突然ですが私、田井中律にはとってもかわいい彼女がいる。

彼女の名前は平沢唯。

天然で、かわいくて、ギターがうまくて、いいところをあげたらきりがないんだけど。

とにかく私の自慢の彼女だ。

私が唯を意識し始めたのはいつの頃からだっけ?

少なくとも去年の今頃はもう好きだったような気がするけど、よく覚えていない。

初恋だった。初めての恋で女の子を好きになってしまって当時はかなり動揺したものだ。

まあでも、女子校ではありがちな話だよな?たぶん、きっと。

ただ一つ勘違いしないで欲しいのは、私はレズではない。

私は唯が好きなだけ。好きな人がたまたま女の子だっただけだ。

      • ホントだぞ?

で、1年以上ずっと片思いをしてたわけだけど、ついに今日、ほんの数時間前、とうとう我慢が出来なくなり私は唯に告白した。

日付は12月12日。もうすぐ受験を控えてるというのに、大胆なことをしたと自分でも思う。

でも、高校最後のクリスマスは、どうしても唯と2人きりで過ごしたかったんだ。

だけど、やっぱり私たちは女同士だし、正直玉砕覚悟で望んだ告白だったけど、結果はまさかのOK。

私も前から好きだったよ、って言ってくれた。


そして今に至る。私は今、自室で妙にハイテンションにになっていた。

律「へへへ」

自然とにやけ顔になってしまう。

律「唯と恋人同士かー・・・。」

キャーヽ(≧▽≦)/

今の私はいつものボーイッシュりっちゃんではない。乙女りっちゃんだ。

律「よし。これで今年のクリスマスは唯と2人きりで過ごせる」

私も女の子だからな。恋人とのクリスマスデートにはやっぱり憧れる。

唯と一緒に見るイルミネーション。どんなに素敵だろうか。

律「それでー、いい雰囲気になって、そのまま自然と・・・って何考えてんだ私///。キスもまだだってのに///」

うん。やっぱりテンションおかしいな私。

でも告白成功直後なんだ。これくらい許してくれ。

律「唯は今何してるんだろ?電話してみようかな?」

さっき別れたばかりなのに電話なんてさすがに迷惑だろうか?

律「いや、恋人なんだしいいよな。忙しそうだったら切ればいいし」

そう思い、私は唯に電話をかける。

prrrr・・・。

数回のコールの後、電話は繋がった。

唯「もしもし、りっちゃん?」

律「おう、唯。私だ」

唯「うん。りっちゃんどうしたの?」

律「いや、別に特に用事があるわけじゃないんだけどさ、唯は今何してるのかな~って思って。というか今大丈夫?迷惑じゃない?」

唯「ううん、全然大丈夫だよ。今はね、憂のご飯が出来るのを待ってるとこ。だからそれまでだったらお話出来るよ」

律「そっか。良かった」

唯「はは~ん。りっちゃんってば、そんなに私と話したくてしかたなかったんだ~」

律「なっ///。そんなんじゃねーよ///」

唯「照れなくてもいいのに~。私はりっちゃんとお話したかったよ」

律「そ、そうなんだ///」

やばい。やっぱ唯かわいすぎ。

唯「うん。私たちは恋人同士なんだもん。当然だよ」

律「だ、だよな。当然だよな」

唯「やっぱりりっちゃんも話したかったんじゃん」

律「うっ///」

きっと私の顔は今真っ赤になっているはずだ。電話でよかった。

唯「ねぇりっちゃん。今日はありがとうね。りっちゃんの告白、すごい嬉しかった」

律「私はすごい恥ずかしかったけどな」

唯「私にはりっちゃんみたいな勇気はないから、りっちゃんが告白してくれなかったらきっと片思いのまま高校を卒業してたと思う」

律「そっか。だったら私も勇気を出した甲斐があるってもんだな」

唯「うん、本当にありがとうね。でね、私たちは晴れて恋人同士になったわけだけど」

律「う、うん///」

唯「このことはさ、みんなには黙っていよ?」

律「え?」

唯「軽音部のみんなにも、クラスのみんなにも、憂にも。私たちだけの秘密にした方がいいと思う」

律「別にいいけど、何でだ?」

唯「だって、私たちは女の子同士だし、やっぱりその、あんまりいい目では見られないと思うんだ」

そっか。唯とつき合えることに浮かれてよく考えてなかったけど、あんまり世間的にみたらいい事ではないもんな。

律「でも、澪達にもか?あいつらなら」

唯「軽音部のみんなを信用してないわけじゃないよ。でも、やっぱり・・・」

律「・・・そっか。分かったよ。じゃあ私達のことは2人だけの秘密な」

唯「ありがとう、りっちゃん」

律「いいのいいの。秘密の恋ってのもスリリングで燃えそうだしな」

唯「もう、りっちゃんったら~///」

あ、そうだ。そういえば唯のクリスマスの予定聞いてなかったな。さっきは唯と2人で過ごせるとかはしゃいでたけど、もし予定とかあったらどうしよう・・・

律「ところでさ、唯ってクリスマスの予定とかって・・・あったりするか?」

唯「クリスマス?ううん。特に予定はないよ」

律「そっか!じゃあさ、デートしよう。デート」

唯「りっちゃん勉強しなくて大丈夫なの?」

律「うっ・・・。」

まさか唯に勉強の心配をされるとは思わなかったな。

律「だ、大丈夫だって1日くらい。せっかくのクリスマスなんだしさ」

唯「うーん。まぁそうだね。せっかくのクリスマスだもんね。私もりっちゃんと過ごしたい」

律「ほんとか!?じゃあクリスマスはデートな。約束だ」

唯「うん。約束ね。」

その後私達は、他愛もない話をして過ごした。

唯「あっ、ごめんりっちゃん。憂が呼んでる。ご飯が出来たみたい。もう切るね」

律「そっか・・・。分かった」

唯「ごめんね。また明日学校でね」

律「あっ!唯!」

唯「ん?なにりっちゃん」

律「その・・・。好きだよ、唯///」

唯「うん///。私も大好きだよ、りっちゃん。またね」

そう言って唯は電話を切った。楽しい時間はあっと言う間にすぎてしまう。

すこし、いや、かなり残念だったけど、まあクリスマスの約束が出来ただけでも良しとしよう。


律「そうだ。クリスマスっていったらやっぱプレゼントが必要だよな」

何をあげたら唯は喜ぶだろうか。

かわいいぬいぐるみとか?もう高3なのにさすがに子供っぽすぎるかな。

じゃあ洋服はどうだろ?まあ無難な感じではあるけどな~。

律「なんかどれもピンとこないなあ」

う~ん。恋人へのプレゼントなんて初めてだからな~。いいのが思いつかない。

律「明日唯にそれとなく聞いてみるかな」


……

澪「おはよう、律」

律「おう、おはよう澪」

次の日の朝、私はいつも通り澪と一緒に学校へ向かう。

もう12月中旬。だいぶ朝が寒くなってきた。

澪「お、どうしたんだ律?なんかご機嫌だな」

律「え、なんで?」

澪「だって、なんかすごい笑顔じゃないか。なにかいい事でもあったのか?」

そんなに顔にでているだろうか。確かに早く唯に会いたくてウキウキしているのは本当だけど。

律「へへー。実はさ」

途中まで言いかけて思い出す。そうだ。誰にも言わないって唯と決めたんだっけか。

律「あ、いや。ううん。なんでもない」

澪「なんだよそれ。なにか言いかけただろ?」

律「いやいや。ホントなんでもないよ」

澪「・・・ふーん、そ。律がそういうならこれ以上は聞かないよ」

ごめんな澪。正直私は澪になら教えても大丈夫なんじゃないかって思ってたりもする。

私の幼なじみで、一番の親友だからな。きっと私達の事だって理解してくれる。

でもやっぱり唯との約束は破りたくないから。


律「おはよう、唯、ムギ」

澪「おはよう」

唯「あっ、りっちゃんに澪ちゃん。おはよう」

紬「2人ともおはよう」

学校の教室について恋人を見つけた私は、すぐにでも走り寄って抱きつきたい衝動にかられたが、

何とか我慢して唯とムギに朝の挨拶をする。

私達は昨日の電話で、みんなでいる時はいつも通りでいようと決めていた。

だから、私も出来る限りいつも通りを心がける。

唯「いや~。今日は寒いですな~。」

澪「そうだな。もう冬だし」


律「唯は寒くなくてもだろ」

唯「ぶー。そんなことないもん」

紬「まあまあ。それに学校に行くのもつらいわよね~」

唯「だよね。私この前マフラーを電柱に引っ掛けて駄目にしちゃってさ~、余計にそう思うよ」

律「なにやってんだよ唯は」

澪「これからもっと寒くなるし、さすがに買った方がいいんじゃないか?」

唯「う~ん。でも今月はお小遣い、マフラー買うほど余裕がなくてね~。お年玉もらったら買おうかなって」

澪「今からお年玉をあてにするなよ」

ガラガラ

さわ子「みんな席について。出欠とるわよ」

さわちゃんが教室に入ってきたので、みんなそれぞれ自分の席に戻った。

それにしても来るの早すぎるよさわちゃん。もっと唯としゃべりたかったのになー。

でも、さっき思いがけずいい事を聞いた。唯は今、マフラーを持っていないらしい。

マフラー。手編みのマフラー。ベタだけどなかなかいいんじゃないだろうか。

ただ、一つ問題がある。

律「私に作れるかな」


私はあまり細かい作業が得意ではない。

もちろんマフラーなんて作ったことはないし、そもそも私のキャラじゃない。

でも、唯が喜んでくれるところを想像するだけで、どんどんやる気が出てくる。

よし。そうと決まれば善は急げだ。帰りに色々買っていくか。

そんなことを考えているとき、私の携帯にメールが届いた。唯からだ。

唯『学校だとなかなか2人きりになる機会がなくてイチャイチャ出来ないね。寂しいよう』

律「///」

唯はホントにかわいいな~。

でも、言われてみれば確かにそうだよな。

学校だと基本的にみんな一緒だから、なかなか2人になれないんだ。

律「あっ、そうだ」

私は唯にメールを返信する。

律『そうだな。じゃあさ唯。今度の日曜日、一緒に遊ぼうぜ?』

唯『今度の日曜日?クリスマスじゃないの?』

律『もちろんクリスマスもだよ。だけど別にクリスマスまでデートしちゃいけないって事じゃないだろ?』

唯『それもそうだね。うん、分かったよ。じゃあ日曜日はデートだね』

律『よっしゃ。じゃあ日曜日は駅前で待ち合わせな』

唯『うん、分かった。日曜日が待ち遠しいよ』

律「へへ」

唯と初めてのデートだ。楽しみだな。


その日の放課後。部活(私達3年生は勉強だけど)が終わり、私は1人、商店街の本屋に来ていた。

律「手編み・・・。手編み・・・。あった。ここら辺か」

マフラーなんて編んだ事のない私は、まずは指南書を探しているところだ。

律「うーん。どれがいいのかさっぱりわからん」

梓「あれ?律先輩じゃないですか」

名前を呼ばれて振り返ると、そこには軽音部の後輩、中野梓がいた。

律「おう、梓。何やってんだこんなとこで?」

梓「本屋さんなんですから本を買いに来たんですよ。毎月買ってる音楽の雑誌があるんです。律先輩は何を見てるんですか?」

梓が私の手にしている本に目をやる。

私は慌てて持っていた本を後ろに隠したが、どうやら間に合わなかったらしい。

梓「初めての手編みレッスン・・・」

ヤバい!見られた!

梓「プッ・・・。アハハハ、アハハハハハ」

いきなり梓が笑い出した。爆笑だ。こんなに笑っている梓を見るのは初めてかもしれない。

律「な、何笑ってんだよ」

きっと今、私の顔は真っ赤になっているだろう。

梓「だ、だってww。律先輩が手編みってwww。苦しいwお腹痛いww」

こいつはホントに私の後輩だろうか。先輩に対する敬意ってもんが全く感じられない。


梓「ハァ、ハァ。もう、笑わせないでくださいよ律先輩」

律「別に笑わせてねーよ!」

梓「それで?何で律先輩はそんな本見てるんですか?」

律「なんでもないよ。ただ何となく手に取っただけだ」

梓「別に隠さなくてもいいじゃないですか。律先輩も女の子なんですから。おかしくないと思いますよ」

あんだけ笑っといてどの口が言うのか。

梓「でも知りませんでした。律先輩にそんな相手がいたなんて。女子高なのにどこで知り合ったんですか?」

なんでもないって言ってるのに勝手に話を続ける梓。しかもなんか勘違いしてるし。

律「だからなんでもないってば。それよりお前、雑誌買いに来たんだろ?さっさと買って帰れよ」

梓「そんな邪険にしないでくださいよ。教えてくれたっていいのじゃないですか」

律「だーかーらー」

梓「あーはいはい、分かりましたよ。もう聞きませんってば。

  律先輩って以外と恥ずかしがり屋なんですね。では、失礼します」

梓がそう言って去っていこうとするので、私は呼び止めて言った。

律「おい、ホントになんでもないんだからな。他の人に変なこと言ったりするなよ」

梓「分かってますよ」

ホントに大丈夫かな・・・。


律「よし、今日はこれで終了っと」

今日の勉強を終わりにして、私は大きく伸びをする。

疲れた。けど今日からは他にやらなければいけないことがあるので、休んではいられない。

律「早速始めようかな」

あの後、私は指南書一冊と、雑貨屋で毛糸やらなにやら一式を買って帰った。

ピンク色の毛糸。きっと唯によく似合う。

律「えーっと、まずは」時間があまりないので、指南書を読みながら同時進行で進めていく事にする。

律「作り目を作って、次は、えーっと・・・」


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最終更新:2011年01月20日 23:07