生徒会室

和「で、何かしら相談って?」

澪は、自分の現状を包み隠すことなく和に話した。
部室での唯の話のこと、勝手に会報誌を読んだこと。
そのせいで周りの視線に過敏になって神経をすり減らしていること。

澪「…て具合なんだ」

和「ふーん、なるほどね。それは申し訳ないわね。
  私、便宜上だけどファンクラブの会長やってるもんだから」

澪「あ、いやそれはいいんだけど。ただ、ムギと今まで通り付き合えなくて。それが一番…」

和「ムギの方はどうなの?」

澪「いつも通りなんだけど…ただ私の態度が変になっちゃってるから
  もしかしたら不審に思ってるかも知れないし。なんか怖くて…」

和「まるで負の連鎖ね」

澪「なあ、和。どうしよう。このままいったら私…」

和「澪はどうなの、ムギのことは好き?」

澪「と、当然だよ。も、勿論友達としてだけど……」

和「……澪、正直に言っていい?」

澪「う、うん」

和「あなた相当馬鹿ね」

澪「…え?」

和「だから、馬鹿って言ったのよ」

澪「に、二度も言わなくても……」

和「確かに、ファンクラブの会報はちょっと行き過ぎだったかもしれないわ。
  そこは、今度会員に注意しておくわ」

和「でもね、そんな一部の子の目線を気にするのもどうかと思うわ」

澪「…で、でも」

和「恥ずかしがりやの澪だから、余計に人の視線が気になるのかも知れないけど。
  でも、今あなたがムギと向き合えないのは彼女たちのせいじゃないわね。
  あなた自身が過剰に思い込んでるだけ、勝手に怖がってるだけよ」

澪「う…」

和「それにこの企画、2位の律だってポイント大差ないじゃない。
  これ見ても律と接するの怖くなったりしてないでしょう?」

澪「そ、そうだけど…でもどうすれば…」

和「さあ、私にはわからないわよ。あなたの問題よ」

澪「う、うう……」

和「ま、私はそこまでは力になれないけど。頑張ってね」

澪「……ところで和。ムギって私のことが好きだってことに関してはどう思う?」

和「友達として、じゃないの?」

澪「だよな…頭ではわかってるつもりなんだけどな」

和「それがわかってれば何とかなるわよ。多分」

澪「ゴメン、なんかありがとう」

和「どういたしまして、自意識過剰の怖がりさん」

澪「ひ、ヒドイ言い草だ…」


一方、部室にて…

律「…てなわけでさ」

梓「はあ…随分とややっこしい話になってますね」

唯「私、全然気付かなかったよ」

律「で、問題は何故澪がムギを避けているかなんだが…」

梓「それってもしかして…」ジー

律「多分…」ジー

唯「な、何で私のほう見るの? 私何も言ってないよ?」

律「うんにゃ、そうじゃなくてな」

梓「この前の私たちの会話聞いていたかも、てことですよ」

唯「そうなの?」

律「澪とは付き合いが長いからな。何となくわかる」

梓「澪先輩って一度気になるとトコトン気にするタイプですからね」

唯「ほえ~、そうなんだー」

律「…唯、お前も少しは責任ってもんを感じてくれよ」

唯「か、感じてるよ。海よりも深く」

梓「…嘘くさい」

律「んでだ、あんまり長くくすぶらせるのもアレだし。そろそろ澪が来ると思うから…」

ガチャ

澪「ごめん、遅くなった」

梓「噂をすれば何とやらですね…」

唯「澪ちゃん!」ズイッ!

澪「ぬぁ!? な、何だ唯?」

唯「ゴメンね澪ちゃん! あの、私のせいでムギちゃんのことをきr」

澪「え?」

律「ストーップ!!」バシーン!

唯「ふぎゃっ」

律「ストレートに行きすぎだ、ちょっと落ち着けい」

唯「ふにゃー…ごべんなひゃーい……」ピヨピヨ

律「コホン…で、澪。ムギのことについてなんだけどな」

澪「あ、ああ…あれ? 今日はムギいないのか?」

梓「あ、えーっと…よ、用事があるってことで帰りましたよ」

澪「そうなのか…」

律「それより澪、最近ちょっとムギのこと避けてるんじゃないか? 態度が明らかに変だぞ」

澪「ああ。やっぱり気付いてたんだな」

梓「(みんなついさっき気付いたばっかですけどね)」

律「ああ、何かあったのか。ムギが凄く気にしてたぞ」

澪「うん、実はさ……」

……

澪「というわけなんだ」

律「はあ、なるほどねえ」

梓「つーか、そんな妙な会報あったんですか…(私はランクインしてたのかな?)」

唯「りっちゃんりっちゃん、これって別に私たちの話が原因ってわけじゃ…」

律「一因だよ」

唯「…ですよねー」

梓「でも、一度は気にしすぎだって思ったんですよね。何でまたそんなに」

澪「その…やっぱり周りの視線とか気になっちゃってさ」

律「澪」

澪「何?」

律「ばーか」

澪「は?」

律「バカだよ、ホントに。そんな下らないことで友達に心配かけやがって」

澪「…本日二度目ですか。しかも二回言った…ああ、私ってやっぱバカなんだな」

梓「澪先輩が縮こまってる…」

律「ムギがさ、気にしてたよ。自分は澪に嫌われてしまったんじゃないかって」

澪「…うん。私も、ムギに迷惑かけたと思ってる」

律「ムギのこと、好きか?」

澪「うん。あ、勿論友達として…だけど」

律「……てことらしいぞ、ムギ!」

澪「…えっ?」

紬「……」コッソリ

澪「む、ムギ。いたのか」

唯「隠れてたんだよー」

梓「律先輩の計らいです」

律「お前の言葉を直接聞いてもらいたかったからな。ほら、二人とも」

澪「う、うん」

紬「……」

澪「あー、ムギ?」

紬「…はい」

澪「あの、ゴメン。不安にさせてしまって、その……」

紬「……」

澪「ホントにゴメン! こんな私だけど、今まで通り友達でいて欲しいんだ!」

紬「……いいよ」

澪「ムギ…!」

紬「ヒック…よかった」

澪「あ……」

紬「よかったよぉ…グス……澪ちゃんに嫌われたんじゃないって……ヒック」

澪「え、あ。む、ムギィ。泣くなよぉ」

律「あーあー、女の子泣かしちゃって。ちゃんと責任取れよ~」

唯「澪ちゃんヒドーい」

澪「う、うるさい! おちょくるな!」

紬「…ねえ、澪ちゃん」

澪「ん、何?」

紬「一つだけ…許す代わりにお願いがあるの」

澪「何だ? 私に出来ることなら何でも」

紬「キスして」

澪「」

紬「私の唇に」

澪「え、えええええ!!!」

紬「…でないと、絶対に許さない……」

澪「う、あー、うー…り、りつぅ~」

律「自分でまいた種だろ、責任とってやれよ」ニヤニヤ

唯「あ、カメラ用意しないと」

澪「お、お前らー!! あ、あずさぁ!」

梓「わ、私に振らないでください!!」

澪「う、うー…」

紬「澪ちゃん」

澪「わ、わかったよ…」

紬「…ありがとう」

梓「(な、何なのこの展開…なんで律先輩と唯先輩は止めないの~)」

澪「じゃ、じゃあ…」

静かに向い合う二人。紬は一度澪の顔を見つめると、目を閉じ唇を澪に向ける。
澪は躊躇する気持ちしかなかったが、でも今後の友人関係に亀裂を残したままで
いることのほうが、今の状態よりも耐えられないと思った。澪は紬の肩にそっと両手を置く。

澪「(つーかさ…こんな要求するってことは、ムギってやっぱり…)」

澪「(…えーい、もう知らん! どうにでもなれ!)」

澪は瞼を強引に閉じ、顔を徐々に前に出していく。
躊躇した気持ちの表れか、顔は小刻みに震えている。

…どれくらい時間がたったのだろうか。
いや、まだ眼を閉じてほんの数秒しか経っていない。
しかし、澪にとってこの数秒は果てしなく長い時間に思えた。

澪「(…い、今どれくらいまで近づいたんだろう)」

ふと澪はそう思い、うっすらと細目を空ける。
ルール違反であるとは感じたが、でもこの長い時間を早く終わらせたかった。


うっすらと目を開けた澪の目に入ったものは…


澪「ま、マンボウ…?」


紬「……」プクー

澪「……」ポカーン

紬「……プ」

澪「…え?」

紬「ふ…ふふふふ……」

澪「…あ、何だよ」

紬「う、ふふふふ…ゴメンナサイ、冗談よ~」

澪「い、あ、え、あ?」

律「く、くくくく…」

唯「プ、くすすす…」

澪「お、お、お…」

お前らあああぁぁぁーーーーーー!!!!

ごツーン!


律「すびばせん」チーン

唯「ぎょめんなひゃい」ピヨピヨ

紬「悪乗りしすぎましたー」クラクラ

澪「まっったく…」

梓「ふ、ふふ…」

澪「梓!? お前まで!」

梓「す、すいません! でも、いつもの軽音部に戻ったかなって」

澪「…あ」

律「まったく、一人で勝手に暴走して一人で勝手に悩みまくりやがってよー」

澪「…ゴメン、迷惑かけたな。みんな」


唯「私たちもごめんね」

律「ああ、今回はお互い悪かった点もあっただろうし。これにて一件落着
  …てことで、いいか。ムギ?」

紬「勿論よ」

梓「ムギ先輩に関しては何の落ち度もなかったですけどね」

紬「いいのよ梓ちゃん。今まで通り、みんなと一緒に居られるのだから」

梓「先輩…」

律「よし、んじゃあいつもの軽音部に戻ったところで唯!」

唯「お茶だねムギちゃん!」

紬「私準備してくるわりっちゃん!」

澪「早っ! つか、コンビネーションいいな!!」

梓「ああ…結局今日は練習できそうもないですね」

律「そう言うな梓。せっかく元の鞘に収まったんだから」

梓「それはそうですけど…でも私たち3人にとっては今回の騒動って、今日だけでしたよね?」

律「ああ、そうだな…でもさ、私も部長として注意が足りなかった面はあったんだ
  澪の異変に気付かなかったんだし、ちゃんと皆のこと見ていてやらないといけないな、て」

梓「そうですね。今度からは気をつけてください」

律「随分偉そうだなー、おいこら中野~」

梓「うわ、ぎ、ギブギブ! いきなりチョークは反則です!」

唯「りっちゃん対あずにゃんのバトル、開始だね!」

澪「何やってんだお前ら…」

紬「澪ちゃん、はいどうぞ」

澪「お、ありがと。」

紬「でも、本当に良かったわ。私、澪ちゃんに嫌われたら生きていけないもの」

澪「やけに大袈裟に言うんだな」

紬「だって、澪ちゃんのこと大好きだから!」

澪「ぶっ!」

唯「うわ、澪ちゃんが紅茶吹いた。きたな~い」

澪「ゲホッ、ゲホッ」

紬「あらあら」

澪「…なあ、それって友達として、て意味だよな」

紬「さあ? どうかしら♪」


本編終わりです。




以下、おまけというか本題


唯「ところでさームギちゃん。なんで澪ちゃんの写真とかいつも嬉しそうに撮ってるの?」

律「あー、そういえばそうだな」

紬「え、だって思い出は美しいほうがいいじゃない?」

梓「どういう意味ですか」

紬「2年の新歓でメイド服着た澪ちゃんを見て思ったの。澪ちゃんはあの格好がすごく似合うって」

紬「だから、どうしても私の思い出アルバムに写真収めたくて…ね?」

律「いや、『ね?』じゃねーよ」

唯「やっぱりムギちゃんは澪ちゃんのこと大好きなんだね!」

紬「勿論よ! そうだ、みんなの分もちゃんと撮ってあるからね」

律「え?」

梓「いつの間に…」

唯「ねえねえムギちゃんどんなの撮ったの? 私見たい!」

紬「いいわよ、今度見せてあげるわね」

律「なあ、ムギ。私たちのって、どんなの撮ったんだ?」

紬「それはね…ふふ」

梓「何ですかその不敵な笑み!?」

律「見せろ! 私の写真撮るならちゃんと事務所通せよ!」

梓「何なんですか事務所って!?」

唯「あずにゃん、ツッコミ大変だね~」

紬「ふふ、それじゃ今度持ってくるわ。私の大切な思い出アルバムを」


おわり