梓「唯先輩に首輪つけたい」


純「なにいきなり」

梓「いや、首輪でもつけようかなって」

純「なに? そういうプレイがお好み!?」

梓「あっ……ち、ちがうって! ほんとそういう意味じゃない!」

純「わかったわかった。顔赤くしない! で、首輪って何なのさ」

梓「えっと、ほら、なんていうか唯先輩っていつもふらふらしてるでしょ?」

梓「だからなんか見てて危なっかしくて……不安だよ」

純「……ほほう?」

梓「ホントに変な意味はないよ。ただなんとなく似合うかなぁって……」

梓「唯先輩ってちょっと犬っぽいとこあるし……」

梓「た、たまたま思いついただけ!」

純「常日頃考えてないとそういう発想には至らないとおもうけど……」

梓「純とは、あ、頭の回転とかイマジネーション力がちがうんだよ!」

純「梓がつければいいじゃん。あずにゃんなんだし」

梓「うるさいなぁ。私は飼猫はヤなの!」

純「そっか梓は『私のことをご主人様とお呼び!』『あう~ん』がやりたいんだ」

梓「だからそういうのじゃないってば! 馬鹿にしないでよ」

純「あーはいはいなんとなく言いたいことはわかるよ」

梓「そ、そう?」

純「つまり愛しの唯先輩が他の人になびかないように拘束したいんだー?」

梓「えっ、と、ちがうもん!」

純「平たく言えばそういうニュアンスでしょ?」

梓「そ、そうなのかな……」

純「おやおや御自分でもわかってらっしゃらないと?」

梓「うぅ……ちがうもん」

純「梓は憂のお姉ちゃんのこと大好きだもんねー」

梓「好きじゃないし……嘘、わりと好き……かも」

純「へぇ~?」

梓「……純むかつく」

純「突然だけど携帯みせて」

梓「え?」

純「けーたいでんわ!」

梓「い、いや」

純「なんでー? じゃあさ、待ち受けだけでいいから」

梓「む、無理……」

純「ふーん? いったい何が待ち受けになってるのかなー」

梓「……」

純「あ、もしかして『わりと』好きな先輩だったりして」

梓「……いじわる」

純「いーじゃんいーじゃんコイバナ大好き華の女子高生です!」

梓「私と唯先輩はそんなんじゃないもん……」

純「わかったわかった。そんな顔しない、いじめてるみたいじゃん」

梓「いじめてる……じゃん」

純「で、話もどるけど首輪ってさ」

梓「あーもう! なんで純にこんなこと話ちゃったんだろう!」

純「キレる十代……」

梓「もうはっきり言う! めんどくさい!」

純「おぉ! 吹っ切れたかあずにゃん一号!」

梓「常日頃から唯先輩はあっちいったりこっちいったり、ふらふらふらふら!」

梓「澪先輩に甘えてるを見るとなんだかイライラするし」

梓「律先輩とじゃれあってるとムカムカ!」

梓「ムギ先輩とおふざけで抱き合ってるときなんてもう!」

梓「あーなんかヤな気分!」

純「あんた……そりゃ嫉妬だよ」

梓「しってるよ! ていうか自分でもびっくりしてる……」

純「独占欲の強い女ってやだねー」

梓「憂とベタベタしてるのはまだ許せるかな……」

純「許すって、何様」

梓「うぅ……」

純「でも梓は唯先輩の物なんでしょ? それでいいじゃん」

梓「そうなの?」

純「そうなのって……気づいてないのか背中の」

梓「え?」

純「いやいやこっちの話」

梓「あ、もうすぐお昼終わるね」

純「なにか進展があったらぜひきかせてほしいね」

梓「もう純には何も言わないから」

純「えー私の密かな楽しみだったのにー」

梓「くそー人のこ、こい、恋路を……いやなんでもない……ハァ」

純「ま、唯先輩の天然をなんとかするのはあんたにとっての試練だね」

梓「……むむむ」

梓「ねぇ、どうすればいいとおもう?」

純「人にいきなり聞くかー。自分でなんとかせんかいっ!」

梓「だって……難しいし」

憂「ただいまー」

梓「あ、おかえり」

純「おっかえりぃ! 今ね今ね梓が!」

梓「わー! だめだってば!」

憂「なになに? またお姉ちゃんのこと?」

純「鋭い! さすが憂」

梓「そんなしょっちゅう唯先輩の話してるみたいな……」

純「してるよね?」

憂「してるよー」

梓「うそだぁ……」

憂「授業はじまるよー」

梓「唯先輩の天然か……どうしよほんと」



放課後


梓「あの……」

律「なんだよぉ! いま盛り上がってるんだって!」

澪「梓もここ座って! ほら」

紬「うふふふ、うふふふ」

梓「はぁ……で、なんの話してるんですか?」

唯「コイバナだよあずにゃん!」

律「そ! コイバナ!」

梓「!!」ドキッ

澪「いまさっきまで唯の初恋について聞いてたんだ」

梓「え……初恋……唯先輩の」

唯「うん! 初恋!」

梓「そ、そうですか……初恋……」

律「どしたー? あからさまに落ち込んで」

紬「あらあら、聞きたかった?」

澪「もっかい話す?」

唯「えー恥ずかしいよー」

梓「……初恋」

律「うーん、じゃあ梓に聞いてみよっか」

梓「え?」

唯「……あずにゃんの初恋か」

律「梓はどんな恋をしてきたのかなーって」

澪「興味ある……かも」

紬「うんうん!」

唯「わ、わたしはあんまりききたくないかなぁ……っていうか練習しよー」

律「おい、唯?」

紬「どうして聞きたくないの?」

唯「うぅ……まぁいいや、話してあずにゃん」

梓「はぁ。といって初恋話なんてあってないようなもんですけど」

唯「はは、きかせてみんしゃい……」

澪「なんだ唯。顔ひきつってるぞ」

唯「え、えへへそうかな……」

梓「話していいですか? あんまり言いたくないですけど」

律「カモンかもん!」

紬「中学生時代!? それとも最近!?」

梓「あーえっと……すっごく前です」

律「いつぐらいだ?」

梓「んー記憶は定かじゃないですけど、たぶん小学校低学年くらい……」

律「こりゃまたずいぶんと昔だな」

澪「そ、そんなころから恋を……大人だな」

梓「か、からかわないでくださいね?」

律「うい!」

紬「了解~」

梓「できれば黙ってきいてほしいです」

梓「あれは確か家族で県外のなんとか動物ランドにいったときの事です」

梓「ほら、あの動物とふれあえるっていうアレです」

梓「そこで私、家族とはぐれて迷子になっちゃったんですよ」

律「おうおうおうおう!」

梓「だまってきいてください」

唯「……」

梓「それで怖くなってわんわん泣きながら走りまわってたらですね」

梓「一人の女の子と出会ったんです」

澪「女の子? 女の子!?」

梓「あ、はい。聞いてください」

梓「その子も私と同じく迷子になったみたいだったんですが、なんだかそうは思えないくらいあっけらかんとしていて」

梓「泣いてる私をそっと抱きしめて慰めてくれたんですよ」

梓「少し歳上か同い年くらいの子でした」

梓「それでしばらく一緒に二人で歩きまわったんです」

紬「……」ゴクリ

梓「その子がいるとなんだか気持ちが暖かくて、楽しかったんですよ」

梓「親をさがすことなんて忘れて夢中で遊びまわりました」

梓「いま思えばすごく危ないですよね」

梓「でも子供ながらにすごい冒険だったんです」

梓「それで、しばらくしてその子の家族が現れて、私はそのまま迷子センターへと届けられることになりました」

梓「そこには私の両親がいました」

梓「迷子になったはずの私が泣きもせずケロっとしていたので両親はびっくりしてました」

梓「でもそれは全部その子のおかげなんです」

梓「ずっと側にいてくれて、手をつないでくれて」

梓「笑顔が太陽みたいでした」

梓「あの温もりはいまでも忘れません」

梓「残念ながらそこでその子とはおわかれになりましたけど……」

梓「名前くらいきいとけば良かったなぁ……」

梓「あ、以上です。つまらなくてすいません」

梓「ていうかこれ初恋っていうんですかね?」


律「……」

澪「……」

紬「……」

唯「……」

梓「あれっ? いや、ほんとすいません期待外れでしたよね」


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梓「え?」

律「はぁーなんか嫉妬しちゃうんですけど」

梓「え?」

澪「カミサマっているんだな……」

紬「素敵……こんなことってあるのね」

梓「はぁ、でもそんなにロマンチックではないですよ? ずっと昔のことですし」

唯「……あずにゃん」

梓「はい?」


唯「あずにゃんだったんだ……」

梓「なにがです?」

唯「んーん、たまたまだよね」

律「いやいや! たまたまなわけあるか!」

澪「そうだぞ唯! 唯っ!!」

唯「あれれーなんか……混乱してるや」

梓「いまいち理解できないですけど」

紬「あのね、梓ちゃん。さっき唯ちゃんの」

律「あーまてムギ。それは絶対本人から!」

紬「そ、そうね。ごめんなさい……」

澪「ほら、唯。ちゃんと言わないとわからないぞ」

唯「だってぇ……」

梓「なんなんですか? 私だけわからないなんて不公平です」

唯「ん……あずにゃんさぁ」

梓「はい」

唯「あそこのおっきいハムスター気に入ってたよね……」

梓「え?」

唯「あと、わんわんゾーンで吠えられて泣いちゃってさ……でしょ?」

梓「な、なんで唯先輩が……あ!!」

梓「ああああああっ!!!」

唯「……えへ」

梓「う、うそ……」


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