紬『10人まで同時に会話可能よ!すごいわぁ~』

梓「い、いや!えぇ!?本当にそれだけですか!?」

紬『そうよぉ~。せっかくだし、このテレパシーで話しましょう』

憂『…レベルが上がるって、結構…あれなんですね』

唯『がっかりだよ!』

梓『って!そんな事言ってるうちに、どんどん近付いてきてるし!』

憂『…とりあえず、四人で大きい部屋に逃げよう。
  出来れば武器も調達出来そうな…理科室なんかでいいかな』

唯『了解であります!それでは出発であります!』

紬『ごぉーごぉー!うふふ!』


──理科室

梓『とりあえず…今のところ、純、澪先輩ペアが近いです』

憂『温度操作と…能力不明か』

唯『でも、澪ちゃんが先頭のところを見ると…
  純ちゃんは、補助系の能力なのかもね』

紬『テレパシーで聞いてみようかしら?』

梓『無駄なことはやめてください…』

憂『でも、私達の位置を把握していない感じを見ると、千里眼みたいなタイプじゃないみたいですね。
  今までのパターンから考えて、攻撃系は様々な縛りがあるみたいだし…』

唯『縛り?』ドキドキ

憂『お姉ちゃんは「手に握れる物」。澪さんは「手で触れたもの」
  私は「抱きついた相手」、和さんも、「右手の衝撃」だったし…』

憂『もし純ちゃんが攻撃系だとしても、距離を置けば大丈夫かな』

梓『…大分近づいてきました』

紬『ここにいるっていうのがバレてない以上…隠れて奇襲するのが一番ね』

憂『そうですね…。向こうは、私の能力を把握していない上に、能力があるかさえ分かってない状況。
  そう考えると…』

憂『紬さんが、まず入り口近くの戸棚に隠れてください。その隣にお姉ちゃん。
  お姉ちゃんは澪さんに攻撃をして』

憂『私は少し離れた所から純ちゃんの相手をするね。
  攻撃っていうより、澪さんと距離を置かせるようにするから』

憂『梓ちゃんは、そこのアルコールを持って隠れてて。
  もし、お姉ちゃんや紬さんが危なくなったら、そのアルコールを澪さんにぶっかけて』

梓『それで、温度操作を迂闊にしなくなればラッキー…って感じだね』

紬『了解したわ!』

唯『早速隠れよう!』

唯(ムギちゃんの進化の度合いから見て…澪ちゃんの能力は、
  一秒につき20度とかくらいの進化かな…)

そんな事を考えながら私は棚の中へと隠れる。
それにしても、こんなことを瞬時に考えられる憂はやっぱり天才だ。

梓『来ました…もうすぐ理科室に入ってきます』

ぐっ、と身を縮めた。
私の仕事は、澪ちゃんを倒すこと。

紬『私がおとりになるから、唯ちゃんお願いね』

唯『まっかせて!』フンス


ガラガラッ


理科室のドアが開く音。
二人分の足音が、教室内に響く。

純「……隠れるところはいっぱいありますね」

澪「そ、そうだな…気をつけよう」

二人が、少し奥へと進んでいく。
そして、私達の隠れる戸棚の前へと、差し掛かった。

紬「澪ちゃん、かくごー!」

ムギちゃんが、思い切り戸棚を飛び出す。
その声に驚いた顔をした澪ちゃんは、あわてて右手をその方向へ突き出す。

唯「それは残像だぁぁぁぁ!!」

そう叫びながら、今度は私が戸棚から飛び出す。
ナイスタイミング!
澪ちゃんの手は完全にムギちゃんに向いていて、
さらに、その手を私は握れる位置にいる。

唯「壊れろっ!!」

私が、その手を握る。

唯「───えっ?」

私の体が上手く動かない。視界がおかしい。
ふと、私の目の前に、一つの手のひら。

澪「ご、ごめんな唯!!」

澪ちゃんの謝る声。
澪ちゃんの突き出された右手。

地面に仰向けに転がっている、私。

唯「え、え───っ?」

澪ちゃんの手が、私に触れた。

唯と同じように地面に仰向けに転がっている紬。
紬も唯と同じように、現在の状況を理解出来ずにいた。

紬(私の後に飛び出してきた唯ちゃんが、突然私の横に転がっていて…
  え?私はいつ転がったんだっけ?え?
  っていうか…)

澪「お、おえ…」

どろどろに溶けた、元・唯を見て、澪を吐き気を催した。
紬もまた、理解できない状態のまま、その異様な匂いに吐き気を覚える。

紬「う…」

純「澪先輩、お願いします。大丈夫です、ちゃんと全部元通りになりますから」

澪「う、うん…。ごめんな、ムギ…」

澪の手が、紬に触れる。
次の瞬間、紬の体もまた、唯のようにどろどろに溶け始めた。


純「…お疲れ様です。」

澪「うえ~……ぐすっ、ぐすん…」

純「大丈夫ですよ、ほら…唯先輩の方は、もう体が元に戻ってますし」

澪の背中をさすりながら、純は優しく声を掛けた。
見ると、確かに唯の体はどろどろではなく、既に元の形を取り戻していた。

純「さて……律先輩の読みだと、この部屋にまだいるはずです」

澪「ぐすっ…」

純「憂が怖いけど…動かないところを見ると、距離を置けば大丈夫そうですね」

梓(ちょっ……今のなに……?)

奥の方の戸棚に隠れていた梓は、ただ震えるだけだった。
千里眼によって覗いていたその行動は、あまりにも意味が分からなかった。

梓(唯先輩の視界が、急に変わった。一瞬で、地面に寝かされていた。
  ムギ先輩も、急に仰向けにされていた。
  そして、そして…)

梓(澪先輩が触れた瞬間、溶けた…)

あまりにも理不尽である、と梓は心の中で叫んだ。
うちの沢庵は会議通話になっただけなのに、向こうは瞬間温度操作ですかと。
テレパシーが無くなっていることをいいことに、梓は叫び続けた。

梓(それにしても…急に仰向けになったのはなんで…?)

一瞬、瞬間移動のことを考えた。
しかし、その能力を持つ律は違う教室におり、
同じ能力を持つものが二人いるとも考えづらい。

梓(テレパシーがないから…憂とも連絡が取れないし…)

純「…落ち着きましたか?」

紬の体も元に戻った当たりで、純が澪に声を掛ける。
澪はようやく涙を止め、一度大きく深呼吸をした。

澪「…ああ」

純「たぶん、この部屋にはまだ二人がいるはずです…
  相手サイドは、別行動をするメリットがありませんから…」

純「憂は出来るだけ距離を取りましょう。梓は見つけたら倒しちゃっていいです」

梓(純の人でなし!)

二人の足音が近づいてくる。
それはもう、自分の棚の、すぐ前まで──

梓(溶かされたくない溶かされたくない溶かされたくない──っ!!)

ガチャンッ。

戸棚が、開かれる。

梓「にゃ、にゃああ!!!」

扉が開かれたと同時に、梓は手に持つアルコールをぶち負けた。
それは澪の顔面へと直撃し、その視力を一時的に失わせる。

澪「うわああっ!!」

梓「に、逃げよう!憂!」

憂「梓ちゃん!」

憂も戸棚から飛び出してくる。
澪は自分の顔を必死に顔を押さえて、純はただ、二人の行動に慌てるばかり。

純「くそっ……こ、ここは通さないんだからっ!」

扉の前に両手を広げて立ちはだかる純。
その直前で、憂は自分の右手を純に突き出した。

純「───っっ!くそっ!」

憂の能力が分からない以上、迂闊に触ることはできない。
純はあわてて横に跳び、その憂の右手を回避した。

二人はそのまま理科室を飛び出し、廊下を走る。
憂に手を引いてもらいながら、梓は千里眼を使った。

梓「まだ澪先輩の目は見えてないみたい…!
  純も…追ってきてる様子はないよ…」

その発言を聞いて、二人はようやく足を止めた。
ずいぶんと走ったのだろう、二人は肩で息をしながら、膝に手を立てた。

梓「ひ…卑怯だよ…あんな能力…」

憂「純ちゃんのこと…?」

梓「澪先輩!!手に触れたものの温度を無制限にあげちゃってたよ!!」

梓は思い切り叫んだ。
しかし、梓の想像とは逆に、憂は言葉を返す。

憂「私は…純ちゃんの方が卑怯だと思うよ…」

憂「純ちゃんの能力…たぶんだけど…時間操作でしょ?」

憂「隙間から見てたけど、お姉ちゃん達は一瞬にして体勢が変わってた…」

憂「瞬間移動じゃないなら、時間を止めてたとしか考えられないよ…」

梓「……なるほど……」

憂「純ちゃんもレベル2だよね?
  たぶん、レベル1が時間を止めるだけとか、そういう感じで、
  レベル2が、その中で自分は動けるとか、そういう奴なんじゃないかな…」

梓「そ、それって最強じゃん!」

憂「全部想像だけどね…。でも、これが本当なら、かなりやっかいな能力だよ…」

律「ほんと、あいつだけ卑怯だよな…」

梓「ほんと、卑怯ですよ…」

憂「え?」

梓「え?」

律「てへ」

梓「に、逃げろっ!!」

瞬間移動で現れた律が、二人に向かってホウキを振り下ろす。
梓が逃げようとした、その瞬間。
憂は思い切り律に抱きついた。

憂「……律先輩、殺されたくなかった、土下座してください」

突然、憂が律を見下す。
目が、憂の目が、完全に、見下しの目となっていた。

律「ひっ……ご、ご、ご、ごめんなさいっっ……!!」

憂「土下座、ですよ?」

憂の発言に、瞬時に土下座をする律。
その体は震え、今にも泣き出しそうな顔である。

梓(一体、3分間、どんな記憶にしたんだろ…)

憂「私の能力は、気絶じゃなくて、殺すことしかできないんです…。
  もう知ってますよね?
  死にたくなかったら…早く、頭を地面に打ち付けて、気絶してください」

律「へ…」

憂「早く。死にたいんですか?」

律「い、いや…っ!」

そういうと、律はあわてて地面に頭を打ち始める。
憂は、目をそらすこと無く、それを見つめ続ける。

和「律っ!!」

少し離れた所から、和が現れた。
どうやら、律の後を追いかけて、ようやく到着したらしい。

律「え?和?え…え…?」

しまった、というような顔をする憂。
困惑する律を見た和は、その位置から叫び続ける。

和「こっちに瞬間移動して!」

律「で、できないよぉ…!能力封じされてるよ…!」

和「大丈夫。私を信じて!!」

そうはさせるか、と、憂はあわてて律に抱きつこうとする。
しかし、その直前。
律の姿はその場から消え、和の元へと再び現れる。

憂「ッ!」

梓「う、憂!逃げよう!」

怯えたままの律。
しかし、その隣にいる和は、一切怯むことはない。
自分の両手を、胸の前で思い切り合わせる。


和(私の右手の能力は、『衝撃吸収』。今生まれた衝撃を吸収する…)

和(そして、私のレベル2は…『吸収した衝撃を1.5倍にして左手から発射する』!)

和の手が、がくがくと震え始める。
それを思い切り押しつけ、和は両手を合わせ続けた。

和(左手から発射された衝撃は右手に吸収され、その1.5倍となって左手から発射。
  それを、ほぼ無間隔で行い続ければ……!)

元の衝撃の、1.5倍の1.5倍の1.5倍の1.5倍の…
無限と行われたその『衝撃』が、和の掌へと吸収され、発射される。

ここは一直線に続く廊下。
憂と梓が逃げている姿は見えるが、その道は一直線。

和(強さは…能力じゃなくて…)

和「頭で決まるもんよっ!!!」

叫び、そして、左手を前に突き出す。

廊下に面する窓のガラスが、次々と割れていく。
和の左手から発射された衝撃が、勢いよく梓達に迫る。

憂「───ッ!」

振り返った憂が動くには、もはや遅すぎた。
その衝撃は、二人の体を目掛けて、一直線に飛んでくる。

梓「憂っ!」

梓が憂を押し倒し、その上に覆いかぶさる。
千里眼でいち早く攻撃に気付いた梓は、現在の合計気絶数を考え、
瞬時にこの行動に出た。

飛んできた衝撃は梓に直撃し、下に丸まっている憂もろとも、
二人は弾き飛ばされた。

憂「……っ!梓ちゃん?梓ちゃん!?」

飛ばされた衝撃で気を失いそうになるも、意識を保つことが出来た憂は、
すぐに起き上がる。
体が傷だらけになっている上に、ぴくりとも動かない梓。

憂「…ッ!」

後ろから、和が近づいてくるのが見える。
怯えている律が瞬間移動出来ないのが幸いだ。

憂(私達のチームは…これで気絶が4人目…!)

もう、あとは無い。
「ごめんね」と、一言残した憂は、その場を走りだした。


──……・・・
─・・・
・・・

それから最初に起きたのは唯だった。
すぐさま紬が起き、テレパシーを使って憂と連絡を取る。
なんとか逃げ切っていた憂は、二人と合流することが出来た。

唯「うわー…ごめんねー憂ー」

憂「しょうがないよ、お姉ちゃん。それより体は大丈夫?」

唯「大丈夫だよ!もうピンピンだよ!」

紬「これで私達はもう後がないわね…とりあえずは梓ちゃんの復活を待ちましょう」

憂「はい…。そういえば、お姉ちゃんはレベル2に。
  紬さんは、レベル3になったんですよね?」

唯「そうだよー!これで唯さんは最強になったのです!」フンス

紬「私もよー。うふふ。唯一のレベル3なんてすごいでしょ~」

憂(ほんと、なんで唯一のレベル3がこの人なんだろう…)


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