唯「あっ、あずにゃん。かまどはどの辺に作ろっか?」

梓「考えないで石放り投げてたんですか……えっと、テントの近くでいいと思います」

唯「テントの中がよくない? 雨降ったらお料理出来なくなっちゃうよ」

梓「あー……」

 テントって言っても支柱と屋根だけだし、そっちの方が便利かも。

梓「じゃ、テントの中にしましょうか。少し風ありますし、煙は気にしないでよさそうですもんね」

唯「うん。テントおっきいし、火柱でも上げない限り燃えないよね~」

梓「……やっぱ、テントの外、すぐ傍に作ってください」

唯「え! 雨降ったら!?」

梓「かまどの熱でテントの屋根が溶けたり燃えたりしないか心配なので」

唯「う、うん……」

 この時期、夜になっても冷えることはなさそうだから、大丈夫だよね。
 毛布だってあるし、寝袋だってあるし……もし、どうしても寒かったら、唯先輩と一緒に寝ればいいだろうし。
 ……どうしても、の時はね?

唯「ひとつ積んではあずにゃんの為ぇ~♪」

梓「…………」

唯「ふたつ積んでもあずにゃんの為ぇ~♪」

梓「あの」

唯「みっつ積んでもやっぱりあずにゃんの為ぇ~♪」

梓「その変な歌の通りなら、私の為に作ったかまどで焼いたお魚は、私の空腹と栄養の為に、私ひとりで食べちゃっていいんですね?」

唯「……よっつ積んでは、私達の為ぇ~……」

 そりゃぁ、重い石を運んでもらってるのは申し訳ないと思いますけど。
 私だって頑張りますから、ちゃんと、ふたりでサバイバるんだってわかってくださいよもう。

唯「とりあえずおおまかな形は出来たかな! あとは、あずにゃんが運んでくれた石を隙間に詰めて……」

梓「かまど、何か思ってたより小さいですね」

唯「うん? だって、さっきのお鍋がちっちゃかったもん。大きすぎると使いづらいんじゃないかな」

梓「……なるほど」

 そういやテレビ番組じゃ、焚き火は滅多にやんなかったけ。
 うん、割と……薪代わりの枝とか枯れ草とか入りそうだし、火力は問題なさそう。

唯「さ、出来た! あずにゃん、そっち側から砂かけて! ずばーっと、砂で山を作る感じでね!」

梓「は、はいっ」

 言われるまま、ざーっと砂をすくって簡素な石組みのかまどに砂を浴びせる。
 やってる最中、大きな石と小さな石の隙間を埋めてるんだな、って気付いた。

唯「もういいかな……あずにゃん、そこら辺に木の枝が埋まってるから、つまずかないようにしてね~」

梓「はい……ん……っと? はい、ちょっと離れて歩くようにしますけど……木の枝、ですか?」

唯「それ抜くと、かまどの中に風が入る予定なんだよ。なかなか燃えなかったら抜くし、調子よかったらそのまんま。抜いた時にかまどが崩れたらやだから、よく燃えてくれるといいんだけど」

梓「そおですか」

 わかんない。
 唯先輩、さっきまで石を積んでる時は砂遊びしてる子供にしか見えなかったのに、そんなことまで考えてたなんて。
 私、唯先輩のことが本当にわかんない。

唯「はー、お水お水! あずにゃんも飲んだ方がいいよ!」

梓「はっ、はい!」

 ほんと、わかんない。

唯「次はお魚さんをズビシ! だね。やったことないし、あんまりやりたくないけど」

梓「あの……森の方に行ってみませんか? 海水飲んだら余計に喉が渇くらしいですし、果物とか、水とか見付かるかもしれないですし」

唯「そうだねぇ……甘いフルーツが欲しいよね! カ□リーメイトだけじゃどうにもこうにも物足りないよ!」

 ああ、いつもの唯先輩に戻った。
 きっと、森に一歩踏み込んだ途端にバナナやリンゴの木があって、たわわに実ってると思ってるんだろうなあ……。

唯「んじゃ着替えないとね、っていうか着るだけかな」

梓「あ。はい、そうですね」

唯「水筒にお水入れて……持ってくのは絆創膏と包帯と消毒液だけでいいかな。あずにゃん、お願いしていい?」

梓「はい」

 割と的確な持ち物選び、なのかな。
 うん、いくらムギ先輩でも、とても対応出来ないような大怪我するとこに私達を放り込むはずないもんね。

唯「はー。ただのぬるいお水がこんなに美味しいなんて、今まで思いもしなかったねー」

梓「んく、んっ……そうですね。でも、あんまり飲みすぎないでくださいね?」

唯「うん。サバイバラ……バーとして、自分が飲むお水は自分で調達しないとね!」

 いえ、まぁ、少しは分けてあげても構いませんけど。
 限界だと思ったらリタイアすればいいだけですし。

唯「よーし! 着替えたらすぐ出発だよ、あずにゃん!」

梓「はいです!」

 唯先輩いわく、長袖の探検隊の格好になって。
 沢山あるポケットのうち、手が届きやすい場所に応急手当グッズを入れて。
 水筒を首からかけたら、準備オッケーですよ。

唯「さすがにそろそろ暑くなってきたね。この服はちょっち厳しいかも」

梓「あ、お昼近いかもしれませんから、カ□リーメイト食べましょうか?」

唯「持っていこ。途中で歩きながら食べればいいよ、どうせお腹ぺこぺこなのは変わんないんだし」

梓「はい」

 私もだけど、やっぱり食べた気がしないのは唯先輩も同じみたい。
 カロリー的には間に合ってるんだけど、ね。

唯「じゃ、行こっか」

梓「はい」

唯「ここの場所覚えててね~。迷ったらあずにゃんだけが頼りだから」

梓「わっ、私だって唯先輩だけが頼りなんですよ!? そんな不安になるようなこと言わないでくださいっ」

唯「えへへへ、冗談だよ。すぐそこ、私が石を集めてたとこに獣道っぽいのがあったから、今日はそこから外れないように気を付けて探検しようね」

梓「はぁ……冗談は時と場所を選んで言ってください」

唯「えへへ」

 悪びれない唯先輩だけど、今は頼もしく思える。
 ちょっと離れているとはいえ、私に向かってナイフの素振りをするのは勘弁して欲しいけど。

唯「んじゃ、しゅっぱーつ!」

 ……はあ。
 きっと、森の中の至るところにもムギ先輩がカメラ仕掛けてるんだろうなぁ……。

梓「無人島っていうのが本当なら、真水は期待出来そうにないですね」

唯「あるかもしれないよ? こう、伝説の何とかの泉がこんこんとわき出てて……『あなたが欲しいのは金の水? それとも銀の水?』とかさ」

梓「どっちも飲めないですよね?」

唯「だよねー。金でも銀でも、水ってことはすっごく熱い溶けた金属なんだもんねー」

梓「泉の話から離れませんか」

 水のことばっかり言ってたら、早くも喉が渇いてきた感じ。
 水筒からひと口だけ、ごくり。

唯「…………」

梓「あれ? どうしたんですか、唯先輩?」

唯「ちょっとお水飲むのが早かったね、あずにゃん。文明世界の安心して飲める貴重なお水だったのに」

梓「はい?」

唯「あれ! あの木知ってる! 枝を切ると、切り口からお水が出てくるんだよ!」

梓「……えぇー」

 安心して飲める水なんですか、それが。
 とか思っている間に唯先輩は自分が指差した木の、手が届く部分を切って、その下で口を開ける。

唯「あーん……」

 出てきたのは、透明だったけど、樹液のはず。
 それがぽたぽたと唯先輩の舌に垂れ落ちて、唯先輩は美味しそうに樹液を飲み下す。

唯「ん、んっ……んく……」

梓「あの、唯先輩? そういうの、お腹壊しちゃうんじゃないですか?」

唯「テレビでやってたし、さっきの図鑑でも見たもん。大丈夫だよ」

 いえ、だから図鑑はともかくテレビってどうなんですかね。
 ああいうのは視聴率を稼ぐ為にわざと派手に火柱を上げたり、夜中の海に潜って魚を捕ったり。
 何かあったらすぐにボートとかで搬送してもらえるし、撮影用のライトに照らされていたら銛突きもそりゃあ楽でしょうねっていう。

唯「んぐ、んんっ……はー。美味しいよ、あずにゃんも飲む?」

梓「いえ……今、水飲んだばかりですから」

 いくら唯先輩が飲んだ樹液でも、ちょっと、怖い。
 それにふたりでお腹壊したり病気になったりしたら大変。

唯「んじゃ、今日はここら辺の野草を集めて戻ろっか」

梓「はい?」

 唯先輩はそう言って、適当に掴んだ草をナイフでぐしぐしと切り取ってリュックに詰めていく。
 食べられるのか、そうでないのか、私にはわからない。
 本当、わからない。

唯「あ、あずにゃんはそこの木の実を集めてくれる?」

 唯先輩と一緒なら、もしかしたらこの島に定住出来るんじゃないかな、って思えてきちゃう。
 生活力というか適応力ありすぎ。今のでお腹壊さなきゃだけど。

梓「木の実ですね」

 ……うわあ、何か嫌な形の粒が木の枝に沢山連なってる。
 でもあとで図鑑で調べて、食べられないやつだったら捨てればいいか。

梓「手が届くところまでで許してくださいね」

唯「うん。こっちが結構あるから、お腹一杯食べられるよ」

 食べられたら、ですけどね。

唯「ふぃ~……落ちてる枝を集めながら戻ろう、あずにゃん。燃やすものはいくらあっても困らないからね」

梓「あ、はい……」

 適当に草を刈り取ってたようにしか見えなかったんだけど……本当に食べられるのかなぁ。
 まぁ、カ□リーメイトが尽きたら唯先輩がすごい勢いでギブアップするんだろうけど。

唯「ああ、あのちっちゃなお鍋、ひとつ潰すけどいいよね」

梓「えっ? 潰すって、べこんって踏むんですか?」

唯「ううん、そうじゃなくって。せめて塩がないと、私はくまさんじゃないんだから、野草でもお魚でも食べられないよ」

梓「あ、海水を煮詰めるんですか」

 それはそうと、くまさんって誰のことかな?


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