梓「ここは主にオルタナロックとか前衛音楽を置いてるフロアですね」
唯「折る棚? 前衛? あ、なんかカワイイ曲がかかってる」
梓「ここはCDもありますよ」
唯「ホントだ。あ、スリップノットだ!」
梓「唯先輩、スリップノット好きなんですか?」
唯「前にね、さわちゃんが特訓してくれたときにDVD見せてくれたんだ~。みんなオモシロイ格好だよね」
梓「そうですね」
唯「あ、これも教えてもらったやつ、えーっと、ナイン・ミンチ・ネルズ?」
梓「お肉じゃないんですから……ナイン・インチ・ネイルズですね」
唯「うわっ、800円だ!」
梓「中古ですからね。このへんのバンドはだいたい1000円前後で買えますよ」
唯「へぇ~……これ買お」
梓「『フラジャイル』ですね(唯先輩のイメージとはだいぶ遠いなぁ)」
梓「えーっと」ゴソゴソ
唯「こっちはレコードなんだね」
梓「あ、スプーンだ」
唯「スプーン?」
梓「アメリカのロックバンドなんです。すごく演奏がカッコイイですよ」
唯「このジャケットだっけ? かわいいね。男の子が椅子に座ってる」
梓「たぶん一番新しいやつですね……私、これにします」
唯「なんだかジャケットかわいいと欲しくなってくるね~」
梓「内容がわからなくてもジャケットだけで買う人もいますよ。ジャケ買いっていうんです」
唯「ジャケ買いかぁ……ププ、シャケみたい」
梓「その発想はなかったです……」
唯「よし! 私もジャケ買いする」フンス!
梓「あんまり考えないで無心になってやってみるといいですよ」
唯「じゃあCDでやってみよう。無心……む、むむむむ!」スッ
唯「これ! あ、かわいい~」
梓「んん?」
唯「日本語だ。えーっと、暴力、温泉、芸者。変な名前~」
梓(これって中原昌也さんの前衛系のやつだったような……男の人がミラーマン歌ってるっていう……)
唯「中身はわかんないけど、うん、ジャケットかわいいからこれにするよ~」
梓「そ、そうですか~(うーん、本人は満足そうだしいいか)」
……
紬「ん……」
紬「あ、いけない。またピアノの上で寝ちゃった」
紬「ふわぁぁ……まだこの曲作ってる途中だわ。続きやっちゃお」
紬「たぶん、私たちってあんまりマイナーよりもメジャーのほうが合ってると思うんだけど……」
――ポーン、ポロローン
紬「よし! フーン、フンフンフーン♪」ポロロポロローン
紬「……澪ちゃんだったら、切ない感じとかうまく歌ってくれるかも」カキカキ
紬「えっと、こうかしら。よいしょ」ボーンボロロローン
紬「フンフン♪」ボーンボロボロボロボロ
紬「フーンフーン♪ フフフーンフフーン♪」ボボボボーン ポロポロポロ
紬「……ちょっと発声苦しいかな。でも澪ちゃんなら声でるかも」カキカキ
紬「うん、ちょっとくらい転調してもやってくれるよね。澪ちゃん歌うまいから」
紬「フフーン、フフフフーーーン♪」ボーンボンボンボンポロポロロロロロロ
紬「フッフーーン♪ フンフフフフーン!」ダーンッ ダーンッ ダーンッ
紬「フーーン! フフーーンフーーン!」ダンダンッダダンッ ポロポロポロ
紬「フンフンフンフンフンフン!!」ジャンジャンジャン パーーーンッ ジャジャジャッ
紬「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふぅーー!!」ダンダンダンダンダンダンダンダン
斎藤「お嬢様、失礼します」
紬「のっ、ノッてきたのおおおぉぉーーっっ!!」ダンダンダンダンポロロロダダンッ
斎藤「!?」
紬「あら、斎藤」
斎藤「ピアノも結構ですが、お休みをなさってはいかがでしょう。あまり無理をなさるのも体に毒でございますゆえ」
紬「そうねえ。あ、もうお昼」
斎藤「昼食の準備なら既に」
紬「その前にちょっと外に出てきます」
斎藤「は、ですが今から遠出をなされるのは……」
紬「そこのコンビニまでよ」
…
紬「あの人ももう少しフランクだといいんだけど……」
―いらしゃいませこんにちわー。
紬「えーっと、あっ、あったあった」
紬「この栄養ドリンクって、前から飲んでみたかったのよね」
紬「いっぱいあるけど、どれがいいのかしら」
紬「うーん……そうだ、せっかく外に出たんだから薬局まで行って買おうかな」
紬「うん、そうしよう。でも、お腹すいたし、ちょっと何か買い食いしよっ♪」
紬「と、その前に……」
男性客A「……」
紬「♪」
男性客B「……」
紬(わたし、コンビニで立ち読みするのが夢だったの~)
紬(漫画ってあんまりわからないけど、この都市伝説特集……すごく怖い)
紬(N県にあるトンネル……そこは全国的にも有名な心霊スポットであるが、当時23歳のBさんは友達と旅行がてら冷やかしにそこを通ることにした……)
紬(どうしてわざわざ夜中に行くのかしら……)
紬(『ねえやっぱやめようよ~』『大丈夫だって。ほら、なんにも起こんないじゃん』)
紬(外は暗闇。赤いライトに照らされたトンネルの中ゆっくり車を進めていくと……)
紬(『あ、あれ? エンストしちゃった』)
紬(『えーうそぉ!?』『おかしいな……』『だからやめようって言ったじゃあん!! ねえはやくなんとかしてよォ!』)
紬(『でもエンジンかからないのよ……ちょっと、さわんないで、邪魔しないでよもォ~』)
紬(『わたし、なにもしてない……』)
紬(『は? さっきから私の左腕……』)
紬(そこには後部座席から青白い手が彼女の左腕を掴んでいたッ!!)
紬「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
男性客「!!」ビクッ
…
紬「うぅ……恥ずかしいことをしてしまった」
紬『すひません! すひません!』
紬「もうあそこのコンビニ行けないわ……あ、薬局」
紬「もう早く買って帰ろ」
紬「えっと……昨日ほとんど徹夜みたいになっちゃったし、眠気覚まし的なのを買ってみたいけど」
紬「どれがいいのかしら……」
紬(なんとなく……刺激が強そうなやつを選べばいいんじゃないかしら)
紬「赤マムシ……これは強そうね。これひとつ」
紬「スッポン? トンちゃん? 隣にあるし一応コレも」
紬「ニンニクなんてある。これもキきそう~」
紬「あ、なぁんだ、眠気覚ましっていうのもあるんだぁ~」
紬「よし! こんなところかしら。すいませーん、これくださ~い」
店員「いらっしゃいま……せっ!?」
紬「♪」ニコニコ
店員(昼間から、若い、かわいい子が、精力剤買いこむって……)
紬「?」ニコニコ
店員「ご、ご出勤ですか?」
紬「え?」
……
梓「それじゃあ、次は外に出て、別館のジャズに行ってみましょうか」
唯「ジャズかぁ。あずにゃん、オットナァ~♪」
梓「はいはい。今までの本館から数件隣り……ここですね」
唯「お店の中が明るくて、なんだかオシャレな感じがする」
梓「さっきと違って外からも店内が見えますからね。中古は上なので階段あがりましょう」
唯「ほいほ~い」
唯「さっきのロックがあった所より全体的にすっきりしてるね」
梓「そうですね。私はここではあまり目当てのものはないんですけど、唯先輩は見ていきますか?」
唯「うん、ジャケット見る~」
梓(なんか楽しそうだなぁ)
唯「さっきの暴力温泉芸者さんは日本語だったから、また日本語の探してみよ」
唯「むむむ……」
梓「なにかイイのありました?」
唯「これ、えっと、高柳昌行さん? セカンド、コンセプト? これジャケットカッコイイ気がする」
梓「高柳昌行さんですか……(フリージャズのギタリスト……唯先輩って前衛方面が向いてるのかなぁ。でも中身わかってないし)」
唯「でも、ちょっと高いや。これはやめとくよ」
梓「そ、そうですか(なんだかホッ)」
梓「ジャズ館のまた隣のビルの3階がレコード専門なんですよ」
唯「へえ~」
梓「さあ、着きましたよ」
唯「ふおぉ……さっきよりも古そうなのばっかり。それにオジサンばっかりだね」
梓「若い人も来るとは思いますけど……見当たりませんね」
唯「それじゃあ、また見てみよっか」
梓「そうですね」
唯「ねえねえ、あずにゃん。私もあずにゃんみたいにしゅばばば~ってレコード見たい」
梓「そうですね、それじゃあ棚の一番奥のレコードを引っぱりだしてください」
唯「こう?」サッ
梓「これ、どう思います?」
唯「うーん……ジャケットかわいくない」
梓「それじゃあ、これを戻して、一つ手前のを取り出してみましょうか」
唯「ふんっ!」サッ
梓「こうやって、一枚一枚見ていくんです」
唯「え~。でもこれじゃすっごい時間かかるよ~?」
梓「スピード勝負じゃないんですから。それに慣れれば段々手つきも速くなりますよ」
唯「そっかぁ」
唯「あずにゃん先輩、リスペクトするッス」ゴソゴソ
梓「私、後輩なんですけど……」
唯「あ~ずにゃんのた~めな~らエンヤコ~ラ~♪」ゴソゴソ
唯「うーん……」ゴソゴソ ポイ
梓「これ、気になるんですか?」
唯「うん。とりあえず目に付いたのは出そうと思って~」ゴソゴソ
梓(コルトレーンの『ブルートレイン』かぁ。確かにジャケットかっこいいもんねぇ)
唯「ここにはもうイイのない気がする」
梓「え?」
唯「ぎゅうぎゅうにレコード詰めてあって……取り出すの、たいへん、だっと」ゴソゴソポイ
梓(ボビー・ハッチャーソンの『モンタラ』だぁ! これ確かウチにないやつだ!)
梓「ゆ、唯先輩? どういう基準で選んでるんですか?」
唯「ん~? もちろんカワイイかカワイクナイかですよ!」フンス!
梓「はぁ……カワイイかカワイクナイか」
梓(これはカワイイのかな……)←気になったら尼見てちょ
唯「ふぅ~。一仕事したぜぇ」
梓「結局選んだのは最初の2枚でしたね」
唯「うーん……」ジッ
梓「(すごい真剣だ……)店員さんに言えば視聴させてもらえますよ?」
唯「やっぱりいいや」
梓「えっ!? 両方ですか?」
唯「うん。だってこの人すっごい真面目な顔してて、ずっと見てると疲れそうなんだもん」
梓(真面目な顔って……まあ確かにコルトレーンの演奏ってすごくシリアスなものもあるけど)
唯「あずにゃんはどうするの?」
梓「あ、わ、私、先輩が選ばないならコレ(モンタラ)にしますっ!」
唯「そっかぁ~。よかったねぇボビー」ナデナデ
梓(やっぱり名前つけてる……いや、合ってるんだけど)
梓「ふぅ」
唯「あずにゃん、お疲れかい?」
梓「いえ! あ、でもお昼前から歩き回ってたから、ちょっと疲れたかもです」エヘヘ
唯「じゃあ、どっかでお茶にしようよ。ほら、3時だし。休憩!」
梓「あ、ホントだ。それじゃあ、そうしましょっか」
唯「ほぉ~かごは~ティータ~イム♪」
梓(そういえば他の先輩たちは何してるんだろ?)
唯「あずにゃんのビニール袋おっきくていいなぁ~」
梓「ここ、バッグも売ってますよ」
唯「でも2月25日にならないと売ってないんですよ、あずにゃん……」
梓「え……?」
……
澪「うわぁ……ここが雷門。初めて見たぁ」
澪「えっと、今だいたい3時か。これなら夕方にスカイツリー見る前にブラブラできるな」
澪「うーん、それにしても休日の人だかりすごい……」
澪「とりあえず浅草寺まで歩くか」
澪「やっぱり観光客大勢いるな。小さい人口のサラダボウル……」
澪(英語で話しかけられたらどうしよう)
澪「あっ……と、ここ、写真撮影の邪魔か」
観光客「ムゥ、マドモワゼール!」
澪(って考えてるそばからキタァ!? しかも英語じゃないし!!)
観光客「アァ……」
澪「アアアアアアイキャンスピークえんぐりっすぅ~!」
観光客「ユーアーメリカン?」
澪「のっ、ののっ、のの、ノノー!」
澪(エートエートエートエートエートエート!)
観光客「すいません、写真、お願いします」
澪「へっ?」
観光客「家族で、撮りたいです」
澪(日本語話せる人だった……)
澪(ゆっくりだけど発音キレイだった……)
澪「(しかも……)お菓子までもらっちゃった」
澪「ハァ……でもありがたくいただこう。むぐ」モグモグ
澪「あ、おいし」
澪「なんだろコレ? 衣がついてるけど中がアンコ。揚げ饅頭って言ってたっけ」
澪「ふむふむ……」モグモグ
澪「おいしいなぁ……あとで自分でも買おう」
澪「お店の数もすごいな……たぶんお寺まで一直線だと思うけど、迷いそう」
澪「この賑わってる感じ……うまく撮れるかな? よっ」カシャ
澪「あ、少し傾いてる。まあしょうがないな」
澪「! 旗が出てる。あれが揚げ饅頭のお店か。んー……でも帰りにしよ」
澪「おお! お寺までの道が開けた! あれが浅草寺!」
澪「ここから……よいしょ」カシャ
澪「うーん……デジカメはすぐにパソコンに取り込めるから楽しいんだけど。やっぱりLC-A持ってくればよかったかな」
澪「あれ!? また揚げ饅頭のお店がある!?」
澪「はぁ~……やっぱり人気なのかなぁ」カシャ
澪「さて。いよいよお寺の方に進むぞ~」
澪「煙が……お香、じゃあないよね。なんていうんだっけ。こういう煙ってだいたい厄除けみたいなやつだったと思うけど」
澪「みんな、頭に被ってる……私も」パタパタ
澪「そうだ。左手にもしておこうかな」パタパタ
澪「ベース弾きにもご利益がありますように……」
澪「じゃあ、本堂にお参りしよう」
澪「あ、その前にここの煙たいスペースも」カシャ
澪「5円ですみません」チャリーン
澪「……」
澪(家内安全、無病息災、あと、これからも軽音部のみんなと仲良くやっていけますように)
澪「……」
澪「ふぅ。よし! じゃあ……」
澪「ご飯にしようかな。うん、別にそっちが目当てじゃあないけど、うん、せっかくだしな」
澪「うん」
澪「うーん、おそばとかあるんじゃないかな。とりあえず適当に歩いてみるか」
澪「あれが五重の塔(定食みたいの食べたい)」カシャ
澪「歩いてみるとけっこうあっという間(甘味系でもいい)」
澪「あれ、お寺抜けちゃったかな?」
澪「まあいいや、ちょっとこっちのほうブラブラしよう(なにもパフェとか食べたいっていうんじゃないんです)」
澪「うーん、下町っぽい(なにか、食べたい)」
澪「ご飯が食べられるところ……」
澪「お店はたくさんあるみたいだけど、みんな飲み屋みたいだ」
澪「お、あれが花やしき」カシャ
澪「あれ? なんか商店街みたいなとこ出ちゃった。あ~……」
澪「まぁいっか。戻ってさっきの飲み屋みたいなところに入ろう」
最終更新:2011年01月13日 00:31