純「悪い梓、さっきの授業のノート貸して? 寝ちゃってた」

梓「……まったく純ってば。しょうがないわね。はい」

純「サンキュー、梓。恩に着るよ」

梓「あとで購買のパン奢ってよね」

純「わかったわかった。……あれ?」

梓「なに?」

純「そのツインテールの髪留め、変えた?」

梓「ああ、これね。プレゼントしてもらったの」

純「え? まさか彼氏に!?」

梓「バカ。違うわよ、ムギ先輩によ」

純「? 軽音部の先輩?」

梓「うん。琴吹紬って名前の先輩。おっとりとしていてね、ぽわぽわって感じでね、金色の髪で、すっごく可愛いの!」

純「ふぅん、わかるようでわからない解説ありがとう」

梓「まあ、一回見てみたらわかると思うけど。とっても綺麗よ?」


放課後

純「梓―、借りてたノート返しに来たよ」

言いながら、純は音楽室の扉を開けた。

純「梓……ってあれ?」

紬「あら、確か……純ちゃん、だったかしら」

純「あ、はい」

純(金髪、ぽわぽわとしている雰囲気、ああ、梓が言っていた――)

純「もしかして、紬……先輩ですか?」

紬「ええ、そうよ」

純「あの、梓は……?」

紬「梓ちゃんはまだ来てないわね。何か御用?」

純「あ、こ、このノート渡してほしいなーって」

紬「あぁ、わかったわ」

純「あ、それだけですので、あの……失礼しました!」

純が音楽室を出ようとするよりも早く。

紬「待って、純ちゃん」

純「……はい?」

紬「お茶してかない? 一人で暇だったの」

純「はあ……」



純が部室のテーブルの一角に座る。

紬「お待たせ、純ちゃん」

純「あ、どうも」

純(レモンティー、かな? それとケーキ)

純「あの、飲んでもいいんですか?」

紬「もちろん」

純「では……」ズズズ「あぁ……憂の淹れたヤツより美味しいです」

紬「そう? ありがとう。ケーキも、ほら」

純「あの、でも、これ食べちゃったら他の部員の分のケーキ、なくなっちゃうんじゃ……」

紬「大丈夫よ、今日は余分に持ってきているから」

純「あ、そうなんですか……」

純はケーキを食べ始める。美味い。思わず、食べ進める手が止まらなくなる。

紬「お味はどう?」

純「とても美味しいです! 今まで食べたケーキの中で一番ですよ!」

紬「そう言ってもらえると嬉しいわ」

にこ、とほほ笑む紬。

純「何か、紬先輩ってお母さんって感じですね」

紬「そう?」

純「はい」

紬「あら、純ちゃん。頬にクリームが付いてるわよ。……ほら」

と、紬が人差し指で純の頬に付いていたクリームを取る。

純「あ、ありがとうございましゅ」

何故か、呂律が回らなかった。頬が赤くなる。

紬「それにしても純ちゃん、綺麗な顔をしているわね。お人形さんみたい」

純「あ、は、はい……」

とても気恥ずかしい。


梓「こんにちは~」

そのとき、音楽室の扉が開いて、梓が現れた。

梓「……って、純。何やってんのよここで」

純「あ、べ、別に、ケーキ食べてただけだし?」

紬「あぁ、梓ちゃん。はい、ノート」

梓「あ、純。これ返しに来たのね」

純「そ、そうだよ、悪い?」

紬「梓ちゃんも食べる? ケーキ」

梓「あ、はい。頂きます」

紬「そう、じゃあちょっと座って待っててね」

純「わ、私はこれで……失礼しました」

紬「あら、もう帰っちゃうの?」

純「はい。ジャズ研もありますし」

紬「そっか。じゃあね、ばいばい」

純「はい。あ、ケ、ケーキとても美味しかったです。ありがとうございました」

紬「うん」

そして純は音楽室から出た。

そこから少し歩いて、立ち止まる。

純「……どーしよ。まだドキドキしてる……」

純は胸を抑えた。

純(……それにしても、紬先輩……綺麗な人だったなあ……)

純(………………やばい、私。好きになったかも)

紬の顔を思い出す。思わず、頬が緩む。

純(ほんとうに、綺麗な人だったなあ…………)

純(………………うん、好きになっちゃった)


翌日  学校

梓「おはよう、純」

純「ああ、梓。お早う」ジトー

梓「……なに? その眼」

純「いやあ……軽音部の人は毎日練習もせずにあんな美味しいケーキを食べてるなんて羨ましいなあ、と考えていただけだよ」

梓「ケ、ケーキ食べてるだけじゃないよ。ちゃんと練習もしているもん!」

純「どうだか……」

梓「まあ、ケーキを毎日食べているってのは否定しないけどね」

純「……ねえ、梓」

梓「ん?」

純「あのさ……紬先輩の写真とかない?」

梓「ムギ先輩の……? ケータイのでよかったら、あるけど」

純「! 送ってよ! その写真!」

梓「……何で?」

純「え、えーと、ジャ、ジャズ研の女の子がね紬先輩の大ファンなんだって! 写真もらってきて下さいって言われちゃってさー」

とっさの言い訳にしては上出来だと純は思った。

梓「まあ、いいけど」

梓は携帯を操作し、純に写真添付のメールを送った。

純「おお、どれどれ……梓、私は梓と言う友人をもって良かったと心から感謝するよ」

梓「なに? それ。大げさね」

純(……ああ、紬先輩の顔写真……素敵)

純(おっと、いけない。よだれが)

純(…………可愛いなあ…………)

純(………………えへへ)

梓「…………純、何か気味悪いよ? その笑顔。どうしたの?」

純「あ、え、何でもないよ。うん。本当に何でもないってば」

梓「そう。ならいいんだけど」

純「あのさ、梓。まだ写真ない? 紬先輩の」

梓「あるけど……そんなにあげるの? 後輩とやらに」

純「わ、私はいつでもいい先輩でいようと思っているんだよ」

梓「まあ、いいけど」

そして再び、純の携帯に送られてくる。

純(……えへへ、ああ、紬先輩っていいなあ)

憂「純ちゃん、梓ちゃん、おはよう~」

梓「ああ、憂、お早う」

憂「純ちゃん、どうしたの?」

純「……………………」ニヨニヨ

憂「おーい、純ちゃーん?」

純「……………………」ニヤニヤ

憂「ねえ、純ちゃん?」

憂は純の肩を揺すぶる。

純「って、何!? 憂、ど、どうしたの? いきなり」

憂「いや……何度呼んでも反応がなかったから。何見ているの?」

憂は純の携帯を覗き込む。

純「あ、これは…………」

憂「ああ、紬さんの画像だね」

純「う、うん。そうだよ」

梓「純ったら変なのよ。さっきからムギ先輩の写真見てにやにやにやにや、笑っているの」

純「ち、違うよ。思い出し笑いだよ。そう、思い出し笑いだよ」

梓「……何で同じことを二回言うのよ」


放課後

梓「じゃあ、私軽音部行くから。 ばいばい」

憂「あ、私も今日お姉ちゃんに用事あるんだった。私も行かなきゃ」

梓「何の用?」

憂「晩御飯何がいいかって聞くの」

梓「へえ……それはそれは」

純「わ、私も行こうかな、軽音部」

梓「純……ジャズ研は?」

純「あ、た、たまには休まないとね。腕が疲れちゃうよ、うん」

梓「ふーん、まあいいけど」

純「あ、勘違いしないでよね。別に、紬先輩に逢いたくて行くんじゃないよ?」

梓「いや……誰もそんなこと聞いていない」


音楽室

梓「こんにちはー」

唯「あ、あずにゃん! それに憂! 純ちゃんまで!」

梓「何かすみません。沢山連れてきちゃって」

唯「多い方が楽しいよー」

憂「ねえ、お姉ちゃん? 今日の晩御飯何がいい?」

唯「えーとね、んとね、パスタ!」

律「おー、梓、来てたのか」

梓「あ、こんにちは。律先輩」

律「うん。……で、そちらの方は? 佐々木さんだっけ?」

純「あ、いえ。鈴木です」

律「ああ、そっか。鈴木さんね」

と、そこで紬のお茶にしましょう、という声が響く。

全員がテーブルのところに座った。

紬「あら、今日は七人もいるのね。どうしよう……ケーキ6個しかないわ」

梓「あ、純にはやらなくていいですよ」

純「え、何でさ梓! 仲間外れはんたーい!」

梓「だって純、軽音部じゃないでしょ?」

純「じゃあ憂もそうじゃん!」

梓「憂は別よ。唯先輩の妹なんだし」

純「わ、私だってジャズ研会長候補の一人だよ!」

梓「うん……で?」

紬「ああ、じゃあ純ちゃん。私と半分こしない?」

純「え? いいんですか?」

紬「ええ。私、ダイエット中なの」

純「じゃあ、……お言葉に甘えて」

半分にされたケーキの片方が、純の皿に置かれる。

紬「はい、どうぞ」

純「あ、ありがとうございます…………」

純(紬先輩のケーキ、紬先輩のケーキ、紬先輩のケーキ!)

純「じゃ、い、頂きます……」 ムグムグ 「昨日のもおいしかったですけど、これも、美味しいですね!」

紬「そう? ありがとう」

純(……ああ、紬先輩って本当にいい人だなあ)

純(そのうえ可愛いし、綺麗だし、声も素敵だし……)

純(…………もっと、紬先輩と一緒に入れたらいいのに……)

純(……どうやったら紬先輩と一緒にいられるんだろう?)

純(ジャズ研辞めたらいいんだろうけど……気が引けるしなあ……)

純(……そういえば、紬先輩の家ってどこにあるんだろう)

純(明日、梓に訊いてみようかな)


憂「じゃあ、私帰るね。お姉ちゃん」

唯「え! もう行っちゃうの? もう少しいてもいいのに」

憂「ううん、お姉ちゃんに早くご飯を作ってあげたいから……」

唯「そっか、じゃあまたね……」

憂「うん。お姉ちゃん……」

純「あ、憂! わ、私も帰るよ」

梓「……結局純、何しに来たのよ」

純「ほら憂、早く帰ろう? ね?」

憂「え、う、うん」

紬「またね~、憂ちゃん、純ちゃん」

その紬の言葉を聞きながら、純と憂は音楽室を出た。


2