一瞬で私達は理解した。
何故かと言われればそれは説明が出来ないのだが、とにかく私達は理解した。

唯「い、今の……」

みんなも同じ顔をしていた。
唐突に理解したそれを、私たちは本質的に理解出来ていないからである。

律「は……ははは……」

梓「先輩達も……今の、聞こえましたか……?」

いや、聞こえたというのは正確間違いである。
ただ、私たちは理解したのだ。


私達は、闘わされる。

それも、新たに力を与えられて。


あまり広くない音楽室の中に、私達8人が立ちすくむ。
私、律っちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、あずにゃん。
そして、憂と純ちゃん、和ちゃんだ。

思えばその日の私達は何かおかしかった。
朝の8時、何かを意図することなく、私達は音楽室に集まった。
集合の予定などではなく、ただ、無意識に呼び寄せられたと言う方が正しいかもしれない。

そして全員が集まった瞬間、唐突に、私達は理解したのだ。


唯「憂……ムギちゃん……あずにゃん」

私の他の3人の名前を呼んだ。
それが、私が理解した、チーム。

律「こっちは、澪、和、純だな」

律ちゃんがウキウキとした顔持ちでコチラを見る。
そう、私達は今から、4対4で闘わなければならない。

澪「い、嫌だ!みんなと闘うなんて……!」

律「澪は怖がりだなー!お前も知ってるだろ?
  これはただの闘い。気絶させれば勝ちだし、最後はみんな元通りだってさ!」

梓「そ、そんなの本当かどうかわからないじゃないですか!!」

和「でも、理解はしてるんでしょ?私達に拒否権はない。
  ただ、敵を倒さなきゃいけない。ってことは」

梓「そ、そりゃあ……理解はしてますけど!」

みんなが言っていることは正しい。
これはただ、私達が戦って勝敗を付けるだけの勝負。
合計5回、気絶させれば勝利となり、試合終了後は全部元通りになるらしい。

憂「純ちゃん……!」

突然、憂が純ちゃんに抱きついた。


憂「純ちゃん……私達二人、能力無しだけど……頑張ろうね!」

純「うん……っていうか、私としてはそれはバラしたくない事実だったんだけどね……」

律「ん……憂と純は能力貰ってないのか?」

憂「はい…そうみたいです。私と純は能力無しらしいです。
  律さんはどんな能力を手に入れたんですか?」

律「ちっちっち。それは秘密だよー。
  ほれほれ憂ちゃん、君はさっさとチームに戻りな」

憂は『引っかかりませんでしたね』と言わんような小笑いで、私達の所へ走ってくる。

紬「確か9時ちょうどが試合開始時間だったわねー。ここを離れて作戦会議しましょう!」

ムギちゃんまで目がキラキラしている。
こうなったムギちゃんはどうしても止まらない。
私達4人は、急いで音楽室を出て行った。

梓「それにしても、本当に誰もいなくなってるんですね……」

音楽室を出た廊下にも、もちろんどの教室にも、人っこ一人いない。
ゲームの会場は学校内。そしてそこには、プレイヤー以外は誰もいないらしい。

私達は音楽室から離れた教室に入り、さっそく作戦会議に取りかかった。

唯「あずにゃん!あずにゃんは何の能力を貰ったの?」

梓「私は…言うなら『千里眼』って所でしょうか…」

梓「まだ使ったことはないですけど、どうやら他人の視界を得ることが出来るらしいです。
  たとえば……」

そう言ってあずにゃんは、ぐっ、と目を見開いた。

梓「今唯先輩の視界に入ってみました。私の顔を見てるのが分かります…」

唯「おおおおおーー!!!それすごいねー!
  こっちとしては視界に入られたのが分からないから、相手の動向を探るのにぴったりだね!」

梓「レベル2に関しては、全然分かりません…」

この能力にはそれぞれ、レベルというものがある。
最初の段階では全員がレベル1だが、一回気絶をするたびに、その能力は一つレベルが上がるのだ。
合計5回の気絶。誰が気絶させられるかも、勝負の肝となってくる。

梓「ムギ先輩の能力はなんですか?」

ムギ「私はね~…うふふ」

『こんな能力なのよ~』

突然、頭の中に声が響いた。

紬『私の能力はね、テレパシーなの!
  学校内なら、誰とでも会話出来るわよ~』

どうやら、ムギちゃんの声を学校中のだれにでも聞かせることが出来るらしい。
それに加えて、相手方の声もムギちゃんには届くらしい。
あずにゃんの様に、相手の会話を盗んだりすることは出来ないようだ。


唯「それで憂は能力無しだから…攻撃関係の能力は、私だけかぁ」

相手を気絶させなければならない以上、攻撃系の能力は必須である。
もちろん素手でもいいが、かよわい私に誰かを気絶させることなんで出来ない。

梓「一度倒した敵はレベルが上がって甦ることを考えると…
  能力がない憂が狙われるでしょうね」

紬「そうねぇ~…頑張ってね、憂ちゃん!」

憂「え、あ…はい」

梓「それで、唯先輩の能力はなんなんですか?
  これでショボい能力だったら笑えませんよ」

あずにゃん含め、三人が私をじっと見る。
私は胸を張って、自慢げに答えた。

唯「手に握った物を、何でも破壊する能力だよ!」フンス




梓「え?」

憂「え?」

紬「あらあらうふふ」


梓「ちょ、ちょっと!そんな危険な能力も混じってるんですか!この勝負!」

あずにゃんが立ち上がり、身振り手振りで何やら興奮している。

梓「私かっこつけて『言うなら千里眼ですね』なんて言っちゃいましたよ!
  しょっぼ!私の能力しょっぼ!!」

紬『落ち着いて~、梓ちゃん』

梓「いやいやこの距離でわざわざテレパシー使わなくていいですから!」

紬『あらあらうふふ』

梓「……ッ!…はぁ…」

あずにゃんが落ち着いたところで、私達はようやく本格的な作戦会議に入る。
攻撃的能力が私にしかない以上、私が前線としての作戦が話し合われた。


───午前9時

試合開始の時刻になる。
私達は4人、3-2の教室で待機をしていた。

紬「それじゃあ梓ちゃん、始めて」

梓「はい…」

あずにゃんが、ぐっと目を開く。
そして、すらすらとその目に映る状況を口にし始めた。

梓「律先輩…ピアノが見えます。澪先輩…純の姿が見えます。視界が震えているので、まだ怖がっていると思います。
  和さんが…一人廊下に出ています。」

あずにゃんの千里眼で、相手の全員の状況を知ることが出来た。
向こうは和ちゃんを除く三人が音楽室で待機していて、和ちゃんだけが特攻しているようだ。

憂「向こうにも梓ちゃん見たいな能力を持っている人がいるかも知れないから…
  私達もまだ迂闊に動かない方がいいみたいだね」

紬『ねぇねぇ、私の能力で、和ちゃんに話しかけてもいい?』

梓「わざわざ能力バラすようなことしないでください!」

しばらく時間がたったように感じる。
ふと時計を見ると、時間は9時10分を示していた。

唯「動かないと暇だよぉー」

梓「焦らないでください。向こうも動いていない、今は我慢の時間です…」

紬『向こうの能力が分からないわねぇ…』

あずにゃんは疲れたのか、ふぅ、と大きく息を吐いた。
やはり能力を使いすぎると、疲れるのだろう。

唯(…私も能力を使いたい!)

ふと、そんなことを考える。
私の能力自体は理解しているのだが、いかんせん実際に見てみなければ分からないこともある。

唯「あ、あのぉ~…」

梓「あ、向こうの人達、ティータイム始めちゃいました」

唯「!!」

私にとって、その一言は、戦争を始めるには十分な動機だった。

唯「あずにゃん!もう私行っていいよね!
  合計4回までは大丈夫なんでしょ!しかも気絶するたびに強くなるんでしょ!
  ねぇ、行かせて!お願い、私を行かせて!!」

梓「い、イかせてなんて連呼しないでください!///」

唯「さっき話した作戦もあるじゃん!いいでしょ!いいでしょ!
  お願いだからぁ…私を行かせて…」

梓「い、い、いいですよ…唯先輩を…
  い、い、い、い、い、い、イかせてあげますよ…//////」

唯「やったぁ!それじゃ、行ってきまーす!」

憂「あ、お姉ちゃん!気をつけてねー!!」

憂の一言にブイサインを返し、私は教室を出る。
目指すは音楽室、私のティータイム!


音楽室までの道のりは静かで、本当に人っこ一人いない。
そして、音楽室へと続く階段の手前まで、私はたどり着いた。

紬『音楽室の外側に和ちゃん。中は三人の状態は変わらないわ。
  和ちゃんは今は階段がわを見てるから…もう少し待ってね』

唯「了解です!ムギ司令官!」

紬『司令官だなんて…あらあらうふふ…』

待っていろ、悪党律ちゃん軍団。
私のティータイムを返してもらうべく、ただちに特攻させていただくぞ。

紬『唯ちゃん、和ちゃんが眼鏡をふきふきし始めたわ!
  今がチャンスよ!!』

唯「サー!!!!」

私は、一気に階段を駆け上がる。

唯「壊れろっ!」

階段を半分以上登ったところで、叫びながら手を突き出す。
メガネを掛けていなかったせいで反応が遅れた和ちゃんが、あわててその身をよけた。

私の手が、和ちゃんのスカートの裾を少しだけ掴む。
私が力を込めたその瞬間、握っていたその部分が、びりびりのぐしゃぐしゃに破れた。

和「唯ね!一人で特攻かしら?」

唯「私はティータイムを奪いに来た使徒!ヒラサワユイだよ!」

音楽室の中から声が聞こえる。
多数で来られたら面倒。
その前に私は和ちゃんに右手を突き出した。

唯「くらえ和ちゃん!!」

──その瞬間だった。

律「ほい、一丁あがりーっと」

ドスンッ、という鈍い音とともに、私の体が地面に押しつけられる。
正確には、私の上に突如現れた律ちゃんによって、私は押し潰された。

唯「り、律っちゃん!重いよぅ…」

律「何だとこのやろー!おらおらおら!」

唯「ひえー!降参!降参だよー!」

上に乗られたまま横腹をくすぐられる。
逃げたいが、律ちゃんによって逃げ場を失われた私は逃げることが出来ない。

和「さっきからこの子、手をやたら出してきたから、一応縛っておくわね」

胸元のリボンをほどき、私の両手を縛りつける和ちゃん。
あまりの手際の良さに、ドキドキを隠せずにはいられない。

律「さーて、唯チームの能力、全部洗いざらい話してもらおうかなぁ…」コチョコチョコチョ

唯「ふひ、ふひゃっ!や、やめてwwwww」


律「早く吐けよー!!」

唯「は、吐かない!吐かないからぁっぁぁ!!」

紬『あらあらうふふ』

数分間に及ぶ拷問を堪え切った頃、律ちゃんは諦めたのか、ついにその手を止めた。

律「駄目だこいつ…おい、和。仕方ないけど、あれやろう」

和「ええっ、あれをやるの…?」

あ、あれとは一体なんなのでしょう…。
それと、私の信頼出来る仲間達は、どうして助けに来ないのでしょう。

和「はぁ…仕方ないわね、唯。
  私の『校長先生の朝のあいさつが一生頭に流れ続ける能力』を使わせていただくわ」

唯「!!!!!!」


───・・・・・
─・・・・
・・・

梓「…それで、私達の能力を洗いざらい話した挙句、
  一番強い能力だからってことが理由で見逃してもらって、
  こうしてノコノコと帰ってきた訳ですか」

唯「てへへ…面目ないね…」

梓「てへへじゃないですよ!コッチには一つも情報を持って帰らないで、
  相手に全情報与えて帰ってきただけじゃないですか!」

憂「やめて梓ちゃん!お姉ちゃんをいじめないで!」

梓「でも、憂!」

憂「お姉ちゃんの行動は無駄なんかじゃない…
  いや、私が無駄にしないから…!!」

紬『あらあらうふふ』

唯「私は無駄足なんかじゃないよ!和ちゃんの能力だって見破ったんだから!」


梓「それはどう考えても嘘です…」

紬「まあ実際、私達の方が大分不利になったわねぇ…」

憂「…大丈夫です。お姉ちゃんの努力は私が無駄にはしませんから…」

梓(本当にこの子は…姉のためならすごいこと考えそうだから怖いな…)


──音楽室

律「ってことで、相手の能力は全部把握した」

和「唯用の対策考えておいてよかったわね。見事に引っかかってくれたわ」

律「和に嘘つかれたら、唯なら100%引っかかるだろうしなwww」

澪「それにしても…唯の能力、結構怖くないか…?」

純「握ったものを破壊…ですか。触れたものを破壊、じゃないだけマシですね」

律「まぁ、それを見越して見逃したんだけどな」

和「どっちみち、後は千里眼とテレパシーだけ。唯にさえ気をつけておけば、
  一撃で気絶する心配はないわ」

律「さてと…視界がバレてる以上、下手に動きたくない訳だが…」

純「あまりに動かないと、向こうは対策を立てる時間がありますし…」

和「ここはとりあえず、攻め、ね」

澪「う、うぅ…」

律「んじゃ、行きますか」

和「さっきと同じで、私が先頭でいいかしら?」

律「そうだな…和が先頭。そこから少し離れて私。
  純は澪が守ってくれ」

澪「う、うん…」

純「頑張ります」

和「それじゃ、3-2に向かって行くわよ」


──3-2

和「…さすがに、ここには誰にも居ないわね…」

律「唯が吐いたアジトにいたままじゃ、さすがにあいつらも馬鹿だろ。
  千里眼があるならなおさらだ」

澪「い、いきなり攻撃とかされないかな…」

純「千里眼がある以上なんとも言えませんが…
  自分の周りだけ気にしておけば大丈夫です。相手に飛び道具はありません」

和「相手が武器に出来そうな物…」

和は一通り教室を見回し、完全に敵がいないことを確認して、歩き始める。
相手が丸腰のまま動いているとは考えにくい。
何か武器となるものを手に入れたと考えた方が良いだろう、と踏んでの行動だ。

和「…」

和が何気なく掃除箱の前に、立った瞬間だった。

ガンッッッ

和「痛っっ……!!」

突然、掃除箱が勢いよく開いたのだ。
その中には、ニヤリと笑う、平沢唯。

和「唯っ…!」

咄嗟に逃げようとするも、掃除箱にメガネをずらされた和は、
相手を正確に認識することが出来ない。

律「やばいっ!和!とりあえずコッチに来い!」

唯は思い切り右手を伸ばし、和を今に掴まんとする。
その瞬間、後方で叫んでいた律の姿が消えた。

律「くらえっ!!」

律の姿が消えたと分かった次の瞬間には、律の姿は現れていた。
しかし、その場所は元の場所ではなく、唯の腕の上。

唯「──っ!!」

突如として唯の腕に律の全体重が掛かる。
唯の腕はがくんと下を向き、それにつられて唯は思い切り体制を崩す。
しかしそれは、律とて同じ事であった。

梓「今ですっ!行きますよ!!」

梓の叫び声とともに、教室の扉が勢いよく開いた。
隣の教室にて待機していた梓と紬が、掃除箱のホウキを手に突撃してきたのだ。


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