公園───

気づけば公園に来ていた。ドーム型の遊具の中で佇む。

紬「……」

今日が終われば後4日、誰も頼れない。
孤独が続く。

紬「孤独…」

この試練を乗り越えたら、何か変わるだろうか。

紬「琴吹家代々伝わると言われる試練…。」

琴吹家は昔から結構な財閥だったとお祖父様から聞かされたことがある。
お金持ちであると言うことには、世間と価値観がズレていると言うことでもある。
そんなことも聞かされた覚えがある。

紬「この試練はそれを克服する為…?」

こうして家に帰らず最低限で過ごせば、周りのことが見えてくるだろうと云うことなのだろうか。

紬「もっと周りを……」

紬「……」

紬「汗臭い…。お風呂入りたい」



カポーン

紬「ふしゅう~……」

だだっ広い風呂の真ん中で、クリーム色の髪を纏めあげた女の子が一人浸かっている。

紬「これが銭湯なのね~。私の家のお風呂よりは小さいけど、それでも大きいわぁ」

紬「それに後ろの富士山の絵が何だか心を清めてくれると言うか…」

紬「絵心よね~」

紬「こんな広いお風呂で一人貸し切りなんて贅沢だわぁ」

紬「! 私って毎日贅沢してたのね…。当たり前だと思ってた。これがズレてるってことなのかしら」

ガラガラガラ

女の子「……」

小さい女の子が入って来るのを紬は目を輝かせながら見ている。

紬「一人かしら? お母さんは一緒じゃないのかしら」

女の子「」タッタッタッタ

湯船に向かって爆走してくる女の子

紬「あ、駄目よ。湯船にはちゃんと体を洗ってから入らないと」

────

ゴシゴシ

紬「お名前は?」

リカ「リカ…」

紬「可愛いお名前ね。リカちゃんお母さんとは一緒じゃないの?」

リカ「…お母さん番台の人と話してる」

紬「番台?」

リカ「…立ってた人のとこ」

紬「あそこって番台って言うのね! 物知りね~リカちゃん」

リカ「えへへ」

紬「うふふ」

────

ガラガラガラ

リカの母親「リカ~ちゃんと入る前に体…」

ゴシゴシ

リカ「お姉ちゃんくすぐったい」

紬「ちゃんと洗わなきゃ駄目よ~」


リカの母親「すみませんわざわざ。リカ、お姉ちゃんの背中も流してあげなさい」

紬「えっ、そんな」

リカ「お姉ちゃんこっち。座って」

紬「…ん。じゃあお願いするわ」

────

斎藤「……」
番台「男湯あっちだけど……」

斎藤「……。女湯が覗ける場所を教えて(ry」
番台「あ~もしもし警察ですか?」
斎藤「ちょ、警察は! 違うんです私にはお嬢様を見守る役目が……!」


────

リカの母親「ふい~」
リカ「ふあ~」
紬「とぅい~」

リカの母親「銭湯だけよね~こうやって浸かる時変な声が出るのって」

紬「わかります~。何と言うか体の中に染み渡るというか」

リカ「」バシャバシャ

リカの母親「リカ~泳いじゃ駄目よ~。泳ぐとしても平泳ぎにしなさい。バシャバシャ言ったら紬お姉ちゃんうるさいでしょ?」

リカ「うん。」スイ~スイ~

リカの母親「それにしても珍しいわね。高校生? 肌綺麗ね~。髪も綺麗だし。ハーフ? 羨ましいわ」

紬「そんなことないですよ~」

リカの母親「あなたみたいにいい子で可愛くて綺麗な子にリカもなればいいんだけどね~なかなかのじゃじゃ馬Way To Goで」

紬「リカちゃんなら私なんかより立派な人になれますわ」

リカの母親「そのおおらかな雰囲気……そして銭湯に一人で来る心意気、完璧じゃないあなた。あ~リカのお姉ちゃんになってみない? イコール私の娘的な」

紬「ふふ、凄くなりたいけどお気持ちだけ頂いときます」

リカの母親「よ~し紬ちゃんにはお世話になったからお姉さんコーヒー牛乳奢っちゃおう!」

紬「お風呂あがりにコーヒー牛乳! 夢がまた一つ叶えられるんですね!」ぽわぽわ~

───

ゴクッゴクッゴクッ
リカの母親「」
リカ「」
紬「」

リカの母親「ぷはっ!」
リカ「ぷはー」
紬「ぷふぁー!」

リカの母親「この為に生きているって言葉が正に当てはまるわ! 一瞬ほど儚いわよね……」

紬「でもいっぱい飲みすぎるとこの気持ちは味わえませんよね!」

リカの母親「そう! よくわかってるよ紬ちゃん! 女もコーヒー牛乳も輝く時間が短いから美しいんだ!」

紬「なるほど!」

リカ「」ゴクゴク

リカの母親「あ~もうこれを味わうのも後少しなんてね~」

紬「?」

リカの母親「ああ、ここ潰して健康ランドにするんだって。風情があるから残したいらしいんだけどここの番台、私の同級生の親が倒れちゃったらしくてさ。前々から持ち上がってた健康ランドにして、お金に余裕を持たせたいんだって」

紬「そうなんですか…」

リカの母親「健康ランドと銭湯じゃあやっぱ違うよね~」

紬「……」

───

リカの母親「はい、紬お姉ちゃんにバイバイ言って」

リカ「バイバイお姉ちゃん」

紬「うん。またね、リカちゃん」

リカの母親「潰れるまでまだ1ヶ月ぐらいはあるからさ。また来なよ。今度は友達連れてさ」

紬「友達……」

リカの母親「な~にいない子みたいにしてんのさ。あんたみたいないい子にいい友達がいないわけないでしょ? あんたがそう思ってないだけでそう思ってる子はいっぱいいるんじゃない? ちゃんと周り見なよ。じゃ、またね」

リカ「」フリフリ


紬「友達……」フリフリ

夕日の中、リカとリカの母親にいつまでも手を振りながら。
自分の在り方を考えていた。


斎藤「(ご無事でしたかお嬢様! この斎藤お嬢様がのぼせたりしないか(ry)」

警官「いたぞ! こっちだ!」


斎藤


────

紬「スーパーでご飯を買って…寝やすくする為に段ボールをもらおう」

スーパーで手早く買い物を済ませ、裏の段ボールをまとめている場所に行く。

紬「すみません、この段ボールちょっとわけてもらえますか?」

店員「ん? 別にいいが。夏休みの工作かい? 偉いね~嬢ちゃん」

紬「ありがとうございます! 敷いて寝るんですよ~。段ボールって暖かいから」

店員「えっ」

紬「~♪」

店員「……没落貴族ってやつかねぇ……だから不況は嫌だ嫌だ……」

────

紬「お昼少なめにした分ちょっと買いすぎちゃったかしら。でもお腹ぺこぺこだし安い夕日に買い物しとかなきゃ勿体無いわよね」

紬「段ボールも手に入ったし。これで今日はぐっすりだわ!」



澪「あれ……ムギ? 段ボール持ってどこ行くんだろう…」


公園────

澪「何で私つけてるんだろう……でも気になるし…。公園に入ってった」


紬「──いま~♪」



澪「今ただいまって……」



紬「~♪」



澪「段ボール敷いてる……。まさかムギ……ここに住んでるのか? あれ……でもムギってお金持ちじゃなかったっけ…。あんな大きな別荘いくつも持ってたのに…」

澪「……」

澪「まさか私達がお菓子を食べ過ぎて破産!!?」ガビーン


澪「なわけないだろ! 律みたいなこと言うなよ私! ……じゃあ、家出か」

澪「でも何でこんなところで……お金持って来るの忘れたのかな…。じゃあ何で私達に頼ってくれないんだよ…ムギ」

澪「友達じゃないか…」

澪「話しかけて家に泊めてあげよう…、でもムギから話せないってことは他にも理由があるかもしれないし…そもそもムギが家出なんてしそうもないし…」

澪「こんなとこ見られてたってわかったらムギも嫌がるかもしれないしな…。明日会うからその時泊まらないか? って聞いてみよう。ムギ……」



紬「段ボールって高級ベッドに通じるものがあるのね!」



夜───

紬「……」

夜は嫌だわ。一人になるから嫌なことばかり考えちゃう。

紬「私はみんなのことを友達と思ってる……けど、みんなはそうじゃないのかもしれない」

でもあんなに遠くにいた和ちゃんが私を友達だって行ってくれた。
リカちゃんのお母さんも友達がいないわけないって。

紬「通じてるのかしら……この気持ちは」

今まではお菓子を持って来ることでしか表せなかった気持ち。
私は家がお金持ちだから、そうやってお金を使うことでしかみんなを喜ばせられなかった。

けど、もう違う。
私はもっともっと高いところに行くんだ。
この試練を乗り越えれば、きっと……。

紬「紬~ふぁいっお~ぉ!」



【斎藤】「(お嬢様……)」
 ↑迷彩中



────

紬「くぅ……くぅ……」

子供「おい、まだ寝てるぞ」
子供「倒すなら今のうちだね! がっちゃん!」
子供「バカ! 油断大敵って言葉を知らないのか! まずは奴の補給物資を断つ! 兵法の基本だ」

子供「さすががっちゃん!」

子供「よ~しあの鞄を奪うぞ!」

子供「ラジャッ」
子供「ラジャッ」

子供「慎重に慎重に……」

紬「……」

子供「へっ! 眉毛に沢庵なんてつけやがって!」

紬「がおおおおおおおお」

子供「ひいいいいいぃっ」
子供「うわっ」
子供「きゃあっ」

紬「沢庵ゾンビだぞ~食べちゃうぞ~早く立ち去りなさ~い」

子供「に、逃げろ~!」
子供「ゾンビだ~! 沢庵ゾンビだ~!」
子供「あっ! 待ってよがっちゃ~ん!」

紬「ふふ、可愛い」

────

紬「生き返る~。外はこんなに暑いのにどうして水道のお水は冷たいのかしら」

紬「歯も磨かないと。後は体を拭いて」


prrr prrr

紬「携帯が鳴ってる。また斎藤かしら」トテトテ

紬「もしも~し」

唯『あっムギちゃん?』

紬「唯ちゃん!」

久しぶりに聞く唯ちゃんの声……涙が出そうになっちゃう。

唯『どうしたの? もうみんなついてるよ?』

紬「ついてる…? あっ!」

そうだった…。今日はみんなでプールに行く約束してたんだった!

紬「ごめんなさい! 今からすぐに行くから!」

唯『ムギちゃんが寝坊なんて珍しいね~。近くに美味しそうなアイス屋さんがあったから、それ食べながら待ってるからゆっくりおいで』

律『早く来ないとアイス食べれないぞ~!』

澪『それぐらい待ってやれよ!』

紬「い、今すぐ行くからね!」

唯『りっちゃんのは気にしなくていいからね。じゃあまたね~』

ガチャリ…

紬「遅刻だなんて…私最低だわ。友達失格ね…」



駅前───

律「よぅし今日は焼くぞぉっ~!」

唯「りっちゃんやる気だねぇ!」

律「ここで焼いといて夏休みが終わった頃に…「あらん田井中さんステキー。」「田井中さん綺麗だわ~」って言われるのさっ」

唯「ハイハイ! 私も言われたいです!」

憂「お姉ちゃんは駄目!」

唯「そんなぁ…」


澪「純ちゃんも来たんだ」

純「はいっ!」

梓「誘ったら来たいって言うから仕方なくです」

澪「そんな言い方したら駄目だぞ梓?」

梓「でも……」

純「澪さんの水着を見に来ました!」はあはあ

梓「ほら、危ないですし」

澪「あぁ……うん。何となくわかった」

────

梓「ムギ先輩遅いですね」ペロペロ

律「だな~珍しいこともあるもんだ」ペロペロ

唯「アイスうまぁ」ペロペロ

純「澪先輩ミント味いります!?」

澪「あ、うん。じゃあちょっともらおうかな」

純「(私の唾液のついたアイスを澪先輩が……ああああっ)」

梓「不純」

純「なにさっ!」

憂「……(紬さん…何かあったのかな)」

律「早くこの身を業火で焼きたいと言うのにっ! ムギはまだ…」



紬「ごめんなさ~い、待った~?」

律「遅いぞムギぃっ! 早く行かないと日焼けする時間が…」

紬「ごめんねりっちゃん」クログロ

律「って黒っ! 既に日焼けしているだとっ!」

澪「(ムギ~……)」ウルウル

紬「じゃあ行きましょうか」


電車内───

梓「ムギ先輩が日焼けだなんて珍しいですね。海外に行って日焼け止め塗り忘れたとか?」

紬「日焼け止め買うお金が勿体なかったの」

梓「?」

純「でもちょうど綺麗に焼けてて大人っぽいですよ」

紬「ありがとう純ちゃん」

純「あのっ、前々からお願いしたいことがありまして…いいですか?」

紬「ん? なぁに?」

純「そのブロンドウェ~な髪を触らせていただけないかなと」

紬「いいわよ。はい」

純「やったー! 前からどんなにふわふわタイムなのか触ってみた」

ガシガシ

純「かたっ!」

紬「うふふ」

純「おかしい! あんなウェーブうってる髪がそんなわけ…」

ゴワゴワ

純「ゴワゴワッ?!」

梓「純、失礼だよ」

紬「いいのよ~本当のことだから」

澪「(ムギぃぃぃ)」


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