それは…
もうすぐ冬休みを迎え、街を彩るXmasイリミネーションに胸踊る12月のある日

紬「こんにちは~」ガラ

シーン

誰もいない音楽室…言葉と共に発した白い息が室内の冷たさを物語っています

紬「あら?一番乗りみたい」

紬「…そうだわ!…ふふ…この間は失敗しちゃったから、今度こそ誰かをびっくりさせちゃおうかな」

紬「わーっ!て」

ちょっとしたいたずらゴコロです。ワクワします。この間と同じ食器棚の陰に隠れましょう

タタタ…


紬「よいしょ…ふぅ…」

紬「うふ、誰が来るかしら?前みたいに梓ちゃんかな?」

紬「…それとも澪ちゃんかな?…律ちゃんかも…」

紬「…ふぁ…唯ちゃんとか…驚いて…くれる…かしら…?…」
ウトウト…

紬「……スー……は!」

紬「いけないいけない…また寝ちゃうところだったわ」

12月だというのに、この位置に差し込む日差しはポカポカです。

紬「あ トンちゃん」

ふと目をやると水槽の中のトンちゃんが見ています。

紬「しー…トンちゃん、私がここに隠れているのバラしちゃダメよ?」

口元に人差し指をあて言うと「了解!」とトンちゃん…たぶん…

紬「…ふぁ…」ムニュ

紬「…でも…ここの日差しは…」ウトウト
紬「…本当に…暖かい…わ…」ウトウト

紬「……」ウトウト

紬「… スー

そして…夢の中へ…


―――――――――
――――――
――――
――

紬「……う ん…」

紬「あら?ここは」

肌寒い外気で目を覚ますと、そこは公園のベンチでした。音楽室で誰かを驚かそうとしていたはずが…

紬(いつの間に公園に?たしか音楽室で誰かを驚かそうと隠れて…あー…)

いつの間にか外に居た事よりも、また、わーって出来なかったのが残念です

紬(…また 寝ちゃったのね)シュン

紬「…ところで…これはきっと夢…なのよね…?」

自分でも意識しない位、この不思議な出来事は夢なんだと思い、夢だと思うとワクワクしてきます。

紬「ちょっと楽しくなってきちゃった。何か面白い事ないかしら…ふふふ」

紬「…でもすごい現実的な夢だわ…」キョロキョロ

砂場の砂、ベンチの木目、遊具の錆…全て現実みたい…本当に夢かしら?

紬「あら?」

広らけた場所に、3,4歳位の女の子が1人と男の子が2人…何か揉めているようです…

紬「なにかしら?」


女の子「う…ひぐ…ぐすん…うえ…」

男の子1「わーっ!また泣くぞコイツー!」

男の子2「やーい!やーい!泣き虫ー!早く泣けよー」

女の子「うぐ…うえ…うわああーん!」

男の子2「やったー!」

紬(あらあら…ちょっと止めた方がいいかしら)


止めてあげようと思った刹那、公園の入り口から女の子が走ってきます。

?「おねえちゃーん!!」トタタ

男の子2「あっ!」

男の子1「うわ!妹がきたー!逃げろー!」

妹ちゃん…その女の子を見るや男の子達は無邪気に逃げ帰っていきました

女の子「う…ぐす…う…」グス


?「おねえちゃん…またイジメられたの?」

女の子「う…ぐす…うん…ありがど…」グズグズ

?「おねえちゃん 泣かないで…えと…ハンカチ…」

紬「はい」

?「あ…」

紬「はい、よかったら使って」ニコ

?「あ ありがとうございます(ペコリ)…はい おねえちゃん」

女の子「…ぐず…うん…」ゴシゴシ

?「あの ありがとうございます。洗って返しますから…えっと…」

女の子が顔をハンカチで拭いたのち、丁寧に頭を下げる妹ちゃん。出来た子だなって思いながら笑顔で返します。

紬「うふふ…大丈夫よ。あなたにあげるわ」

?「えっ!でも…」

紬「ねっ?」ニコ

?「すみません おねえさん…ほら おねえちゃんもお礼言って」

女の子「…ありがと…」

?「もう、ちゃんとお礼言わなくちゃダメだよ」

紬「ふふ どういたしまして」

ふと…園児服に付けられた名札に目をやると…あら?…そこには見知った名前が平仮名で書かれていました

紬(…えっ!?)

紬「あ あの…」

?「はい?」

紬「よかったら…あなた達のお名前教えて貰えるかしら?」

女の子「………」

?「名前ですか?わたしは平沢ういです」

女の子「……ゆい…です」ボソ

紬「!!」

妹ちゃんはとハッキリ答え、おねえちゃんと呼ばれていた女の子は、かろうじて聞き取れる位の声でそれぞれの名前を名乗ります。それはとても大切な友達の名前でした。

紬(唯ちゃんと憂ちゃん?幼稚園の頃の?どうなっているのかしら?)

憂「あの…おねえさん?」

よほどビックリした顔をしていたのでしょうか…憂ちゃんから不安そうに声をかけられ我に返ります。

紬「あ あ!ごめんなさい ちょっとびっくりしちゃって」

紬(やっぱりこれは夢なのかしら…でも…)

唯「……」オドオドモジモジ

紬(この子があの唯ちゃん?)

憂ちゃんは小さくても私の知ってる憂ちゃんでした。…ただ唯ちゃんは…

憂「あの…ハンカチありがとうございました…いこ おねえちゃん」

唯「…うん」

タタタ…

紬「…行っちゃった」

姉妹で並んで駆けていく二人の背中に軽く手を振り、唯ちゃんと名乗った子の事が気になります。

紬「…あの子が私の知ってる唯ちゃんなら…」

紬「…ちょっといやかも…」

紬「………」じー

コンビニのレジに表示される日付に見入っています。夢の世界と割り切るにはあまりに現実的で…でも、やっぱり夢のような不思議な出来事…

『199X年 〇月△日』

紬(約10年前…やっぱりここは過去の世界…)

店員「あの…よろしゃーしょーか?」

紬「はい?あ…ごめんなさい」」

店員「140円になりゃーす。ありゃとあしたー」

コンビニで買ったペットボトルの紅茶を飲みながら、約10年前の街を散策します。


紬「…じゃあやっぱりあの子たちは唯ちゃんと憂ちゃんなのね?」

紬「それならもっとお話したかったな…また会えないかしら…」

そんな期待を抱きつつも歩く街は、10年前とはいえ、やはり見覚えがある街並みです。

…やっぱり現実?やっぱり夢?…

感覚が曖昧で、1人という事もあり少しだけ不安です。


紬「さて どうしたらいいかしら?夢なら覚めるまで待つしか…」

『うわああーーん!!!』

ぼんやり考えていた時、さっき公園で聞いた泣き声が聞こえてきました。

紬「あっ!」

唯ちゃんと憂ちゃん発見!

憂「おねえちゃん…ちゃんと持ってないから…」

唯「うわああああーん!アイスーっ!」

憂「もうお金ないよ…」

往来で号泣している唯ちゃんに、ソッと近づく私、そして…

紬「わーっ!」

唯「ひぐっ!!」ビク

憂「あ」

紬「えへ こんにちは また会ったね」

憂「ハンカチのおねえさん?」

唯「う……ひぐ…うえぇ…」

よほど、ビックリさせてしまったのでしょうか…泣き止む気配の無い唯ちゃん…

紬「お 驚かせてごめんね、ゆいちゃん 泣かないで」

唯「ぐぶ…あ あいす~…」

紬(あ そっちなのね)

憂「おねえちゃん…わたしの半分こしよ?」
唯「…ぐす…ういのが小さくなっちゃう…から…」エグエグ

憂「へいきだよ‥おねえちゃんと一緒に食べたいし…」

二人のやりとりを見てると、ああ…唯ちゃんと憂ちゃんだ…なんて思います、ちょっとだけお節介。

紬「うふ…ちょっと待っててね」

憂「え?」

………

紬「おまたせ!はい!」

唯「…わぁ~ あいす~!」パア

憂「そんな…知らない人から何度も…」

紬「ううん…私がそうしたいから、ね!」ニコ

唯「あ…」

紬「ん?なあに?」

唯「…ありがと…まゆ毛のおねえ…さん…」モジモジ

紬「まゆ…」

憂「おねえちゃん!…しつれいだよ」

紬「うふふ が がお~っ!まゆ毛星人だぞ~っ!」

唯「……」

紬「あ あら?」

憂「……」

紬(はぁ…律ちゃんのようにはいかないわね)シュン

もちろん二人に悪意はないのだけれど…リアクションがないと寂しいです

憂「あ すみません 何か色々してもらって…えっと…」

紬「ん?」

憂「あの おねえさんの名前は…」

紬「あ 教えてなかったよね」

唯「…」コク
憂「…」コク

二人同時に頷き、じっと私の名前を待っています。私の名前は…

紬「お姉さんはね…ムギお姉さんよ」

唯「…ムギ…おねえさん」

私の名前をオウム返しで呟く唯ちゃん。

憂「えっと ムギおねえさん…ほんと色々すみません」

紬「いいのよ~ …あっ!」

憂「はい?」

紬「うふふ そしたらお姉さんのお願い聞いてもらえるかしら」

憂「はい なんですか?」

紬「お姉さん今一人なの。だから唯ちゃん憂ちゃん…一緒に遊んでくれる?」

憂「…あそぶ ですか?」

ギュッ
紬「ん?」

唯「………」

憂「おねえちゃん?」

唯「……あ あそぶ」

紬「ホント?唯ちゃん」

唯「………」コク

憂「おねえちゃんがいいなら」

紬「うふ ありがとう」

紬(えっと…確か、この路地に…)

唯ちゃんは私のスカートを、憂ちゃんは唯ちゃんの園児服の裾をつかみながら目的地を目指します。ちょっとカルガモのお母さんになった気分です。


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