どうしてこうなった――。


暴れ狂う梓のツインテールに締め上げられ遠のいていく意識の中で、
律は自分の犯した過ちをただただ悔やんでいた。



事の始まりは数日前、部活での些細な出来事だった――



……

唯「おいーす」

紬「いらっしゃい唯ちゃん」

澪「遅いぞ」

梓「でも今日はもっと遅い人がいますね」

澪「律か…あいつ何してんだ」


ガチャ!

律「おーーーっす!私だよんっ!!」

澪「私だよんじゃないだろ、何してたんだよ」

唯「りっちゃんのお菓子取っちゃうとこだったよ~」モグモグ

梓「とか言いながらもう半分食べてるじゃないですか…」

紬「すぐお茶出すわね~」

律「さんきゅームギ! へっへ、皆これ見てみろよ!」

バァアアーーン!

澪「…なんだこれ?」

唯「うーん…土器?」

梓「矢じりじゃないですか?」

律「梓が正解だな!」



律が取り出したのは一見するとアクセサリーにも見える鏃だった。
磨き上げられたそれは窓から差し込む陽を受け、鈍く金色に光っている。


澪「ふーん、装飾用なのかな…きれいだな。どこで見つけたんだ?」

律「体育の時間にさー、唯とキャッチボールしてたんだけど」

唯「え、あの時?」

律「うん、唯のノーコンピッチではずれたボール取りに行って落ちてるの見つけた」

澪「誰かの落し物じゃないか?ピカピカだし落ちて間もないんじゃ」

唯「ほんとだよー私普通にお店で買った物なのかと思ったもん」

律「いやー、私が見つけた時はめちゃ汚かったんだよ。ここまで一生懸命磨いたんだぞ!」

澪「それで遅かったのか…ったく、くだらないことに精を出すなよ」

律「へへ、しかも磨いてるとき間違って指切っちゃった!ほれほれ」

澪「ひいいっ見せるなあああああ」ガクガクブルブル

梓「……もう、律先輩そうやって澪先輩怖がらせる冗談やめましょうよ」

律「しょうがないじゃんホントなんだもん」

梓「でも傷なんて無いですよ」

律「え」


驚いて手の平を返し、切ったはずの指先を見てみる。
梓の言う通り、そこには傷一つついていなかった。

律「あ、あれおかしいなー。だって…ほらこれ、切った時拭いたハンカチ」ゴソゴソ

唯「ひぃ、血だあ」

澪「見えない見えない見えない見えない見えない」ガクブル

梓「て、手の込んだことしますね~」

律「いやだからマジなんだって!なぁムギは信じてくれるだろ?」

紬「う、うーん…ほんの少~し、ちょろっと切っちゃってすぐ消えちゃった…とか?」

律「いやいやこのハンカチを見れば分かるだろ、結構ザクッと行っちゃって焦ったんだよホント」

唯「でもやっぱり指なんともないよー、ぷにぷにだよ」プニプニ

唯「ほら澪ちゃん何ともないよ、ぷにぷにー」

澪「ほ、ほんとか唯ぃ……グスッ…」チラ

律「血塗れのハンカチじゃあああ」ぐわっ

澪「ぎゃああああああああ!!!」バタリ

梓「……何してんですかっ…」

律「てへっ♪」

梓「てへじゃないですよ!これじゃ練習できないじゃないですか~!」ニャーニャー

唯「みおちゃ~ん、起きてよ~澪ちゃんのお菓子食べちゃうよ!」ユサユサ

紬「あらあら…」


唯「でもいいなー、かわいいなーこれ」

梓(かわいいっていうのかこれ…)

律「へっへーいいだろ唯、気に入ったんなら好きに見てていいぞ~w今だけなw」

唯「ありがとー」ヒョイ

唯「むむ、裏っかわ…同じ柄かー。おお、なんかいい手触り…」スリスリ

律「頑張って磨いたからな!」

唯「へへへそうだねー… あぃ゛っ!?」ポタタ

梓「せ、先輩血が!」

律「え!?き、切っちゃったのか!?」

唯「あぅうそうみたい…いたっ…」ポタポタ


紬「大変!…ちょっと待ってね、カバンの中にマキロンと絆創膏あったから」ゴソゴソ

唯「ぅうぅごめん…」チラッ「ん?」

唯「あ、あれ?血が… あっ」

梓「どうしたんですか!?」

唯「きず、なくなってる」

梓律紬「えっ?」

唯「ほら…」パッ

律「ほ、ほんとだ」


梓「…まさか今の演技とかじゃないですよね?唯先輩までそんな悪ふざけを」

唯「違うよー!だって血が出てたの皆見たでしょ?」

紬「確かに…」

梓「じゃあ律先輩の話してたこともあながち?じゃないってことですか…?」

律「だ、だからほんとに切ったって言ってるだろ!まだ疑ってたのかよ」

紬「二人ともこの矢じりで怪我したのよね… あら?」

紬「唯ちゃんが指切ったはずなのに、これどこにも血がついてないわね」

律「えっ」

梓「な、何かヤバい感じしないですか、それ」

唯「の、の、のろいのあいてむだ!」

律「馬鹿いうなって!ピラミッドのミイラの棺桶から見つかったとかじゃないんだぞ、
  校庭にポンと落ちてただけだぞ!そんな妙なモンなわけあるか!」

唯「そうだけど…」


梓「い、いずれにしても気味が悪いです…」

律「ぅぐ……どうしようこれ…さ、触りたくなくなっちゃった…」

梓「かといってここにずっと転がしておくわけにもいきませんよ…」

紬「私が預かって何なのか調べてみようか?りっちゃん」

律「ほ、ほんとか?助かるよむぎ~」

梓「…自分で拾ってきた物なのに押し付けた…」

律「」

唯「とりあえず澪ちゃん起こして今日は練習終わりにしようよー」

梓「そうですね…」

律「ほら澪、起きろ」ユサユサ

澪「ん…んが…」ムクリ

律「じゃあムギ悪いけど、それ頼むわ…」

紬「ええ、分かったわ」

そう言うと紬は、ハンカチで丁寧に鏃を包み鞄にしまった。




……

唯「うーん…ぅうぅ…ぁう…ハァハァ」

憂「お、お、お姉ちゃん大丈夫!?全然熱がひかない…」

――その日の晩、唯は高熱にうなされていた。


時を同じくして同様の症状に見舞われる律―――

律「うぐぐ…ぅう……」

律(あ、熱い…頭の裏側が焼かれるみたいだ……なんだこれ…)

聡「姉ちゃんうーうーうるせーよ!今何時だと思ってんだよっ」ドンドン


律「ううー」




……

チュン…チュンチュン…


唯「……はぶぁっ!?」ガッバ

唯「あ。朝になっておる」

憂「スースー」Zzz

唯「ういずっとついててくれたんだ…ありがとね」チュッ

憂「ん…んん…おねひゃ… はっ!」

憂「お、お姉ちゃん!もう大丈夫なの!?」

唯「うん!全然へいき、それどころかすごーく爽やかな気分だよー!」

憂「よかったー!えへへ、すぐ朝ごはん作っちゃうよ~」

唯「ありがとうーいー♪…って、はゎ!?もうこんな時間だよっ!」

憂「えっ…ああ!遅刻しちゃうっ」

唯「す、す、すぐ着替えて出ないと~!」




……

唯「はっはっはっ…」タッタッタッ

憂「はぁはぁ…ングッ はぁはぁ…」タタタ

唯「い、いそいでいそいで憂~、信号赤になっちゃ」
憂「!! お姉ちゃんっ、前っ!!!!!」



唯「え?」


キキィイイーーーーーッ!!!!

憂「いやああああっっ!!!!」


唯「」



……

ガチャリ

先生「…どうした平沢、珍しいな。遅刻するなんて。早く着席しろ」

憂「は…はいすいません……」ギッ

梓「…どうしたの憂、ホント珍しいね遅刻なんて」

憂「あ…うん……」

憂(………お姉ちゃん…)

……




―放課後、音楽室―


澪「おーす」ガチャ

律「澪おっすッ!!!!」

澪「な、なんだテンション高いな…」

紬「澪ちゃん今日はシュークリームよ~」

澪「わぁ、おいしそうだなー …唯はまだか」

梓「ですね」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

バンッ!!



唯「やっぽゥ!みんなーッ!!!」

ドッギャアァアア~ン!!


梓「こんにちは」

律「おぉっ唯!おーっす!!」

澪「な、なんだ唯までアホみたいなテンションだな」

紬「唯ちゃん今日はシュークリームよ~」

唯「うわーぃしゅーくれーむ!大好きだよー」ギッ

唯「でもしゅーあいすだともっと大好き!ムムム…」

唯「ほぁった!」

ビッシィァ!

律「!?」

澪「何してんだ唯」

唯「ふふふ…しゅーあいす…」モグモグ

梓「シュークリームですよ」

唯「うまい!」

律(い、今の何だ?チラっと変な腕が出て来て…シュークリームを小突いた…確かに見たぞ…)

唯「んふふふおいひー」モグモグ

律「……」ジーッ…

唯「…ほぁ?どしたのりっちゃん、そんなに見つめられたら照れちゃうよ//」

律「……い、いや……」ジィイイ

唯「……! も、もしかしてりっちゃん…"見えた"?」

律「!!」


澪「えっ!?わ、私のパンツ見えてたか!?」バッ

律「いやそんな話はしてない」


唯「りっちゃん、どうなの?」

律「え、いや…み、見えてないよ何も…今は…」

唯「……ほっ!」

ズキュン

律「うわっ!?」ガタタッ

澪「な、なんだ律いきなり暴れるなよ…カップ倒れたらどうするんだ」

梓「唯先輩が奇声上げて驚かせるからですよ、やめてください」

律「お、お、お前らっ、これ…これ…!」ガクガク

唯「りっちゃん、やっぱり…!」



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

唯の隣にはどこから現れたのか、人が立っていた。
正確には人型をしている何かであり、人であるかどうかは分からないが…
とにかくこの空間にそぐわない異質な何者かが、そこに立っていた。


律(な、なんだこいつらの反応っ…見えてるのは私だけなのか…!?)

唯「りっちゃん…!」ズイッ

律「わ わ わ 寄るな唯っ!」

唯「違うんだりっちゃん、聞いてよ!…と、とりあえずクリ太は帰って」

シュンッ

律「あ…(消えた!?)」

梓「…澪先輩。唯先輩達さっきから何してるんですか」ヒソヒソ

澪「わ、わからん…どっかおかしくなってしまったのか… 唯はともかく律まで…」ヒソヒソ

紬「まぁまぁまぁまぁ」

律「…と、とりあえず唯ちょっと外で話そうぜ!」

唯「う、うん」

ガチャ バタン


律「……で。な、何なんだよそれ…」

唯「これ?」

ズキュウン!

律「うわっ!だからいきなり出すなっ!」

唯「んー…私にもよくわかんないよー…今朝登校途中に初めて会ったんだもん、この子には」

律「今朝?」

唯「うん。私大変だったんだよー!急にトラックが…あ、いやいやその前に昨日の夜かぁ」

律「昨日の…夜?」

唯「そうなんだよぉ、急にすっごい熱が出ちゃって…憂がお姉ちゃん死んじゃうよーって泣き出しちゃうぐらい」

律「な、何!?ほんとかそれ!!」ガシッ

唯「ぁう、りっちゃん痛いって」

律「あっ悪い…で、でもさ、私もなんだ」

唯「え、何が?」

律「私も昨日の夜、急に高熱出しちゃって…」

唯「りっちゃんも!?」

律「あぁ。まるで頭ン中焼かれてるみたいなさ… …でも、朝起きてみたら」

唯「ひいてたんだね?」

律「そうなんだ。んでなんていうかそれだけじゃなくて、こう…」


唯「まるで新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のような?」

律「そう!スゲーッ爽やかな気分だったぜ!!」


唯「凄い!まったくおんなじだよっ! …じゃ、じゃありっちゃんにも何かこの子みたいなのが居るんじゃ!?」

唯「そうだよ、そうなんだよ!だから見えるんだ!!」

律「そ、そうなのかな…唯はどうやったら出てきたんだ?それ」

唯「それ、じゃないよー。ちゃんと名前あるよ!コールド・ストーン・クリーマリーっていうんだって」

律「え、喋れるのか?それ…」

唯「たまにね。それでね、えっと…私の場合はねぇ…そうそう、さっきちょっと言いかけたけど」

唯「私今朝も大変なことがあってさー。起きたらもう遅刻確定って感じの時間でね、
  すっごく慌てて通学路走ってたの!そしたら横断歩道のところでトラックに突っ込まれちゃって…」

律「えぇ!?」


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