数ヵ月後・12月・学校の帰り道

律「澪、今度の土曜日さ、うちに来ないか? 両親いなんだ。聡も友達んちだし」

澪「あ…その日は」

律「…んだよ、また道場か? 土曜は夜ないんじゃなかったっけ?」

澪「うん、稽古はないけど、忘年会があるんだ」

律「なにぃ?」

澪「り、律?」

律(忘年会って…道場には大人の人もいるから酒も入るだろうし…獣と化した男どもに)ブツブツ

澪「律、さっきからなにブツブツ言って」

律(いや、そもそも引っ込み思案の澪が行くとは…まさか、道場で彼氏が? そもそも道場に通う理由が『出会いの場を求めて』だとしたら…)

澪「律…なんかよからぬ妄想してないか?」

律「私も行く」

澪「え?」

律「いーじゃん、そんで、終わったらまっすぐうちに来るんだ!!」

律(澪にへんな虫つかないようにな)

澪「ま、まあ友達くらいならいいと思うから、聞いておくけど)

律「よろしくな」

律(ふふふ…みーおー、自分だけ抜け駆けなんてさせないぞ)


道場・忘年会

師範「それでは、今年一年お疲れさまでした。まあ、長いあいさつは苦手なんで…乾杯!!」

一同「カンパーイ!!」

女性門下生「あら秋山さん、今日はお友達連れ?」

澪「は、はい」

律「同級生の田井中です(女性なら安心か)」

女性門下生「どうぞ」お酌

澪「あ…すみません、本来なら私が」

女性門下生「いいのいいの」

ワイノワイノ

律(むう…思ったより荒れてないな…女性もいるし、若い男もそんながっつきそうなのいないな)

男性門下生「どうぞ、お二人とも」お酌

澪「あ、ありがとうございます…(あ、この人、確かあの酔っぱらい二人を制した…)」

律「ありがとーございまーす」

澪「あ、あの…3か月くらい前、駅前で酔っぱらいの喧嘩をとりおさえてませんでした?」

男性門下生「あー、あれか。見られちゃったか」

澪「はい。それを見て、興味を持って」

律(そんなこと…私に一言も言わなかったくせに)グビ

男性門下生「あんまり誰にも言わないでね。師範も『合気は見せびらかすものではない』って言ってるから」

澪「はあ」

男性門下生「もちろん、いざというときは使うべきなんだろうけどね」


その後、私は澪と一緒に、他の人の談笑の輪に入ったり、お酌をしたりして回った。

杞憂っていうのかな、武術している人達の割には、荒れることもなく宴は過ぎて行った。

それにしても。

澪が、私の知らないところでこんなにいろんな人と話すなんて。

まだちょっとぎこちないところもあったけど、いつもの引っ込み思案の澪からは考えられないくらい成長した感じだ。

良いこと…のはずなのに、なんで心が晴れないんだ、私。

澪「あ、それでは私たちはそろそろ」

師範「そうだね、未成年はそろそろ帰りなさい」

律「ありがとうございました…部外者ですけど」

師範「全然大丈夫。うちは『来るものは拒まず、去る者は追わず』ですよ」

女性門下生「二人だけで大丈夫?」

澪「いえ、近いですし、二人なんで」

師範「じゃあ、気をつけて」

門下生数人「お疲れさまー」

澪「どうだった?」

律「何が?」

澪「忘年会もそうだけど、いろいろと」

律「ま、いーんじゃないの」

澪「なんだよ、それ」

律「怖がりの澪ちゃんが、ここまで人見知り克服したかと思うとね。それも武道のせい?」

澪「うーん、それもあると思う。自分でもびっくり」

律「そっか…澪が納得してるんだったら、それでいっか」

律「あれ?」

澪「どうした?」

律「携帯がないや…道場かな。とってくる」ダッシュ

澪「あ、おい…なんだか、似たようなこと以前にあったな、立場逆だけど…あ?」


律(あ、あれ…道場こっちだよな?)

律(へへ…澪と一緒に取りに戻ればいいのに…何考えてんだろ)

律(一緒にいるのが…つらい? 親友の成長した姿見れたってのに…なんだろう)

律「っと、とりあえず携帯取りに…」

?「」スッ

律「な…フグッ!?」

律(くそ、口と手を…前の澪の時と同じ?)

律(ひ、ひじ打ち!!)

?「ぐっ…」

律(今のうちに明るいところへ…)

ドガッ

律「…あぐっ」

律(わき腹が)

暴漢「おとなしくしやがれ…この」

律「なろ…」

屈んできた男を振り払おうとした手が、相手の被っていた帽子を振り落とした。

暴漢「くっ…見られた?」

律「この…変質者」

暴漢「叫んでもここらへんは誰もこねえぜ。たっぷり楽しんでから殺してやる」

律(逃げないと…痛っ…わき腹が)

澪「り、りつうううぅ!!」

暴漢「!?」

律「み、澪…」

澪「り、律を離せっ!!」

律「澪、逃げろ…」

暴漢「…お前、この前逃した…自分からくるなんて好都合だ」

澪「くっ…(どうしよう…まさか鍛えたはずなのに…足が震えている…)」

暴漢「…先に殺してやるっ!!」

澪「ひっ!?」


暴漢が向かってくる。

右手にはサバイバルナイフ。

そのまま私の喉元めがけて。

澪(今度は、私が律を守る)

半身になってそらすと同時に、伸びきった暴漢の腕が自分の正面に位置する。

ここから…相手の肘を片手を添えるように、もう片手で手首をつかむ。

暴漢「!?」

ここから…地面まで腕全体を落とす!!

暴漢「ぐっ!?」

澪(できた!?)

背中から受け身も取れず地面に叩きつけられた暴漢は激痛に悶えていた。

しかし…

暴漢「この…アマが」

澪(しまった…最後まで技をかけてなかった!?)

再度、私に向けて向き直る。手にはまだナイフが。

次も…よけきれるか?

暴漢「手加減しねえ…今度は…っ!?」

澪「え?」

いきなり暴漢が腰砕けになったように両足を震わせたかと思うと、そのままうつぶせに倒れた。

暴漢「何?」

師範「秋山さん…詰めが甘いですよ」

澪「あ…先生」

そのやり取りをしながら、師範は相手のナイフを遠くに飛ばし、暴漢の両手を後ろ手にして足で固めた…まるで日常生活の一コマでもあるかのようになめらかに。

師範「お友達が血相変えて飛び込んできてね。おかげで一気に酔いがさめました」

澪「り…つ?」

律「へへ…澪、良かった」

よく見ると、女性の門下生に支えられながら、律がこちらに痛々しい笑顔を向けていた。

他の門下生も懐中電灯を手に駆け寄って来た。

また…助けられたのはこっちか…

律「…はー、長かったな」

澪「うん」

暴漢を警察に引き渡し、簡単な取り調べや親・学校への連絡などでもう夜の11時だ。

律の家は今夜は誰もいないので、こうして二人して私の家に来ることになった。

律「予定狂ったけど、ま、お泊りには変わんないな」

澪「そだね」

律「どうしたんだよ澪? お手柄だったじゃん、格好良かったぜ」

ベッドにダイブする律。

澪「そんなこと…ない」

律「え?」

澪「…また、律に助けられた…」

律「澪…」

澪「いつまでも…助けてもらってばかりじゃいけないと思って…思い切って始めたんだ…でも」

あれ…私はなぜ涙が出るんだろう? 今頃になって怖くなったのか…?

澪「あの時だって、震えてた…でも…律が危ないと思って…それなのに…自分だけじゃ結局…」

律「澪…そんなことないよ」

澪「り…つ?」

律「私だって、いっつも澪に助けられてるよ。勉強とかだけじゃなく」

澪「え…」

律「うまく言えないんだけどさ…澪はそんな無理しなくていいと思うよ。別に新しいこと始めるなってことじゃないけどさ」

澪「…」

律「成長してないなんてことないよ。そういうふうに考えてること自体、大成長じゃん」

澪「…うん」

律「そんな澪だから、私はずっとそばにいたいんだ」

澪「律?」

律「!? べ、別にへんな意味じゃないからな!? 澪といれば楽しいし、からかいがいがあるし…えーと、なんだっけ」アセアセ

澪「ふふ…もういいよ」

律「な、なんだよ」

澪「律は、やっぱり律だな」

律「な、なんだよそれー!?」


そして月日は流れ…

私たちは3年生になった。

律・唯・ムギとも同じクラスになった…たぶん、さわ子先生の謀略もとい計らいだろう。

今年は、受験で忙しくなるな。

道場だって、どれくらいいけるかわからない。


道場

門下生「神前に、礼!!」スッ…サッ

門下生「師範に、礼!!」スッ…サッ

師範「それでは、今日の練習はここまで。お疲れさまでした」

門下生一同「ありがとうございました~」


澪「せ、先生」

師範「なんですか、秋山さん」

澪「少し、お話が…」

師範「どうぞ」

師範「…つまり、受験勉強があるからあまりこれなくなると?」

澪「はい…別に稽古がいやとかじゃなくて…むしろ楽しいくらいですし」

師範「いいんじゃないんですか」アッサリ

澪「は、はあ」

師範「別に道場は逃げませんし」

澪「はい…でも、一応言っておいた方が良いかと思いまして」

師範「秋山さんらしいですね。まじめというか」

澪「はは」

師範「武術というのは、一生ものだと思います」

澪「はい」

師範「あなたがやっている音楽もそうでしょう? ここまでやったら終わり、ってこともない」

澪「先生…」

師範「うちの道場にも、たまに段だけあげようとする人が来ます。でも、そういう人ほど長続きしない。武道を手段だけとして見てないから」

澪「武道は…手段ではないんですか?」

師範「いや、手段でもあります。護身のため、健康と美容のため、名声を得るため…誰かを守るため」

澪「っ…」

師範「まあ入口はそれでもいいですが、それでは続かない。秋山さん、音楽もそうじゃないですか?」

澪「はい」

師範「歓声を浴びたい、お金を儲けるため、目立ちたい…でもそれだけじゃ長続きしない」

澪「長く続けるには?」

師範「ただひとつ、武道なら武道を、音楽なら音楽を『やりたい』ってことだけでしょう。あとは、好きであればなおさら良いでしょう」

澪「そう…ですね」

師範「ですから、その気さえあれば、いつでも戻ってこれます。途中回り道に見えても、いつかはまた」

澪「はい…ありがとうございました」ペコ

師範「そうかしこまらなくてもいいですよ。うちは『来るものは拒まず、去る者は追わず』です。たまに顔出してくれるだけでも。もうひとつの『帰ってきても良い場所』ができたとでも思ってください」

澪「はい」

師範「それに…あなたの音楽のお友達も待っているようです」

澪「え?」

師範「そこでみてないで、どうぞ入ってきてください」

律「…し、失礼しまーす」

澪「律?」

唯「んもー、みつかっちゃったよー。あずにゃんがおとなしくしてないからだよー」

梓「にゃっ!? 唯先輩が抱きついたまま離れないからです」

紬「あらあらまあまあ」

澪「唯、梓、ムギ…」

唯「りっちゃんがねー、『澪が深刻な顔して道場に行った』って涙ながらに言うから、気になってきちゃった」

律「ば、ばかっ、泣いてなんかないだろ」

梓「それは比喩表現ですよ」

師範「秋山さんは良いお友達をお持ちだ」

唯「でへへ…」

紬「でも、何もなくてよかったわ…」


澪「先生、お世話になりました」

律「ましたー」

梓「ご迷惑おかけしました」

紬「ありがとうございましたー」

唯「師範先生、学園祭で演奏する時は来てください」ノシ

澪「ゆ、唯…余計なこというなよ」

師範「はは…その時は秋山さんの晴れ姿が見れますね」

澪「」///


帰り道

律「へへ、澪、さみしい?」

澪「なっ、そういう律こそ、いままでさみしくて泣いてたんじゃないのか?」

律「なにおーっ」

唯「家でぬいぐるみに話しかけてたりしてー?」

律「!? ん、んなわけ」///

梓「今の一瞬の間は…」

澪「…マジ?」

律「う、うっさいうっさーい!!」

紬「これはこれでいいわねえ」

澪「じゃあ、みんなそろったことだし、早速…」

澪・梓「部活

律・唯・紬「アイス買いにいこーっ!!(行きましょー!!)」

澪「…おまえらなー、せっかく帰ってきたのに…そこになおれ!! 全員投げ飛ばす!!」

律「澪、むやみに使っちゃいけないんじゃ」

唯「おおー、澪ちゃん真空投げやって!!」

紬「どうせなら袴姿で…」

梓「結局こうなるんですね…」

終劇