律「なあ梓ー、お前ソロやってみない?」

梓「えっ、急にどうしたんですか?」

律「いやー、ギターソロかっこよくってさー」

梓「話が見えないんですが」

澪「ああ、うちのバンドにも取り入れたいって律さわいでたなぁ」

律「そうそう。昨日澪と一緒に色んなバンドのDVD観てね?」

梓「ギターソロ……私がやっていいんですか?」

律「というか梓にやって欲しいんだよ」

梓「は、はぁ」

唯「良かったね、あずにゃん!」

澪「私も梓のソロ聴いてみたいかも」

紬「梓ちゃん凄く上手だから大丈夫よ」

梓「……別にいいですけど、ソロって普通リードギターがやるもんじゃ」

唯「へっ、そうなの?」

律「あーあ、言わなきゃ分かんないのに」

唯「ぶう! りっちゃんしどい!」

律「テヘヘッ! 冗談、冗談ですわよう!」

唯「こうしてやる! ホアー!」

律「ア、アタシの書いたドラゴンがオカマっぽくッ!?」

唯「えっ、カバじゃないの?」

さわ子「まあまあ、梓ちゃんは唯ちゃんに遠慮してるだけでしょ」

梓「いえ、そんな事は……」

さわ子「ダブルリードってのもあるんだし、固く考えなくてもいいんじゃない」

律「さすがさわちゃん! 緩々だぜ!」

さわ子「あぁん? 私まだキツキツなんだから!」

唯「なにがキツキツなの~?」

澪「とにかくそういう訳だ。梓は気にせずやればいい」

梓「澪先輩がそういうなら」

律「何だそれ! ここは部長の面目を立てろよ!」

唯「ね~、キツキツって?」

梓「ありがとうございます、律先輩。私頑張ります」

律「お、おう?」

唯「あ、あずにゃんが珍しく素直だ」

梓「私はいつも素直です!」

澪「ムギ、梓のあの顔」

紬「よっぽど嬉しいのね。うふふっ」

律「いつもそう素直なら、私の妹にしてやってもいいぞ」

梓「何言ってるんですか律先輩? クモ膜下出血ですか?」

律「はい先生! 梓さんが笑えないジョークを言いましたー!」

さわ子「ブッ! ブフフフッ!」

澪「壷だったみたいだぞ……」

律「それでも教師か」

唯「ブラックジョークも大概だよ、あずにゃん」

律「それは分かるんだ」

唯「でもあずにゃんなら、私だって妹にしたいよ」

律「お前には憂ちゃんいるじゃん」

唯「あずにゃんは別腹だから何人いても大歓迎!」

紬「いいな! 私にもお一人!」

唯「ムギちゃんならいいよ! 安心して任せるよ!」

紬「唯ちゃん!」

梓「私は一人しかいませんけどね」


 その夜。ギターソロを任された梓は嬉しくて、帰ってからロクにご飯も食べず
練習ばかりしていました。

 そんな時、ふいに一本の電話がかかって来たのです。

純『あっ、梓! ロンハー観た? 超ウケるんですけど』

 電話の主は、梓の同級生である鈴木純からでした。彼女は早口で、梓にとって
どうでもいい話を捲くし立てます。

梓「純? 生憎TV観てないよ。それどころじゃなくって」

純『えー、ウッソー? マジでおもしろかったのに』

梓「だからそれどころじゃないんだって」

純『……何か梓、声弾んでるね』

梓「そ、そう?」

純『うん。何かあった?』

梓「えっへっへー、教えて欲しい?」

純『いや、別に』

梓「えっ」

純『忙しいようだから、もう切るね』

梓「ちょちょちょぉ~っと待ったぁ! 聞いて! 私の話を聞いて!」

純『何よもう……』

梓「純! 純ちゃん! 純さん! 純金!」

純『仕方ないなぁ』

梓「ありがと! 実はね私、ギターソロ任されちゃったんだ!」

純『えっ、ソロ!? 一年なのに凄いね!』

梓「そっ、そうかなー? ぶ、部員が少ないからだと思うけど」

純『まあまあ、謙遜しなさんな。信頼されてる証拠じゃん』

梓「えへへっ、あんまり褒めないで。調子乗っちゃう」

純『でもいいなー、私何てジャズ研じゃペーペーなのに』

梓「あそこ部員多いもんね」

純『そりゃ梓の腕ならさ、一年でも――』

梓「純も軽音部入れば良かったのに」

純『お、大きなお世話。ジャズ研にだってジャズ研のいい所があるんですぅ』

梓「ううん、純もいたらもっと楽しかったかなって」

純『は、恥ずかしい事いわない!』

梓「そ、そうだね……」

純『もう切るよ、ソロの練習で忙しいんでしょ?』

梓「うん。おやすみ純」


純『――が、頑張って梓!』


梓「あ、うん」

 電話が切れた後、梓は一人ガッツポーズをして、もうしばらくギターの練習を
続けました。この分なら、納得のいくソロが出来そうですね。


 翌日、唯と憂の仲良し姉妹が揃って登校しています。そして憂が幼馴染の和に
気がついて、彼女に向かって手を振りながら呼びかけた所です。

憂「和さ~ん!」

和「あら、奇遇ね。珍しく早いんだ」

唯「の、和ちゃん肩を貸して……」

和「どうしたの唯? ストッキング被っちゃって」

唯「眠いんだよぉ! 被ってる訳ないじゃん!」

憂「実はお姉ちゃん昨日ずっと起きてて。ギターの練習してたみたいで」

唯「和ちゃん、たまにグサっとくる事いうよね」

和「そうなんだ。ダメじゃない、しっかり睡眠はとらないと」

唯「だって私もソロやりたいんだもん」

和「ソロ?」

憂「ギターソロの事です。梓ちゃんがやるならお姉ちゃんも負けられないって」

和「ふ~ん、唯がそんな対抗心を燃やすなんてね」

唯「だって私へたっぴだし、もっと練習しないとあずにゃんに追いつかない」

憂「でもお姉ちゃんムチャしすぎ。体壊しちゃうよ」

和「昔から夢中になると周りが見えなくなる、変わってないわね」

唯「へへへ……やってみるとこれが楽しくて」

和「うふふ、頑張っている唯を見るのは好きよ」

唯「和ちゃん……おぶ……って……」

憂「おっ、お姉ちゃん寝ちゃダメーッ!」

和「重いわ唯……成長したわね……」


 結局、二人がかりで唯を担ぐ事になり、遅刻は免れたものの、朝から重労働を
課せられてしまった憂と和。

憂「そんな訳で、大変だったんだよっ!」

 ここは一年二組の教室。遅刻ギリギリ登校を純に冷やかされた憂は休み時間、
それを余儀なくされた理由を説明したのです。

純「へぇ~、やっぱ憂のお姉ちゃんっておもしろい」

梓「そういう問題?」

憂「えへへっ、そうなんだぁ~」

梓「憂もこのケースでその反応はおかしい」

純「でも徹夜で練習なんてハンパないね」

梓「唯先輩らしい。その極端な所」

純「でも梓ぁ、唯先輩がそんだけ必死に練習したっていうなら」

梓「何? 唯先輩がやる気になったのはいい事だよ」

純「いやもしかして、ソロ危ないんじゃないのぉ~?」

梓「純!」

純「ひゃ、ひゃいっ!」

梓「お昼になったら部室まで付き合って」

純「う、嘘です梓様――へっ?」

梓「合わせてみたいの! 言わせないで!」

純「ひゃい!」

憂「燃えてる梓ちゃん、かわいいっ!」


 そしてお昼休み、昼食も早々に切り上げて、梓と純は軽音部の部室までやって
来ました。梓のソロの練習をする為です。

梓「適当でいいからリズムとって。出来る?」

純「じ、自信ない」

梓「いいからやって」

純「考えてみたら何で私が、梓の練習に付き合わなければならないのだろう?」

梓「ブツクサ言わない。時間もったいない」

純「は、はーい……あ、この立ち位置、もしかして澪先輩?」

梓「そうだよ」

純「そっか! 何だか俄然テンション上がって来たかも!」

梓「……ちょっとムカつくから、律先輩の位置でやってくれる?」

純「何で!? ドラムあってやり辛いし!」

 なんやかんやありましたが準備が終わり、練習が始まりました。

 純のぎこちないベースから、やがて梓の滑らかなギターが入っていく。その
正確で熟練されたギター捌きは、さらに磨きがかけられており、梓のギターの
上手さをとっくにご存知の純でさえ、驚きました。

 これほど上手い人がうちの部に、いや高校生にいるのだろうかと。それ位の
衝撃だったのです。

梓「――ふぅ」

純「す、凄いよ梓、プロみたいだった」

梓「褒めすぎ。まだまだだよ、ちょっとミスっちゃったし」

純「ううん、こんなに上手くなってるとは思わなかった」

梓「あ、ありがと」

純「そりゃ唯先輩でも敵わないよ」

梓「唯先輩は、まだ一年ちょっとしかキャリアがないんだよ」

純「まあ……」

梓「練習もロクにしてないし、私の方が上手くて当たり前」

純「そ、そうだよねー」

梓「でも凄いスピードで進歩してる。その内私なんて追い抜かしちゃうよ」

純「まさか。梓もっと自分に自信もちなよ」

梓「そうじゃない。唯先輩、本当は凄いんだから」

純「あははっ、梓ってば何だか憂みたいだねー。唯先輩大好きですってか?」

梓「なっ、ち、違うもん! 私はただ客観的にね!」

純「はいはい、照れない照れない」

梓「もっ、もうー! 純ーっ!」


 そんなこんなで放課後になり、軽音部は珍しく練習モード。今日張り切って
いるのは、梓だけではないようです。

律「じゃあ梓、ふわふわのサビの後ソロだから。頼むぞ!」

梓「はい」

唯「ちょっと待っておくんなせえ、りっちゃん!」

律「何だ唯? 今日はお茶なら後だぞ?」

唯「違うよぉ~、りっちゃんじゃあるまいし」

律「失礼ね! ていうかお前にだけは言われたくねぇッ!」

唯「所で律ちゃんって言い難いけど、りっちゃんでも一応つが小さくなった
だけで何一つ省略されてないよね。でも言い易い不思議!」

律「お前は一体、何の話をしとるんだ?」

唯「あっ、違いました! 私もソロをやりたいです!」

律「唯~、あのな? それは梓に決まったろ?」

唯「あずにゃんと一緒がいいの!」

梓「……」

澪「唯、残念だがそれは曲の構成上無理なんだ」

紬「唯ちゃんは歌もあるんだからそれに集中して……ねっ?」

律「そうだぞ唯~、お前そんな器用じゃないんだからぁー」

唯「りっちゃんだけには言われたくありません!」

梓「あ、あの、私と唯先輩が順番にやればいいんじゃないでしょうか?」

唯「でへへぇ~、あずにゃ~ん」

律「梓、あんま唯を甘やかすなよ。メンドクサイ」

梓「でも私、唯先輩のソロも聴いてみたいですし……」

唯「あずにゃんよ~しよしよしよし~」

梓「やめて下さい! ソロ譲るなんて言ってませんから!」

唯「わ、分かってるでごじゃいまするよぉ」

律「う~んでも、そういう対決みたいな事する必要あるのかなァ?」

澪「私は梓に同感だぞ。唯がどんなソロ作ったのか興味あるし」

唯「澪ちゃん! やっぱり優しい!」

澪「あ、当たり前だろ……仲間じゃないか」

唯「澪ちゃん……」

澪「ほら、タイがほどけてる」

唯「わざとなの……澪ちゃんに直して貰いたいから」

澪「バカ……」

律「そこそこー、臭いドラマしないー」

唯「てへっ」

紬「どうせ練習なんだし自由にやりましょ」

唯「うわ~い!」

律「そだな。んじゃまず梓から行くぞ」

梓「はいっ!」


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最終更新:2011年01月25日 00:39