一曲目、梓のソロ。下手すれば浮いてしまうような自己主張がありながら、
見事に曲とマッチしており、キャッチーでかっこいい感じ。

 評判は上々のようです。

澪「梓、凄いじゃないか!」

律「おまぁー、本当に高校生か!?」

紬「梓ちゃん、かっこよかったわ」

梓「ありがとうございます」

唯「あははっ、やっぱあずにゃんには敵わないかなぁ~」

梓「弱気な事いわないで下さい。唯先輩の番ですよ」

唯「あいよっ! 頑張るよー!」

 次は唯の番です。正直梓は、自分の方がまだまだ唯先輩より上だと、高を
括っていました。しかし、予想外の事が起きます。

 唯のソロが始まると、梓は、いえ部員全員が驚愕したのです。

 独創的、かつ初めから用意されていたかのような一体感。聴いているだけで
踊りだしたくなるようなメロディ。

 曲自体が唯のソロによって、何段階もスケールアップしたかのよう。これを
聴いて、鳥肌の立たない者はその場にいませんでした。

律「――あっ、ごめ」

唯「あっ、りっちゃんミスった。ダメだよー、せっかくノってたのに」

梓「……」

律「こ、これ、本当に唯が作ったのか?」

唯「うん。アドリブで申し訳ないけど……てへへ」

律「アドリブだって」

澪「はは……」

 唯のソロを聴いた後では、梓のソロは悪くはないもののどこかありきたりな、
使い回しのようにしか感じず、妙な空気が漂いました。


梓「唯先輩の方が、良かったですね」


 その空気を破ったのは、梓本人でした。それを聞いて能天気に唯は喜びます。

唯「本当? 頑張った甲斐があったよぉ!」

律「い、いやね? 梓も良かったんだ、ホント」

澪「でも、ふわふわに合うのは唯かな……」

紬「わ、私は梓ちゃんでもいいと思うけど」

梓「いいんです、ムギ先輩。私がやっても私自身が納得しませんから」

紬「……」

澪「しかし唯は、本当に私達を驚かせるな……」

律「お茶にしない? アタシつかれちった!」

唯「あはは! ナイスな提案だね、りっちゃん!」

梓「私も今日は疲れちゃいました」

紬「そ、そうね! 今すぐ準備するね!」

梓「あ、少しトイレ行って来ていいですか?」

律「おっ、いってら」

唯「あー、私も行くー!」

律「お前は残れ!」

唯「うわーん! どうして!?」

 そそくさと部室を出て行く梓を見守った後、律は唯に言いました。

律「一人にしてやろうよ。ああ言ってたけど、やっぱりショックはあるんだよ」

唯「ショックゥ? なにそれ?」

律「ああ~、もうお前ニブいな! なんザマスか!」

澪「唯に負けた事が、私達の期待に応えられなかったって思ってるんだよ」

唯「へっ?」

紬「梓ちゃん、責任感の強い子だから……」

唯「そんな! あずにゃんは」

律「分かってる! 梓の演奏は完璧だったさ!」

澪「ただ、唯が凄すぎた」

唯「わ、わた……私、そんなつもりじゃ……あずにゃんと一緒に……」

紬「唯ちゃんは悪くない。ううん、誰かが悪いって訳じゃないの」

唯「こんな事なら私やめ――」

律「やめる? その方が梓を傷つけるんじゃないのか?」

唯「ふえぇん! じゃあどうすればいいのぉ!?」

律「泣くな! 私が悪かった! ごめん!」

紬「梓ちゃんは強いわ。きっと――いいえ、必ず立ち直る」

澪「でも少し心配だな……」

紬「私、ちょっと見てくる!」

律「ムギ!」

唯「ムギちゃん! お供します!」

律「お前は残れ! 刺激が強すぎる!」

澪「唯、ムギに任せよう!」

唯「あうっ、離して! 漏れちゃうよ!」

律「が、我慢しろい」

紬「待ってて唯ちゃん! すぐ梓ちゃん呼んで来るからね!」

 紬が梓を探しに部室を出ると、梓がそう遠くない所で一人佇むのが見え
ました。紬は忍び足でゆっくりと、慎重に梓に近付いていきます。

 わざとらしい、無駄のある動きなので、梓がそれに気がついてない筈はない
ですが、梓は気付かないフリをして紬を迎えました。

梓「……」

紬「泣いていたの?」

梓「泣いてなんかいません! あれ位で泣く訳ないです!」

紬「そっか」

梓「何しに来たんですかムギ先輩」

紬「トイレだけど……ダメかしら?」

梓「申し訳ありません。少しだけ一人にしてもらえますか」

紬「どうしても?」

梓「私は唯先輩に嫉妬しているのかも知れません」

紬「そんなの……」

梓「そういう悪い気持ちを唯先輩に持つ、自分が許せないんです」

紬「しょうがないわよ。誰だって弱いもの」

梓「私はムギ先輩のように寛大じゃない。小さい人間なんです」

紬「私だって別にね?」

梓「理屈じゃ分かっていても割り切れない」

紬「――ねえ、梓ちゃん。昔話だけど聞いてくれる?」

梓「何ですか急に?」

紬「私は小さい頃、しつけが厳しかったせいかあまり遊ばない子どもだったわ」

梓「そうなんですか?」

紬「ええ、良く遊ぶ子は、悪い子だと思っていた位でね」

梓「今のムギ先輩はその反動なんですね」

紬「うふふっ、そうよ。ブランコ乗ったりだとか、そういう事もしてみたい」

梓「高校生なのに?」

紬「まだ、高校生だもん」

梓「ぷっ、くく……」

紬「笑った」

梓「だってムギ先輩、おかしいです」

紬「でも一人じゃ勇気がなくて出来ないんだけどね」

梓「私で良かったら付き合いますよ」

紬「高校生なのに?」

梓「自慢じゃありませんが、まだ小学生にも間違えられます」

紬「やだっ、うふふっ! でもいいのかな?」

梓「卵を割らなければオムレツは作れないと言いますし」

紬「あら? つまり?」

梓「ドイツ軍人の言葉らしいんですけど、何故か気に入ってて座右の銘です。
何事も行動しなければ始まらない、分からないって意味らしいです」

紬「行動力抜群の梓ちゃんにピッタリね」

梓「あはは……何だか照れ臭いですね」

紬「梓ちゃんは強いよ。何でも行動に移せる勇気があるもの」

梓「ありがとうございますムギ先輩。いつも励ましていただいて私……」

紬「梓ちゃん……でもね、私だけじゃなくてみんな心配してる」


梓「もう平気です。本当だもん」


紬「……唯ちゃんも梓ちゃんの事、心配してたよ」

梓「む! 唯先輩が甘えた事いってたら叱ってやります!」


紬「あらあら」

梓「行きますよ! ムギ先輩!」

紬「ふふ……」


紬(唯ちゃん……私ちょっと妬けちゃうかも……)


 梓が戻った軽音部。彼女が戻ればいつも通り、みんな和やかお茶を楽しみ
ます。

唯「あずにゃん! 会いたかったよぉ!」

梓「何言ってるんですか! お茶が済んだらまたやりますよ!」

唯「えぇ~、今日はもう無理無理ぃ~」

律「無理無理ぃ~」

梓「そんなんじゃダメです!」

澪「梓、こいつらはもうダメだ」


 その翌日。梓は今日も元気に登校、教室で憂と純に挨拶をします。ついでに
昨日の出来事も話しました。

梓「そういう訳で、唯先輩はやっぱり凄かった」

憂「でしょっ、でしょっ? えへへ~」

純「ふ~ん。何かにわかには信じられない話ねえ」

憂「お姉ちゃんやる時はやるんだよ! 純ちゃんっ!」

梓「普段の唯先輩を見ていると信じられないけど、本当なのよ」

純「う~ん……やっぱりにわかには信じられないわ」

梓「良かったら純、部活見学する? 自分の目で確かめれば」

純「やっ、私も部活あるんですが」

憂「私行こうかなぁ」

梓「本当?」

憂「うーんでも、お夕飯のお買い物しなきゃいけないの」

梓「残念。憂も軽音部入ってくれたら楽しかったけど、それがあるんだよね」

憂「ごめんね付き合えなくて。でも梓ちゃんがそう言ってくれて嬉しいよ」

梓「あはは、憂ったら~」

純「……梓、憂にも私と同じ事いってるんだ」

梓「えっ」

純「軽音部に入れば誰でもいいのねっ! この女ったらしっ!」

梓「何その小芝居」

憂「梓ちゃんと純ちゃん、もうすっかり仲良しだねぇ~」


 そして放課後。軽音部はまたもや練習モード。雪でも降るんでしょうかね?

律「よっし、ふわふわ行くぞぉ。唯~、ソロ頼むな」

梓「唯先輩! しっかり決めて下さいね!」

唯「あっ、あのぅ~、誠に言い難いのですが……」

梓「どうしたんです?」

律「トイレか?」


唯「わ、忘れちゃった!」


律「なっ、なにィーッ!?」

唯「えへへ……だってぇ、アドリブって言ったじゃ~ん」

梓「……」


澪「あの凄いソロが幻……究極の一夜漬けだな……」

紬「録音すれば良かったね」

律「もう一回やれ! 責任取れ!」

唯「む、むりゃぁ――あずにゃ~ん!」

梓「し、信じられません! 真面目にやって下さい!」

唯「しょ、しょんなぁ~」

律「あーあ、やっぱりソロは梓に決定だな」

唯「良かったね、あずにゃん!」

梓「全然良くありません!」

紬(うふふ、唯ちゃんは嘘が上手ね)

 多少の本気も何のその、今日も軽音部は平常運転止まりのようです。
おしまい。