唯「そうやって、皆で負担を分け合えば良かったんだよ。だって皆……放課後ティータイムっていう、仲間じゃない。
  まして憂と純ちゃんは、あずにゃんの大切な友達じゃん」

梓「……そうだ……私……一人で、勝手に……! 勝手に独りだって、思い込んで……!」

唯「……寂しかったんだね、あずにゃん。
  ……あずにゃんはさ、そうやって一人で頑張りすぎるところがあるからさ……妙に責任感じてね。
  私たちの言葉に、責任感じることも無いのに。
  ……でも、そうやって私たちを驚かせるために、喜ばせるためにっていうあずにゃんの気持ちは、本当に嬉しいよ」

唯「ねえ、あずにゃん。ムギちゃんと約束したんだよね? 私たちの輪に戻るって。
  だったらさ、そのあずにゃんが無理して倒れちゃったら、戻れなく、なるじゃん」

梓「……はいっ……」

梓(ああ……私ってば……)

唯「澪ちゃんに言われて、私たちと一緒にいたいって、想ってくれたんだよね?
  だったら……一人で全てを背負い込んで、無理しようと、しないでよ……」

梓「……ごめん、なさい……」

梓(本当に、バカだ……)

唯「りっちゃん、から……言われたんだよ、ね? ……軽音部は、任せたって……!
  だから、何としても守るんだって、思ったんだよね……?
  だったら……! だったら! 私たちと一緒にいた時と同じで、皆に相談するって事を、忘れないでよ……!
  それが……! 軽音部じゃん……!」

梓「ごめんなさい……ゆいせんぱい……! ごめんなさい……っ!」

梓(唯先輩を泣かせて……心配掛けさせて……)

唯「ねえ、あずにゃん……! お願いだから……ぐすっ、お願いだから……!
  私たちから、離れないでよ……!
  ずっとずっと……一緒にいようよ……!
  いたいよ……! ずっと一緒にいたいんだよ……! あずにゃん……!」

梓(本当に……本当に、バカだ……!)

唯「あずにゃん、私たちはね、ただ――」


~~~~~~

澪「梓はさ、たぶん、焦ってるんだよ」

純「焦ってる、ですか?」

紬「ええ。私たちがいなくなって、メンバーは憂ちゃんと純ちゃんだけ。
  ……もしこのまま新入生歓迎会で誰も後輩が入ってこなかったら、軽音部は解散しちゃうもの」

憂「それで……」

律「私が梓に軽音部を託しちまったせいだな……悪い」

純「そんな、律先輩のせいじゃ……!」

律「いや、私のせいだよ。
  私がちゃんと、軽音部が潰れても良いから、梓だけは潰れないでくれって言わなかったせいで……」

澪「そんなこと言い出したら、私だって悪い。
  軽音部の皆が梓のことを好きだって言って、梓にプレッシャーをかけてしまった」

紬「それなら私だって!
  軽音部は家族だなんて言って、家族としての家である軽音部を守って欲しいみたいなこと、言っちゃった……」

純「先輩方……」

憂「皆さん……」

律「私たちはただ――」


澪律紬「「「――梓(ちゃん)がいてくれるだけで良いのに」」」
~~~~~~
唯「――あずにゃんがいてくれるだけで、良いんだよ!」


梓「ゆい、せんぱい……!」

唯「だから……! 一人で全部をしようとだなんて、思わないで……!
  一人で全部背負い込んで、辛くなって、離れちゃうなんて……
  そうやって、あずにゃんがいなくなるのは、私たちが……辛いから……!
  悲しいから! イヤだからっ!」

梓「はい……はい……! これからは、ちゃんと、そうします……!」


~~~~~~

律「……って、二人共私の言葉を取ろうとするなよ~」

澪「だって、言いたいことはイヤってほど伝わってきたからな」

紬「そうね……それに私たちも、同じ気持ちなんだもの」

律「……ま、そりゃそうか……」

純「その、先輩方!」

律「ん?」

純「私も、梓を支えます!」

憂「純ちゃん……」

純「梓が焦ってるっていうんなら、手を引っ張って落ち着かせます!
  落ち込んだ時は、繋いだ手に力を込めます!
  ですから……! 皆さんが梓にあげた言葉を、無かったことにはしないで下さいっ!
  お願いします!」

憂「わ、私も! 梓ちゃんを支えるから! 梓ちゃんと一緒にいるから!
  一緒に軽音部を盛り上げていくから……! だから――」

澪「……分かってるよ」

憂「――え?」

紬「……ありがとう、憂ちゃん。純ちゃん」

律「……本当、梓は良い友達に巡り会えてるよなぁ……」

澪「そんなこと言ったら、私たちは良い後輩に巡り会えてるよ」

紬「そうね」

律「……ま、アレだ。私たちも梓に頼りきってたって話だ」

澪「梓だって寂しいのに、私たちが勝手に梓に何かを残そうとして……」

紬「私たちが勝手に、梓ちゃんと離れ離れになるのを寂しがって……」

律「本当は、私たちが梓を支えないといけなかったのにな」

澪「私たちが梓に頼りきって、支えられていた」

紬「勝手に梓ちゃんは大丈夫だって思って……言葉を残して、梓ちゃんを焦らせて……」

律「本当……情けない先輩だよ」

澪「でも、だからって、梓にあげた言葉を無かったことにはしないよ。
  だって何も残せなかったら……梓は軽音部を続けてくれていたかも、分からないからな」

紬「そうね……今は焦って無理してるんだとしても……私たちが何も残さなかったら……
  歌ですら、梓ちゃんに渡せてなかったら……きっと……」

律「梓には、さらに大きな負担になってただろうな……」

純「先輩方……」

憂「それじゃあ梓ちゃんは、どちらにしても苦しまないといけなかったってことですか? 先輩方が何かを残しても、何も残さなくても……」

律「ま、梓の性格を考えると、そうなってしまったんだよな、結果的に」

澪「私たちも今日、梓に会うまで気付けなかった。
  私たちの言葉が、軽音部に梓がい続けられる支えになって、同時に梓を縛り付けて苦しめることになってしまってる、ってことに」

紬「……もしかしたら唯ちゃんは、そうなることも分かってたのかも」

憂「え?」

紬「私たちが、自分の中にある寂しさに向き合わず、梓ちゃんのためにって、梓ちゃんの未来のことも考えず何かを残して……
  それが梓ちゃんの負担になるって分かってたから……
  その時は大丈夫でも、後々梓ちゃんが無理しちゃうって事が分かってたから……
  今の今まで、何も言わなかったのかも」

律「なるほどな……確かに、唯ならありえそうだ」

澪「楽しいことをギリギリまで楽しみたい唯だからこそ、終わりがどうなるかも想像できるってことか……」

純「……唯先輩って、そんなにスゴイんですか?」

澪「ま、ソレを本能でやってのけてるってのが、唯のスゴイところだよ」

律「確かに少しは考えてるんだろうけど……基本的には、明るく楽しくが唯のモットーだろうからなぁ……」

紬「深く考えてたら、唯ちゃん自身が楽しめなくなっちゃうものね」

純「へぇ~……唯先輩ってそんなに……」

憂「すごいでしょ、お姉ちゃん」

純「確かに……というより皆さん、それぞれの人の事よく知ってますね」

律「三年間の付き合いだからな。
  友達で、仲間で、バンドメンバーで……もう家族みたいなものだよ」

澪「これからは、憂ちゃんとも純ちゃんとも、そうなれるようにならないとな」

純「っ! はい! よろしくお願いしますっ!」

憂「わ、私も! よろしくお願いしますっ!」

紬「ああ……二人共初々しくて可愛いわぁ……」ウットリ

澪「もう二人共高校三年生なんだけどな……」

紬「でも、軽音部ではまだ一ヶ月も経ってないのよ?」

律「確かにそうなんだけど……初々しいは何か違うくないか?」

純(賑やかだな……私残り一年間、この部活に入って良かったかも……!)


~~~~~~

帰り道


唯「ふぅ……なんかいっぱい泣いたら、お腹空いちゃったね!」

梓「なんなんですか、それ……まぁでも、確かにちょっとお腹は空きましたけど……」

唯「アイスでも食べて帰ろうか!?」

梓「は――……いえ、遠慮しておきます。
  私は帰ったら、皆さんがくれたケーキがありますから」

唯「ああ……そっかぁ~……じゃあ私も大人しく帰ろうっと」

梓「そうして下さい。憂が心配しますから」

唯「……ねえ、あずにゃん。もう大丈夫?」

梓「……はい。今度の今度こそ、大丈夫です」

唯「ん……そうだね。確かに大丈夫みたい」

梓「……本当、唯先輩には敵いません」

唯「でも、あずにゃんが辛そうだったのは、皆気付いてたよ?」

梓「そうなんですか……皆さんにも、心配かけちゃったな……」

唯「皆気にして無いよ。これから先、もう無理さえしなかったら、それで良いんだよ」

梓「はい。これからは私、軽音部らしく、皆に相談することにします。
  だって私には、憂と純っていう、頼りになる友達が、二人もいますから」

唯「……ありがとね、あずにゃん」

梓「? 何がですか?」

唯(無理しないで。頑張りすぎないで。壊れないで。ずっとあずにゃんでい続けて……
  どれもこれも、皆みたいに上手く言葉には出来なかったけど……それでも、受け取ってくれて……。
  ……なぁんて言うのは、私のキャラじゃないか)

唯「ううん、何でもないよ、あずにゃん」

ギュッ

梓「ちょっ、いきなり手を繋いできて一体――」

唯「どうもしないよ。でも、何となく握りたかったんだ」

梓「…………」

唯「……ダメ?」

梓「……今日だけですよ。今日だけ、私に『私はバカだ』って教えてくれたから、そのおれいです」

唯「あずにゃんはバカじゃないよ! 可愛いんだよっ!」

梓「それ、ちょっと日本語怪しくないですか?」

唯「え? そう?」

梓「…………」クスッ

唯「むい?」

梓「いえ、別に。ただこういうの、良いなぁ、って思いまして」

梓(私、何を勝手に一人で寂しがってたんだろ……。無理して、寂しさを誤魔化してたんだろ……。
  ……私は独りじゃないのに、何を寂しがってたんだろ。
  こうやって隣を歩いてくれる先輩もいれば、私のことを妹のように想ってくれている先輩もいる。
  私に大切なものを守ってくれるよう託してくれた先輩もいて、私のことを家族のように大切だと言ってくれる先輩もいる。
  それなのに……これで独りだなんて言って……勘違いして……寂しがって……無理して……心配かけて……
  本当、バカみたい、私)

唯「あずにゃん」

梓「はい?」

唯「寂しくなるのは、仕方ないことなんだよ。突然一人にされたら、誰だって寂しいんだよ。だから、遠慮なく言ってね?」

梓「……はい」

唯「それに寂しいって思ってくれるって事は、それだけ私たちのこと好きって思ってくれてたってことだもんね。
  だから言ってくれるのは、とっても嬉しいから――」

梓「分かってますよ。私、皆さんのこと、好きですから。
  だから……遠慮せず、今度寂しくなったら、いつでも連絡します」

唯「――……うん、お願いね、あずにゃん」


梓「それじゃあ唯先輩、ここで」

唯「うん。またね、あずにゃん。次はスタジオで」

梓「はい、また。今日はありがとうございました」

唯「ううん。私は、何もお礼を言われることはしてないよ」

梓「何言ってるんですか。ホワイトデー、くれたじゃないですか」

唯「おぉ! 忘れてたよ!」

梓「まったく……ま、唯先輩らしいですけどね」

唯「……ねえ、あずにゃん」

梓「はい?」

唯「……私、あずにゃんのこと、大好きだよっ」

梓「…………」

梓(本当……この人には、敵わないなぁ……)

梓「私も……私も大好きですよっ、唯先輩」ニコッ


終わり




おまけ



プルルル…プルルル…ガチャッ

和『もしもし』

梓「あ、和先輩。今時間大丈夫ですか?」

和『あら、梓ちゃんから電話がくるなんて……先を越されちゃったわ』

梓「え?」

和『本当は今日あたり、梓ちゃんに電話でもかけようと思ってたところなのよ。
  あなた、私にまで気を遣ってる部分があるから、そろそろ無理しだしてるんじゃないのかな、って思って』

梓「……本当、先輩方には敵いませんね……」

和『あら、皆に何か言われたの?』

梓「直接言ってくれたのは唯先輩だけですけどね……でも、それが皆さんの優しさですから」

和『で、無理してる、とでも言われたのかしら?』

梓「そこまでお見通しですか……最近会ってもいなかったじゃないですか」

和『最近会っても話してもいないから、よ。
  友達になったあの日から、私に気を遣っている可愛い後輩だもの。
  これだけ連絡がなければ、無理してることぐらい想像できるわ」

梓「さすがですね……」

和『さすがも何も、唯を始めとした軽音部の皆に気付かれていたんでしょ?
  別に梓ちゃんのことが好きなら、普通のことよ』

梓「それだと憂や純が私のことを好きじゃないってことになりそうですが……」

和『二人共、新しい部活で色々と緊張してて、自分のことで手が一杯なんでしょう。
  新入生歓迎会のことは、あなた一人で気負うことでも無いんだし。二人が緊張しててもおかしくはないわ。
  ……ま、その純って子と私は話したこともないから分からないけど』

和『それで、今日はどうしたの? 唯たちに励まされたんなら、私に連絡しなくても良かったんじゃない?』

梓「いえ、あの……迷惑でしたか?」

和『迷惑じゃないわよ。さっきも言ったけど、どうせ私だって梓ちゃんに電話しようと思ってたんだもの。
  ただ、それよりも早くかけてきたってことは、何か用事があったんじゃないのかな、って思って」

梓「用事は……特に。ただ、前みたいに、ただお話がしたいなぁ、って想って」

和『……そう。良いわね、そういうの。
  後輩にそこまで慕われるの、悪い気はしないわ』

梓「ありがとうございます」

和『あ、そうそう。今日ホワイトデーだったでしょ?
  バレンタインの時憂からもらったケーキ、アレって梓ちゃんも手伝ってたのよね?」

梓「あ、はい」

和『そのお礼、憂に預けてあるから、明日にでももらって頂戴。その純ちゃんって子の分もあるから』

梓「……はいっ。ありがとうございます」

和『それと……世間話の前に一つ、聞きたいことがあるんだけど』

梓「どうしたんですか?」

和『梓ちゃんは、軽音部に入って良かったって思えた?』

梓「…………」

和『私の大切な幼馴染はね……良かったって答えたわよ?』

梓「……そうですか……なら、私の答えも決まってます」



――最高に、幸せです



今度こそ終わり