12月26日 真鍋家

和「いらっしゃい、憂。上がって」

憂「すぐ帰るよ。勉強の邪魔しちゃいけないでしょ」

和「遠慮しなくていいわよ」

憂「はい、プレゼント。それじゃあね」

和「待ちなさい、憂」

憂「なあに」

和「クリスマスプレゼントなら一昨日くれたじゃない。もう忘れちゃったの?」

憂「え……」

和「あれ? 違うの?」

憂「和ちゃん、今日が何の日か覚えてないの?」

和「さて、何かあったかしら。確かプロ野球誕生の日だったかしら。60年くらい前に読売ジャイアンツの前身が……」

憂「そんなマイナーな記念日知らないよ」

和「ごめんなさいね。昔何となくググったら出てきたから記憶に残ってるの」

憂「その時の和ちゃんはどうしてググったんだと思う?」

和「さぁ忘れたわね。確か中二の時だったかしら」

憂「うん。目的もなくググりたくなるお年頃だよね。たとえば自分の名前とか……」

和「……誕生日とか?」

憂「おめでとう、和ちゃん」

和「すっかり忘れてたわ」

憂「もう、鈍いんだから。お姉ちゃんも後で来るからね」

和「どうして一緒に来なかったの?」

憂「……私これから用事があるから。じゃあね、和ちゃん」

和「……じゃあね」


1月3日 神社

憂「あけましておめでとう和ちゃん」

和「あら憂。あけましておめでとう」

憂「一人?」

和「生憎、ね」

憂「でもほら、みんな来てるから。そこでお姉ちゃん達と鉢合わせたんだ」

和「梓ちゃん、律に絞められてるけど止めなくていいのかしら」

憂「大丈夫だと思うよ。梓ちゃんも楽しんでるみたいだから」

和「恐ろしいわね軽音部」

憂「純ちゃんもお姉ちゃんに捕まっちゃって」

和「見境ないわね唯」

憂「……」

和「ん?」

憂「えへへ、和ちゃーん」

和「わ、やめなさいよ憂。人が見てるわ」

憂「じゃあ人が見てない所でならいい?」

和「そんなお決まりの返しはいらないわ」

憂「……ねぇ和ちゃん」

和「何? 憂」

憂「もう少し素直になってもいいんじゃないかな、私達」

和「……もう時間はないわよ。あと3ヶ月しか」

憂「だからだよ。和ちゃん、いつか言ったよね。今からでも遅くないって」

和「……がんばってみるわ」

憂「それは嘘?」

和「本心よ」


2月14日 平沢家

和「ごちそうさま。憂」

憂「お粗末さまでした」

和「おいしかったわよ。特に筑前煮」

憂「ありがと~」

和「皿洗い、手伝うわ」

憂「ありがとう」

和「唯の部屋、騒がしいわね」

憂「お姉ちゃんも皆さんも嬉しかったんだよ。私だって騒ぎたいくらい嬉しいよ」

和「見てみたいわ。憂が騒ぐとこ」

憂「恥ずかしいよ」

和「私は嬉しいわ。できる限りたくさん、憂の色んな顔を見ておきたいからね」

憂「……合格おめでとう、和ちゃん」

和「……ありがとう」

憂「会えなくなるわけじゃないよね」

和「会える機会は減るわよ」

憂「そんなはっきり言わなくても」

和「私は正直者だから」

憂「こんな時ばかりずるいよ」

和「はい、これ」

憂「これ……」

和「市販のもので悪いわね。ハッピーバレンタイン」

憂「ごまかさないでよぉ」

和「ホワイトデー、期待してるわよ」

憂「知らない」


2月22日 スーパー

和「今日の夕飯はクリームシチューかしら」

憂「……よかったら食べて行く?」

和「遠慮しておくわ。家族水入らずの所悪いわ」

憂「お姉ちゃんと二人っきりだよ」

和「尚更悪いわね。唯との二人の時間を邪魔するつもりはないわ」

憂「……和ちゃんもおつかい?」

和「違うわ。憂が店に入るのを見たから追ってきたのよ。」

憂「和ちゃんのストーカー」

和「ここにきて反抗期かしら。ちょっぴり嬉しいわ」

憂「なんでそんなに飄々としてるの和ちゃん」

和「正直者だからよ」

憂「私だって正直者だよ。だから和ちゃんに辛く当たっちゃう」

和「抑える必要はないわ」

憂「でもどうしようもないよ。和ちゃんと離れ離れになっちゃうのはどうしようもないよ」

和「そうね。でも今までが奇跡みたいなものだったのよ。幼稚園から今まで10年以上濃密な時間を過ごせたことは。でも私達は三人共独り立ちしなきゃいけないのよ」

憂「私はお姉ちゃんと同じ大学に行くよ」

和「それでもいいわ。傍にいることと独り立ちすること、両立できないわけじゃないもの」

憂「でもお姉ちゃんと和ちゃんを両立させることはできないよ」

和「困ったわね」

憂「……レジ空いてるからお会計済ませてくるね」

和「そう、私はもう帰るけど……はいこれ」

憂「? 何?」

和「誕生日おめでとう、憂」

憂「……エコバッグに入り切らないからうちに持ってきてよ」


3月14日 真鍋家

和「食べていいかしら?」

憂「召し上がれ」

和「おいしいわよ、憂」

憂「ありがとう」

和「もっと食べたいわ」

憂「いいよ、好きなだけどうぞ」

和「大きいわね。口に含み切れないわ」

憂「舐めればいいよ」

和「そうね」

憂「ひゃんっ!」

和「う、憂? どうしたの?」

憂「な、何でもないよ。気にせず食べて」

和「駄目よ。よく見せなさい」

憂「いやぁ! やめて! 和ちゃん!」

和「濡れちゃってるわね」

憂「うぅ。和ちゃぁん」

和「ごめんね、憂。さっき弟がオレンジジュースを飲んでたからきっとこぼしたんだわ。スカート、染みにならないうちに洗わなきゃ。脱いで」

憂「え、でも……」

和「私のスカート貸すから。災難だったわね」

憂「ひどいホワイトデーだね」

和「悪いけど、私にとっては最高のホワイトデーだわ。こんな豪華なホワイトデーギフト、他に味わえる人はいないもの」

憂「ひどいよ和ちゃん……ふふっ」

和「さ、脱ぎなさい」

憂「ひどいよ、和ちゃん」


3月31日 並木道

和「曇ってるわね」

憂「星も月も見えないね」

和「それで? こんな肌寒い夜に一人で徘徊してた理由を教えてくれる? いつか言ったわよね。夜に一人でうろつくなって」

憂「お姉ちゃんが明日家を出るんだ」

和「そう……寂しくなるわね」

憂「和ちゃんはいつ?」

和「私も明日よ」

憂「……どうしてもっと早く教えてくれなかったの?」

和「唯の引っ越しの日取りは前々から知っていたからね」

憂「和ちゃん、大嫌い」

和「私は憂のこと好きよ」

憂「……そういうところが嫌い」

和「悪いわね。でも嫌いな相手の家の周りをうろうろする憂も変わり者ね」

憂「だって、会いたかったんだもん」

和「私が気付かなかったらどうするつもりだったの」

憂「和ちゃんは絶対気付いてくれるって思ってたよ」

和「喜んでいいのかしらね」

憂「でもこれからはそうはいかないんだよね」

和「そうかもね」

憂「和ちゃんは私の目の届かないところに行っちゃうんだ」

和「会いに行くわ」

憂「嘘言わないで。もうたくさんだよ」

和「私はいつだって憂の傍をうろついてるから。安心しなさい」

憂「……和ちゃんの……ストーカー」


4月5日 N女子大

憂「もしもし、和ちゃん?」

和『おめでとう、憂。あんなに小さかった憂が大学生とはね。感無量だわ』

憂「親戚のおばさんみたいだよ、和ちゃん」

和『悪かったわね。どうせ私はおばさんよ』

憂「すねちゃった」

和『言うようになったわね、憂』

憂「私も軽音部員だからね」

和『恐ろしいわね、軽音部』

憂「おかげで和ちゃん欠乏症も治っちゃったみたい」

和『それは寂しいわね』

憂「私、どうかしてたんだよ」

和『それは悲しいわね』

憂「全然そんな感じがしないよ、和ちゃん」

和『憂の成長を喜んでるのよ』

憂「えへへ。ありがとう」

和『でも気を付けなさいよ。悪い男にだまされたりしないようにね』

憂「心配しないでよ~」

和『いえ、心配だわ。そんなスーツ姿見せつけられたら女でも興奮しちゃうわよ』

憂「えっ?」



和「いいお尻してるわね憂」

憂「……和ちゃんの……エッチ」


END