部室
梓 「お兄ちゃん」
唯 「一緒に帰ろっか、あずにゃん」
梓 「手つないでくれますか?」
唯 「うん! いいよ」
律 「おい! ちょっと待て唯」
澪 「いつから兄妹になったんだよ」
唯 「そんなことボクに言われても……あずにゃんまだ幼いんだし」
澪 「だいたい、女なのに自分ことボクって」
唯 「おかしいかな?」
紬 「いいんじゃないかしらぁ~」
澪 「いや、でも……」
梓 「お兄ちゃんをいじめないで下さい!」
唯 「ほらっ、あずにゃん泣いちゃうよ」
律 「あー、悪かった。ごめんな」
帰り道
唯 「コンビニで肉まん買って帰ろうよ」
梓 「だめですよ、晩ご飯に食べちゃだめです」
唯 「え~、あずにゃんのケチ」
梓 「憂お姉ちゃんにいいつけますよ」
唯 「でも、あずにゃんもほんとは食べたいんでしょっ」
梓 「ううう」
唯 「おいしいねっ」
梓 「はい! うまいです」
唯 「憂には内緒だよ」
梓 「内緒です」
平沢家
憂 「いたただきま~す」
唯梓 「……いただきます」
梓 (やばい、おなかいっぱい……)
憂 「あれ、梓ちゃん、食べないの?」
梓 「なっ、内緒です」
憂 「え?」
唯 (あずにゃん! それじゃバレちゃうよ)
憂 「さては、お菓子食べちゃったんでしょ」
梓 「内緒です。お兄ちゃんと約束したから」
憂 「お姉ちゃんっ!」
唯 「ぼっ、ボクは関係ないよ……」
憂 「めっ、でしょ」
唯 「はい、ごめんなさい」
唯の部屋
コンコンコン
唯 「入っていいよ」
梓 「お兄ちゃん……」
唯 「一緒に寝てほしいの?」
梓 コクリ
唯 「ほら、ベットに入っておいで」
梓 「いいんですか」
唯 「いいから、いいから」
梓 「抱っこしてください」
唯 「あずにゃんは甘えん坊さんだねぇ」
梓 「あ、甘えんぼじゃありません。やっぱり、抱っこはいいです」
唯 「ごめん♪ ごめん♪」ギュッ
梓 「ひゃっ」
唯 「あずにゃん、あったこい♪」
梓 「お兄ちゃんもおコタみたいにあったかいです」
唯 「ねぇ、あずにゃん」
梓 「何ですか?」
唯 「どうしボクがお兄ちゃんなの?」
梓 「ボクって言うからお兄ちゃんです」
唯 「でも、女だよ」
梓 「ボクって言うヒトはお兄ちゃんです」
唯 「そっか、そっか」
唯 「じゃあ、電気消すね」
梓 「ダメです」
唯 「でも、もう寝ないと」
梓 「暗いのいやです」
唯 (仕方ないなぁ)
唯 「じゃあ、昔話してあげるね」
梓 「ほんとですか!」
唯 「ほんとうだよ♪ むかぁ~し、むかし、あるところに……」
唯 「……というわけで二人はしあわせに暮らしましたとさっ」
梓 「ぐぅ~す~」
唯 「あずにゃん、寝ちゃった」
唯 「じゃあ、ボクも電気消して寝よっと」
梓 「す~す~」
唯 「あずにゃんの寝顔かわいいなぁ」
唯 「ちょっといたずらしてみよっ、つんつん」
梓 「ふにゅぅ」
唯 「ほっぺ、やらこい♪」
唯 「ほれ、つんつん」
梓 「ぅぅぅぅ」
唯 「ごめんね♪ おやすみ、あずにゃん♪」
次の日の朝
唯 「おはよぅ……あれっ、あずにゃんがいない」
憂 「お姉ちゃん、学校遅刻するよ」
唯 「えっ、は、はちじぃ! 遅刻遅刻!」
憂 「私、日直だから先、行ってるね」
唯 「はやく着替えないと」
憂 「朝ごはん作っておいたから」
唯 「憂、ありがとう」
憂 「梓ちゃん、ちゃんと学校に連れてってあげてね」
唯 「うん、いってらっしゃ~い」
梓 「憂の目玉焼き、おいしいな~」
ジリリリン ジリリリリン
梓 「電話だ!」
ジリリリン ジリリリリン
唯 「あずにゃん、出てぇ~」
梓 「はい、わかりました。任せてください」
梓 「もしもし」
唯 「ああ、遅刻遅刻」
梓 「たいへんです!」
唯 「大丈夫、もう着替えたからっ」
梓 「ちがいます! もっと、ずっとたいへんです!」
唯 「どうしたの?」
梓 「パパから電話でした!」
唯 「えっ、お父さんから?」
梓 「ちがいますよ! あずさのパパからです!」
唯 (でも、あずにゃんのパパは……)
唯 「でも、あずにゃんのお父さんは、遠い外国でお仕事してるんだよ」
梓 「でも、パパからでした!」
唯 (あずにゃんが生まれる前に死んでるはず)
梓 「会議に使う書類忘れたから会社に届けてくれって言ってました!」
唯 (まちが電話かなぁ)
梓 「たいへんです! たいへんです!」
唯 「ほんとうに、あずにゃんのお父さんからだった?」
梓 「はい! パパからでした!」
唯 「そっかぁ」(困ったなぁ)
梓 「早く行かないと! パパはほんとに、おちょこちょいです」
唯 (あずにゃん、嬉しそうだなぁ……)
梓 「あずさだけじゃなくて書類も忘れるなんて、困ったパパです」
唯 「そうだね……じゃあ、届に行こうか書類」
梓 「はい!」
唯 (今日は学校休まなくちゃ)
唯 (とりあえず、書類は適当にプリントを封筒に入れて……)
梓 「早くっ、早く行きましょう!」
唯 「はい、はい。って、そのリュックは?」
梓 「ここに書類入れてください」
唯 「遠足みたいだね」
梓 「ほんとに困りました! もう、てんてこまいです」
唯 (問題は、どこに行くか……だよね)
唯 「じゃあ、行こっか」
梓 「あっ、忘れてました!」
唯 「どうしたの?」
梓 「おみやげ忘れてました」
唯 「おみやげ?」
梓 「この前かいたイヌの絵と折りツルもっていかないと」
唯 「あずにゃん……」
梓 「お気に入りだけど、パパにあげます」
唯 「準備できた?」
梓 「はいっ」
唯 「じゃあ、行こうか」
梓 「いってきま~す」
唯 (とりあえず電車に乗るしかないよね)
唯 「あずにゃん、今日はいい天気だね」
梓 「葉っぱがきらきらしてます」
ワンワンワン
梓 「わんこです!」
唯 「ほんとだ!」
ワンワンワン
梓 「わんこ、なでてきます」
唯 「あずにゃん! 走っちゃダメだよ」
梓 「あいてっ」
唯 「こけた!」
唯 「あずにゃん、だいじょうぶ?」
梓 「泣きません、梓、泣きませんよ」
ワンワンワン くぅ
梓 「あははは、ぺろぺろしちゃだめです」
唯 「あずにゃん、手つなごっか」
梓 「はい」
唯 「えーと、とりあえず終点まで切符を買っておこう」
梓 「ボタン押したいです」
唯 「じゃあ、大人一枚と小人一枚で一番高いボタン押して」
梓 「とっ、届きません」
唯 「あずにゃん、小さいもんね」
梓 「抱っこしてください」
唯 「はい、はい――よいしょ」
唯 「電車こないね」
梓 「ここ各駅停車しかとまりません。がまんです」
唯 「あずにゃん、退屈?」
梓 「だいじょうぶです」
唯 「……」
梓 「……」
唯 「空、きれいだね」
梓 「雲が真っ白です」
唯 「もうすぐ、春だね」
梓 「お兄ちゃん、見てください」
唯 「イスがどうかしたの?」
梓 「落書きがいっぱいです」
唯 「ほんとだ。木の長椅子だから彫ってあるんだね」
梓 「あいあい傘がいっぱいです」
唯 「みんなしあわせそうだね」
梓 「あいあい傘書きたいです」
唯 「え? ボクとあずにゃんの」
梓 「だめですか……」
唯 「うううん、書こう――こうやって、傘を書いて――」
梓 「あ・ず・さ」
唯 「ゆ・いっと」
梓 「できました」
1番線に電車が参りま~す
唯 「あ! 電車が来たよ」
ガタンガタン ゴトンゴトン
唯 「あずにゃん、窓の外見ておもしろい?」
梓 「はい」
唯 「靴脱がないとだめだよ」
梓 「脱がしてください」
唯 「もう、仕方ないなぁ」
ガタンガタン ゴトンゴトン
ガタンガタン ゴトンゴトン
唯 「あずにゃんは電車大好きだね」
梓 「はい、大好きです。これからとまる駅の名前全部言えます」
唯 「将来は電車の運転手さんになるんだもんね」
梓 「各駅電車の運転手がいいです」
唯 「どうして?」
梓 「ゆっくりいろんな駅が見れます」
唯 「そうだね」
ガタンガタン ゴトンゴトン
ガタンガタン ゴトンゴトン
梓 「……」モゾモゾ
唯 「? どうしたの、あずにゃん」
梓 「……おしっこ行きたいです」
唯 「ええ! 次の駅までがまんできる?」
梓 「おしっこに聞かないとわかりません」
唯 「そんな……がまんだよ! あずにゃん、もう少しだから」
梓 「はっ、はい」
ガタンガタン ゴトンゴトン
最終更新:2011年01月12日 20:58