げんかんさき!

憂「おはよう、あずさちゃ……って、その目どうしたの?」

梓「え、あ……うん、いや、ちょっとね…あはは」

憂「なんかちょっと赤くなってるけど…」

梓「いいのいいの。ごめんね、朝おきたの遅くてばたばたしちゃってて…」

憂「そう? ごめんね、こんな時間に押しかけちゃって・・・・」

梓「こんな時間って、もう9時じゃん。私も一人じゃすることないし、気にしないでよ」

憂「そっか…あ。クッキー焼いてきたよ」

梓「わぁ……ありがとう!」

憂「お姉ちゃんや律さんたちの分もあるから、みんな集まったらたべようね」

梓「うん!」

梓(ふぅ…憂と話してたら落ち着いてきたかも……)

憂「へぇ……この子がそのインコさんかあ」きらきらっ

ピー太「……」

梓(お願い、よけいなこと言わないでねピー太……)どきどき

憂「? どうしたの梓ちゃん」

梓「あっううん、なんでもないよ」

憂「あ、勝手にさわっちゃったらだめだったかな……」

梓「んーん、憂のことじゃないからだいじょうぶだよ!」あせっ


憂「……お姉ちゃんのこと?」

梓「あは……そう、いうわけでもないんだけど」


憂「もう11月だもんね…」

梓「そうだねえ……センターまで二ヶ月ちょっと、かあ」

憂「……お姉ちゃんたち、受かるといいね」

梓「……受かるよ、きっと。唯先輩たちすごく努力してるもん」

憂「うん、きのうも古文の勉強を遅くまでがんばってたんだよ!」にこっ

梓「それで寝坊かあ…ふふっ」

憂「ごめんね、ちょっと寝かせてあげたくなっちゃって…」

梓「気にしてないよ。からだ壊すほうがやだってば」

憂「そうだね……ありがと、お姉ちゃんの心配してくれて」

梓「ふふ、憂だってそうじゃん」

憂「えへへっ」


梓「じゃあ、律先輩たちが来るまでにお茶の支度でもしておこっかな」

憂「あ。私手伝うよ」

梓「いいっていいって。憂はお客さんなんだから」

憂「でも待ってるのも悪いかなって…」にこっ

梓「ふふ、憂らしいね。ありがと、じゃあ私がお茶いれるから憂はテーブルクロスと――」


ピー太「ユイセンパイ ダイスキ!!」ぱたぱた

梓「なっ――!?//」


ピー太「ユイセンパイ、ハナレナイデ! ダイスキ!!」

梓「やめてってばあっ、もう!!」ばたばた

憂「……ぷふっ、くふふっ…」

梓「憂もわらわないでよお!」うるっ

憂「ごっごめん! ……なんか、ピー太くんが正直すぎて…」くすくす

梓「……もうやだよぉ…」うるうる

憂「ごめんね! その、ピー太くんも悪気があって…」

ピー太「アリガトウ!」

梓「うるさいピー太!」

憂(梓ちゃんが小鳥さんに翻弄されてる…)

梓「もう、ピー太がへんな言葉覚えるから疲れちゃったよ…うぅ」

憂「しょうがないよ、動物なんだから…」

梓「ていうか、どうにかしてあいつに言葉をわすれさせないと!」

憂「えっ…ええっ?」

梓「だって、先輩たちがきたら……」

梓「……」

憂「……」

梓「……うああっ、だめだよ! そんなのぜったいだめー!//」

憂(な、なに想像したのかな、いま…)

梓「と、とにかく……唯先輩が来るまでになんとかしなくちゃ」あせっ

憂「お姉ちゃん限定なんだ…」

梓「ねぇ憂、なにか方法ないかな? どうしたらあいつ忘れてくれるとおもう?!」ゆさゆさ

憂「ひぇ?! えっ、えーっと…その、きゅうには……」あせっ


憂「……あ」

梓「えっ?」

憂「ほかの言葉をたくさん言って、それを覚えさせたらわすれるんじゃないかな?」

梓「そっかあ! ありがとう、ういー!」ぎゅっ

憂「ひゃ?! ……て、てれるよお//」



りびんぐ!

梓「で、ええっと……なに言ったらいいんだろ」

憂「なんでもいいんじゃないかな? その、住所とか電話番号とか…」


梓「――唯先輩なんてだいっきらい!」

憂「えええっ?!」


梓「……いや、ちがうよ? そんなこと思ってないよ? ほんとだよ?」

憂「あ…うん、それはわかるけど――」

梓「正反対のこと言えば大丈夫だよ! 打ち消されるはず!」

憂「ええー…それってどうなのかな……」

梓「唯先輩きらい! 練習しないとことか、まじめにやらないとことか、すぐ音楽用語わすれるとことかだいっきらい!」

憂「そ、それはそれで覚えちゃったらまずいんじゃ……」

ピー太「ユイセンパイダイスキー」

梓「きらい! 軽音部みんなきらい! お茶ばっかり飲んで練習しないで、そのくせ演奏だけはすごくよくって、」

梓「勝手にバンドメンバーになって、そりゃ入部したの私だけどさ、でも勝手に卒業しちゃうの……きらい!」

ピー太「~♪」

梓「だいっきらい! 私一人残してどっかいっちゃうなんて勝手だよ! だいっきらい! 唯先輩なんてきらいーっ!」


梓「……はあっ、はぁ…」

ピー太「~♪」

憂(梓ちゃん……)


憂「……梓ちゃん」

梓「ごめん、さっきのは気にしないで! その――忘れさせるためだから!」

憂「いや、そうじゃなくって……ごめんなんでもない」

梓「……ごめんね、ちょっと落ち着かなきゃ…」

憂「あのね、梓ちゃん・・・・・できることあるか分かんないけど、もしつらかったら――」


ぴんぽーん

梓「うわ…律先輩たちだよね……」

憂「しっしんぱいないよ! それに律さんたちだって梓ちゃんのこと、」

梓「とっとにかく迎えにいってくる!」だっ

がちゃ

ばたん

憂(梓ちゃん……だいじょうぶかな)


げんかんさき!

紬「おじゃましまーす♪」

澪「わるいな梓、休みの日に押しかけちゃって」

梓「いえいえ、ほんと気にしてませんから!」

律「いやー、梓んち行くのってひさびさだよな」

澪「確かにな……軽音部全員ってなると、唯か律の家が多かったからな」

紬「梓ちゃんの家って楽器やレコードがたくさんあっておもしろいんだよね! 配置とかもきれいだし…」きゃっきゃ

律「物色するなぁ! おまえは渡辺篤史か!」ぱしっ

紬「きゃっ?!……ふふふっ」

梓「なんではたかれてうれしそうなんですか…」

紬「それでそのインコってどこにいるの」

梓「……あー、ええっと…」

律「どうしたんだよ梓ー、もったいぶんなよぉ」

澪「こ、こら律!」

梓「……わ、わかりました…とりあえずあがってください、立ち話もなんですから」

律「お、待ってましたー!」

紬「わあ…このスリッパ猫さんだ! 唯ちゃんがよろこびそう!」

梓「……うぅ」


律(……おい澪)ぐいっ

澪(なっなんだよいきなり耳元で)

律(……梓、なんか調子わるそうじゃね?)

澪(あ……たしかに)

梓「? 律先輩たち、どうしたんですか?」

律「えっ? ああなんでも! いっやあ澪のやつがおトイレがまんしてるみたいで…」

澪「しょうもないうそをつくな」ぱこん

律「ひゃ!」

梓「あ、お手洗いは階段の横の――」

澪「い、いやいいんだいいんだ。それよりそのインコの方を…」

梓「・・・・・わかりました」しゅん

澪(言われてみると…やっぱりおかしい、かも)



りびんぐ!

紬「あ、憂ちゃん先にきてたんだ」

憂「おじゃましてます」にこっ

律「・・・・・で、唯のやつは寝坊かい」

憂「すみません、明け方まで勉強してるお姉ちゃん見たら起こすのがかわいそうになっちゃって…」

澪「聞いたか律。お前も唯を見習え」

梓「そーですよっ。唯先輩でさえがんばってるんですから、律先輩はもっとちゃんとしてくださいっ」

律「うっ…まさか唯を見習えなんて聞くとは思わなかった……」

紬「ふふ、りっちゃんも唯ちゃんに負けないぐらいがんばらないとね」くすくす

憂「メモ残して目覚ましかけといたんで、もうしばらくしたら来ると思います」

紬「よかった…じゃあ、ちょっとインコさんとお話させてくれるかな?」

梓「あ……はい」


梓「えっと……この子です」

ピー太「……」

紬「わあ、かわいい!」きらきらっ

澪「へぇ……名前はなんていうんだ?」

梓「……ピー太、っていうらしいです」

律「ぷふっ、どっかにいたなぁそんなの」

紬「それはギー太だよ」くすっ

律「でさ、ピー太はしゃべるの?」

梓「……あ、はい! ええっと、しゃべりますよ」

律「いま意識とんでただろ梓」にやにや

梓「とんでません! ……律先輩じゃあるまいし」ぼそっ

律「なんだとー?! こんにゃろおっ!」ぐいっ

梓「ひゃあっ?! やっやめてくらさいぃ!」

澪「お前ら子どもか……」

紬「ピー太ぁ……げんき?」つんつん

梓「あの、ムギ先輩……あんまり鳥かごさわらない方が……」

ピー太「オハヨウ! オハヨウ!!」ぱたぱた

澪「わっ、しゃべった!」

律「おお、インコってほんとに人間の言葉話すんだな!」

梓「話すって言っても意味も分からないで発言してるだけみたいですけどね。声帯模写と一緒です」

澪「はは、なんだか調べたみたいな言い方だな」

憂「あはは……」

紬「ねぇねぇ、私の名前おぼえるかな?」

梓「そうですね……その子、かなり物覚えいいみたいですし、うん」

憂「そ、そうだよね…」

紬「つーむーぎ。つむぎ。わたしのなまえはつむぎですよー、ピー太くん」

律「一番の子どもはムギかもな…」くすっ

梓「それじゃあ……お茶だしますね」

憂「あ、私もクッキー持ってきました」

律「おおっ、気が利くなあ!」

澪「律も少しは人んちだって自覚を持ちなさい」

律「なんだいみおー、澪だって手みやげとか持ってきてないくせにー」

澪「律は態度がおおきすぎるんだ!」

紬「まぁまぁ…それじゃあ梓ちゃん、お願いしていいかな?」

梓「はい!」


きっちん!

梓「ふぅ……気が気じゃなかったよ……」

憂「いまのところは大丈夫そうだね…」

梓「これからどうしよっかなあ……」

憂「もう、しょうがないと思うんだけどな……梓ちゃんは、やっぱりだめ?」

梓「だめっていうか、恥ずかしすぎるでしょ……憂だったらどうする?」

憂「えっ、なにが?」

梓「こう、お姉ちゃんだいすきー! とか、お姉ちゃんあいしてるー! ……なんて言われちゃったら」

憂「あっあいしてるって//」

梓「ごめんなんでもない//」

憂「うーん、かわいいなあって思うだけかも」

梓「えっ……?」

憂「たしかに私、お姉ちゃんのこと大好きだけど……あいしてるとか、そういう気持ちじゃないもん」

梓「……そっかあ」

憂「梓ちゃんは、ちがうの?」

梓「・・・・・・いま聞く? そのこと」

憂「ごめん、つい…」

梓「……とりあえず、律先輩たち待たせてるから向こういこ」

憂「あっうんそうだね!」あせっ



りびんぐ!

梓「おまたせしました……どうぞ」

紬「わあ…いいにおい!」

梓「ムギ先輩のほどじゃないですよ…」くすっ

澪「でもこれ、けっこう高級な紅茶なんじゃないのか?」

梓「もらいものですから気にしないでください。お父さんの仕事の関係で、よくもらうんですよ」

憂「あ……プロ奏者なんだよね、梓ちゃんのお父さんって」

梓「うん、それで付き合いでもらったりとかね」

律「いーいなあ。私んとこなんか普通のサラリーマンだぜ?」

澪「そこで張り合うなよ…」


律「じゃあ……いただきまーす!」

梓「ふふ、どうぞ」

澪「お茶もおいしいけど……憂ちゃんのクッキーもおいしいな」にこっ

紬「手作りだからかな……味が深いかんじがする!」

憂「えへへ……ありがとうございます」

律「しかし私たちって食べ物にはめぐまれてるよなー」

澪「はは……ムギもいろいろ持ってきてくれるからな」

紬「みんなだって、きのこの里とかたけのこの森とかいろいろ教えてくれたもの」

律「微妙にちげえ……」

律「きのこー!」

澪「いーやたけのこだっ、これはゆずらん!」

律「なんだよおっ、たけのこなんてしょせんチョコの少なさをごまかしてるだけの――」

澪「律はおこちゃまだからなー、チョコさえ塗りたくってればおいしいとおもってるんだろ?」

律「あんだとー」ぐにっ

澪「ふるさーい」ぐにっ

紬「ふふ……りっちゃんたち子どもみたいだね」くすっ

律澪「「ムギにはいわれたくない!」」

梓「みなさん、もうちょっと大人になりましょうよ……」

憂「ぷふっ……ふふふっ・・・・・・」

律「何より憂ちゃんに大うけなのがへこむな…」

澪「律のせいだからな…」


紬「ねえねえ、ピー太くんの話なんだけど」

梓「ひゃ?! ……なっなんですかっ」

律「あずさー、おまえだいじょうぶか?」くすっ

梓「律先輩よりはだいじょうぶですー」ぷくー

澪「まあまあ……ムギ、なんだ?」

紬「やっぱり、なにか覚えさせてみたいかも……私たちのこととか」

律「おーう、そうだな! じゃあ手始めに部長の私が――」


ピー太「ケイオンブ ダイッキライ!!」

律「……えっ」


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最終更新:2011年01月17日 21:51