澪「いや、ただの世間知らずってだけだろ」

紬「甘やかされていたっていうのは否めないわ」

紬「私には、薪を背負いながら本を読んだ経験なんて無い……」

梓「私たちにもそんな経験ありませんってば」

律「お姉ちゃんってのは弟や妹を思いやる心ってのがないとやっていけないからな」

唯「そうそう、小さい頃は私だって憂のお守りしたことあるし」

律「そんな使命感っての? その辺が一人っ子には欠けてるんだよな」

紬「ごめんなさい……。私のせいで一人っ子の分が悪くなっちゃって……」

澪「気にするなよムギ、本当にどうでもいいことだから」

梓「そんなことありません!」

澪「梓?」

梓「確かに、ムギ先輩はお嬢様で甘やかされて育ったかもしれません」

梓「でも、ムギ先輩がこの軽音部で一番苦労をした経験があるんじゃありませんか?」

紬「私が?」

律「な、なんだ?」

梓「ムギ先輩は唯一この中でバイト経験があるからです!」

梓「自分で働いてお金を稼ぐというのは中々大変なことだと思います!」

梓「それをやってのけたムギ先輩はこの中で一番人生経験が豊富で
  それ故にこの軽音部での一人っ子の優位性を表してると思います!」

律「あ、でもそれだったら私もバイトしたことあるぜ」

梓「えっ?」

唯「私も~」

梓「ええっ!?」

澪「まだ、私たちが1年のころに唯のギター買うためにみんなで交通量調査のバイトしたんだよ」

梓「そ、そうなんですか」

紬「働いてお金をもらう感動をあのとき覚えちゃって
  何よりも楽しかったから、もう一度バイトしたいと思って当時募集してた
  マックスバーガーでバイトしたの」

律「さ~、これで私たちお姉ちゃん側にもバイト経験あるやつがいたって訳だ」

律「え~っと、何だっけ? バイトすると人生経験が豊かなんだっけ?」

律「と、なると、この中で一番しょぼい人生なのは……。
  あれあれ? もしかして一人っ子の梓ちゃんじゃありませんか!?」

唯「働かざるもの食うべからずだよ、あずにゃん」

律「まったく……、一人っ子はこれだから……」

梓「ううっ……」

澪「まぁ、あれが労働かと言われると私はどうかと思うけどな」

澪「とくに律はほとんどふざけてたし。
  今思うとあれでお金貰っちゃって良かったのかなって心配になるほどだよ」

唯「ああ~、確かにね~」

梓「そんなに楽だったんですか!?」

澪「だって、どういう訳かこの4人でやらせて貰えたし」

澪「なにより人間相手の仕事じゃなかったからな。ある意味退屈すぎて大変だったけど」

梓「私の想像する仕事とはなんだか違いますね」チラッ

律「うぐっ……」

澪「それに比べてムギの接客業のバイトなんて人間相手だし
  もしかしたら怖い人とか来るかもしれないし……それに失敗したら怒られるだろうし」

澪「私には絶対に無理そうだから、それだけでもムギを尊敬するよ」

紬「確かに、最初は失敗して落ち込んだりもしたけど、そんな尊敬される程でも……」

梓「そう! これですよ!」

律「な、なにが!?」

梓「軽音部のお姉ちゃん側に無くて、私たち一人っ子側にあるものです!」

唯「なになに?」

梓「話は変わりますけど、唯先輩は以前に比べてかなりギターが上手くなりましたよね」

唯「でしょ、でしょ! 私もそうじゃないかなって思ってたんだよね。さすがあずにゃんはわかってるね!」

梓「はい! もう私なんて足元にも及びません」

唯「なんせ、私はお姉ちゃんだからね! よかったら教えてあげるよ!」

梓「律先輩も普段はあえて言ったりしませんけど、私ずっと律先輩のドラムは世界にだって太刀打ちできるって思ってたんです」

律「まぁな! 私くらいになると世界レベルで通用しちゃうだろうな!」

梓「あ、すみません! 律先輩を世界レベルでなんて縛り付けちゃって。もはや宇宙で通用するレベルですよ」

律「そうだろ、そうだろ! 宇宙を股にかけるドラマーお姉ちゃんとは私のことだい!」

梓「ムギ先輩もキーボード上手いですよね、確かコンクールで賞を獲ったことあるとか」

紬「ありがとう、でもそれも昔のことだし。それに私より上手い人なんて沢山いると思うの」

梓「澪先輩はベースはもちろんですけど詞にはいつも感心させられます。
  このバンドを形作る元になってるのは言うまでもありません!」

澪「そんなに褒められると逆に恥ずかしいけど……。でもありがとう」

澪「だけど、ムギが言うように私よりも上手い表現をする人なんて沢山いるし、私もここで満足するつもりなんてないよ」

梓「これですよ! これっ!!」

唯「どれ?」

梓「この謙虚さです!」

梓「お姉ちゃん側の二人は馬鹿みたいに喜んでいますが、それに比べて一人っ子側はちゃんと弁えています」

梓「ここに人間の大きさが出てきてるんだと思います!」

唯「そんなっ!? だったら、さっきのギターが上手くなったっていうのは……」

梓「そんなのお世辞に決まってます」

律「は、謀ったな梓ぁ!!」

梓「騙される方が悪いんです!」

唯「でも、謙虚すぎるのも逆に鼻につくことがあるけどね」

律「あ~。そうだよな」

梓「何のことです?」

律「梓が初めて軽音部に来たとき唯のギターを弾いたことがあったろ?」

梓「えっと、そういえばそうでしたっけ?」

唯「あずにゃんそのときすっごく上手かったんだよ」

律「そうそう、だけどギター弾く前に言ったことが私には癪に障ったんだよな」

梓「なんて言いましたっけ?」

唯「まだ初心者なので下手ですけど、って」

律「ところがどっこい、ギター聞いたらさ……」

律「どこが!? 初心者!? はっ! ふっざけんな! って」

唯「さすがに私もあのときはイラッと来ちゃったよ」

梓「た、確かにあのときは最初だったしちょっと魅せてやれって気持ちがなかったとはいいませんが……」

律「下手だって言っといてあんなの聞かされちゃ嫌味にしかならなかったな」

唯「謙虚すぎるのも考えものよねぇ~」

梓「わ、若気の至りです……」

律「あらあら、これじゃあ一人っ子さん側の負けってことになるのかしら?」

唯「さぁ、ここにおひざまずきっ!!」

紬「あ、梓ちゃん! 負けないでっ!」

梓「そ、それでも、お調子者のお姉ちゃんよりしっかり者の一人っ子の方がいいです!」

律「まだ言うかっ! 梓っ!」

梓「だいたい、そう大変でもなかった交通量調査なのに、いかにも働く辛さを知ってるって顔をする」

梓「そんな節操の無さがお姉ちゃん側の底の浅さを露呈してると思います!」

唯「うっ! 今のは結構グサッときたね……」

梓「練習だって私や澪先輩がやるって言わなきゃ中々重い腰を上げようとしませんし」

梓「お姉ちゃんだったらもっと私たちを引っ張っていって下さい!!」

律「引っ張っていってるじゃないか!」

唯「そうそう! あずにゃんはそのときいなかったけどクリスマス会だってお姉ちゃんであるりっちゃんが言い出したし
  夏フェスだってそもそも私が合宿しようって言ったから行けた訳だし」

梓「どっちも結局は遊び目的じゃないですか!」

律「ぐぬぬ……」

紬「梓ちゃん……決まった……!!」

澪「なぁ、どうでもいいけど早く試験勉強しないか?」

律「ゆ、唯……押され気味だな……」

唯「このままじゃ我々お姉ちゃんの立場が危ういね……」

律「なんとか逆転する要素が欲しいな……」

唯「……はっ!」

律「どうしたんだ? 唯」

唯「りっちゃん、我に策あり! だよ」

律「マジか!?」

唯「うん! ちょっと待ってて!」

紬「あ、唯ちゃんどこ行くの?」

梓「ふふっ。さては勝つ見込みがないもんで逃げましたね」

律「なっ……! わ、私は唯を信じるぞ!」

澪「こんなんで入試大丈夫かな……」

 ・ ・ ・ ・ ・

和「で、私が呼ばれたと」

唯「うん! 和ちゃんは私が知ってる中で一番お姉ちゃんらしいお姉ちゃんなんだよ~」

律「頼む和! お姉ちゃんの権威を取り戻してくれっ!!」

梓「外部から助っ人を呼ぶなんて卑怯ですよ!」

紬(なんだかんだ言って、一番梓ちゃんが楽しんでる?)

和「はぁ~……」

澪「ごめんな和」

和「まぁ、もう生徒会も2年生に引き継いじゃったし特にすることもないからいいんだけど」

澪「でも、和って兄弟いたんだな」

和「ええ、小学生の弟と妹が一人ずつね」

澪「結構歳が離れてるんだ」

和「まぁ、その分可愛くはあるわ」

紬「けど、和ちゃんて確かにお姉ちゃんオーラが出てるわよね」

律「そうだろ、そうだろ」エッヘン

澪「なぜお前が偉ぶる」

梓「でも、真鍋先輩は軽音部ではないのでこの勝負には関係ありません!」

澪「勝負って……」

和「あら? 唯や皆のことは名前で呼んでるのに私は苗字なのね」

梓「え? だ、だって、あまり馴れ馴れしくするのも失礼かと思いまして……」

和「いいのよ、その方が私も嬉しいわ」

梓「そ、そういうことなら……。の、和先輩」

和「なぁに? 梓ちゃん」ニコッ

梓 ドッキーン!!

律「和ってけっこうジゴロタイプか?」

唯「私もたま~に和ちゃんにやられちゃうことあるんだよね」

澪「ああ、私も2年のクラス替えの時の和の笑顔にはコロッといきそうだったよ」

和「で、私はいったいどうすればいいのかしら?」

紬「とりあえずお茶淹れるね」

和「ありがと」

澪「結局普通にお喋りしてうやむやになりそうだな」

律「いやいや、和は唯とは付き合いが長いだろ?」

和「そうね」

律「そんな長い付き合いの中には唯が『これぞお姉ちゃん!』って思えるようなエピソードがあるはず!」

和「ないわ」

律「即答!?」

唯「そんなっ!? 和ちゃん!」

和「冗談よ、深く思い出せばきっとあるはずよ」

唯「だよね~」

澪「逆に言えば、滅多にそんなことはなかったってことだけどな」

和「……そうねぇ」

律「がんばれ和! 思い出せ!」

唯「お願い和ちゃん! どうか私にお姉ちゃんらしいエピソードをっ!」

梓「そんなのあるわけないです!」

紬「ああっ!? 立場としては一人っ子に不利になることは避けたいけど
  和ちゃんと唯ちゃんの幼い頃の話も聞きたい葛藤がっ!」

澪「賑やかだなぁ」

和「ちょっと静かにしてもらえる?」

律「はい」

和「……」

和「そういえば……」

唯「あった!?」

和「ええ、あれはまだ幼稚園のころ……」


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