※話さない


――澪ちゃんは、ホントに優しい。
私のことも、憂のことも、同じようにちゃんと見てくれている。憂とはそんなに接点はないはずなのに。
でも、だからこそ、私は問いかけないと気が済まない。

唯「……澪ちゃんが助けたいのは、私なの? 憂なの?」

澪「助けるなんて崇高な気持ちじゃないよ。唯が何も話してくれないから、私には二人の問題は解決できない」

澪「だから、せめて何事もなかった時に『戻したい』だけなんだ」

我ながら残酷な問いだったと思うけど、澪ちゃんは素敵な答えを返してくれた。

唯「……澪ちゃんは優しいね。そういうところ、大好きだよ」

澪「…茶化すな。こっちは真剣なんだぞ」

茶化したワケじゃない。本当に、澪ちゃんのことは大好きだ。
でも、正直言って私は恋愛経験なんてロクにないから、これが恋なのか、ちょっと行き過ぎた友情なのかはわからないけれど。

唯「私だって真剣だよー。だからさ、澪ちゃん。正々堂々、勝負しよう?」

澪「勝負? なにでだ?」

唯「憂で。憂が私と澪ちゃんのどちらを選ぶかで」

澪「……そんなの、憂ちゃんが唯を選ばないわけがないだろ」

唯「そうかなぁ? 澪ちゃん、気づいてるんでしょ?」

澪「………」

唯「澪ちゃんは決して私を責めないけど…気づいてる」

澪「そう、だな……唯は、憂ちゃんに何かしている。何をしているのか、そしてそれが酷いことなのかどうかはわからないけど」

唯「憂の様子がおかしいのなら…ひどいことだって思うのが普通だよ。無理しなくていいよ」

実際、私は憂を傷つけている自覚はある。
肉体的にはまだ何もしていないけど、あれだけ泣かせて『何もしていない』というのは絶対に無い。
でも、そんなひどい私にも、澪ちゃんは真っ直ぐ、正直にぶつかってきてくれる。

澪「…唯はそんなことをしないと信じたい。けれど、私が唯の立場だったら絶対にするだろうから。だから、わからないということにさせてくれ」

唯「えへへ…澪ちゃんらしいね」

澪「勝負、とか言いながらも笑えるのも…唯らしいよ」

唯「…じゃあ、憂を呼ぶよ?」

澪「ああ」

唯「――さて、憂にはこれから私か澪ちゃんのどちらかを選んでもらいます」

憂「なんで…澪さんが?」

唯「私達を見かねて、ね。憂の演技が下手だからバレちゃったよ」

憂「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん……」

澪「…唯。そういう言い方は…」

唯「わかってるよ澪ちゃん。でも、これで澪ちゃんも決意は固まったでしょ?」

澪ちゃんは、私たちを仲直りさせたい。
なら、私たち――じゃなくて、私が、いかに憂を嫌っているかを見せ付けたほうがいい。多少オーバーでも。

澪「…そうだな。憂ちゃん、私の手を取るんだ」スッ

憂「えっ…?」

澪「そうすれば、全て元通りだ。憂ちゃんも唯も、今まで通り笑い合えるようになる。唯も約束した」

唯「うん。そうだね、それは間違いないよ」

澪「…約束だけで足りないなら、私も手伝う、全力で」

憂「澪さん…」

澪「…正直、私が唯の立場だったら同じ事をしたかもしれない。でも、逆に唯が私の立場でも今の私と同じことをすると思うから…!」

澪「そして、きっと最後はみんなで笑い合えると信じているから!」

憂「澪さん…っ…!」ジワリ

澪ちゃんらしい、心に響く言葉。
憂が涙を滲ませてる。正直、私も決意が揺らぎかけた。いや、そもそも決意と呼べるような大それたものは私には無かった気もするけど。
……うん、確かに無いね。だから、私は澪ちゃんみたいに多くを語れない。

唯「……じゃあ、私からは一言だけだよ、憂」


唯「――澪ちゃんの手を取って」


澪憂「「…えっ?」」

唯「…さ、憂、選んで?」

憂「………」

憂「…私は…」


憂「」ギュッ


澪「…やっぱり、か。まぁ、仕方ないな」

唯「ふーん…憂は私の言うことを聞かないんだ?」

憂「聞けないよ…あんな命令。私はまだ、お姉ちゃんに何の償いも出来てないから…! 許してもらってないから!!」

唯「まぁ、いつも通りの憂といえばそうなんだけどね。真面目で、結局全部自分一人で抱え込んじゃって…そういう意味では、よくできました、かな」チュッ

澪「な…っ!?」

憂「あっ…お姉ちゃん…っ///」

澪「お、おまえら、な、何を……そういう関係なのか!?///」

唯「ただのデコちゅーじゃん、澪ちゃん…」

澪「ち、ちゅーは好きな人とするものだ!」

唯「唇は私もそう思うよ。こんな風にね」チュッ

澪「んむっ!?」チュ

憂「!?」

澪「ゆ、唯!? 何するんだ!?」

唯「憂は私の言うこと聞かなかったからねー。こういうおしおきはどう?」

憂「あ……お姉、ちゃん…?」

澪「おしおきって、お前…そんなことで人のファーストキスを!!」

唯「だいじょーぶ、私も初めてだから♪」

澪「そういう問題じゃない! っていうかそれなら尚更だ! 好きでもない人と…」

唯「澪ちゃんのことは好きだよ。さっきも言ったじゃない。特に…憂よりは何倍も、何十倍も好き」

憂「っ……」

澪「唯! そんな言い方――」

唯「おしおきだって言ったでしょ? 憂に、現実を見せ付けるおしおき。憂が……私にしたことの、仕返し」

憂「っ…おねえ、ちゃ……ごめ、ごめんなさい…」ポロポロ

澪「あ…唯、もう止めてや――んっ!?」チュ

唯「ん…っ……ふぅ。なんで止めないといけないの?」

澪「なんでって…憂ちゃんがかわいそうだろ…」

唯「……澪ちゃん、こういう時くらいはっきりしてほしいな」

澪「……なにげに酷い言い草だな…でも、どれも私の本心だよ」

唯「それでも、はっきりしてほしいよ。私と憂、どっちの味方なの?」

澪「……唯の気持ちはわかる、わかるよ。でも、私は憂ちゃんとも仲のいい第三者だから…敵には回れない」

唯「んー……じゃあ、それは今はとりあえず置いておいて。澪ちゃん、キスしていい?」

澪「……なんだ、急に改まって。今まで散々したくせに」

唯「さっきまでのは憂に見せ付けるキスだよ。今から私がしたいのは、澪ちゃんに伝えたいキス」

澪「伝えたい、って……」

唯「澪ちゃんのことが、好きだから。私を受け入れてくれるなら……キスで伝えたい」

澪「あ、相変わらず、恥ずかしいことをサラッと言うな…」


澪(受け入れてくれるなら…ってことは、返事待ちってことだよな)

澪(そういう目で唯を見たことは……全く無い、とは言えないけど…)

澪(というか、一年のころはいろいろ唯に支えてもらったな。梓が入部してからは唯は梓にベッタリで…少し寂しかったけど)

澪(それなのに、私のこともしっかり見てくれていたってわかって……嬉しい)

澪(……嬉しい? ……そうか、私は喜んでいるんだ。唯に好きだって言ってもらえて。ということは…)


澪「私も…唯のこと、好きだったんだ、ずっと」

唯「……過去形なの?」

澪「いや、今更気づいたって事。気づかせてくれて…ありがとう、唯」チュッ

唯「ん……っ、ぷはぁ。澪ちゃんからしてくれるなんて……嬉しい」

澪「そりゃ、好きな人相手なら…恥ずかしいけど、気持ちは示さないとな」

唯「んふふ~……聞いた? 憂」

憂「………」ポロポロポロ

澪「あ、し、しまった、すっかり忘れてた……憂ちゃん、その――」

唯「澪ちゃん、だいすき」チュッ

澪(んっ……なんだ、このキス…今までとは違う? すごく…あったかい。きもちいい)

澪(これが、伝えたいキス…なのか。唯、こんなにも私のことを……)

唯「……澪ちゃん、今でもまだ、憂とも仲良くしたい?」

澪(私は…)


澪「……唯のほうが大事だよ、好きだから。でも、出来ることなら、憂ちゃんと……唯が仲直りは無理でも、私が仲良くするのは見逃して欲しい」

唯「はっぽうびじん、だね、澪ちゃん」

澪「……自分勝手なことを言っているとは思う。だから、唯が今この場でダメって言ったらもう二度と言わない」

唯「そんなこと言わないよ。誰にでも優しいのも澪ちゃんのいいところ。その優しさを独占したいって思うのは、きっと過ぎた欲張りなんだよね」

澪「でも、私の一番は唯だから! 絶対に、何があっても!」

唯「い、いやぁ、照れますなぁ~……そんな力強く言われると」テレテレ

澪「………///」

唯「ういー? 澪ちゃんに感謝しないとダメだよ?」

憂「え…? どういうこと?」グズッ

唯「……憂がちゃーんといい子にして、私の言うことを聞いてれば……そのうち、私の気も済むかもね、ってこと」

澪「…それは、いいことだけど…なんで私?」

唯「なんていうか、私だけ意地を張るのも恥ずかしいっていうか、好きな人の前でみっともないところを見せたくないっていうか…」

澪「ふふっ、唯は可愛いなぁ」

唯「……それに、澪ちゃんだってそれを望んでるんでしょ? 好きな人の望みは…叶えてあげないと」

憂「お姉ちゃん…澪さん……ありがとう…ございます」グスッ

唯「気が早いよ、憂。まだ私は憂を許してない。でも……はい、よくできました」チュッ

憂「あ……///」

澪「………」ムッ

澪(って、あれ? なんだ、私、今イラッとした?? あんなの、姉妹の親愛の表現じゃないか…唯もそう言ってたし)

唯「よしよし」ナデナデ

憂「…おねえちゃぁん…」トロン

澪(…憂、気持ちよさそうだなぁ……)