4月12日 平沢家

憂「いらっしゃい、和ちゃん。今日はどうしたの?」

和「あら、理由がなかったら訪ねちゃ駄目かしら?」

憂「そんなことないよ。ただ、高校生になってからはあまり来てくれなくなったから、珍しいなって」

和「生徒会が忙しいのよ。唯だって部活始めちゃったしね」

憂「お姉ちゃんは忙しいけど、私は暇だよ。和ちゃんはお姉ちゃんがいなきゃ遊びに来てくれないの?」

和「やきもち? 憂にしては珍しいわね」

憂「うふふ、冗談だよ和ちゃん」

和「冗談を言う憂も珍しいわ」

憂「そうかなぁ? それより立ち話もなんだよね。上がって上がって」

和「悪いわね。今日は親におつかいを頼まれててのんびりしていられないの。はい、これ。唯が教室に忘れて行った課題プリント」

憂「もう帰っちゃうの?」

和「本当はもっと憂と一緒にいたかったわ」

憂「デートを終えた恋人みたいだね、和ちゃん」

和「そうかしら? じゃあ彼氏ができたらこのセリフ使うわ」

憂「和ちゃんに彼氏なんてできないよ~」

和「言ってくれるわね」

憂「嘘だよぉ」

和「この子ったら」


5月21日 真鍋家

和「あら憂」

憂「こんにちは、和ちゃん」

和「もうこんばんはの時間ね」

憂「えへへ、こんばんは、和ちゃん」

和「何か急用?」

憂「用がないとダメかな?」

和「憂ならいつでも大歓迎よ」

憂「うれしいなぁ」

和「本心だからね」

憂「わかってるよ。和ちゃんって結構ストレートだもん。嘘なんてつけなさそう」

和「そうかしら?」

憂「そうだよ。あ、これ、お隣のおばあちゃんから頂いた筑前煮。お姉ちゃんと私だけじゃ食べきれないから和ちゃんの所にもお裾分けしようと思って」

和「あらありがとう。用事はこれかしら?」

憂「うん、それに和ちゃんに会いたかったから」

和「そう? ありがとう」

憂「もっと喜んでよ」

和「嬉しいわ」

憂「もう。帰る」

和「送って行くわ」

憂「大丈夫だよ」

和「そう?」

憂「バイバイ、和ちゃん」

和「これからは一人で夜道を歩くのはよしなさいよ」

憂「わかってるよ、和ちゃん」


6月27日 平沢家

憂「後はオーブンに入れてっと」

和「部屋にいないと思ったら」

憂「あ、和ちゃん。もう休憩時間?」

和「ええ。唯がばてちゃって」

憂「あはは。お姉ちゃんだって毎日がんばってるんだよ」

和「休憩時間になったら急に元気になったけどね。今は律達と一緒に梓ちゃんや純ちゃんとじゃれてるわ。憂の部屋、勝手に使っちゃって悪いわね」

憂「大丈夫だよ。みんな楽しそうだなぁ」

和「憂だって楽しんでいいのよ」

憂「楽しんでるよ」

和「クッキー作るなら私も手伝ったのに」

憂「受験生に手伝わせるなんてできないよ」

和「憂だって期末試験前じゃない。それとも、余裕なのかしら?」

憂「そんなことないけど……。勉強会なのにお菓子の一つもないのは辛いかなぁって」

和「そこで市販のお菓子を出さずにわざわざ手作りするところは憂らしいわね」

憂「みんなの喜ぶ顔が見たいもん」

和「羨ましい性格してるわ」

憂「そうかな?」

和「でも今度の勉強会の時は私にも手伝わせてね」

憂「えぇ……」

和「いやなの?」

憂「いやじゃないけど……悪いよ」

和「私もみんなの喜ぶ顔が見たいから」

憂「それなら……しょうがないかなぁ」


7月26日 平沢家

和「ごちそうさま。夏はやっぱりカレーね」

憂「そうだね~」

和「せっかくごちそうになったんだし私が皿洗うわよ」

憂「お客様にそんなことさせられないよ。和ちゃんは座ってて」

和「勝手に上がり込んでこんなに美味しいカレーをタダで頂いたんだから、ちょっとくらいお返しさせてよ」

憂「じゃあ……一緒に洗おっか」

和「しょうがないわね」

憂「お姉ちゃん達、楽しくやってるかなぁ」

和「夏フェスよね。ちょっと心配だわ」

憂「何が?」

和「唯達の貞操が」

憂「え……」

和「ごめんごめん。冗談よ。山中先生も付いてるし大丈夫よね」

憂「もう。……本当に大丈夫だよね?」

和「話は変わるけど、憂は室内ではいつもそんな恰好してるの?」

憂「そんな恰好? 普通じゃないの?」

和「誰かが訪ねて来た時妙な目で見られたことない? 特に……男の人が来た時」

憂「うーん、ないと思うよ。そもそもうちにはあまりお客さん来ないからよくわからないよ」

和「……ひょっとすると心配すべきなのは唯より憂の方じゃないかしら」

憂「え?」

和「何でもないわ。それより憂、今晩泊めてくれる?」

憂「うん! 大歓迎だよ和ちゃん。久し振りに一緒にお風呂入る?」

和「……それは遠慮させて」


9月15日 生徒会室

憂「失礼します。こんにちは、和さん」

和「私しかいないわよ、憂」

憂「こんにちは、和ちゃん」

和「珍しいわね。憂が生徒会室に来るなんて」

憂「そうだねー。はい、クラスの出し物の申請書」

和「憂、実行委員じゃなかったわよね」

憂「そうなんだけどね、実行委員の人が部活に急いでるみたいだったから、私が代わりに。生徒会に知り合いがいるからって」

和「そう。はい、承りました」

憂「忙しそうだね、和ちゃん」

和「学園祭前だもの。しょうがないわ。それに3年目なんだからいい加減慣れたわ」

憂「私も生徒会に入れば和ちゃんのお手伝いができたのに」

和「そうね。憂になら生徒会長を任せられるわ」

憂「それは無理だよぉ」

和「私は嘘はつかないわ」

憂「でも意地悪はするよね」

和「他意はないわ」

憂「和ちゃんったら」

和「ま、憂も高校生活楽しんでいるみたいで何よりだわ」

憂「でも、私には夢中になれるものがないよ。お姉ちゃんや梓ちゃんにとっての軽音部、純ちゃんにとってのジャズ研、和ちゃんにとっての生徒会みたいに」

和「今からでも遅くないわよ。あ、生徒会に入れって意味じゃないわよ。大学に入ってからとか……いえ、来年からでもいいからやりたいことを探してみるといいわよ。憂なら大丈夫よ」

憂「そうかなぁ?」

和「ええ」

憂「じゃあ……がんばってみようかな」

和「頑張りなさい」


11月21日 某大学

和「あら憂じゃない」

憂「和ちゃん。どうしたの?」

和「いいじゃない。学祭見学したって」

憂「でもここ和ちゃんの志望大学じゃないよね」

和「まぁ気にしないで。それより一人かしら」

憂「純ちゃんと梓ちゃんも一緒だよ。今二人ともお昼ごはん買いに行ってる」

和「そう。それなら邪魔するのは悪いわね」

憂「一緒に回ろうよ」

和「さすがに二年生三人組の中に飛び込むのは気まずいわ」

憂「じゃあ二人が戻ってくるまでお話しよう。ここ座って」

和「それなら」

憂「上手だね。あのバンド」

和「この曲、どこかで聞いたことがあるわ」

憂「うーん、あ、オリコンで上位にランクインしたアニメの主題歌じゃないかな」

和「うん、確かにそんな気がするわ。大学生にもなってアニメなんて恥ずかしくないのかしら」

憂「でもいい曲だよ」

和「まぁそうね」

憂「和ちゃん、勉強はよかったの?」

和「たまには息抜きも必要よ。唯はどう?」

憂「今日は澪さん達と一緒に勉強だよ」

和「そう。よかったわ」

憂「お姉ちゃん、和ちゃんも誘ったって言ってたけど」

和「ええ、でも今日は休みたい気分だったの」

憂「そうなんだ」


12月24日 平沢家

和「今夜は冷えるわね」

憂「和ちゃん」

和「どうしたの、一人で。みんな探してたわよ」

憂「ごめんね。ちょっと外の空気を吸いたくなって」

和「これ着なさい。風邪ひくわよ」

憂「ありがとう」

和「星が綺麗ね」

憂「うん、でも……」

和「でも?」

憂「雪は降らないね」

和「ホワイトクリスマスなんてめったにないわよ」

憂「そうだよね」

和「そんなに雪が恋しい?」

憂「昔ね、お姉ちゃんがホワイトクリスマスをプレゼントしてくれたことがあるんだ。といっても本物の雪じゃないけど」

和「ふーん。でも私には雪を降らせることはできないわ」

憂「和ちゃん、嘘つけないもんね」

和「いいえ。私は嘘つきよ。唯のような優しい嘘つきじゃないけどね」

憂「和ちゃんは優しいよ」

和「私の嘘は優しくないわよ。欲求に忠実な汚い嘘」

憂「それなら私も一緒かなぁ」

和「そんな風には見えないわ」

憂「ううん。一緒だよ和ちゃん。だって……」

和「だって?」

憂「何でもないよ、和ちゃん」


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