梓「今日は学校も休みだし、軽音部の集まりもないし、どうしようかな」

梓「憂……は家の用事があるみたいだし。純……ジャズ研あるって言ってたっけ」

梓「ああー休日が過ぎていく……」

梓「そうだ! 買いもの行こう買いもの! そうだそうしよう!」


梓「電車に乗ったはいいものの、どこ行こうかな。最後に洋服買ったのいつだっけな……」

梓「あ、あの人かわいい……でも、私の身長だとああいうのムリだろうな」

梓「あ、ピーコートだぁ……うーん、でもいいやつはけっこう高いんだよね。なんでもそうだけど」

梓「うーん……あ、あそこの人ディスクユニオンの鞄持ってる」

梓「たまにいるよねぇ……そうだ! レコード屋行こうレコード屋! 行ったことない中古屋さんとか回ろう!」

梓「よし、決まった。あ、ここで降りなきゃ!」


梓「うわぁ……すごい人。やっぱここの駅迷路だ」

梓「あれ、どっちが地上出口だっけ? えーと、こっちが都庁だから、こっちがアルタがある方かな」

梓「前に一度来てるし、なんとかなるよね」


――20分後


梓「……おかしいな、どこかの百貨店に入っちゃった」

梓「……あれ、ここは本屋さん」

梓「……外出ちゃった。中央公園」

梓「ここどこー!?」

梓「ガード下まで戻ってこれたけど、駅着いてから1時間近く経っちゃった……」

梓「えーと、ここが新宿アルタ前。今日は休日だからいいともはやってないや」

梓「このまま進んで行けばユニオンだけど、今日は西新宿の方に行ってみよう。えっと、線路を挟んで反対側だね」

梓「確かこっちのほうにロスアプソンっていうお店があるはずなんだけど……」

梓「天丼屋さん、カフェ、ラーメン屋……またラーメン屋……またラーメン屋」

梓「おかしいなぁ、携帯で住所見るとこのあたりなのに。ここが柏木公園。西新宿の……」

梓「私、今日まだ一度も目的地にたどり着けてないよ……」

梓「結局知らないお店に入っちゃった……」

梓「オジサンのお客さんばっかりだ。売り物もブート中心かな」

梓「クラプトン、ゼップ、ストーンズ……クラシックな感じのが多いなぁ」

梓「1000円かぁ……気になるけど、ここは我慢しとこ」

梓「ふぅ、ちょっと公園で休憩しよ休憩。歩き疲れちゃった」

梓「ハァ~……」

梓「すぐ目の前はレゲエのお店かな? ドーナツ盤ばっかりみたい」

梓「ボブ・マーリーは好きだけど、ちょっとまだそこまで手が出ないかな」

梓「それよりロスアプソンだよ! もうこの辺3周はしてるのに見つからないってどうなってるの!?」

梓「もうユニオン行ってタワレコ寄って帰ろっかな……」

梓「……あそこのビルちょっと変わってるな」

梓「レコード屋さんの中にはテナント借りて2階にあったりもするんだよね」

梓「もしかして……」タタッ


『LOS APSON?』

梓「やったー! 見つかったよー!」

梓「ここ、マンションなのかな? そこの一室を使ってるのかぁ。見つからないはずだよ」

梓「えーっと……6階」

梓「……なんか緊張してきた」


梓「他の部屋も何かの事務所なんだね。えーと、お店は……」

梓「ここかな。目的地到着! いえす!」

梓「って唯先輩じゃないんだから」ブンブン

梓「どこから入るんだろ? 扉は閉まってるけど……アレ?」


『OPEN 15:00』

梓「うそおおおおおッッ!?」←現在12:00

梓「ちゃんと調べとくんだった……なんか今日はうまくいかないなぁ」

梓「お腹もすいてきたし……」キュウウ

梓「ご飯にしよう。あんまり無駄遣いしたくないけど、せっかく都心部に出てきたんだしどこかで食べたいな」

梓「うーん、ラーメン……ちょっと気分じゃない」

梓「思い出横丁……おそばがあったと思うけど、なんか違う」

梓「どこかのレストラン……に一人で入るのもなんだか……」

梓「ハァ……」

梓「結局、駅まで戻ってきちゃった……」

梓「もう帰ろうかな……ん?」


「すいませ~ん、手相の勉強してるんですけど~」

「はい?」

「すいません、手相の勉強してるんですけど、ちょっとお時間いただいてもよろしいですか?」

「手相かぁ、なんだか面白そうですねっ!」

「それじゃあ、ちょっと失礼して……ふむふむ、これは」

梓「唯先輩!」

唯「あれ、あずにゃーん! 偶然だねぇ~」

梓「はやくしないと映画始まっちゃいますよ! ほらこっちこっち!」グイグイ

唯「わっ!? あ、あずにゃん、映画? わたし今手相見てもらってるのにィ~」



梓「まったくもう、唯先輩素直すぎます」

唯「えへへ。あずにゃん今日はお買いものかい?」

梓「はい。唯先輩も?」

唯「んー、適当にブラブラしようと思ってさー。ねえ、お腹すいてない?」

梓「今、私どこかでご飯食べようかと思ってたんですけど」

唯「ホントに!? よーし、いこいこ!」

梓「え、でも、どこに?」

唯「おいしいご飯が食べられるとこ!」


梓「おいしいものって、ハンバーガーですか」

唯「お昼にハンバーガーって好きなんだよ~。むぐむぐ」

梓(そういえば新宿にも二郎あるんだよね。さっきはスルーしちゃったけど、思い出したらそっちのほうが……)

唯「ほいで、はふにゃん」

梓「はっ、はいっ!? 別にやさいましましとか考えてないですよっ!?」

唯「ましまし? あずにゃんは今日は冬モノのお買いもの?」

梓「あ、ああ……実は今日は中古レコード屋を回ろうかと思って」

唯「中古レコード?」


梓「このあたりは中古店がとても多いんです。前から気になってたお店もあるし、掘り出しものがないかな~って」

唯「レコードってなに?」

梓「え……レコードって見たことありませんか?」

唯「バーコードなら知ってるよ!」フンス!

梓(今は唯先輩みたいな反応が普通なのかな? でも軽音部なんだし一応知っておいてほしい……)クスン

梓「レコードはCDと同じ音楽記録媒体なんですが、今は主流じゃないんです。そうですね、CDのお父さんみたいな感じです」

唯「ふむふむ」

梓「CDよりも大きくて、黒いんですけど。あっ、唯先輩スクラッチってわかりますか?」

唯「スクワット?」

梓「こう……キュッキュッ~チェケラッチョ!」

唯「! ヨウヨウー! チェケラッチョイ!」

梓「まざっふぁっかー!」

唯「寝ちゃお寝ちゃおー!!」

唯「あずにゃん、ノリノリだね~」

梓「失礼しました……(うう、恥ずかしい)」

梓「話を戻しますけど、あのラップのDJの人たちが使ってるのがレコードです」

唯「ふうん」

梓「今日はそれを買いにきたんです」

唯「おお~」パチパチ

梓「(なんかペース狂う……)唯先輩は今日このあとどうするんですか?」

唯「うーん、どこかでご飯食べて、お店見てまわって帰ろうと思ったけど……ねえねえ、あずにゃんについていってもいい?」

梓「私はもちろんかまわないですけど」

唯「あは! じゃあさじゃあさ、私もレコード見たい!」

梓「じゃあ、一緒に近くのお店まで行きましょうか」


唯「今日はいい天気だね~」

梓「ちょっと寒いですけどね」

唯「あはは、そうだねぇ~」

梓(なんか不思議。唯先輩って一人で買いものに出かけるイメージとかなかったのに)

唯「……」ジッ

梓「どうしたんですか?」

唯「あそこ、楽器屋さんだ」

梓「あぁ、そうですね」

唯「……」

梓「唯先輩、見たいんだったら言ってくれていいんですよ?」

唯「え!? ホントに!? う~んでもォ~今日はあずにゃんに従うって決めてるしィ~」モジモジ

梓「なんですかそれ……ほら、行きましょう」

唯「へっへっへっ、どこまでもついて行きやすぜ、ダンナ」

梓「もう~今度はなんなんですかそれー」

唯「こないだ水戸黄門スペシャル見てさぁ……」

唯「うわぁ……」

唯「あずにゃん! すごいよ! ギー太ばっかり! ギー太が勢ぞろいでズラァっと!!」ハフハフ

梓「ギブソンのフロアみたいですから」

唯「ほへぇ……」

梓(こんなに興奮するとは……私もちょっと見ていこうかな)

唯「うふふふふ~」

梓「唯先輩、今度新しく買うんだったら別のにしてみたらどうですか? ほら、リッケンバッカーとか」

唯「ギー太『お父さん、今日はお嫁さんを連れてきました』
  ギー太の父『ほう、誰かね』
  ギー子『初めまして、ギー太さんと将来を誓ったギー子です』
  ギー太の母『あらまあ、素敵な娘さん』
  ギー太の父『うむ、これでギブソン一家も安泰だ。わっはっはっはっ』
  ギー太『これから、世界一の家族になろうね』
  ギー子『子供は3人よ』」

梓「……」

唯「イヤン、ギー助さんのエッチィ!」ニマニマ


唯「面白かったねぇ~」

梓「店員さん、ちょっと引いてましたよ……えっと、じゃあ次はレコー」

唯「あずにゃん!」

梓「は、はい?」

唯「ここ、下着屋さんだ」

梓「え!? あ、ああ、はい、そうですね……」

唯「すごいね、街の真ん中に下着屋さんだ」

梓「はい……」

唯「……」ジッ

梓「どっ、どこ見てるんですかもうッ!」

唯「えへへへ~」ニヤ

唯「ねえ、あずにゃん、そこのお店入ろうよ。ほら、あのピンクのヒラヒラしたのとかカワイイよぉ~」

梓「わっ、わたしあんなのつけませんっ!」

唯「別にあずにゃんに薦めたわけじゃないけど」

梓「ハッ!!」

唯「まあまあ、あずにゃん、ほら嗜みというやつだよ~。あ、私最近一つ大き目のが欲しかったんだぁ~」

梓(あれ!? いつの間にか唯先輩のペースになってる!?)


……

唯「いや~買ったねぇ、あずにゃん」

梓「はい……(私、何しに来たんだっけ)」

唯「あの紫のやつ、似合ってたのに」

梓「唯先輩のセンスおかしいですッ!」

唯「そうかなぁ。ありゃ?」prprprpr

梓(電話?)

唯「ちょっとごめん。はいはい。平沢ですよ~」

唯「うんうん……え? おばあちゃんみたい? わたぁし、これでも、ことス、ズゥはっさいになるんだよォ~」

唯「いまー? 下着屋さん」

梓(下着屋さんって……誰と話してるんだろ?)

唯「うんうん……えー……ってコラァ、タチバナー!」

梓(タチバナって誰!?)

唯「そんなに迫力ない? うーん……うん、じゃあ今度見せっこしようねー」

梓(何を見せっこするの!?)

唯「ばいばーい」

唯「ごめんね~。じゃあ行こっか」

梓「……あの」

唯「うん、なんだい?」

梓「今の電話って友達ですか?」

唯「うん、そうだよ」

梓「えっと、もしかして、その、かっ、かっ」

唯「閣下?」

梓「いいえ、やっぱなんでもないです!!」

唯「へんなあずにゃん~」

梓(まさか……いや、今まで考えたこともなかったけど)

梓(唯先輩、彼氏とか、いるのかな)

梓(子供っぽい人だと思ってたけど、ちょっと今日いつもと感じ違うし)

梓(……まさかね。いや、想像つかないっていうか、ムリ!)

唯「らぶ~らぶ~らぶずっきゅん~♪」

梓「ここですよ(ああ、なんかここまで長かったな……)」

唯「ディスケー……うにおん?」

梓「ディスクユニオンです」

唯「なんか狭そう」

梓「それは言わないお約束です。じゃあ、一番上の階のヴァイナルから見ましょうか」

唯「張り紙ばっかり」

唯「……ねえ、あずにゃん、なんだか不思議なニオイがするね」

梓「中古レコードがたくさん集まってるとこんな感じになっちゃうんです。たぶん」

唯「ほあ……」キョロキョロ

梓「唯先輩、これがレコードですよ」

唯「ポスターみたい」

梓「これは某女性声優も好きなストーンズの『スティッキー・フィンガーズ』ですね」

唯「ジーンズがもっこりしてる」サスサス

梓「ど、どこさわってるんですか」

唯「いやぁ、このジーンズにチャックが開いたりしないかなーって。えへへへ」

梓「これはついてないですけど、本当にジッパーがついてるのもありますよ」

唯「えっ、そうなんだ?」

梓「えーっと……」シャバッバッバッバ

唯「おお!」

梓「はい?」

唯「もう一回やってもう一回!」

梓「えっと……」シャバッバッバッバ

唯「おお~!!」パチパチパチ

梓「……///」

唯「なにやってるのそれ?」

梓「レコードはCDみたいにタイトルが確認しやすくないから、こうやって引っぱりだしてチェックして、欲しいものを探すんですよ」

唯「そんなにパッパッパーってやってもわかっちゃうんだ。すご~い」

梓「でも、乱暴にやっても傷ついたりするのでほどほどに」

梓「これは律先輩が好きなザ・フーの『マイ・ジェネレイション』ですね」

唯「へぇ~……」ジッ

梓「えっと中身ですけど。スイマセン、あの、これ視聴できますか?」

店員「はい、こちらでよろしいですか?」

梓「はい」

店員「……」ゴソゴソ

梓「あの黒い円盤がレコード本体ですよ」

唯「……」ジッ


『Out in the street~♪♪』


唯「……」

『People try to put us down~~♪♪』

唯「……」ジッ

梓(なんかすごい真剣にジャケ見てる……)

唯「あずにゃん」

梓「はい」

唯「この人のしてるマフラーすごくかわいい。私も欲しいよ」

梓「えっ、そっちですか」


『Kids are alright~~♪♪』

唯「こういうのっていくらくらいするの?」

梓「そうですね、このザ・フーは5000円みたいです」

唯「ごっ、5000円!? 私の一カ月分のお小遣い!」

梓「希少品だったり、音がいいものは値段が高くなるんです。あ、ちなみにこっちの」

梓「ビートルズのUK版はモノラル音源に加えてラウドカットなので福沢さん一人じゃとても足りません」

梓「そもそも60年代はステレオへの移行がまだ完全ではなかったのでこうしてモノラルとステレオの両方が存在するんですが、私はこの時代のものは断然モノですね」

梓「ジャズ系は親が持っているんですがこのへんのロックはあまり持っていないんです、なのでここのラインナップはいずれ全て――」←音質厨

唯「あう……あずにゃん恐い」

梓「それじゃあ、次は下の階に行きましょうか。この下はオルタナ系のロックが多いから最近のものも扱ってると思いますよ」

唯「うん」

梓「うーん、ゼップのSHMってどうなんだろう……」ブツブツ

唯「……」ジッ

梓「唯先輩、階段気をつけてください」

唯「あ、うん。あのさ」

梓「はい?」

唯「なんていうんだっけ、こーゆーの。えっと……後ろ首を捕まえられる?」

梓「話が全く見えないです……」

唯「ううん、やっぱなんでもない」

梓「?」


2