律「へ?」

梓「はい?」

唯「?」

律「あー、唯。何言ってるのかよくわからないんだが」

唯「だから~、ムギちゃんって澪ちゃんのことが好きなのかなあ、て」

梓「と、友達として好きとかそういう意味なら間違いないと思いますけど」

唯「ちーがーうーよー、わかってないなあ、あずにゃん」

律「えーっと、要するにムギが澪に対してラブ的な感情を抱いている、てこと?」

唯「そう、それだよりっちゃん!」

梓「ラブって…」

律「なんでそう思うんだ、唯?」

唯「だってさあ、新入生歓迎ビデオの時とか嬉しそうに澪ちゃん撮ってたし」

律「うん」

唯「バイトの時も写真パシャパシャ撮ってたし」

梓「そうですね」

唯「ね? なんか怪しいじゃん!」

律「いや、別にそんなことはないと思うぞ」

唯「え~、そう?」

律「まあ、なんというか…ムギはそういう奴なんだよ」

唯「そういう奴って?」

律「えーっとな。つまり、あれだ。女の子同士が仲良くしてる光景が好きとか」

唯「撮ってたの澪ちゃん一人じゃん」

律「あー、可愛い女の子を見るのが好きとか」

唯「それってつまり、澪ちゃんが好きでも変じゃないってことなんじゃないの?」

律「あーもう、説明しづらいわ!」

梓「唯先輩。世の中にはいろんな人がいるということですよ」

唯「んー、なんか納得行かないな~」

律「細かいこと気にすんなよ」

唯「だってだって、昨日も気になって6時間しか寝れなかったんだよ?」

梓「じゅうぶんじゃないですか」

唯「甘いよあずにゃん。私は毎日8時間以上寝ないと死ぬんだよっ」

律「死ぬどころか無茶苦茶元気じゃないか」

唯「よし、じゃあムギちゃんに聞いてみよう! 聞きまくろう!!」

律「ちょいちょいちょーい! 唯、お前は少し落ち着け!」

唯「りっちゃんのほうが落ち着いてないじゃーん」

律「うー、言ってくれるねお嬢さん。ひどい目に会いたいのかい?」

唯「きゃー、ご無体な。誰かお助けをー」

梓「何やってるんですかおふたりとも…」

律「おっと、脱線しちまった。とりあえずだ、唯。聞くのは自重しろ」

唯「えー、だって気になる~」

律「気持ちはわかるけどな。そういうデリケェートなお話は気軽にやるもんじゃないぞ」

唯「ぶーぶー、りっちゃんのケチー」

律「ぶーぶー言うな。とにかく、あんま大っぴらに聞くなよ」

梓「そうですよ。問い詰めちゃ頭が常春のムギ先輩でも不審に思いますよ」

律「なんか今、梓がさりげなくヒドイこと言った気もするけど…そういうことだ唯」

唯「もーう…わかったよー」

律「わかればよし」

梓「ところで当のムギ先輩と澪先輩、遅いですね」

律「ん、そろそろ来ると思うけど」


部室前…

澪「……」

澪「(私の名前が聞こえたから聞き耳立ててみたら…なんか妙な話を聞いてしまった)」

澪「(え、何? ムギが私のことをって…え?)」

澪「(いや、そんなわけないよな…うん、考えすぎだ。考えす)」

紬「澪ちゃん?」

澪「うひゃぁ!!」

紬「どうしたの、部室の前で突っ立って?」

澪「む、ムギ。あ、いやなんでもないよ。はは…」

紬「? 入らないの?」

澪「あ、ああ。入るよ。」

ガチャッ

澪「ご、ごめん。遅くなった」

紬「お待たせー」

唯「おぉう、めおと出勤だねお二人さん!」

澪「! な、なにを言ってるんだ唯? め、めおとって」

律「こらこら唯、あんまりおちょくってやるなって(何を言い出すんだコイツはー!)」

紬「…私たちが夫婦なら、どっちが旦那さんになるのかしら?」

律「(そしてのるなムギーーー!!)」

唯「うーん、どっちだろうね~?」

律「ちょ、ちょい! おまえら!!」

紬「?」

律「れ、練習しようぜ?」

澪「(た、助かる…)め、珍しいな律がそう言うなんて。じゃあ、やろうかすぐに」

唯「えー」

梓「…唯先輩、律先輩が珍しくこう言ってるんですから。やりましょうよ」

紬「そうね。唯ちゃん、ほらお菓子は後でも食べれるし」

唯「うーん、しょうがないなあ。わかったよ~」


練習後…

唯「あー、疲れたー!」

律「ふぅ…今日は結構頑張ったな」

梓「いつもこれくらい練習してもらえるとありがたいんですけどね」

紬「ふふ、じゃあお茶の準備するわね」

律「たのんまーす」

梓「あ、ムギ先輩。手伝いますよ」

澪「……」

唯「? 澪ちゃんどうしたの。なんか変な顔してるよ?」

澪「! あ、いや。なんでもないよ。ちょっと考え事」

澪「(…て、唯のせいだろっ! 変な顔って何なんだよー)」

律「(あー、なんか冷や冷やする…唯のヤツ、暴走しないよな?)」

紬「お待たせー」

唯「わーい、ケーキだー」

律「…て、余計な心配だったかな」

梓「澪せんぱーい、用意できましたよ?」

澪「あ、ああ。今いくよ」

律「おー、今日はまた随分と美味そうなのが」

澪「…ん、これって」

紬「そう、この前澪ちゃんがすごく美味しいって言ってたケーキ。
  澪ちゃん、その時すごく嬉しそうだったから。また頂いてきたの♪」

澪「そうそう、これすごく美味しかったんだよな。忘れられないくらい…」

澪「(…て、え? これ私のために用意したってことか?)」

唯「いただきまーす」

律「うめー」

梓「いや、本当に美味しいですよね。これ」

澪「……」

紬「澪ちゃん? 食べないの?」

澪「え、あ、ああ。頂くよ…」

紬「?」

澪「(うー…なんか妙にムギを意識してしまう)」

澪「(どうせ私の考えすぎなんだろううけど…)」

澪「(あー、ケーキおいしいなあ…なんかもうこのまま死んでもいいや)」

律「…えらい幸せそうな顔してケーキ食ってるなこいつは」

梓「輝いてますね」

紬「ふふ、喜んでもらえて嬉しいわ~」


そんなこんなで数日が過ぎた。

当初は紬を過剰に意識していた澪だったが
いつもと変わらない紬の態度に、徐々に警戒心を和らげていった

事の発端であった唯も、そもそもの疑問自体が単なる思いつきだったのか
自らの発言のことは既に忘れていつも通り部活を楽しんでいた

しかし、そんなある日。生徒会室にて…

澪「和、いるー?」

和「あら、澪。どうかしたの?」

澪「律の代わりに申請用紙持ってきたんだよ。あいつ、進路指導でたてこんでてさ」

和「あら、律もなの。唯も確か今日呼び出しだったわね」

澪「おかげで今日は練習できそうにないよ」

和「大変ね、じゃあ用紙くれる?」

澪「はい、これ」

和「ありがとう、ところで」

ガラガラ

女子生徒「会長、ちょっといいですか?」

和「何だろ…ちょっとゴメンね澪。何か用かしら?」

女子生徒「先生が呼んでいるので来てもらえませんか」

和「先生が? わかったわ、すぐ行く」

澪「大変そうだな」

和「お互い様ね。それじゃ、用紙は確かに受け取ったから」

澪「よろしく、それじゃ」

和「ええ、また」

澪「戻るか……て、ん? なんだこれ?」

和が去り、一人残される澪
しかし、彼女は和がさっき落としたのか床の上に一冊の本を見つける

澪「なんだろ……」

澪「……え?」

その本――もとい、十数ページほどの冊子に書かれたタイトルは

『秋山澪ファンクラブ会報Vol.3』

澪「……なんでこんなもんがあるんだ?」

澪「」キョロキョロ

澪「…ちょっと読んでみよう」


内容は意外と当たり障りのないものだった。
いつライブやったかとか、3年2組のクラスメイトの話とか
多少プライバシーに触れる部分はあるにしても、そこまで
踏み込んだものはなかった。

ただ、問題は企画コーナーにあった。

『第1回 澪先輩のお相手を考えようのコーナー!!』

第1位 琴吹紬さん(3年2組) 16pt

コメント:キレイな者同士、超眼福です!!
     お姉さま方にお仕えしたい!
     ちょっと鋭めの澪さんと、おっとりな紬さん…超合います!
     他、コメント多数

第2位 田井中律さん(3年2組) 14pt

コメント:やっぱり幼なじみってイイ!!
         ・
         ・
         ・

澪「……」

澪「……見てはいけないものを見てしまった気がする」

澪「……」

澪「……」

澪「……」

澪「…そういう目で見てる人っているんだな……」

澪「……」

澪「…戻ろう」

澪は、何事もなかったかのように床の上に冊子をそっと置いた。
それから澪は、また紬を過剰に意識せざるを得ない日々に戻る。


紬「澪ちゃん、今度の新曲なんだけど…」

澪「え、ああ。出来たんだ。じ、じゃあ聞かせてくれないか」


紬「澪ちゃん、歌詞書けた?」

澪「いや、ああ。もう少し…かな?」


紬「澪ちゃん?」

澪「うおっ! な、なんだムギか…な、なんか用?」



そんなある日…

部室

律「ちわーっす、あれ、今日はムギだけか」

紬「うん、唯ちゃんは補習だし。梓ちゃんはクラスの当番らしいわ」

律「ふーん、で澪は進路指導か。こりゃ、ちょっと暇だな」

紬「……ね、りっちゃん」

律「うん?」

紬「ちょっと相談があるんだけど…澪ちゃんのことで」

律「澪のことで? 何だ?……」

律「(ん…それってまさか……)」



「私、澪ちゃんのことが大好きなの!!」

「愛してるの!!」

「私のために、協力して!!!」




律「(本当にこういう展開か!? うぉい!)」

紬「あのね、澪ちゃんがね……」

律「(落ち着け…おちけつ、私……どう言ってやるか冷静に決めるんだ)」

律「(世間の風は大変だけど、頑張るんだぞー、とか)」

紬「私…てるって……」

律「(いや、それとも澪のことを色々教えてやるべきか)」

紬「…で、どうしたら……」

律「(いや、そもそも同性愛の支援なんてしていいものか)」

紬「…りっちゃん?」

律「っひゃい!!」

紬「…聞いてる?」

律「あ、ゴメンゴメン。それで、なんだっけ?」

紬「もう、ちゃんと聞いてよっ。真剣なんだから」

律「いや、ホントにゴメン。それで?(真剣なのか…)」

紬「あのね…澪ちゃんが……」

律「……ゴクリ」

紬「最近、私のこと避けてるような気がするって」

律「………はい?」

紬「最近話しかけても表情とか体とか硬くしてるし」

律「……」

紬「お話する時も、目が泳いでて合わせてくれないし」

律「……うん」

紬「私、澪ちゃんに嫌われちゃったのかなって……グス」

律「……(何この展開?)」

紬「それで…私どうしたらいいか……ヒック」

律「(それは私が聞きたいよー)」


数分後…

律「あー、要するにそういうことか。私はてっきり…」

紬「てっきり…?」

律「あー、いや。こっちの話。ムギさ、なんか心当たりないのか?」

紬「ない、と思うんだけど…」

律「だよなあ。でも、澪の奴がねー。どういうことなんだ?」

紬「りっちゃん…」

律「ああ、わかったよ。澪にはそれとなく聞いてみるよ」

紬「うん…ありがとう……」

律「(とは言っても…どうしたもんかな)」


一方その頃…進路指導の用事を終えた澪

澪「あ~…胃が重い……」

澪「最近妙に気を張りっぱなしだから疲れたー……」

和「ん、澪?」

澪「あ、和。お疲れー」

和「…どうしたの、そんな茹でられた茄子みたいな顔色して」

澪「どういう例えだよ」

和「体調悪そうだけど、大丈夫?」

澪「ん…(和なら…相談乗ってくれるかな。口堅そうだし)」

澪「なあ、和。ちょっといい?」


2