦を深めるのは大事だよ、うん」

 ポンデリングの最後のもちもちを口に含みながら、思う。
 入部してよかった、と。
 きっとあの時入部していなかったら、梓からの話を聞いて、羨ましい羨ましいって嫉妬していただろう。
 それはそれで、楽しそうな毎日だけど……。

純「なにはともあれ、あれだね、あれ」

憂「?」

純「けいおん部最高!」

おわり!



最終更新:2011年01月26日 04:01