憂「お姉ちゃん、ご飯出来たよ」

唯「いただきま~す。今日も美味しいよ憂」



憂「お姉ちゃん、お風呂沸いたよ。お先にどうぞ」

唯「ありがと~。じゃあ、入ってくるね」



憂「お姉ちゃん、6×8は48だよ」

唯「あ、そっか~。46じゃあちょっと少なかったか~」



憂「お姉ちゃん、そこはこうやって弾けばいいんじゃないかな」ジャカジャン♪

唯「なるほど~、そうやって弾けばいいのか~」

憂「ちゃんとそう楽譜に書いてるよ」



憂「お姉ちゃん、もうこんな時間だよ。明日も学校だしもうそろそろ寝よっか」

唯「うん、おやすみ~憂」


……

唯「……」

唯「……おかしいよ」

唯「同じ親から生まれて、同じような環境で育ってきたのに
  なんでこんなにも差が出来たんだろう……」

唯「憂は家事をやらせれば、その辺の主婦以上のことをやってのける。とくに料理はプロ級」

唯「おまけに、勉強も出来る。ギターだってちょっとやっただけで覚えた」

唯「私といえば、家では常にゴロゴロ。家事なんてやった事が無い」

唯「勉強も一学年下の憂に教えてもらうこともしばしば」

唯「ギターだって毎日触ってないとすぐ忘れる」

唯「これじゃあ、どっちが姉かわからないよ」

唯「ん? そもそも、本当に私が憂のお姉ちゃんなんだろうか……」

唯「実は、本当の姉妹じゃないのかも……」

唯「だって、こんなにも差があるとなるとその可能性も捨てきれない……」

唯「きっと、憂はこんな不出来な私を救うために22世紀の未来から来た憂型ロボット!」

唯「未来では、そんな憂型ロボットが沢山いて、一家に一台憂の時代が来るに違いない」

唯「なんて素敵な未来。人類の明日は明るい!」

 ・ ・ ・ ・ ・

唯「と、昨日の私はここで考えるのをやめて眠りについたのです」

澪「馬鹿がいる」

唯「だって、そうでもなきゃ有り得ないよ」

梓「確かに、憂の高性能っぷりを思うと、唯先輩のポンコツっぷりは考えられないですね」

唯「でしょ~。まるで私ったら引き立て役だよ」

律「顔はすっげー似てるのにな」

梓「中身は月とスッポンですよね」

唯「さっきからあずにゃんさりげに酷いよね」

紬「でも、私も家のことは全て執事や家政婦に任せっきりよ」

唯「そっか~、そういう意味では私とムギちゃんは一緒なのかもね」

澪「何言ってるんだ、平民風情が」

梓「憂はお手伝いさんじゃありませんよ、妹じゃないですか」

律「姉として恥ずかしくはないのか?」

唯「恥ずかしいと感じているなら、家でゴロゴロしたりしないよ!」

律「なんという正論!」

澪「いや、せめてそこは恥ずかしがれ」

唯「だって憂の家事の邪魔にならないようにゴロゴロするのも結構難しいんだよ」

梓「だって、の意味がわかりません」

唯「ゴロゴロするにも経験が必要だってことだよ」

梓「はぁ……そうですか」

澪「まぁ、唯がそれでいいならいいんじゃないか」

律「そうそう、憂ちゃんも好きでやってるみたいだし」

唯「でも、姉の威厳ってもんが」

澪「お前はどうしたいんだよ……」

唯「なんとか私に姉の威厳を取り戻せるようにご指導をお願いします!」

澪「指導たって……」

律「よし! わかった! ここは私に任されよ!」

紬「そうね、唯ちゃんを除けばお姉ちゃんなのはりっちゃんだけだもんね」

唯「りっちゃん……、ありがとう!」

澪「まぁ、いつもはこんな律だけど家ではちゃんとお姉ちゃんしてるもんな」

梓「律先輩の家でハンバーグご馳走になったときは驚きました」

紬「洗濯物も取り込んでちゃんと畳んだりしてたのもりっちゃんだったのよね?」

律「うん、ウチの親そこのところ結構厳しいからさ」

律「弟と当番で洗濯物の取り込みや風呂掃除や食器洗いやってる」

唯「私は全部憂に任せっきりだ」

梓「せめて少しは手伝ったらもっとお姉ちゃんっぽくなるんじゃないですか?」

唯「え~、それは面倒くさいよ~」

梓「……」

唯「もっとこう手っ取り早くお姉ちゃんって感じの、なんか無い?」

澪「なんだよそれ……」

律「そうだな~、やっぱり私の方が上だって思い知らしめることじゃないか」

律「私は常に聡より先にお風呂に入るし
  ご飯のおかずだって聡のお皿に盛ってる方が美味しそうだったらそれを奪う!」

律「こうやって、姉には服従するものだと身に沁みこませるんだ」

唯「そっか……、確かに私はいつも憂には感謝してばっかりだった」

律「そうだよ、だから唯自身も姉の自覚が足らないんだよ」

唯「わかった! 今日からは強気で憂に対して接してみるよ!」

律「ああ! その意気だ!」


梓「いいんですか? なんだか変なことになってません?」

澪「もう突っ込む気にもならないよ……」

紬「唯ちゃんと憂ちゃんは姉妹愛が売りだっていうのに……」

梓「売りって……」

澪「こっちにも少しズレた人がいた……」


 平沢家

憂「お姉ちゃん、ご飯できたよ」

唯「ほほう、今日の献立は豚バラ煮込みですか」

憂「う、うん。ごめんね……」

唯「なんで謝るの?」

憂「な、なんでもないよ。さぁ、食べよ」

唯「いただきま~す」

唯「美味しいね~憂……」

唯(っと、いけないいけない。今日りっちゃんに言われたように偉そうにしないと)

唯「……」

憂「どうしたの? お箸置いて」

唯「この豚バラ煮込みはできそこないだ、食べられないよ」

憂「!?」

唯(ふっふっふ。面食らってるね憂。もう優しいお姉ちゃんは今日限りだよ!)

唯「明日もう一度ここへ来て下さい。本物の豚バラ煮込みをご覧に入れますよ」

憂「お姉ちゃん……」

唯(あれっ? 私って豚バラ煮込み作れたっけ?)

憂「ごめんなさい……」

唯(ま、まぁいいか。どうやら、私の気迫に憂もビビリまくりだし
  これで姉の威厳を保つことができ……)

憂「でも、嬉しい……」

唯「へっ?」

憂「やっぱり、お姉ちゃんにはバレバレだったんだね」

唯「?」

憂「今日は学校で先生に頼まれごとされちゃって帰ってくるのが遅かったから
  ご飯の支度が間に合わなくって、スーパーのお惣菜物で済ませちゃおうって横着しちゃった」

唯「じゃあ、この豚バラ煮込みは」

憂「うん、私が作ったやつじゃないの」

唯「そ、そうなんだ……」

憂「お姉ちゃん、私の味付けちゃんと覚えてくれてたんだね
  正直、何食べても美味しいって言うタイプの人かと思ってたけど」

唯「う、うん。まぁね(実際美味しかったんだけどね……)」

憂「スーパーのお惣菜物作ってる人には悪いけど
  やっぱり私の作った物の方が美味しいってことだよね!」

憂「私、これからは、どんなに帰りが遅くなってもちゃんとご飯作るようするよ」

憂「だって、お姉ちゃんの喜んでくれる顔が私にとって一番なんだもん!」

唯「そ、そうだよ! 憂が作ってくれるご飯が一番だよ!」

憂「私、こんなにわかってくれる人がお姉ちゃんで良かった!」

唯「お姉ちゃんは何でもお見通しだよ!」

憂「うん! お姉ちゃんすごい!」

唯(まぁ、結果オーライかな)

 ・ ・ ・ ・ ・

唯「さて、次はどうしようか……」

唯「りっちゃんは、絶対弟よりも先にお風呂に入るって言ってた」

唯「よし、今度はそれで!」

憂「お姉ちゃん、何ブツブツ言ってるの?」

唯「な、なんでもないよ」

憂「そう? あ、もうすぐお風呂沸くからね」

唯「わ、私が先に入るからね!」

憂「へっ? うん、いいよ。っていうかいつもそうじゃない?」

唯「そうだったね……」

  カポーン

唯「ふぃ~、いい湯じゃの~」

唯「なんかいまいち姉の威厳を取り戻そう作戦が上手くいってない気がするなぁ」

唯「ここで一発ドカンとかまさないと」

唯「よし、いっちょやってやっか!」

 ・ ・ ・ ・ ・

憂「お姉ちゃん、勉強わかる?」

唯「……」

憂「お姉ちゃん?」

唯「憂、それがお姉ちゃんに対する態度かな?」

憂「えっ?」

唯「確かに憂は頭が良い。だけど、一学年下の子に勉強を見てもらうなんて
  こんな屈辱的なことないよ!」

憂「!?」

唯「わかったら出ていってくれるかな?」

憂「ご、ごめんね、お姉ちゃん」

唯(そうだよ、これだよ! 私に足りなかったのはこの突き放す姿勢だよ!)

憂「そうだよね、もう大学受験も近いんだから自分で勉強しなきゃいけないもんね」

憂「ちょっとでも、お姉ちゃんの力になれたらって思ってたけど
  これからは、お姉ちゃん自身の力で難問を解いていくのも必要になってくるよね」

憂「わかった。これからはもうお姉ちゃんの宿題手伝ったりしないよ!」

唯「わかればよし!」

憂「頑張ってね! お姉ちゃん!」








唯「これで、憂には厳しい姉像を植えつけることができたかな」

唯「さてと……」


 翌日

唯「和ちゃん、宿題見せてください」

和「あんた、最近はちゃんと自分でやってきてたのに……」

唯「昨日ほど自分が無力だと感じたことはなかったよ……」

和「何言ってるの?」

唯「人は一人では生きていけないんだね……」

和「そ、そうね」


 放課後

律「で、突き放したはいいけど、結局一人で宿題できなかったと……」

唯「……はい」

梓「典型的な駄目人間の例ですね」

唯「そんなぁ~、あずにゃんのいぢわるっ!」

澪「そもそもなんで唯はそんなにお姉ちゃんぶりたいんだ?」

唯「だって、悔しいじゃん」

紬「悔しい? けど感じちゃう?」ビクンビクン

唯「誰に聞いたって憂の方がよく出来た子だって言われるんだよ」

澪「それには、同意せざるを得ないな」

梓「明らかに憂の方がお姉ちゃんっぽいですもんね」

唯「まぁ、ああ見えて夜は甘えん坊さんだっりするんだけどね」

紬「そこのところ詳しく教えてもらえないかしら?」

律「ムギはもう黙ってろ、な」

梓「でも、よく考えたら、軽音部ってお姉ちゃんか一人っ子しかいないですよね」

唯「妹キャラならいるけどね」

梓「妹キャラ? トンちゃんですか?」

律「なに言ってんだよ。お前のことだろ」

梓「えっ? わ、私!?」

唯「そうだよ~。あずにゃんはこの軽音部の妹的存在だよ~」

梓「ただ年下ってだけじゃないですか!」

唯「唯お姉ちゃんって言ってみて」

律「私のことは律お姉様って呼んでもいいんだぞ~」

梓「そんなのまっぴらごめんです!」

梓「それに、どうせお姉ちゃんって呼ぶなら澪先輩やムギ先輩をそう呼びたいです」

律「おいおい、プライベートでも本物のお姉ちゃんを除け者にして何言ってるんだよ」

唯「私たちは十数年のお姉ちゃん実績があるんだよ!」

澪「実績があるだけで、その実力には疑問符がつくけどな」

唯「それは言わない約束だよ、澪ちゃん」

梓「そうですよ、どっちかって言うとこの軽音部では一人っ子の方がしっかり者でお姉ちゃんっぽいです」

律「な、なにをー!!」

梓「唯先輩はだらけてるし、律先輩は何かと言うと遊びだすし」

梓「その点澪先輩はしっかりしてるし、ムギ先輩は落ち着きがあるし」

唯「でも、ムギちゃんだってどっちかって言うと私たちと一緒にはしゃぐことが多いよ!」

律「そうだそうだー! そういう意味ではムギは私たちと同じさぼるの大好きチームだな」

澪「駄目な方をアピールしてどうするんだよ……」

紬「一緒にしないでっ!!」

唯律「!?」

紬「私が、お姉ちゃん側と同じように見られているなんて……屈辱だわ……」

紬「あくまでも、私は一人っ子側よ!」

澪「む、ムギ!? 急にどうした!?」

紬「えっ? これって一人っ子対お姉ちゃんって構図じゃないの?」

澪「ん? ああ……そうかもしれないけど……」

紬「だからこうしたほうがこの遊びも盛り上がると思って」

律「なんだビックリした」

唯「本気で嫌がってるのかと思っちゃったよ」

紬「じゃあ、改めて……。もっとお姉ちゃん側はしっかりすべきだと思います!」

律「お姉ちゃんにはお姉ちゃんにしかわからない苦悩があったりするんだぞ!」

紬「例えば?」

律「さすがに今はもうないけど昔はお姉ちゃんだから我慢しなさいとか、何かにつけて弟優先にされるんだよ。
  これは一人っ子のお前らには無いだろ」

澪「まぁ、確かにな」

唯「でも、憂はいつでも私優先でしてくれるよ」

律「バカ、今はお姉ちゃんが本当はいかに大変かをアピールする場面だろ」

唯「あ、そっか。しまった」

紬「ふふふっ。やっぱり、お姉ちゃんって大したことないみたいね」

梓(これを遊びにしてしまってるムギ先輩も結局のところあっちグループな気がする……)

律「そもそも、一人っ子なんてわがまま放題に育てられたんじゃないのか?」

唯「そうそう、もうガマンなんて知らないって感じ」

澪「その言葉、そっくりそのまま唯に返すよ」

唯「へっ?」

律「澪なんて~、ちょっと怖いことがあったらすぐ蹲って『もう嫌だー』なんて言っちゃうし」

澪「くっ……」

唯「あずにゃんだってさ、ほぼ初対面の私たちに怒鳴ったりしてさ」

梓「うっ……」

律「きっと一人っ子で甘やかされて育ったから、そんな事しても許されるって思っちゃってるんだろうな」

唯「やだやだ、最近の若者は……」

澪「おい、同年代」

律「ムギなんて、一人っ子の上にお嬢様だから想像を絶する甘やかされっぷりだろ」

唯「毎日ハーゲンダッツ! みたいなね」

律「なに? その例え」

唯「私はあっても週に1回なんだよね……」

律「あっそ……」

紬「確かに、むしろハーゲンダッツ以外のアイスがあったのを知ったのは皆と遊ぶようになってからだわ」

梓「さ、さすがお嬢様」


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