こんにちは。中野梓です。

ただいまティータイム中です。
ムギ先輩のおいしいお菓子を食べています。

――もぐもぐもぐもぐ。

唯「あずにゃんおいしい??」

梓「あ、はい。とってもおいしいですよ」

紬「よかったわ」

そうニッコリ微笑みながらムギ先輩は言います。

キレイだなあ――と思ってると

唯「口いっぱいにほおばるあずにゃん可愛い!」

とか言われながら抱きつかれてしまいました。

はい。来ました。今日の抱きつき五発目――。

――気持ちいい。

梓「えへへ……」

頬が緩んで仕方ありません。

自分じゃあ見えないけど
きっと気持ち悪い顔でもしてるのでしょうか。

唯先輩のこの甘ったるい匂いが――
この柔らかい感触が私をそうさせました。

この鼻腔を衝く甘い匂い。

――堪りません。

梓「へへへ……」

スンスンと匂いを嗅ぎます。

嗚呼、唯先輩……!!

律「…………」

視界の端っこに映る律先輩の顔は呆れ返っていました。

でもそんなの関係ありません。
今やるべきことは、唯先輩の匂いを嗅ぐこと!

――スンスンスンスン!

唯「うひゃひゃ! あずにゃん首下くすぐったいよっ」

ハッと我に返り一息つきます。
まだまだ焦ってはいけません。

梓「ああ、すいません。つい……」

唯「ううん。あずにゃん可愛いから全然いいよー」

そんなまぶしい笑顔で言わないでください。

この体を止めることができませんから。

もっと抱きついて、頬擦りして、匂いを嗅ぎたくなりますから。

律「そろそろ、練習するか……」

澪「珍しいな。律から言うなんて」

まったくですよ。珍しいこともあるもんです。
明日は雨が降るんじゃないでしょうか。

窓の外を見ると雲ひとつない快晴。

明日降ったら、律先輩の力は凄いということに。

律「まあ、たまにはな」

澪「そうだな。よしっ。やるぞー」

紬「お~」

唯先輩も渋々ながらチューニングを進めました。

ギー太は毎日毎日一緒に居られてうらやましいなあ。
唯先輩の一番近くに居るんじゃないでしょうか。

――ギー太め……!

律「ワンツースリーフォーワンツースリー」

――ジャーン ジャーーン

ええい! ギー太への嫉妬心を演奏で紛らわせましょう。
これでもか! これでもか! というくらい力強く演奏します。

チラリと横目で唯先輩を見ます。
私に抱きついた時と同じくらいの笑顔で奏でてました。

ギー太と位置を交換してもらいたいくらいですよ。
あのギー太をさわっている手で私の首をコチョコチョしてもらいたい。

別にネコだからって訳じゃないですが。
そうされると気持ち良いだろうなあ。

そんなこと思ってると所々演奏ミスが出てしまってイケナイイケナイ。

――がんばれ! 私!!

そのまま何曲か練習しました。

そして気付けば陽も傾いています。

ああ、唯先輩がまぶしいです!

唯「ふぃ~いっぱい練習したぜ」

唯「ん? あずにゃん私の顔に何か付いてる?」

おっといけません。またまた見惚れてました。

梓「いえ、ただ唯先輩がまぶしいなあ、と」

唯「私? 私光ってないよー?」

梓「まあ光ってませんが」

梓「光るのは律先輩のオデコだけで十分ですし――」

律「おい!!」

おっと、つい言ってしまいました。
悪気があったわけじゃありません。

たぶん。

まあ一応謝っときます。

梓「す、すいません。つ、つい」

律「つい、ってなんだよーこんにゃろ!」

唯「まあまありっちゃん。あずにゃん怖がらせちゃダメだよー」

唯先輩はそう言いながら頭をなでてくれて
力いっぱい抱きしめてくれました。

なんか得した気分です。
ありがとう、律先輩。

でも唯先輩。嬉しいんですけど、少し汗の匂いがします。

そりゃたくさん演奏したんですから
汗の一つや二つくらいかいても不思議じゃあありません。

いえ、今すぐ拭け――というわけではないです。
別にそのままでもいいんです。

ただ汗が出てますよー、というだけのことですから。
私にとってこっちのが好都合と言えるので。

うへへへ。

――唯先輩の汗……。

――甘いのかな……。

甘いのか甘くないのか。
その疑問が頭から消えません。

アレだけ甘いのを食べて飲んでいれば
甘くなってもおかしくはありません。

この首筋に伝う一滴の汗。
それをペロっと一舐めすれば判明するではありませんか。

そう思うとハアハアハアハア、と鼻息が荒くなり
ゴクリと口に溜まった唾を一飲みします。

そして口からペロっと舌をだしてその汗を舐めるんだ……!

ちょっとずつ顔を近づけ、後一歩後一歩――――。

律「…………」

視界の端に映るのはまたまた律先輩。

なんでしょう、どん引きでもしたような顔です。

目を合わせると、目を背けられてしまいました。

というかムギ先輩も澪先輩もこっちを凝視してます。

何かと気まずいです。

唯「あずにゃーん?」

梓「いえ、なんでもありません。帰りの支度でもしましょうか」

唯「ほいさ!」


帰り道。
トコトコと先輩達の後ろについていきます。

みなさんは談笑しています。

――今日はいつもより抱きつき回数が少なかった気がする。

何故でしょうか。
アレですか。練習したからですか。

昨日は練習せずにずっと喋ってましたからね。

抱き疲れること12回。
今日は二桁行ってない気がします。

これは大変です。一大事です。体が疼きます。

唯先輩が……唯先輩の抱きつきが――。

唯「あずにゃんどうしたの? 暗い顔して」

横からヒョコっと顔をだしてきました。

顔を出すだけじゃなく、抱きついて欲しいものです。

梓「少し、寒いですね」

唯「さむいよねー? じゃあ手、つなご」

梓「先輩の手も、冷たいですよ」

唯「冬だもん」

梓「冬、ですね」

唯「あずにゃん元気ないなー」

唯「そんな元気のないあずにゃんを我が家へ招待します!」

梓「先輩の家へですか?」

唯「そうそう、明日あそぼー?」

梓「そうですね、いいですね。遊びましょう」

梓「ついでにギターの練習でもしましょうか」

唯「それは追々と……えへへ」


――次の日 平沢家

唯「それー」ピコピコ

梓「遊ぶって、ゲームですか」ピコピコ

唯「なんでー? 楽しいじゃん」

梓「楽しいかもしれませんけど、私あまり得意じゃないんですよ」

唯「私は憂とよくやってるから得意だよー。憂はとっても上手なんだ」

梓「そうなんですか」

憂「呼んだ?」トコトコ

憂「あ、お菓子ここに置くね」ニコ

唯「ありがとー」

梓「ありがとう憂」

憂「ふふ、ゲーム楽しい?」

唯「楽しいよー」

梓「すぐ死んじゃうよ」

唯「あずにゃんまだまだだねー」

憂「私もやりたい~」

唯「はい、交代」

憂「じゃあ梓ちゃんと一緒に進めよう」

梓「私わかんないから憂についてく」

憂「ふふ、誘導してあげるね」

――ピコピコピコピコ

梓(唯先輩と遊びに来たのに、憂とばかり遊んでる気がする)

梓(唯先輩どこ行ったのかな)キョロキョロ

梓(あ、ソファーで寝てるし!)

梓(うぅ~寝るならいつもみたいに私に抱きついてからにして欲しいよ)ブツブツ

憂「梓ちゃん? どうしたの? 疲れたの? 手、止まってるけど」

梓「はっ! えへへ、目が疲れたかな」

憂「じゃあちょっと休憩しよっか」

梓「そうする」

憂「飲み物持って来るね」パタパタ

梓「ふー。唯先輩起きないなあ」ジー

梓「うつ伏せに寝てると涎垂れますよ」

梓「というかもう垂れそうな……」

梓「…………」

梓「おいしいかな」

梓「ゴクリ」

梓「ちょっとだけ」

憂「お姉ちゃん寝ちゃってる?」

梓「ひょっ」ビクン

憂「どうしたの? 変な声だして」

梓「な、ななんでもないよおお」

梓「いやあージュースはおいしいなあー」ゴクゴク

憂「ふふ。お姉ちゃんの寝顔かわいいね」

梓「まあそうだね」

憂「梓ちゃん。今日寂しそうだったね」

梓「へっ、そ、そうかな」

憂「うん。お姉ちゃんの方ばかりチラチラ見て」

梓「うっ」

憂「ふふ、抱きつきが足りなかったのかな」フフ

梓「別に、足りなくなんか……」

憂「お姉ちゃん昨日あずにゃんに抱きついた回数」

憂「いつもより少なかった気がするって言ってたよ」

梓「スクナカッタカナ」

憂「今日はいーっぱい抱きつくぞーって寝る前に言ってたんだあ」

梓「でも全然やってくれなかったよ」

憂「ふふ。梓ちゃんすっかりお姉ちゃんの抱きつきの虜になっちゃって」

梓「あ、イヤ……そこまでは」

憂「お姉ちゃん、梓ちゃんに抱きつくと嬉しそうにしてるから」

憂「お姉ちゃんも嬉しいって言ってたよ」

憂「頬赤くするあずにゃん可愛い! だって」ニコ

梓(なんかいろいろバレテル……!)カァァ

憂「あっ。今みたいな顔とっても可愛い!」

梓「へっ。可愛い? 私が??」

憂「うん。とーっても!」

梓「えへへ……憂にそう言われると……」ニコニコ

憂「ねえ梓ちゃん」

梓「私も抱きついてみていいかな……?」

梓「う、憂が……?」

憂「私もお姉ちゃんの妹だし」

憂「可愛い子に抱きつきたくなっちゃうの」

憂「ダメかな……?」ウルウル

梓「う、うううう憂になら……いいよ」

憂「ホント?! えへへ、じゃあ失礼して」スッ

――ぎゅー!

憂「えへ、梓ちゃんやわらか~い」ギュ

梓(な、なにこの感触! 唯先輩と似てるけど)

梓(柔らかさが違う!!)

梓(というか匂いが……これまた甘い!!!)

憂「お姉ちゃんの言った通りだ~」ギュギュ

梓(う、憂憂憂憂憂憂憂憂憂憂)プルプル

憂「梓ちゃん?」

梓「う、ういーー!!!」ダン

憂「きゃっ」ゴロン

梓「はっ!」

梓(しまった、つい!)

憂「もーどうしたの? 急に。痛いよ」

梓「いや……憂が可愛くて……」

憂「へ?」

梓「憂って唯先輩みたいで……」

憂「う、うん」

梓「も、もっと抱きついて!!」

憂「うん!」ギュー!

梓「うへへへ……」

憂(梓ちゃん、顔とろけてる……)

梓(これだよ! この感覚!!)

梓(唯先輩と少し違うけど、これはこれでたまらない!!)

梓「憂! すごいよ!!」

憂「ん? う、うん!」

梓(今まで見落としてたけど……)

梓(憂もすごくいい!!)

梓(唯先輩とソックリだし!)

梓(唯先輩! 憂!!)ハァハァ

憂(梓ちゃん鼻息荒いなぁ)


唯「あぅ~寝ちゃってた」ゴシゴシ

唯「ん……。あっ!」

梓「ういーー!」

憂「えへへ」ギュ

唯「ず、ずるいよ! 二人とも!!」

梓「ゆ、唯先輩! こ、これは――」

唯「私も抱きつくーー!!!」ダキッ!

梓「ぐふぅ!」

憂「お姉ちゃん起きたんだね」

唯「もう、お目目ばっちり!」

梓「あ、ああ、あぁぁ」

唯「寝起きにあずにゃんに抱きつくのは最高だね!」

憂「梓ちゃん可愛い」

梓(前から憂が。後ろから唯先輩が……!!)

梓(もう……たまらない!!!!)

梓「うおおおおおおぉぉぉおぉ!!!」

唯「」ビク

憂「」ビク

――――――

――――

――


さて、あの後は二人に抱かれながらゲームをしたり
ギターの練習をしたりしました。

二人の抱きつきは予想以上に私を骨抜きにしました。

部活が始まるまでは憂に抱かれ。
部活中は唯先輩に抱かれる。
もちろん休日は二人の家へ出向きます。

この二人が居ないと
この先不安で不安で仕様が無いくらいです。

――嗚呼、唯先輩、憂。

明日も、明後日も抱きついて来てください。
私には二人が居ないと生きていけません。

少し気味の悪い笑い声と共にそう願うのでした。


                        おしまい