すうじつご!

唯「澪ちゃん、腕組んで歩こ?」

澪「う…まぁ、人目もないし、仕方ないな///」

唯「わーい」ギュッ

澪「///」

澪(唯と付き合うことになって、私は凄く幸せだ。こんな陳腐な言葉でしか表現できないのが悔しいほどに)

澪(ただ一つ、ずっと私を悩ませている事象を除けば、だけど)

憂「あ、お姉ちゃん!」トテトテ

唯「おー、憂だ」

憂「はい、頼まれてた物持ってきたよ!」

唯「おー、ありがとー」ナデナデ

憂「えへへ///」テレテレ

澪「………」

澪(これも一種の嫉妬、なのだろうか)

澪(私の方が、憂ちゃんよりずっと幸せな場所にいるのに)

澪(私は、憂ちゃんみたいに幸せな顔で笑えているのか、不安になる)

澪(というか、なんで憂ちゃんがあんな幸せそうな顔で笑えるのかがわからない)

澪(私という恋人がいて、自分の想いは届かないと憂ちゃんだってわかっているはずだ。なのに…何故?)

澪(……そんなに、唯に尽くす事が幸せなんだろうか?)

澪(……私も、唯に褒められて頭をナデナデされてみたいな…)

澪(…恋人なんだし、頼めばやってくれるだろうけど、それは何か違うよな)

憂「じゃあねーお姉ちゃん。夕食までには帰ってきてねー」トテテ

唯「あいあいさー」

澪「……よし!」フンス

唯「ど、どうしたの澪ちゃん? 急に気合入れちゃって」

澪「うん、唯、何か私にして欲しいことはないか!?」

唯「え、急に何なの?? 私は、澪ちゃんには…ずっと私のことを好きでいてくれたら、それだけで…」テレテレ

澪「うっ…/// そ、そうじゃなくて! 何かこう、行動で! やってほしい事とか!!」

澪「荷物持とうか? 料理しようか? 家までおぶって帰ろうか? 何でもするぞ!」

唯「う、う~ん??? えっと…ごめんね、澪ちゃん……私、恋人なのに、澪ちゃんが何を求めているのかわからないよ…」シュン

澪「あ、あぁ、違う、違うんだ唯……」

澪(違うんだ、悲しい顔をさせたかったわけじゃないんだ。私は、ただ……)

澪「…そういえばこの前、唯に言われたっけ。ハッキリしろって」

唯「…あのときはごめんね? 偉そうなこと言っちゃって」

澪「いや、私が悪いんだ。だから、今度はハッキリ言うから……その、笑わないで聞いてくれ」

唯「うん、澪ちゃんが笑って欲しくないなら、笑わないよう努力するよ」

澪「努力だけか……。まぁ、とりあえず言うけど…、その、な。わ、私にも……」

唯「うん…」ドキドキ

澪「わ、私にも何か命令してくれ! そして、上手くできたら褒めてほしいんだ!」

唯「」ポカーン

澪「……………おーい、唯?」

唯「……えっと、なんで?」

澪「それは、その……あぁもう、喰らわば皿まで、か」

澪「何と言うか…憂ちゃんに嫉妬してるんだよ私は!」

澪「憂ちゃんより私の方が、唯に大切にされてるはずなんだ!」

唯「う、うん…そんなの、当たり前だよ?」

澪「だから! 憂ちゃんにするようなことは、もちろん私にもしてくれるよな!?」

唯「も、もちろんいいけど……えっと、なでなでしたり、おでこにちゅーすればいいの?」

澪「そうなんだけどそうじゃなくて! 私も憂ちゃんみたいに、ごほうびとして欲しいんだ!」

唯「う、うん……わかったよ…うん」

澪「……ああああああぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃぃ!!!」

唯「あ、み、澪ちゃんごめんね? 恥ずかしいこと言わせちゃって…気づいてあげられなくて」

澪「…いや、いいんだよ。言わないと伝わらないことって、やっぱりあるよな…特にこんな変なことは」

唯「変かどうかはわからないけど、とにかく聞いたからには任せて!」フンス

澪「う、うん。なんか変な感じだけど…」

唯「じゃあ……よし、澪ちゃん! 家まで私をお姫様だっこしなさいっ!」

澪「………え、ええっ!? それはさすがに恥ずかしい…」

唯「人目は少ないから大丈夫だってー。人が増えてきたら降ろしてくれてもいいから」

澪「で、でも……」

唯「私、お姫様だっこされるのが夢だったの~♪」

澪「あんまり似てないぞ」

唯「ぶー。それよりー、してくれるの? くれないの?」

澪「……ごめんな。元々命令だったな、そういえば。よし、やるよ」

唯「わーい♪」

澪「よっ……と! ん、思ったより軽い…」

唯「…そんなにおでぶさんに見られてたのかな、私」

澪「そうじゃないよ。心の中では、唯の存在は誰よりも重いから」

唯「……なにそれ、ちょっとカッコイイ///」

澪「一度言ってみたかったんだ、キザなセリフ。それより……ごほうび、忘れないでくれよ?」

唯「もちろん♪ っていうか、今ちょっとあげちゃう」ギュッ

澪「わっ、唯、首に手を回すな、危ない――」

唯「――かっこいいよ、澪ちゃん。素敵」フゥッ

澪(ひゃっ!? み、耳元に吐息が……あったかくて、ゾクゾクして…///)

唯「――私、どうにかなっちゃいそう」

澪「あふん」ガクン

唯「……って、ええっ!?」ドサッ

澪「こ、腰が抜けた……って、ゆ、唯!? ごめん、大丈夫か!?」

唯「い、いったぁ~い……おしり打ったぁ~」サスサス

澪「ご、ゴメン! 本当に!」

唯「う、ううん、一応原因は私みたいだし……調子乗っちゃってごめんね?」

澪「い、いや、それは……もっと調子乗って欲しいというか、気持ちよかったというか」ゴニョゴニョ

唯「そ、そう? 澪ちゃん相手だから、憂よりオトナなごほうびというか、ちょっと気合入れてみました!」

澪「……正直、すごく、よかった…」

唯「…ん。じゃあ澪ちゃん、もう一回」

澪「お姫様抱っこ?」

唯「うん。家までちゃんと送り届けてくれたら、もう一回してあげる」

澪「……よし、わかった」


澪(……あ、なんか憂ちゃんの気持ちがわかったかもしれない)

澪(ごほうびという形で、唯に愛情を与えてもらうためなら、何でも出来る気がする)

澪(それに、唯のごほうびは、ちゃんと相手に合わせて考えてくれてる。私のことを考えてくれている)

澪(それは…すごく嬉しい。私は…というか憂ちゃんや私は、自分のことを見てくれているという実感を求めている)

澪(基本的に、どこか寂しがりだから。一人じゃないと思いたいから)

澪(そうか…だから最近の憂ちゃんは)

澪(命令と服従という形ででも、唯との繋がりを求めていたんだ――)


……

憂「」チラッ

憂「ふふっ…澪さん、幸せそう」

憂「お姉ちゃんに尽くす幸せ、澪さんもわかったみたい」

憂「……でも、澪さん、気づいてますか?」

憂「そこは、恋人の居場所じゃないですよ?」


――平沢唯です。

あれから、私と澪ちゃんは仲良くやっています。私と憂も…だいぶ元通りになりつつあります。
そもそも大前提として。憂は私のことを好きで、それ故にやってくれた、というのがあります。それだけは私にもわかっていました。ですから、本来その事でネチネチと言うつもりはなかったのです。
第一、私が憂に勝てるものが何一つ無いというのは、ずっと昔からわかっていたことです。
ただ、それでも私にだって譲れないものがある。ギー太の腕……ではなく、軽音部、放課後ティータイムの一員としての、平沢唯という人間の居場所が。
憂がギターを弾くこと自体は、私にとってはどうでもいいのです。私のフリをして弾いたことが問題なだけであって。
――ということを憂に伝えたかったわけですが、まぁ、今となってはどうでもいいかな。だって……



憂「お姉ちゃーん」ガラッ

律「おや、憂ちゃんだぞ唯」

唯「んー? どしたの憂?」

憂「うん、今日の晩御飯何がいいかな? と思って。何でも言ってね」

唯「うーん、そうだねぇ……明日は休みだし、豪華なもの食べたいねぇ。お鍋とか」

憂「豪華なお鍋……うん、任せて! いろいろ買って帰って片っ端から放り込むよ!」

梓「それって豪華って言うの…?」

律「うちもたまにやるぞ? すげー量になってな、見た目は豪華だぜ? でも、そうなると憂ちゃん一人じゃ荷物持てないかもしれないけど」

澪「……よし、憂ちゃん、荷物持ち、私も手伝うよ」ガタッ

憂「え、いいですよそんな」

澪「いいやダメだ。憂ちゃんにばかり負担はさせられないし、それに回り回っては唯のためだ」キリッ

憂(後半が本音ですよね)ボソッ

澪(もちろんだ。憂ちゃんにばかり点数は稼がせない)ボソッ

唯「………」

律「よっ、カッコイイぞ澪さん!」

梓「好きな人のために、ですか……なんか複雑な気分です」

律「梓は唯も澪も大好きだったもんな~?」

梓「茶化さないでください!」

紬「大丈夫よ梓ちゃん! 私はフリーよ!」バッ

律「なんの! 私もフリーだぞ!」バッ

紬「りっちゃん愛してる! 愛の証にこのパイナップルを受け取って!」ガシッ

律「ムギ! 私のために毎朝沢庵を作ってくれ!」ガシッ

梓「……あれ、私を放置する流れですか?」

唯「あずにゃんが寂しさに負けてツッコミを放棄している…」

澪「とにかく、そういうわけで荷物は私に任せてくれ、唯」

憂「じゃあ料理は私に任せてね、お姉ちゃん!」

唯「……なんで二人とも私に言うの?」

澪「それは……なぁ」チラッ

憂「ですよねぇ」チラッ

唯「…………」

澪「……憂ちゃんには負けない!」ダッ

憂「……澪さんには負けない!」ダッ

律「……なんであいつら、行き先一緒なのに競争してんの?」

紬「唯ちゃんモテモテねぇ。何したの?」

唯「何もしてないよ……たぶん」


とはいうものの、二人が私の『ごほうび』のために争っているのは目に見えて明らかなのですが。
最近はこんなことばっかりです。学校だからこそ二人は『私の世話をしている』という体を装っていますが、家に帰れば命令をねだる可愛い猫さんです。
いえ、むしろねだるというより、餌を取り合う感じでしょうか。猫さんはけんかの多い生き物です。
……猫さんといえば、あずにゃんには少し悪いことをしてしまった気もします。りっちゃんの言ったことはわりと的を射ていたようで、部活中もどこか寂しげです。
でも、私があずにゃんに抱きつくと澪ちゃんの視線が怖いんです。どうすれば。


梓「っていうか練習しましょうよ……澪先輩だけが頼みの綱だったのに…」

唯「じゃあ、今度私から澪ちゃんに言っておくよ」

梓「えー、唯先輩がそもそもいっつも練習しない人じゃないですか……」

唯「ぶーぶー。今度の部活の時の私は一味違うよ! 今度だけだけど!」

梓「はぁ……来年私が部長になったら練習はちゃんとやらせよう…」

律「言いづらいんだが、その前に部員集めだな……うん、私の責任も少しあるけどさ」

唯「憂には入るように言っとくよー。言わなくても大丈夫かもしれないけど、一応ね」

紬「ふふっ、なんか今日の唯ちゃんはお姉さんキャラみたいね? 頼もしいわ」

唯「そうかなー」テレテレ


お姉さんってムギちゃんは言うけれど、実際はもっと濃いものだと思います。
なんていうか…ご主人様? いや、それは言いすぎかな。私と澪ちゃんは対等だから。少なくとも私はそう思ってるから。
そして、憂とも上下関係みたいなのは特に意識してません。あくまで姉妹です。少なくとも今の私は、そう思えるようになりました。


――澪ちゃんも憂も、私よりよく出来た子なのに、私がいないと生きていけません、と言います。
きっとそれは精神的なものなのでしょう。
でも私は、日常生活的な面から見ても二人がいないと生きていけません。もちろん精神的にも澪ちゃんを失うのは絶対に嫌です。憂でも…嫌だと思います。

それなのに、二人は私に縋るのです。
それは、ひどく歪で、不思議な光景だと私も思います。でも、同時に私の心は充足感を感じています。
歪なのは私の方でしょうか。二人の方でしょうか。頭の悪い私にはわかりません。
ただ、一つだけ言えることは。


澪「……おい、憂! 次は私に譲るって言っただろ!」

憂「あれ、言いましたっけ? 私、お姉ちゃんに似て忘れっぽいんで…ごめんなさい」

澪「この――」

唯「二人ともー、けんかはダメだよ? 私の言うことが聞けないの?」

澪「まさか。私は唯の唯一無二の恋人だからな。何でも聞くぞ?」

憂「私だってお姉ちゃんの世界に一人の妹だもん。何でも聞くよ?」

唯「じゃあ、仲直りして?」

澪「ごめんな、憂。私の方が年上だもんな、譲るよ」ニコッ

憂「いえいえ、私の方こそ。私はずっとお姉ちゃんと過ごしてきたんで、今回くらいは澪さんに」ニコッ



――今日も、私たちはいつも通り、笑顔です。



おわった