梓「あの・・・。律先輩、唯先輩」

放課後。部室でのティータイム前、梓が口を開いた。

梓「私・・・。お二人に聞きたいことがあるんです・・・」

紬「梓ちゃん!」

律「ムギ」

それを聞いたムギがなにか言い出しそうになったのを、私は制止した。

どうせいつまでも隠しておける事じゃないんだ。はっきりさせた方がいい。

唯「なに?あずにゃん。」

梓「今、その・・・。変な噂が流れてて。なんか唯先輩と律先輩が付き合ってるみたいって、そんなのが。

  もちろん私は、そんなはずないって否定しておきましたよ」

梓「でも、やっぱり直接確かめたくて・・・。唯先輩、律先輩。あんな噂、嘘ですよね?」

唯「本当だよ」

梓「え?」

唯「私たちね、付き合ってるんだ」

梓「嘘・・・。」

唯「でもね、聞いてあずにゃん」

そう言って梓に手を伸ばす唯

梓「いや!」

梓はその手をはらった。

唯「っ!」

律「梓!」

梓「おかしいですよ2人共・・・。女の子同士なのに・・・」

そう言って梓は走って部室を出ていった。

唯「あずにゃん待って!」

その後を、唯も走って追いかけていった。私もその後を追いかけようとしたとき

澪「律」

部活中ずっと口を開かなかった澪が私を呼んだ。

澪「やっぱりホントだったんだな。唯と付き合ってるって」

律「ああ。黙ってて悪かったな」

澪「いつからなんだ?」

律「一週間くらい前からかな」

澪「そうか」

私と澪は親友だ。澪は私のことなら何だって分かってくれるし、理解してくれる。

そう信じていた。だけど

澪「律、お前たち、別れるべきだよ」

律「・・・!?」

だけど、それは私の勘違いだったみたいだ。

紬「そんな!澪ちゃんまでなんでそんなヒドいことを」

澪「ごめん、ムギ。ちょっと黙っててくれ」

澪はムギにそういうと、また私の方を見て続けた。

澪「女同士なんて、絶対にうまくいきっこないよ」

律「なんだよ・・・。それ」

私の中で澪に対する怒りがどんどん大きくなっていった。

親友に裏切られたような気分だった。

澪なら私達の事を応援してくれるって思っていたのに。

律「澪までそんな事言うのかよ・・・。親友だって思ってたのに・・・」

澪「親友だから言ってるんだよ律。私は心配なんだ。律の事も唯の事も」

澪「梓のさっきの反応見ただろ?それに、学校のみんなのお前達を見る目だって・・・」

澪「わかるだろ?律」

わかんないよ。なんなんだよみんな。なんで私達の邪魔ばかりするんだ。

もうほっといてくれよ。

澪「だからさ、もうやめよう?律も唯もさ、普通に戻るべきだよ」

律「っ!」

気づいたら、私は澪の頬を全力で打っていた。

律「最低だよ・・・澪」

私は部室を飛び出した。後ろでムギの呼ぶ声が聞こえたけど、そんなのどうでもいい。

もう誰も信じない。唯がいてくれればそれでいい。


律「唯」

私達のクラスの教室に、1人ぽつんと唯は座っていた。放心しているように見える。

唯「あ、りっちゃん・・・」

私に気づいた唯が力なく笑いかけてくる。

唯「あはは、駄目だったよ。私、あずにゃんに嫌われちゃったみたい」

律「そっか」

唯「もう・・・いやだ。なんでこんな事になっちゃうのかな・・・」

律「唯、大丈夫だよ。私がいる。ずっと一緒にいるから」

私は唯が泣き止むまで、ずっと唯のことを抱きしめていた。


……

律「よし!出来た!」

12月23日。ようやくマフラーが完成した。

かわいいピンク色のマフラー。

売ってるものと比べるられるとちょっと困る出来ではあるけれど、

それでも私が心を込めて一生懸命編んだマフラーだ。

律「唯、喜んでくれるといいな」


私と唯はあの日以降、学校ではずっと2人でいた。

朝は2人で登校して、昼は2人でご飯を食べて、放課後は部活には行かずに2人で遊んだ。

楽しかった。軽音部なんかで過ごしていた時の何倍も。

他の人間なんてどうでもよかった。

唯と一緒にいるだけで幸せだった。


唯も同じ気持ちだと思っていた。



次の日。クリスマスイブ。

天気予報によると今日は夜から雪が降るらしい。

私は唯との待ち合わせ場所にいた。プレゼントのマフラーを袋に入れて。

今は16時。待ち合わせの時間の17時まであと1時間。

私は唯が来るのを待った。楽しみで心臓がドキドキいっている。

律「早く来ないかな~、唯」

16時55分。ついに唯がやってきた。

唯「お待たせ、りっちゃん。待たせちゃった?」

律「全然。私もさっき来たとこだよ」

唯「そっか。よかったよ」

律「メリークリスマス。唯」

唯「うん・・・。メリークリスマス、りっちゃん」

律「へへーん。クリスマスということで、なんと私から唯にプレゼントが」

唯「りっちゃん」

私の言葉を唯が遮る。唯はいつになく真面目な顔をしていた。

律「ん?どうした唯」

唯「りっちゃん、私ね、今日はデートをするためじゃなくて、りっちゃんに話をするためにきたの」

律「え?話って?」

唯「うん。りっちゃんあのね」

唯「私達、別れよう」


律「え?」

信じられなかった。唯がそんな事を言い出すなんて。

私は手に持っていたプレゼントの袋を地面に落としてしまった。

律「冗談・・・だよな」

唯「ううん。冗談じゃないよ」

律「な・・・なんでだよ」

唯「やっぱりさ、おかしいんだよ。女の子同士なんて」

律「そんな事ないだろ!周りにどう思われたって別にいいじゃんか!」

唯「違うの。私が言ってるのは、周りのことだけじゃないの」

唯「私さ、最近ずっと考えてたんだ。どうして女の子同士は駄目なんだろう。おかしいって思われるんだろうって」

唯「それはさ、きっと、幸せになる事が出来ないからなんだよ」

律「なんだよそれ・・・」

唯「りっちゃんはさ、幸せってなんだと思う?」

律「幸せ?」

そんなの決まっている。好きな人と一緒にいることだ。

だから私は、唯といられればそれだけで幸せなんだ。

でも、唯の答えは少し違った。

唯「きっと幸せっていうのはさ、好きな人と結婚して、子供を産んで、家族を持つ。そういうことを言うんじゃないかな」

律「結婚なんて、そんなのただの形式じゃんか!そうだ。卒業したらさ、私達一緒に暮らそうよ。

  子供は・・・無理だけどさ。でも私達ならきっと幸せになれるよ」

唯「駄目だよ。りっちゃん」

唯は駄々をこねる子供を諭すような、優しい口調で言った。

唯「きっとさ、いつかりっちゃんにも、私にも、大好きな男の人が出来る」

唯「そして私達は、その人と恋愛をして、結婚をして、子供を産んで、幸せな家庭を築くんだよ」

唯「だからさ、私達は、お別れしなきゃ駄目なんだ」


きっと、唯の言っていることは間違っている。

結婚する事が幸せなんて前時代的もいいとこだ。

それなのに、まともな反論が出てこない。

代わりに出てくるのは、陳腐な質問。

律「唯は・・・。もう私のこと、好きじゃないのか?」

唯「好きだよ。大好き。世界で一番好き」

律「じゃあ何でそんな事言うんだよ!?」

唯「好きだからだよ」

唯「りっちゃんの事が大好きだから、別れるんだよ」


今日は12月24日。クリスマスイブ。

私は1人、雪の降る道を歩いている。

唯にプレゼントするはずだったマフラーを首に巻いて。

かわいいピンク色で、きっと唯にとっても似合うマフラー。

律「私には似合わないよ・・・唯」

私は独り言をつぶやく。

律「唯が巻いてよ・・・。お願いだよ・・・」

私はその場にしゃがみこみ、声にならない声をあげて泣いた。

別れ際に見た唯の泣き顔が、いつまでも私の頭を離れなかった。

おわり