紬「今日のおやつはガレットデロワよ」
唯「がれっとでろわ?」
律「何だそれ?」
紬「フランスの伝統的なパイでね、とっても甘くておいしいの」
唯「へー、食べてみたい! 早く!」
紬「待っててね、今五等分するから」
ナイフで切れ目を入れていく紬。
紬「じゃあ、各自好きなのを取っていって」
唯「私この大きいのねー!」
律「あー、ずるいぞ唯! それ私が食べようとしていたやつなのに!」
唯「早い者勝ちだよ!」
律「あ、梓二番目に大きいの取りやがって!」
梓「早い者勝ちです」
律「あー! 一番小さいのしか残ってない…………ちぇー」
唯「いただきまーす!」
紬「あ、唯ちゃん! まだ食べないで!」
唯「え? う、うん。何で?」
紬「この五個に分けられたガレットデロワのどれか一つにだけ、フェーブと言うものが入っているの」
唯「ふぇーぶ?」
紬「ええ。トンちゃんの八分の一サイズくらいある人形よ」
唯「そのふぇーぶがどうかしたの?」
紬「フェーブが入っているガレットデロワを食べた人はね、その日限りの王様になれるの」
律「あれか、要するに王様ゲームみたいなものか」
紬「ええ。そしてね、そのフェーブを当てた人は、……自分の好きな人を選んで、その人とキス出来るの!」
唯「き、キス!?」
紬「そう! キス!」
律「へぇ、面白そうだな。じゃあ食べようぜ!」
紬「ほら、梓ちゃんも食べて食べて」
梓「あ、はい……」
唯「うーん、私のには入ってないよー」
律「私も入ってなかったぞ? 誰だ? フェーブが入ってるのを食べてるのは」
紬「あ、残念。私のにもなかったわ」
律「すると……澪か梓か」
澪「…………あ」
律「どうした? 澪」
澪「フェーブって……これ?」
紬「あ、それ! 澪ちゃんおめでとう~」
澪「何か……あまり嬉しくない」
紬「澪ちゃん、じゃあ誰とキスする?」
澪「……え? 本当にするのか?」
紬「当たり前じゃない」
澪「え、えぇ!?」
紬「ほら、澪ちゃん早く」
澪「うーん…………」
澪(誰を選んでも、あとで気まずくなりそうだよなぁ……)
律「…………………………」(無言で目をそらす)
唯「…………………………」(無言で目をそらす)
梓「…………………………」(無言で目をそらす)
紬「誰にする? 誰にする?」
澪「…………じゃあ、りt 和「練習中悪いんだけど、講堂の使用申請書、まだ出ていないわよ」
律「おぉ、和」
和「律。また申請書出し忘れてたわね。はやく書いて」
律「あー、悪い悪い」
澪(和なら……キスしても平然と受け流してくれそうだよな)
澪(…………律より、和のほうがいいんじゃないかな)
澪「…………なあ、ムギ」
紬「なぁに? 澪ちゃん」
澪「相手は別に、軽音部のメンバーじゃなくてもいいんだよな?」
紬「ええ、いいわよ」
澪「なぁ、和」
和「なに? 澪」
澪「キスしないか?」
和「……え?」
澪「いや、ほら、ちょっと罰ゲームみたいのでさ、誰かとキスしなきゃいけなくなったんだ」
和「…………いいけど」
澪「そうか! 引き受けてくれるか! ありがとう」
和「じゃあ……早く済ませてね」
澪「ああ。わかった」
和は目をつぶった。
澪(…………和、こうして見ると綺麗だな……)
和「…………澪、早く」
澪「ああ、うん」
澪「じゃあ、行くぞ?」
和「ええ」
澪も目をつぶる。そして、顔と顔を近づけていく――。
そして二人はふれ合うような、短いキスをした。
和「……………………」
澪「……………………」
和「……………………」
澪「……………………」
律「ほーら、いつまで顔寄せ合ってんの。和、書いたぞ。これでいいか?」
和「あ、ええ。今度はちゃんと出し忘れないようにしてね」
律「わかってるって」
和はすたすたと去って行く。
ふと、音楽室のドアの前で立ち止まった。それから、律達の方を振り向く。
澪と眼が合う。
和は頬を赤くした。
澪「!」
和は視線を外し、音楽室の外へと出た。
唯「和ちゃんのファーストキスは澪ちゃんだね!」
唯が余計なことを言った。
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翌日 放課後
紬「今日もガレットデロワよ~」
澪「きょ、今日もキスするのか?」
紬「今日はちょっとルール変えようと思うの」
澪「キスはやめてくれよ?」
紬「ええ。今回は……フェーブを当てた人が、軽音部のメンバー全員に一つずつ命令が出来るってルールにするわ」
律「例えば?」
紬「私がフェーブを当ててね、りっちゃんは明日猫耳を付けて学校に来ることって言ったら、りっちゃんはその通りにしなくてはいけないの」
律(……ムギにだけはフェーブが当たりませんように)
紬「じゃあ、はい。五等分したガレットデロワを持っていって」
唯「じゃあ、私この一番小さいの選ぶね」
律「あ、唯ずるい! 昨日みたいに大きいの取って行けよ!」
唯「えー、フェーブが入っていたら困るもん」
律「だからってずるいぞ! あー! 梓も二番目に小さいの取って行きやがって!」
梓「早い者勝ちです」
律「くぅー、あ、一番大きいのしか残って無いじゃん!」
唯「いただきまーす!」
律「まあ、甘くて最高に美味しいんだけどなあ……」
梓「緊張感があって、味なんかどうでもよくなっちゃうんですよね……」
澪「あ、よかった……私のにはなかった」
紬「あら。残念、私のにもなかったわ」
律「おー、私もセーフ。唯か梓のどちらかにあるんだな」
梓「……あ、私もなかったです」
唯「あれ? 私の中にこんなのがあったよー」
紬「それがフェーブよ」
唯「えぇー、私?」
紬「唯ちゃんね。王様は」
唯「ちぇー、一番小さい奴選んだのに……」
紬「じゃあ唯ちゃん、誰に何を命令する?」
唯「一人ずつに命令するの?」
紬「ええ」
唯「そんじゃーねー、ムギちゃんに命令! 明日からはシュークリームとかを持ってきて! ガレットデロワじゃなくて」
紬「そう……惜しいけど、命令は絶対だものね。わかったわ、そうする」
唯「明日はシュークリームがいいな~。あ、これは命令じゃないよ? 願望だよ」
紬「そうね、うん。じゃあシュークリーム用意しておくわ」
唯「本当? やったー!」
唯「澪ちゃんは、えーと、あ、和ちゃんにデートの申し込みしてきて!」
澪「え!? わ、私が和に?」
唯「うん! だって昨日、二人ともとっても仲よさそうだったよ? 恋人みたいだったもん。ラブラブで」
澪「え、唯! それはないだろ!」
紬「駄目よ、澪ちゃん、王様の命令は絶対よ」
澪「で、でも」
紬「澪ちゃんが守らないなら、私明日からもガレットデロワ、持ってくるわよ?」
澪「……分かった、和にデートを申し込むよ……」
唯「えーと、りっちゃんは……」
律「なあ唯、私たちって友達だろ?」
唯「え? う、うん」
律「友達にさ、ひどい命令なんてするものじゃないと思うんだ」
唯「うん……そうかも」
律「だからさ、『りっちゃんには特に命令することはないよー』って、言ってくれないか?」
唯「そうだね……りっちゃんはじゃあ、おでこに『肉』って書いて」
律「……唯?」
唯「なに? りっちゃん」
律「あとで覚えておけよ?」
唯「じゃあ、あずにゃんにはねえ……」
梓(律先輩をスルーした!)
唯「あずにゃんは、えーと、好きな人を選んでキスして!」
律(ネタが切れたな……)
梓「え、私が選ぶんですか?」
唯「うん。誰がいい?」
梓(……誰にしよう……?)
梓(あとで余計ないざこざが生まれたら嫌だし)
梓は唯達を見やる。
紬「…………………………」(さっと目をそらした)
澪「…………………………」(さっと目をそらした)
律「…………………………」(さっと目をそらした)
唯「誰を選ぶ? あずにゃん?」
最終更新:2011年01月06日 20:45