「やっほーみんなー……って、あれ?」

部室に来れば、みんないると思ってたのに。
りっちゃんも澪ちゃんもムギちゃんもあずにゃんも、誰もいない。
窓から差し込む夕日が、部室を真っ赤に染め上げている。いつもとは違う幻想的な風景に、目が奪われる。
なんか、この景色を独り占めできてるのっていいかも。
みんながいなくてさびしかった気持ちも、そう考えるとちょっぴり明るくなった。

…………と、そこで気が付いた。

椅子の後ろに、誰かがうずくまっている。

「…………あずにゃん!」

嬉しくて抱きつこうとしたけれど、直前でピタリと停止。
椅子の背に体重を預けて、すぅすぅと穏やかな寝息をたてているあずにゃん。

(かわいい……)

驚かすつもり、だったのかな?
それなのに、なかなか誰も来ないから、ちょっとスネたりなんかしちゃって。
きっとそうなんだろうなぁ、いや、でもあずにゃんってそういうお茶目なことなんてなかなかしないよね……とか考えて、自然と笑みがこぼれる。
うあ、幸せそうに寝顔。可愛いなぁもぉ。

「…………起しちゃ悪いよね」

でも、このまま帰っちゃうのも悪いし。
……、起こさなきゃ、いいんだよ、ね?

「あずにゃぁ~ん……?」

……よし、反応なし。
いけます、隊長! その可愛らしい唇に……ろっくおん!
発射準備おーけい! カウント、10秒前!

「……9、……8、……7、……6、……5、……4、」

あずにゃんに、そっと顔を近づけていく。
別にこれが初めてってわけじゃないのに、心臓はバクバクとなっている。
あ、あずにゃんにまで聞こえてないよね、私の心臓の音。
それで起きてしまわないか、少し心配する。

「さん……、にぃ……」




いち。

「…………っ!」


あれっ?

……平沢隊員っ!!
た、隊長!!
……ターゲット、起きているぞ!!
な、なんですと……!?
……避難、直ちに避難せよっ!!

「……ん、……ふぅぅっ」

私がキスしようとした瞬間、向こうからカウンターをくらいました。

「……ちゅ、ん……っ」

びっくりして、咄嗟に目をぎゅっとつぶった。
あずにゃんの舌が、私の舌を絡め取っていく。
まずい、目をつぶったのは、良くなかった。
感覚が、あずにゃんに与えられる刺激だけを敏感に感じ取ってしまう。

「……ん、ぁっず、にゃ……あぅ」

散々口の中を弄繰り回されて、やっと解放してもらえた。
な、なんでこんなことに……。


「後輩の寝込みを襲うのはどうかと思いますけど」

じっ、と下から、上目づかいで私を見上げて言う。
返り討ちにされちゃったけどね。

「あずにゃんの寝顔、可愛くてつい」

にへり、と笑いながら言ったが、それを聞いたあずにゃんは、ちょっと、むっとした顔になる。
そして、不意にあずにゃんが、ぺろりと私の唇をなめた。

「先輩の唇、甘いですね」

あずにゃんの舌が触れた部分を、私のそれでなぞる。
もうどっちの唾液だかわかんないね。

「あずにゃんも、甘いよ」

「それは、どうも」

首筋に、舌を這わせていく。そのたびに、ぴくりぴくりと跳ねるあずにゃん。
私に反応してくれるあずにゃんが、可愛い。

「もっと、甘いの、いります?」

「うん」

そうして、お互いの距離を縮めていく。


ひゅう、と。
北風が私たちの間を駆け足で追い抜いて行く。

「う~、寒いねぇ。なんでこんなに寒いんだろ」

「冬、ですから」

唯先輩へ適当に言葉を返すも、私の意識は、北から吹いてくる風に向いていた。
私たちの間を、さっさと駆け抜けていく風。
自分でも、変な嫉妬、だと思う。
風っていう無生物さえも、唯先輩と私の間には、割り込んできて欲しくなかった。

「…………、」

「あずにゃん?」

先輩は、どう、思ってくれてる、かな。
おんなじ気持ちだったら嬉しい、けど。
私たちの間には、誰にも入ってきてほしくない、って。

「先輩?」

「んー?」

「寒い、ですか?」

「そりゃあねぇ。寒くて寒くて凍え死んじゃうくら……い」

先輩が答えるのが先か、私が抱きつくのが先か。どちらが早かったかは、わからないけど。
さっきよりは、確実にあったかくなった。

「……私が、あっためてやるです」

先輩は何も言わなかったけど、そっと背中に腕を回してくれた。
……あったかいなぁ。
しばらく、先輩はそのままでいてくれて。不意に私の顔が先輩の両手にふわっと包まれる。

「……どうしたの、あずにゃん」

「……」

「泣きそうなかおしてる」

先輩の言葉に、堪えていた涙がちょっとこぼれてしまった。
先輩にはお見通し、というか、ひとの気持ちに敏感だなぁ、とか。
あったかすぎて、泣けてくる。

「た、たいしたことは、ないんですけど……」

「うん?」

ちょっと、言葉に出すのは恥ずかしかった。
だから、先輩の胸に顔をうずめながら。
私の声が風の音に消えていって、先輩の耳に届かないといいな、と思いながら。


「あの」

更に、顔をきつく先輩に押しつけて。

「うん」

私たちの間に、誰も、何も割り込めないくらい、ぎゅっと、抱きしめてください。

「あずにゃん」

にゃあ、なんて猫みたいな声をあげてしまう。
抱きしめてくれる先輩の力が、さっきより強くなったから。

「そういうとこも、かわいい」

耳のすぐ横で先輩の声が響く。
かぁ、と顔に熱が集中していくのが自分でもわかる。

「そういうとこも、すき」

囁きながら、先輩は私たちの隙間をなくすように抱きしめてくれた。



終わり