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 十数年前

先生「みんな~、これからお遊戯の時間ですよ」

  「は~い!」

先生「先生のオルガンに合わせてカスタネットを叩きましょうね」

  「は~い!」

先生「♪~♪~」

唯「うんたん♪ うんたん♪」カタカタ♪

先生「唯ちゃん上手ね~」

唯「あはっ♪」


  カチョン!! カチョン!!

先生(な、なに!? この音は!?)

唯「あ~和ちゃんその木なに?」

和「これ? 拍子木」カチョン!! カチョン!!

先生「な、なんで和ちゃんはカスタネットじゃなくて拍子木を持ってるのかな~?」

和「ごめんなさい、お母さんがカスタネット買うお金ないからとりあえず拍子木持って行きなさいって」

先生(あっ……。そういえば和ちゃんのところはお父さんの事業が失敗しちゃって大変なんだったわ……)

先生(でも、拍子木の方が高価な気が……)

唯「それいいなぁ~。どこで買ってもらったの?」

和「買ったんじゃないよ。今週はうちが夜の見回り当番なの。だからこれは町内会のもの」

唯「へ~」

和「どうせ夜しか使わないし、だからお母さんが持たせてくれたの」カチョン!! カチョン!!

唯「その音なんか聞いたことあるなぁ」

和「火の用心」カチョン!! カチョン!!

唯「!? それ知ってる! 夜に見回ってるやつだ!」

和「うん、さっき言ったよ」

唯「そうだっけ?」

和「でもみんなと違うの、ちょっと恥ずかしい……」

唯「ねぇ、和ちゃん。ちょっと私のカスタネットと交換してみない?」

和「いいの!?」

唯「うん! 私そっちのがいい」

和「じゃあ、はい」

唯「うわ~い」

和 カタカタ♪

和「えへへ」

先生「よかったわね、和ちゃん」

和「うん!」

先生「唯ちゃんも優しいね」

唯「ふんふん!」カチョン!! カチョン!! カチョン!! カチョン!!

先生「夢中ね~。手を挟まないように気をつけるのよ」

唯「ねぇねぇ、和ちゃん。こう?」

和「ん?」

唯「火のよ~じん!」カチョン!! カチョン!!

唯「ギンギラギンにさりげなく!」カチョン!! カチョン!!

先生「?」

和「近藤真彦?」

唯「そうマッチ」

先生「!?」

和「あはは、唯ちゃん面白い」

唯「えへへ~」

先生(よ、幼稚園児のくせに……)

 ・ ・ ・ ・ ・

先生「みんな手を洗いましたか?」

  「は~い!」

先生「それじゃあ、手を合わせてください」

先生「お弁当を作ってくれたお母さんに声が届くくらいに」

先生「いただきます」

  「いただきます!!」

唯「うわ~、今日も大好きなミートボール入ってる♪」

和「……」モグモグ

唯「和ちゃんのお弁当今日もおかず玉子焼きだけだね」

和「うん、卵は安くて栄養もあるから」

唯「へ~」

和「……」モグモグ

唯「美味しい?」

和「美味しいよ」

唯「ねぇ、和ちゃん」

和「なに?」

唯「私のミートボールと玉子焼き交換しようか」

和「えっ!?」

唯「あの……駄目だったらいいんだけど……」

和「むしろこっちがいいの? って感じだよ」

唯「だってすごく美味しそうだから」

和「そういうことなら……」

唯「やった~♪ じゃあ交換 一切れ貰うね。はいミートボール」

和「2個もいいの!?」

唯「大きさ的にはこれくらいだよ~」

和「なんだか騙してるみたい……」

唯「美味しい♪」

和「そんなに美味しい?」

唯「うん! 和ちゃんもミートボール美味しい?」

和「うん、すごく美味しいよ」

唯「よかったね」

和「うん!」

唯 じ~~~~~っ…

和「どうしたの?」

唯「もう一つ欲しい……」

和「いいよ、好きなだけ食べて」

唯「本当に!?」

和「うん」

唯「じゃあ次はこのエビフライと交換ね」

和「えっ? いいよ、そんな高そうなの……」

唯「だめだよ~。私が和ちゃんの玉子焼き沢山食べちゃったら和ちゃんが食べる分無くなっちゃうよ」

和「だけど……」

唯「はい、エビフライここに置くよ」

唯「いただきま~す!」

和「なんだか、わらしべ長者みたい」

唯「う~ん、やっぱり美味しい♪」

和「エビフライも美味しいよ」

唯「こんなに美味しい玉子焼きだったら毎日でも食べたいなぁ」

和「そんなに?」

唯「うん! ウチのとはまた違うよ」

和「だったら、私が料理できるようになったら、お母さんに習って
  唯ちゃんのために毎日玉子焼き作ってきてあげるね」

唯「本当に!? 約束だよ!」

和「うん」

唯「楽しみだなぁ」

和「ミートボールとエビフライのお礼だよ」

唯「それは今食べたこの玉子焼きだよ?」

和「そう?」

唯「和ちゃんが玉子焼き作ってくれるなら私も何かお返ししなきゃ!」

和「え? 別にいいよ」

唯「だめ~。私も和ちゃんに何かあげる」

和「う~ん……。だったら」

唯「なになに?」

和「ずぅ~っと友達でいてくれる?」

唯「あたりまえだよ~」

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和「なんてこともあったわね」

唯「そんなことが……」

律「お前は忘れてんのかよ」

和「その当時、家は貧しかったけど、唯が側にいてくれたおかげで心は豊かだったのよ」

梓「唯先輩は昔っから優しい子だったんですね」

和「そうね、困ってる人がいたら放っとけないって感じだったわ」

紬「なんだかいい話だったわ~」

澪「そうか、だから和のお弁当には毎日玉子焼きが入っているのか」

和「半分は自分の分、もう半分は唯のために作ってるのよ」

唯「そういえば、お弁当のある日は毎日和ちゃんの玉子焼きをつまんでるよ」

律「本当に毎日のように食べてるもんな」

唯「だって、美味しいんだよ?」

和「そう言ってもらえたら、私も頑張ってお母さんの味を再現したかいがあったってもんだわ」

紬「幼馴染っていいわねぇ」

和「そういえばまだこんな話があるんだけど」

律「お? なんだなんだ?」

和「唯が私の家の湯船をザリガニでいっぱいにしたって話、したわよね?」

澪「ああ……。たまに自分ちのお風呂に入ってる時思い出しては青くなってるよ……」

梓「あの意味不明な行動ですか……」

唯「私もさすがにそれは覚えてるなぁ」

和「あの時はそれで話を終わりにさせちゃったけど、あの唯の行動はちゃんと意味があったのよ」

紬「湯船をザリガニでいっぱいにすることにどんな意味が……」

和「ほら、唯から話してあげたら?」

唯「えっとね~……」

唯「NHKの教育の方で子供向けの生き物の番組ってあるじゃない?」

律「ああ、風邪なんかで学校休んだ時に良く観るやつな」

唯「あれでさ~、ザリガニは食べれるみたいなこと言っててさ」

紬「唯ちゃん、まさか……」

唯「そうなんだ、子供ながらも和ちゃんの家は貧しいってわかってたから
  なんとかお助けできないかと、当時の私はザリガニを沢山プレゼントすることを思いついたんだろうね」

唯「最初はバケツに一杯あったら充分かなって思ってたんだけど、思いの外沢山取れちゃって」

唯「夢中になったら止まらない性質だったから気づけば湯船一杯になってたんだよね」

梓「気持ちはわからなくもないですけど、それって和先輩からすれば嫌がらせの他ないですね」

和「確かに、そのおかげで3日は湯船に浸かることはなかったわ」

律「そりゃ、そうだろうよ……」

和「でも、3日は食べるに困らなかったけどね」

澪「食べたの!?」

和「嫌ね、冗談よ」

澪「な、なんだビックリさせるなよ」

梓「和先輩もそんな冗談言うんですね」

和「さすがにあれだけの量を3日では無理よ」

梓「えっ!?」

和「5日は食卓にザリガニが絶えることはなかったわ」

澪「日数が冗談かよっ!」

律「結局食ったんだ!」

和「結構いけるのよ、ザリガニ」

唯「だよね~」

和「ムギ的に言えば、伊勢海老ってことかしら?」

紬「伊勢海老はとても美味しいわ」

澪「いやいやいやいや……」

梓「そうだとしても、さすがにザリガニを食べるのは……」

和「でもその5日分の食費が浮いたおかげで色々助かったのよ」

澪「それはそうだろうけど……」

和「その浮いた分のお金で宝くじを買ってね」

律「なんで、和の家が貧乏だったかわかった気がした」

和「なんと、その宝くじが大当たり」

梓「ええっ!?」

紬「すごい!」

和「借金はそれで全部返すことができたし、本当に唯には感謝してるのよ」

和「言うなれば唯は私の女神様ね。ザリガニの女神」

唯「えへへ」

梓「もはや、お姉ちゃんとかそういう次元ではなくなってきましたね」

澪「ザリガニの女神っていうネーミングはどうかと思うけどな」

和「まぁ、そのとき食べたザリガニの寄生虫が原因でお父さん死んじゃったんだけどね」

律「えっ? 今なんて!?」

澪「急に凄いことさらっと言ったぞ!」

和「でも、あのままだったらどっち道一家で野垂れ死にしてたかもしれないし
  その点では唯を恨んだことは一度だってないわ」

唯「ごめんね、和ちゃん」

和「ううん、お父さんもきっと天国で喜んでるわ」

和「その証拠に死ぬ直前にお父さんから『真鍋家はジャンケンのときグーを出すのを禁ずる』って遺言が」

紬「それってどういう……」

和「ザリガニって常にチョキじゃない? だからグーを出したらザリガニが負けるからって」

和「ザリガニに対してそんな無礼は許さないって」

唯「そこまでして和ちゃんのおじさんはザリガニのことを思いながら死んでいったんだね……」

澪律紬梓「……」


律「なぁ和。突然だけどジャンケンしようぜ」

和「いいわ、負けないわよ」

律「じゃ~んけ~ん」

和「ぽん!」グー  チョキ 律

和「勝ったわ」

唯「やった~♪ 和ちゃん強い!」

澪「あ、嘘だ」

和「そうね、嘘よ」

梓「いったいどこからどこまでが……」


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