紬「桜ケ丘高校」

紬「次は私に危害を加えることができることを示してくるわ」

唯「……今日はお泊まりかぁ」

紬「ちょっと!唯ちゃん、まさか憂ちゃんに会う気!?」

唯「そうだよ、そのためにムギちゃんに質問しに来たんだから」

紬「……まぁ、私も話しちゃったし、責任は取るわ」

唯「ありがとう、ムギちゃん」

唯「でも良かった」

紬「?」

唯「だって憂、生きてるんでしょ?」

紬「……そうね」

唯「だったらまた会えるよね」

紬「……」


その日の夜、親には部活でお泊まりをしてくると嘘をついた

学校に宿泊許可は出さず、夜になるまで部室に隠れた

りっちゃんや澪ちゃん、特に和ちゃんには秘密にしておきたかったから

一応ムギちゃんが、もしもの時のためにガードマンを付けてくれているらしい

それでも夜の学校の静寂と暗闇は、私を緊張させた


午前2時辺りだろうか

人の足音が聞こえた

憂がもうそこまで来ているのかもしれない

足音が部室の前で止まる

鍵を開けようとする音が聞こえる

心臓の音が大きくなる

がちゃ、と聞こえたその瞬間、私はドアに向かって走り出した

唯「憂!」

「お、お姉ちゃ……」

紛れもない、憂の顔をした女の子は、私を振りほどこうとする

でも私は離れない、絶対に離さない

「い、今すぐ離れろ!さもないと爆発するぞ!」

憂の声で、聞いたことのないような言葉が発せられる

唯「憂……」

でも私は抱擁を止めない

唯「憂は本当にいい子だね」

「……」

唯「わざと誰も殺さなかったんでしょ?」

「……偶然……だ」

粗暴な声はだんだん昔の柔らかさを取り戻そうとしていた

唯「会いたかった、ずっと……」

「……」

憂「お姉ちゃん……」

そこにいたのは、やはり憂だった
私の可愛い妹だったのだ

唯「憂はやっぱり可愛いほうが似合ってるよ」

憂「……」

憂は気まずい、といった表情だ
暗闇でも顔を見れば何を考えているか分かってしまう

唯「さぁ、帰ろう」

憂「ダメ!」

唯「何で?」

憂「私は……もう人間じゃないの」

唯「知ってる、不死者……って言うんでしょ?」

憂は静かに頷いた

憂「だから、もうお姉ちゃんと一緒には暮らせないよ」

唯「何で?」

憂「人間じゃないからって言ったじゃん!」

唯「憂は憂だよ、人間じゃあなかろうと、憂そのままじゃん」

憂「……」

唯「しばらく見てないけど、変わってないね」

憂「お姉ちゃんは変わったよね」

唯「憂がいない間しっかりしてました!」

憂「もう……」

唯「それに不死者さんはムギちゃんがなんとかしてくれるらしいよ」

憂「え?琴吹家は不死者の敵だって……」

唯「そんなことないよ、ムギちゃんが嘘つく訳ないじゃん」

唯「ムギちゃん家では不死者さん達を治す実験をしてるんだって!」

憂「……」

憂「うん、お姉ちゃんが信じるなら、私も信じるよ」

唯「じゃあ改めて、帰ろっか」

憂「……うん!」


翌日、憂は我が家に帰ってきた

驚きのあまり今度はお父さんが死んでしまうところだった

お母さんは笑顔で迎えてくれたが、死んだ人間が生き返った場合、書類は必要なのか、と現実的だった

世間的には憂の失踪は爆発のせいで記憶喪失になり、放浪していた、ということにした

全く信憑性の無い嘘だが、真実よりは真実味がある話だと我ながら思う

あと、私は憂を受け入れたが、勝手にいなくなって、こともあろうにムギちゃんに迷惑をかけたのだ

その罰を憂に与えることにした

唯「憂がいなくなって悲しんだ人々に、お礼と心のケアをすること!」

憂「うん、そのくらいしなきゃ……だよね」

唯「あと、今後何かあったらまずお姉ちゃんに相談する事!」

憂「うん!」

軽音部のみんなも、和ちゃんも、憂のお友達も、憂の顔を見るといつもの笑顔が戻ってきた

あずにゃんは、憂が直接家に行って、色々話したらしい
とにかく全員元通りになって良かった

唯「そういえば憂、不死者の組織ってどんなだったの?」

憂「私が不死者だって実感したのは初めの爆発の時じゃなかったの」

憂「気が付いたら知らないところにいて、誰かに話しかけられて」

憂「その人が私のことを教えてくれたの」

憂「それからは……人間の世界にはいられないから、その人が居場所をくれて」

憂「だからその人のためなら何でもするつもりだったの」

唯「その人が、人を殺せって言っても?」

憂「……多分、お姉ちゃんじゃなかったら」

唯「じゃあやっぱり早めに見つかって良かったー」

憂「そう……だね」

唯「まぁまぁ、仕方なかったことなんだからそんなに気を落とさないで」

憂「うん」

唯「今日は私が頑張ってご飯作るから、食べてね」

憂「きっとお姉ちゃんがつくるご飯だからおいしいよね!」

甘く焦げくさいたまご焼きは、果たして憂を満足させられるのだろうか


おわり




おまけ


律「まさか憂が不死者だったとはねー」

澪「不死者ってゾンビとか吸血鬼とかじゃないよな……」ガクガク

和「あんたは失礼ねー……」

律「かくいう私も、実は不死者だったのです!」

澪「嘘だ―」

律「うはっ!本編で唯が言えなかった3文字をあっさりと!」

和「だって嘘なんでしょ?」

律「嘘ちゃうわ!ちゃあんと不死者の特殊能力ももってるもんねー」

澪「見せてくれたら信じるよ」

和「右に同じく」

律「じゃあ私の能力発表しちゃうぞ!驚くなよ!」

澪「はいはい」

律「私の能力は……」

律「ハンバーグを美味しく作る能力!」ババーン

澪「……ん?耳の調子が悪いのかな、もう一回言ってくれないか?」

律「ハンバーグを美味しく作る能力!」デデーン

和「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」

律「待ってよー、ホントなんだからー」

澪「憂ちゃんに謝れ、いろんな意味で」

和「私だって忙しいのよ」

律「ホントなのにー」

澪「そんなの信じられるか」

律「じゃあハンバーグ作るから今日私んち来い!お前ら!」

澪「しゃーねーな」

和「かったりー」

律「キャラ崩壊してまで否定しないで!」シクシク


……

律「じゃじゃーん、りっちゃんの愛情たっぷり特製ハンバーグ!」

澪「とうとう効果音を口で言っちゃうぐらい落ちぶれたか」

律「文句は食ってから言え!」

ぱくっ

和「……こ、これは!」

澪「……美味い」

律「だろだろー!」

澪「でも考えてみたら練習しただけなんじゃないの?」

和「そうよね」

律「あーもう!分かったよ、これだけはやりたくなかったんだけど……包丁プリーズ!」

指すぱーん!

澪「あ……あ……」

律「どうだー!指切っても全然平気!」

澪の目の前は真っ白になった

「……お……みお……」

律「澪!」

澪「はっ!ここはどこ!?」

律「全く、このまま永眠しちゃうかと心配したんだぞー」

澪「心配し過ぎだ!あ、律、指は……」

律「ん?ほれ」

澪「……なんともない、やっぱ夢だったのか」

和「夢じゃないわよ」

澪「きゃいん!?」

和「きゃいんって犬じゃないんだから……」

澪「で、でも律の指はちゃんと……」

和「ええ、あのあとちゃんとくっついたわ」

律「いやー、これやれば信じてもらえるのは分かってたんだけど、澪が気絶するしー」

澪「痛いのダメで悪かったな」

律「いや、むしろ信じないのが悪い」

和「でもいいの?組織とかに狙われてない?」

律「ふふーん、天才的なりっちゃんは組織の目など欺くことは容易!」

澪「ただ組織にいらない能力なだけじゃ……」ボソ

律「ええい!黙れい!指切るぞ!」

澪「気絶するぞ!」

和「まぁまぁ」

律「思えば能力に気付いたのはある雨の日だった……」

澪「なんか語りだしたよこの人」

律「私がハンバーグをこねている時、ふと何かが頭をよぎったんだ!」

律「このハンバーグはダメだ、私が本当のハンバーグを作って差し上げましょう!って」

和「自分のハンバーグにダメだしとか……」

律「その時作ったハンバーグのあまりのおいしさに、自分が不死者になったことを自覚したね」

澪「とにかくお前は憂ちゃんに謝る必要がある」

純「分かります!」

律「お前は……初めにちょっとだけしか出番が無かった純ちゃんじゃないか!」

純「その前書きはいらないと思います」

和「何?また状況が悪くなりそうなんだけど……」

純「実は私も不死者になったんです!」

澪「あーあ……」

純「私の能力は頭を爆発させる能力!髪をセットしてて自覚しました!」

律「そんなもんだよなー」

和「自己申告制なの?不死者って……」

紬「実は不死者を治す光線ができたのー♪」

澪「ムギも来た!」

紬「びびびびー」

純「うわあああ、反動で髪がサラサラに!」

律「うわあああ、反動でハンバーグが美味しくなく!」

紬「一件落着ね♪」

和「最悪なオチね……」


梓「おまけおわりです!」

律「唯一本編で一言も喋らなかった梓に締められた!」