あれから数年が経って。
私たちは大人になった。

もちろん、中身はまだまだ未熟で子供で、
たまに小さなことで真剣に悩んだりしている。

そう、つまりは成人したっていう、
ただそれだけのことなんだよ。

今日はムギちゃんが帰国する日。
この間、知らないアドレスからメールが届いた時はビックリしちゃったけど。
あの時はメールアドレスをずっと変えてなくてよかったと心から思ったよ。

りっちゃんはあれから誰と付き合っていないみたい。

言い寄られてはいたみたいだけどね。
それも女の子の方が多いみたい。
りっちゃんってやっぱり女の子にモテるタイプなのかな。

こんなに可愛いのに。
『かっこいいりっちゃん』しか目に映らない人はムギちゃんには全然及ばないなぁ、なんて思っちゃう。

ムギちゃんはりっちゃんの全部が好きだったと思う。
優しいところも、弱いところも、強いところも、ずるいところも、全部全部。
ムギちゃん以上にりっちゃんにふさわしい人なんていないよ。
私が勝手に断言しちゃうもんね。

「時間、そろそろだね。」
「あぁ。そうだな。」

りっちゃんは緊張しているみたいだった。
予定ではムギちゃんはフィアンセと一緒に帰国するんだって。

ムギちゃんとりっちゃんの関係を良く思わなかったムギちゃんのお父さんのインボーかな。
意地悪だよね、本当に。

りっちゃんの顔がいつも通りじゃない。
顔っていうか、目かな。

腫れてて、疲れているみたい。
寝不足なのかな。
もしかしたら泣いていたのかも。

「……。」

その原因は明白だけどね。
今日、りっちゃんは来なくていいって澪ちゃんが言った。

だけどりっちゃんは『見れば、思い知れるから。きっと、諦められるから』
そう言って空港まで一緒に来た。

あずにゃんも心配そうにりっちゃんを見つめる。
だけどね、私は心のどこかで信じてるんだ。

「あ!ムギだ!おーい!」

こんなにはしゃいでる澪ちゃん、いつ振りだろう。
やっぱりみんなムギちゃんに会いたかったんだね。
なんて当たり前のことを痛感しちゃう。

「みんな!」

嬉しそうに駆け寄ってくるムギちゃん。
高校生の頃に戻ったみたい。


「ムギ先輩、お久しぶりです!…って、あ、あれ?」

あずにゃんが不思議そうに辺りを見渡す。
ムギちゃんは相変わらずニコニコ。
癒されるなぁ、この笑顔。

澪ちゃんもりっちゃんですらも、『話が違うぞ』というようにキョロキョロ。
だけど私はそんなことしない。
来る予定だったムギちゃんのフィアンセがどうなったかなんて、大体予想がつくから。

「ムギちゃん、おかえり。」

「えぇ、ただいま。」

私はいの一番にムギちゃんにおかえりを言った。
ムギちゃんも笑顔で返してくれた。
ちょっとりっちゃんに悪いかなって思ったけど、ニブチンなりっちゃんが悪いのです、なんてね。

「……!」

当のりっちゃんはと言えば何かを見つけて固まっているみたい。
あ、泣きそう。

私はその視線の先に何があるのか辿った。
あぁ、なるほどね。

ムギちゃんの左手の薬指にきらりと光るもの。
りっちゃんはそれを見つけちゃったんだ。

「ムギ…えっと、ただいま。」
「……。」
「……。」

りっちゃんのボケにみんなが固まる。
だけど本人はそのボケに気付いていないみたい。

「律先輩、それ…本気で言ってます?」
「ただいまじゃなくて、おかえりだろ?」
「…あっ。」

間違いに気付いて赤面するりっちゃん。
それを見てみんなが笑う。
ホント、高校の頃に戻ったみたい。
ほんの数年前のことなんだけどなぁ、妙に懐かしく感じちゃうよ。

「そういえば、ムギ。婚約者は…?」

澪ちゃんの質問で空気ががらりと変わる。
りっちゃんの瞳が揺れている。
だけどね、きっとそんなに心配することじゃないよ。

「あぁ、あの人ね。…飛行機から投げ捨てちゃった。」

「「えっ。」」

珍しいムギちゃんの冗談に私たちは固まった。

「え、えっと…、確か予定では2週間後に向こうに…。」
「帰らないわ。」

そう言ってムギちゃんは薬指のリングを外してゴミ箱に捨てた。

「「えっ。」」

あはは、ムギちゃん。
信じてたよ。

「ずっと、ずっと会いたかった。」

りっちゃんに抱きつくムギちゃんはちょっと大人っぽかった。

「ム、ムギ…!」

泣きながら抱き締め返すりっちゃんはちょっと子供っぽかった。

しばらく二人は抱き合っていた。
お互いの存在を確かめるように名前を呼びながら。


あの日、届いたのはりっちゃんの『サヨナラ』という歌声じゃなくて、


『離れたくないよ』っていう気持ちだったんじゃないかって。


幸せそうな二人の後ろ姿を眺めながら思った。


ほら、ムギちゃん。もう見失っちゃ駄目だよ。
りっちゃんも、絶対に離さないであげてね。

二人が振り返って、私達に何処へ行こうか?と笑いかける。
なんだか幸せな気持ちになって、私達三人もつられて笑いそうになった。




おわり