律「ちっ!純、澪!!とりあえずお前達は逃げろっっ!!」

能力のない純が気絶させられるのが最悪のパターンだ。
そう考えた律は、すぐさま純と澪に避難命令を出す。

律(自分達が気絶する前に、あいつらに逃げる時間を稼ぐべきだ!)

梓「──」

紬「──」

梓とムギは、会話をすることはおろか、アイコンタクトを取ることもしない。
二人は同時に、和の方へと駆け出した。

律(結構やっかいだな、テレパシーってのも…!!)

律の心情としては、今すぐにでも和の方へと助けに行きたい。
しかし、この自分のすぐ真下にいる人間から、目を離す訳にはいかなかったのだ。

唯「うぅ~…重いよ~…」

律(私が唯からどいたら、唯がフリーになる…。
  だけど、どかなかったら和が二人を相手にすることになる…!
  和の能力ならいけるかもしれないが…)

今となっては、純と澪を逃がしたのは失敗だったかもしれない。
しかし、逃げなければ、純が狙われたのは確実で…。

律(って、『もしも』の話ばっかりしてても仕方ないだろっ!)

律(唯を気絶させるか?だけどレベル2になったら、もうどうしようもないんじゃ…)

律が脳内にて葛藤を繰り返している時、後方から和の声が発せられた。

和「大丈夫よ、律。こっちは大丈夫」

梓と紬は、和に一切の攻撃を与えられずにいた。
いや、正確には、攻撃は当たっているのだが、一切ダメージを与えられずにいるのだ。

梓がホウキをふりかぶり、思い切り振りおろす。
そのホウキを、和は右手で軽く止めた。

梓「どんな腕力してるんですかっ!この学校の生徒会長は…!」

和「失礼ね。腕力は平均的女子高生並みよ」

どれだけ思い切りホウキをふりおろそうが、
和の右手に触れた瞬間、ふっ、と力が入らなくなる。

紬『──衝撃の吸収ってところかしら?和ちゃん』

梓「ムギ先輩!声に出して言わないと伝わらないです!!」

紬「あらあらうふふ…衝撃の吸収ってところかしら?和ちゃん?」

和「──さすがね」

和の能力は、『衝撃吸収』
和の右掌に触れた衝撃は、大小を問わずに無効とされる。

梓「衝撃吸収ですか…打撃は効かないってことですね…」

和「まぁ、私が追いつく限りって条件だけどね…」

梓と紬にも、疲れが見え始めていた。
しかし、二人の手は攻撃をやめることがない。
即席のチームワークでは綺麗にコンビネーションを決めることは難しく、
中々和にダメージを与えることはないのだが、それでも、二人は一切の攻撃を辞めない。

律(なんだこいつら…まるで最初からダメージを与える気はないみたいな…)

律(私達をここに留めているのが目的のような…)

律(でも、残りは憂だけ…純はともかく、澪がいるなら、まだなんとかなるか…?)


時は少し戻る。
純と澪が教室を飛び出し、駆け出し始めた頃であった。

憂「……あっ!!」

隣の教室に、憂の姿があった。
攻撃に参加はさせないが、出来るだけ近くに置いておきたかった故だろう。

純(私と憂は無能力…!コッチには澪先輩がいるし、ここは勝負だ…!!)

純「澪先輩!あそこの憂、倒しましょう!」

澪「え、ええぇぇぇ!」

純「大丈夫です。私が憂を捕まえるんで、その後、澪先輩が能力を使ってください!」

澪「う、うん…無茶はしちゃ駄目だぞ!」

やっぱり澪先輩は優しいなぁ。
そんな事を考えながら、純は教室のドアを思い切り開いた。
入り口に澪を待機させて、純は憂へと走りだす。

純「能力無し同士なら…!私だって!」

机を避けながら、純は憂へと近づく。
憂は焦っているのか、おろおろしながら動くことをしない。

純(捕まえさえすれば──っ!あとは澪先輩の能力でっ!!)

憂の目の前にまで行き、憂に思い切り抱きつく。
そして、能力を使わせるために、澪の名前を呼んだ。

純「澪先輩っ!早くコッチにきてください!!」

澪「あ、ああ!」

澪が走って純の元へ行く。
純が拘束する憂の目の前に来たところで、澪は自分の右手を突き出した。

澪「ごめんな…憂ちゃん。少しきついだろうけど、我慢してくれ」

そう言って澪は、憂の顔へ右手を触れさせた。

憂「え、な、なにこれっ!」

憂が暴れて逃げ出そうとするが、それを純は許さない。
澪の右手は、相変わらず憂の顔に触れ続けていた。

憂「なにこれっ…暑い…?いや、熱いよぉ!!」

澪「もう少し我慢してくれ…。
  1秒に10度ずつ、触れたものの温度を自由に操れる能力だから…。
  しばらくしたら、あまりの温度変化に、気を失うはずだから…」

この勝負中は、能力によって死ぬことはない。
死傷を負ったとしても、気絶して、起き上がるころには全回復する。ということを、全員は理解していた。

憂「熱いよぉ!!熱いよぉ!!澪ちゃん!!」

澪「今何秒くらいかな…もう少し我慢してくれ…」


──3-2

和「あなた達も…強情ね…!!!」

梓「和先輩こそ…早く…諦めてくださいよっっ!」

紬「ふう…ふぅ…」

こちらの教室では、いまだに状況は変わっていなかった。
二人に疲れは見えるが、何の執念なのか、攻撃は辞めることはない。

律(…考えろっ。考えろっ…時間を稼いで何になる…)

律「おっと」

唯「くそぉ~…」

律が気を抜くと、そのすきをついて唯が右手を出してくる。
律が集中して考えようにも、その隙すら唯は許してくれない。

律(くそっ、なんだ!なんなんだ!!)

律が唯の腕を押さえなおそうとした、その時だった。

ドンッッ──

和「ッッッッッッッ─────」

激しい音と同時に、和が頭から倒れていく。
その右手は──ボロボロに崩れていた。

憂「ごめんねぇ、和ちゃん…でも回復するから大丈夫だよ!」

突然現れた憂。
その手には、和の元右手の残骸が握られていた。

梓「遅いですよ…先輩…はぁ…」

紬「お疲れ様、唯ちゃん。それで、ちゃんと……」

憂「うん、澪ちゃんと純ちゃんは気絶させて来たよ。
  あ、それと澪ちゃんの能力も分かっちゃいました!」

そう言いながら、髪のゴムを外していく憂。
その姿は、一瞬にして、唯へと変化した。

唯「それにしても、誰も気づかないんだもん…少しショックだよ…」

梓「まぁいいじゃないですか。三人も気絶させたんだし」


唯「そうだよね!」フンス

梓「さて…後一人、どうしますか?」

律「……そーゆーことかいっ!」

律はあわてて腕を振り上げる。
その拳を、唯…ならぬ、憂へと振り下ろす。

唯「動かないで、律っちゃん」

背後から、唯の声。

唯「一発殴るだけじゃ、たぶん気絶まではさせられないよ。
  もし憂を殴るようなことがあるなら、私も容赦しないから」

律「……」

ぴたりと腕を止める律。

律「……あーはいはい!今回は逃げさせてもらいますよーっだ!」


次の瞬間には、律の姿は消えていた。
廊下の方から、走りだす音が聞こえたが、四人はそれを追うことはしない。

梓「とりあえず…一安心ですか」

紬「気絶した相手は拘束してはいけないし、起きた直後を狙うのも駄目だったわね」

憂「お姉ちゃん大丈夫!?怪我とかしてない!?」

唯「大丈夫だよ~憂~」

唯「澪ちゃんの能力は触れたものの温度を変える能力。
  1秒に10度ずつらしいけど、レベル2になるとちょっと分からないね」

唯「途中で私が呼び方間違えちゃって…てへへ。
  バレたから、とりあえず純ちゃんに攻撃して、
  澪ちゃんには手を突き出しただけで気絶しちゃったw」

憂「そっかぁ…律さんは瞬間移動で間違いなさそうだし、
  和さんは衝撃吸収…。
  それと、純ちゃんのことも気絶させたんだよね?」

梓「でも、純は能力無しだから、レベル2とか無いハズだよね…?」

憂「ああ…そのことなんだけどね…」

憂「純ちゃんはこれから、能力を使ってくると思うよ」

梓「!!」

唯「なんと!」

紬『あらあらうふふ』

憂「だから、向こうはレベル2が三人と、瞬間移動が一人。
  今まで以上に厳しい戦いになると思うんだ…」


梓「ちょ、ちょっと待って!
  レベル2が三人って事は…純は元々能力者だったって言うの?」

憂「あ、そうだよ。使い方を知らなかっただけで…」

唯「純ちゃんって馬鹿だったんだね!!」

憂「い、いや、そういうことじゃなくてね…」

憂「私の能力で…」





唯「 (゚Д゚)」

梓「 (゚Д゚)」

紬『(゚Д゚)』


憂「私の能力は、『記憶操作』。
  抱きついた相手の直前の三分間の記憶を操作することが出来るの」

唯「記憶の操作…?」

憂「三分間以内のその人の記憶を、好きなようにいじれるの。
  ほら、私、能力を得てすぐに純ちゃんに抱きついたでしょ?」

梓「確かに…」

憂「『私と憂は無能力者』っていう具合に記憶を改ざんしたの。
  でも…一度気絶すると全回復するらしいし、その記憶の改ざんも
  たぶん無かったことにされると思う…」

紬「純ちゃんの能力は分からないの?」

憂「はい…。大まかな記憶の改ざんは出来ますけど、相手の記憶を見ることはできないので…」

唯「じゃあ、純ちゃんには今後特に注意だね。能力が分からないし」

憂「レベル2の人たちも危険視しとかないとね」

唯「こっちは基本的に私しか攻撃できないし…
  相手がレベル2なら、迂闊には近づけないね…」

梓「唯先輩を一回気絶させてみますか?今の内に」

憂「…」ギラッ

梓「じょ、冗談です…」

紬「でも確かに、私達のレベル2も気になるわね~」

梓(ムギ先輩のレベルが上がっても…)

憂「そろそろ気絶組が起き上がるころです。
  一回場所を変えて、もう一回作戦会議をしましょう」

唯「了解なのです!憂隊員!」

───……・・・
─…・・・
・・・

──音楽室

律「っと、言うわけで…」

和「私達三人が気絶、向こうはまだ一人もいない、って訳ね…」

澪「こ、こ、こ、怖かったんだから仕方ないだろっっ!!」

律「純はまだ気絶してるしな…とりあえず、音楽室で待機だ」

澪「攻めてこないかな…?」

律「大丈夫だ。向こうの攻撃系は唯一人。
  打撃技は和に任せるとして、後は俺の澪でやれる」

澪「そ、そんな私じゃ…」

律「……いや、お前のレベル2、相当エグいぞ…」

澪「う、うるさい!!」

和(私のレベル2…使い方によっては、これ最強じゃない)



──3年3組

梓「全員音楽室にいますね…純の視界がないので、おそらくまだ気絶しています」

唯「攻めよう!」

憂「待ってお姉ちゃん。さっきの時点で負けてたんだし、
  レベル2が増えた今じゃまた負けるだけだよ」

唯「ぶすーっ」

憂(ふてくされてるお姉ちゃんも可愛い!)

梓「でも、あまりに動かないのも…。
  やっぱり、純の能力が一番のキーになるのかな…」

唯「暇だよ~~。ムギちゃん~~」

紬『あらあらうふふ』

唯「見て!ムギちゃん!私の能力!」バキバキッ

おもむろにイスを持ちあげ、一瞬にして破壊する唯。

紬『あらあらうふごゴゴォォッッ!』

唯「あ……」

唯の手から弾け飛んだイスの破片が紬の頭部に直撃。
そしてそのまま、紬は地面へと倒れ込んだ。

紬「……」

梓「……」

憂「……」

唯「き……気絶してる……」

梓「何やってるんですか!唯先輩!」

憂「お、お姉ちゃん…」

唯「ご、ごめん…」

梓「…とりあえず、向こうにも動きはないみたい」

憂「…こっちも、とりあえずは紬さんが起きるまでは行動しない方がいいね」

唯「うぅ…」

梓「…! 純が起きたみたいです」

憂「…こっちはまだ起きてないのに…」

唯「うぅ…ムギちゃん起きてよぉ~」

梓「…純が何か話してるみたいです…やっぱり、能力を思い出したみたいです」

憂「どんな能力を使うか分かる?」

梓「私の能力がばれてる以上、さすがにおおっぴらにはしないと思う…」

唯「せ、攻めてきたらどうしよう…」

梓「純の能力次第だけど、攻めてくる可能性もありますね…
  補助系の能力でも嫌だし、攻撃系でも厳しくなりますけど…」

憂「相手が動き出したら、とりあえずこの場所を変えよう。
  向こうが攻撃系が二人以上いるんだから、出来るだけ広い場所に移動するべきだよ」

唯「ムギちゃんはどうするの…?」

憂「移動となったら、紬さんは置いていくしかないかな…。
  気絶中の人は拘束できないし、起きた直後を狙うことも出来ないから大丈夫。
  それに紬さんならいつでも連絡取れるしね」

梓(冷静な分析ではあるけど…)

憂「とりあえず、全員レベル2には気をつけてね。
  どの程度能力が進化してるかは分からないけど…」

梓「向こうが…動き出したよ」

梓「澪先輩が先頭で…その後ろに純。
  それと…律先輩と和先輩のペアが、別の方向に行き始めた」

唯「二つに分けてきたんだね…」

憂(二つに分けたってことは、やっぱり個々の能力が大分上がったってことなんだ…)

梓「どうする?憂。私達もばらばらになった方がいいかな」

憂「こっちは…攻撃系がお姉ちゃんだけ。私も攻撃出来ないことはないけど…
  紬さんが起きてない以上、三人で固まった方がいいかな」

紬「…う、うーん…」

唯「ムギちゃん!!」

紬「あら、私…」

梓「大丈夫ですか、ムギ先輩」

紬「!!!!!!」ガバッ

唯「ど、どうしたのムギちゃん!!」

紬「わ、私…レベル2になってるわ!!」

梓「そ、そういえばレベルが上がるんでしたね!一体どんな進化をしたんですか!?」

憂(この能力の進化の度合いを見て…相手側の進化も分かる!)

紬「えっと…すごいわよ!!」




紬『会議通話が可能になったわ!!!』


梓『(゚Д゚)』

唯『(゚Д゚)』

憂『(゚Д゚)』


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最終更新:2011年01月18日 03:21