澪「これから先も、ずっと、一生。・・・だからさ、律」

澪「女同士だから子供もできないし、周りからは奇異の目で見られて蔑まれる。それでもいいなら・・・」

澪「籍が変わる訳でも何でもない、周りから見たら何の意味もない・・・本人達だけの自己満足だけど、それでもいいなら」

澪「結婚しよう、律。私と一緒に不幸になって、それでも世界一幸せになってやろうよ」

律「・・・み、お」ポロポロ

堰を切ったように、律の目から止めどなく涙が溢れる。

澪「嫌だった?」

律「馬鹿、言うなよ・・・。嫌なわけ、ないだろ・・・」グスッ

澪「良かった。断られたら、どうしようかと思ってた」

律「白々しい・・・。断られるなんて、少しも思ってなかった癖に・・・」グスッ

澪「ばれたか」ニコッ

律「あぁーもう、私が言おうと思ってたのに。澪、私が何言おうとしてたかわかってたのか?」

澪「そりゃあ初めて会った時から、10年以上もずっと好きだった人のことだ。わかっちゃうに決まってるじゃないか」

律「・・・お前、恥ずかしいこと平気で言えるようになったよな」

律「それに・・・強くなったよ、澪は。もう私なんて居なくても全然大丈夫だよなって、思っちゃうよ」

律「だから今回も、言うのに戸惑っちゃってさ・・・」

澪「律、変な勘違いするなよ?」

律「え?何が?」

澪「私は臆病なままで、ずっと変わってない。・・・いや、むしろ前より臆病になったかもしれないって思ってるよ」

律「そんなことないだろ・・・今だって私が言えなかったのに、あっさり言ってくれちゃったじゃん」

澪「じゃあ聞くけど、私がこの世で一番怖いことって何か知ってる?」

律「え?えぇ・・・?お、お化け?とか?」

澪「はーずれっ。何だ、ひどいな。私は律のことわかってるのに、律は私のことわからないのか」

律「い、いや!そんなことない!私が世界で一番愛してる、私のお嫁さんのことだ!絶対わかる!」

気が早い、立ち直りの早いやつだ。
さっきまで言えなかった癖に、泣いてた癖に、もういつもの律に戻ってる。

澪「ぶっぶー、時間切れだ」

律「うわぁ!澪、時間早すぎだって!」

澪「ふふ・・・正解は、律に嫌われたり、律と一緒に居られなくなることだよ」

律「あ・・・///」

澪「律と一緒に居られなくなることをちょっと考えるだけで、私は涙が止まらなくなっちゃうよ」

澪「だから臆病者の私は、絶対にそうならないようにするためだったら何でもするよ」

律「・・・ずりー、澪ずりー。そんなこと言われたら、私何も言えないじゃん・・・///」

澪「何か、いつもとは真逆だな」クスッ

そう言って、私は笑う。
本当にいつもとは真逆だ。

いつもは律が何かを言って、私が泣いたり、照れたり、驚いてばかりなのにな。

しかし、こうやって照れて真っ赤になってる律って可愛いことこの上ない。
律もいつも、赤面してる私を見てそういう風に思ってくれてるのかな?
      • だったら、すごく嬉しいな。

律「・・・でも、このままやられっぱなしのりっちゃんじゃないぜー?」

そう言って、律が自信ありげに笑う。

澪「へぇ、私に言いたいこと先に言われて、泣いて赤面する律は一体何をやってくれるのかな?」

律「だああぁぁ!やめろ!恥ずかしいからそういうこと言うな!」

澪「お前がいつも私にやってることだよーだ」

律「ふん、待ってろよ。今に吠え面かかせてやる」

そう言うと、律は上着のポケットに手を入れて何かを取り出した。

律「私ら学生だし、安物で悪いんだけどさ」

そして取り出した何かの、蓋を開ける。

律「澪に隠れてバイトしたり貯金使ったりして、買ったんだ。えぇっと、婚約・・・指輪?」

澪「・・・は?」

律「いやー、就職活動って言って出かけて実はバイトしてたとか、色々頑張ってだな?」

律「・・・だってさ、どうしても、やっぱりこの日にしたかったじゃん。四年前と同じ、この日にさ」

やっぱり、そうだよな。
今日律が何を言おうとしてたかわかった理由の一つも、それだ。
律は大雑把に見えて実は結構細かいやつだ。
二人にとっての記念日なんかも、絶対に忘れない。

それが、私達が付き合い始めた日で。
更に、私の誕生日であれば尚更忘れようもない筈だ。

律「誕生日おめでとう、澪」

律「そして私からも改めて言うけど・・・女同士とかどうでもいいから、澪じゃなきゃ駄目だから、私と結婚してくれ」

澪「ばかぁ、ばか律・・・っ」ウルウル

あぁーもう、結局律の言う通りだよ。
私は律に泣かされるようになってるのかな。

澪「お前、私以上に家事とかもしてて・・・就職活動だって忙しかったのに、何やってるんだよ・・・」ポロポロ

昔よりは素直になった私だけど、結局律に泣かされてしまったのも手伝って素直じゃないことを言ってしまう。

律「えーっと、ごめん。でも自分のためにバイトしたんだから、別にそんなこと言わなくたっていいじゃんか」

澪「自分のためって・・・」グスッ

律「今度は私が聞くけど、私にとって一番嬉しいことって何か知ってる?」

そういうことか、わかっちゃったよ。
でもこれは自分で言うの、すっごい恥ずかしいぞ?

律「どした澪、顔真っ赤だぞー?答えわからないのかー?」

あぁもう、悔しい。
結局、本当にいつも通りになっちゃうんだよな・・・。

澪「わ、私が喜ぶこと・・・だろ?///」

律「その通りー♪」

律には適わないよ。
きっと、惚れた弱みなんだろうな。

律「・・・はい、これでおっけー」

私の左手の薬指に、律が指輪を通す。

澪「ありがとう。・・・最高の、誕生日プレゼントだよ」

自分の左手を見ながら、そう言う。

律「何言ってんだよ、指輪は誕生日プレゼントとは別だろ?」

澪「え?ま、まさかこれの他にも何か用意してるとかじゃないだろうな!?いくら何でもそれは・・・!」

律「いやいや、全然お金のかかってないものだよ。でも正直、今年のメインはそっちで指輪がおまけだぞ?」

澪「い、一体何なんだ・・・?」

律「まぁ、もうあげちゃってるんだけどな。確実に、澪がもらって一番嬉しいものを」

律「・・・私の、人生。ちなみに、返品は受け付けないからな」

そう言って、律が満面の笑みになる。

律の言う通り、それは確かに私の一番欲しかったものだ。

でも―

澪「それは、おかしいだろ。・・・私の人生だって律にあげたんだから、おあいこじゃないか。こっちだって、返品不可だしな」

私も満面の笑顔を作って、言い返してやる。

律「そっか。それじゃ澪の言う通り、指輪が誕生日プレゼントでいいな」

そう言いながら律が抱きついてきて、私の胸に顔を埋める。

律「まぁでも、結局のとこさー」スリスリ

澪「うん?」ナデナデ

喋りながら律は私の胸元に、顔を摺り寄せる。
こういう時の律は、犬みたいだ。
私だけにしか懐かない、私だけの忠犬。
だからか、自然に私の手は律の頭を撫でてやる。

律「一大決心してこういう話になったけど、多分何も変わらないんだよな、私達はさ」

澪「そうだな、きっと今まで通りだな」

律「多分、どっちかがこういうケジメの話をしなくても結局は一緒に住んでるんだろうし」

澪「そうじゃないとお互いに困るしな、私なんて多分気が狂うぞ」

律「それは私もだー」

澪「まぁ散々同棲してきてるし、元々夫婦みたいなものだよな」

律「澪、それはちょっと違うぞ?」

そう言ってから律は顔を上げる。

澪「え?」

私も驚いて、律を見ようと視線を下げた。
今にも触れ合いそうな距離の、私と律の顔。

律「私達の夫婦生活は今から始まる訳でも、同棲した頃から始まった訳でもないぞ?」

澪「じゃ、いつから・・・」

律「中学ん時、だよ」

え?何で中学生の時から?
私と律、付き合い始めたのだって高校卒業寸前じゃないか。

じゃあ、好きになった時からってこと?
でもそれだったら、小学生の頃からになるぞ?
そういう話は、律にも前に教えた筈だし・・・。

律「わっかんないのー?澪ー」

律が、意地の悪い笑みを浮かべて言う。

澪「むー・・・、わからないよ・・・」

律「拗ねんなよー、何でか教えてあげるからさ。・・・ほら、昔からよく言うじゃん?」

律「ドラムとベースは夫婦です、ってさ!」

何を自信満々の笑顔で、馬鹿なこと言っちゃってるんだか・・・。
でもまぁ、そんな律が、そんな律の笑顔が―

澪「大好きだよ」

私の唇と、律の唇が触れる。

とりあえず、一つ言えることはさ?

澪「私達ってもう既に、世界一幸せな夫婦だよな」

律「当たり前じゃん、私と澪なんだから!」


1月15日。
私の22回目の誕生日。

この日はまたもや、
四年前の私の18回目の誕生日以上に―

私の人生、最良の日となった。

-fin-