……トラブルがないのはいいことだけど、何かが引っかかる

アレがギターをすぐに覚えてしまったこと

昨日まではカタコトだったのに、もう会話が正しく出来るほど進化していること

……私に姿が似ていること

いや、変なこと考えるな私!

せっかく仲直りしたんだから……


今日はアレは澪先輩の家に泊まるらしい

羨ましいやらなんやら……

澪先輩のことを嫌いって言ってたのは、澪先輩がアレのことを気持ち悪がったり気絶したりしてたかららしい

澪先輩もすっかり慣れちゃって、家に来るって聞いてニッコリ笑ってた

べ、別に嫉妬してるわけじゃないし!


梓「おはよー」

憂「おはよう梓ちゃん」

純「あー梓、今日澪先輩と学校来てたよね」

梓「え?」

純「羨ましいなー、やっぱり軽音部入ろーかなー」

梓「それは……」

憂「そうだよー、純ちゃんも入りなよー」

憂「梓ちゃん、このことは黙っておこ」ヒソヒソ

梓「う、うん」ヒソヒソ

梓「でもそうか、堂々と登校してるからアレが一般人に目撃されても仕方ないのか……」

「中野さん、さっきはありがとうね」

梓「え?」

「落し物届けてくれたお礼にアメあげるね」

梓「いや、私は……」

「じゃーねー!」

梓「……いい奴なんだよね、アレ」


放課後

梓「はい、アメと四葉のクローバーと……なんか変なキーホルダー」

梓2「え?私に……ですか?」

律「ようやく二人も仲良くなったみたいだな!」

梓「違います、この子の善行の報酬を私が貰っちゃったんです」

澪「やっぱりそうなっちゃったか」

唯「澪ちゃん、知ってたの?」

澪「あずにゃん2号にも人の役に立ってもらいたくて、一緒に人助けしてたんだ」

紬「素敵♪」

梓2「あの……アメは頂けません、私食べることができないので……」

梓「そっか、じゃあせめて他のは貰ってよ、それ着けてれば私と区別しやすいし」

梓2「はい!」

梓「あと、あんまり目立たせないでくださいよ、純にも目撃されてるんですから」

澪「ダメだった?」

梓「そうですね……できれば避けてほしいです」

梓2「私も気を付けます」

梓「あ、別に気にしないでもいいんだよ」


さわ子「みんなー、ひさしぶ……」

律「おー、さわちゃん、紹介しよう、新しい部員の」

梓2「あずにゃん2号です、よろしくお願いします」ペコリ

澪「あれがうちの顧問の山中さわ子先生」

さわ子「何この子?」

紬「日本人形が雷で意思を持っちゃったらしいです」

さわ子「へ、へぇー……」

唯「あれ?さわちゃんだったら着替えさせ放題ね!とか言って喜ぶと思ってたのに……」

さわ子「どういう妄想よ、今自分の目を疑ってるのに耳まで疑わなくちゃいけなくて大変なのよ……」

律「大人って柔軟性がないなー」

さわ子「誰が年増ですって!」グリグリ

律「いてててて、言ってないって!」

梓「先生はどう思います?コレ」

さわ子「そうねぇ……」

梓2「……」オロオロ

さわ子「しっぽとか似合う!」

梓「……やっぱりいつもの先生だ」



今日はアレは良いことをしていた

根はいい奴なのだ、気になってるのは私だけだろう

でもいつまでアレはこのままでいるんだろうか

ずっと他人から逃げて隠れて過ごすわけにもいかないだろうし

だからといって堂々と転校生として登校とか漫画でもない限りありえない

今日はムギ先輩の家に連れていかれた

明日は私の家?

それだけはありえない、家族に何て説明するの?

先輩方はちゃんとそこまで考えてるんだろうか



唯「ムギちゃんちはどうだったー?」

梓2「前もいましたから、別にこれと言って感想は無いです……」

澪「確かに、ただの人形だった時の記憶もあるんだよな」

律「いいなームギんち、結局行ってないよなー」

紬「そうだったわね、今度みんなで来る?」

唯「さんせー!」

梓「そうですね、私も行ってみたいです」

梓「そういえば……」

紬「なぁに、梓ちゃん」

梓「この子の今後って考えてます?」

唯律澪紬「……」

梓「突然意思を持っちゃって、いつ元に戻るかも分かりませんし」

梓「もしかしたら一生このままかもしれないですし……」

梓2「……」

唯「私が責任を持って育てます!」
律「ここは部長である私が!」
紬「元の持ち主である私が責任を取るわ」

澪「……じゃ、じゃあ私も」

梓「はぁ……そういうことじゃなくて、いつまでも一緒にいるわけにもいかないでしょう?」

梓「人間じゃないから放っておくわけにもいけませんし、大勢の目に触れるのもそれはそれでまずいし……」

澪「確かに、どうしたらいいかな?」

梓2「わ、私は人形ですから……別に倉庫でじっとしてるだけでもいいんです!慣れてますし……」

律「そんなこと言うなよ!ムギ、なんとかならないのか!」

紬「もう専用の別荘を作るしか……」

律「うわ、なんて贅沢な解決法!」

唯「あずにゃん、なんだかんだで一番あずにゃん2号のこと考えてくれてたんだね」

梓「ええ、それはもう……」

梓(自分と瓜二つな動く人形のことを考えないほうがおかしいですよ……)


今日はあの子はさわ子先生の家に行くことになった

先生の車に乗せられて行く様は、心の中でついドナドナを歌ってしまいたくなるものだった

変なベクトルのロックを吸収しないか心配だ

心配だ、と言ってもあの子の心配をしているわけじゃない

瓜二つだから何か事件でも起こされると私が困るのだ


ピロリロピロリロ!

澪「速弾き!?」

ギャイイイイイイン!

律「歯ギター!?」

さわ子「練習させちゃった♪」

梓2「お粗末さまでした」

梓「う、上手い……」

さわ子「ギターはしばらく私のヤツ貸してあげるわね」

梓2「ありがとうございます!」

唯「すごいね!私ぐらい上手くなっちゃったかも!」

梓「いえ、どう考えても唯先輩より上手いです」

唯「がーん…」

梓2「そ、そんなことないですよ……」

律「もう唯もお役御免かもなー」ヘヘヘ

唯「ひどいよりっちゃーん!」

澪「ちょっとあずにゃん2号も合わせて弾いてみるか?」

紬「いいわね♪」

唯「じゃあ私のパートをやりたまえ!」

梓2「すみません、先輩のパートを……」

唯「後輩の成長を見守るのも先輩の仕事だからね!」フンス

梓「唯先輩が見栄を張り続けている……」

律「じゃあ行くか―、1、2、3、4!」


あの子の成長は凄まじかった

1日でたくさん成長する

というか一瞬で物を覚える

まぁ機械なんだから仕方ないか

今日は私の家に行くことになりそうだったがもちろんお断りした

せめて親がいない日だったら問題は無かったんだけど……

結局今日はあの子は部室で過ごすことになった


今日は天気が悪い

今にも落ちてきそうな空だ

今日のさそり座の運勢は12位、最悪だ

占いなんて当たらないだろうと思っても、カラスの鳴き声がそれを許してはくれなかった

梓「傘持ってったほうがいいね、これは」

私はお気に入りの傘を一応持っていくことにした


純「あ、梓、昨日はありがとうね!」

梓「昨日?」

純「昨日の夜偶然会った梓に助けてもらったじゃん!」

梓「あ、ああ、アレね……」

梓(何で目立った行動してんのよ!)

「梓ちゃん、いる?」

梓「いるけど……」

憂「またあずにゃん2号?」

梓「うん……もう人目につかないようにしてって言ったのに……」

憂「昨日部室に残ってたんでしょ?きっと寂しかっただけだよ」

梓「だけならいいんだけど……」

憂「……」

窓を見ると、水滴が数粒張り付いていた



梓「こんにちはー、すみません遅くなって」ガチャ

唯「あ、あずにゃん2号、どこ行ってたの?」

梓「はい?」

律「じっとしてろって言ったじゃんか」

澪「心配したんだぞ」

紬「みんなでこれから探そうと思ってたのよ」

梓「わ、私は……」

梓2「そうだよ、迷惑掛かるのは私なんだから!」

梓「ちょっと!私はあずにゃん2号じゃないって!」

唯「え?でもこっちのあずにゃんは四葉のクローバーついてないし……」

梓「私にもついてませんよ!」

澪「一人で練習してたけど演奏は今まで通りだったぞ?」

梓「いつも一瞬で覚えるじゃないですか!癖までマネして!」

律「いつものあずにゃん2号と口調違うしなぁ……」

梓「私の立場を乗っ取ろうとしてるんです!」

梓2「もう演技はやめて!」

梓「演技!?どっちがよ!」

梓2「なんであなたは私のマネして私になろうとするの!?」

梓「その言葉、そっくり返させてもらうわ!」

唯「喧嘩はダメだよぉ……」

梓「こっちはそんなこと言ってる暇じゃないんです!」

梓2「すみません唯先輩、私が譲歩すればすぐに済みますよね」

唯「そんな!あずにゃんはニセモノじゃないよ!」

梓「唯先輩!」

梓「そ、そうです!私はかばんを持ってますし、ギターも……」

梓「あれ?そういえばむったんを持ってきた覚えが……」

梓2「かばんがなくなったと思ったらあなたが盗ってたんだ、わざわざそこまでして……」

梓2「ちなみに私はギターを持ってきてますよ?」

律「うーん、これはどっちなんだ?」

澪「もう訳がわからない……」

梓「あーもう!なんでわかってくれないんですか!」

梓「……唯先輩、私に抱きついてください」

唯「ほえ?」

梓「早く!」

唯「う、うん……」ギュー

梓「どうです?」

唯「いつも通りだよ?」

梓「じゃああっちに抱きついてみてください!」

梓2「わ、私は……」

唯「?」

梓2「だ、抱きつかないでください!私は抱きつかれるのが嫌いです!」

唯「がーん……」

梓「あれは抱きつかれるとぼろが出るからです!構わずギューっとやっちゃってください!」

唯「わ、わかったよー」ギュー

梓2「……っ!」

唯「……なんか変、抱き心地が違う気がする」

律「じゃあやっぱり!?」

梓「どう?観念した?」

梓2「こ……これは……」

澪「どうしてそんなことしたんだ?」

梓2「ち、違うんです!心を入れ替えられたんです!」

唯律澪紬梓「!?」

梓「まだくだらない抵抗を……そんなことあるわけ……」

梓2「人形に意思が生まれたのに今更だよ!とにかく心は本物のあずにゃんです!」

唯「う……んー……」

梓「異議あり!私は自分のことをあずにゃんとは言わない!」

梓2「!」

紬「決定的ね」

ザァーーーー……

梓2「……そうです、私があずにゃん2号です」

梓「……」


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最終更新:2011年01月24日 23:58