梓「あっ……」///
澪「えっと……その、あの……」///
梓「そ、それよりも澪先輩! 澪先輩もバレンタインのお返しですよね!?」///
澪「あ、ああ、そうだ。えっと……これなんだけど……」///
梓「えっと……なんですか? この紙袋」
澪「クッションだよ。割と大き目の」
梓「わぁ……! ありがとうございます!」
澪「絵柄は、割とありきたりなネコになっちゃったんだけど……」
梓「全然構いません! 私、ネコ大好きですから! 大切に使いますねっ!」
澪「ああ、ぜひ使ってくれ」
澪「で、コッチがそれぞれで作ったプチケーキ」
梓「ありがとうございます。本当、何から何まで……」
澪「いや……あの頃は、文化祭が終わったって言っても、梓を一人きりにしてたようなものだしな。その贖罪もあるんだよ」
梓「贖罪って……そんな大げさな。それに皆さん、わざわざ部室で勉強してくれてたじゃないですか。
私は、全然寂しくなかったですよ」
澪「そうか? むしろ邪魔だったんじゃないのか? 私たちがいたせいで、集中して練習できなかっただろ?」
梓「それよりも、一人でこの部屋にいるほうが、集中できませんでしたよ……」
澪「…………」
梓「……? どうかしましたか?」
澪「いや……そう言ってもらえると嬉しいなって思っただけだよ。ありがとう、梓」
澪「ただ、その……こんな大げさなこと言っておいてなんだけど、実はちょっと失敗しちゃってな、そのケーキ」
梓「ちょっと、ですか?」
澪「いや、かなり……」
梓「かなり……?」
澪「じつは、全部……」
梓「全部!?」
澪「いや、さすがに全部は冗談だけど……でも本当、焦げたりとかしたから、もしかしたら苦いかも……」
梓「焦げたって……どれぐらいですか?」
澪「黒になる直前……なのが、少しだけ……どうもオーブンに入れてる時間が長かったみたいで……」
梓「なんだ……それだけなら大丈夫ですよ。まぁ、それ以上でも私は食べたでしょうけど」
澪「その……おいしくなかったら、食べなくても良いからな?」
梓「食べますよ、絶対。それにおいしくない訳ないじゃないですか。
澪先輩が作ったものですから」
澪「そんなこと無いさ。私なんて、よく失敗するし……」
梓「……ま、何と言われようとも食べるんですけどね」
澪「梓……ありがとう」
澪「それじゃ、私ももう行くよ。次の律を待たせたらダメだからな」
梓「本当、ケーキと言いクッションと言い、ありがとうございます、澪先輩」
澪「でもこれって梓がくれたケーキのお礼だからな。改めてそうお礼を言われるほどのことでもないんだけど……」
梓「それでも、嬉しかったですから」
澪「そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。……そうだ、梓」
梓「はい?」
澪「手、出してもらえるか?」
梓「手、ですか?」
ギュッ
梓「あ……」
澪「この手が……私たちを支えてくれてたんだな……」
梓「……何言ってるんですか。皆さんが、私を支えてくれてたんですよ」
澪「そうでもないさ。演奏の意味でも、他の意味でも……私たちは、梓のおかげだった部分が沢山あるんだよ」
澪「本当に……ありがとうな、梓」
梓「澪先輩……」
ソッ
梓「あ……」
澪「それじゃあな、梓。また、次の合同練習の時、スタジオで」
梓「あっ……はい」
ガラガラッ……ガラガラ…パタン
梓「……あれ?」
梓(手の平に何か……)
梓「……飴……?」
梓(ミルク味、って……もしかして、ケーキが苦かった時のために……?)
梓「……本当、色々と不器用な人だなぁ……」クスッ
~~~~~~
澪(う~……恥ずかしかった……梓と握手するだけなのに、さり気なくアメを渡すだけだったのに、なんでこんなに照れくさいんだろ……)///
律「おっ、澪おかえり~。で、どうだった?」
澪「え? 何が?」
律「いや、何がじゃなくて……梓の様子だよ。様子も見て来いって言っただろ」
澪「ああ~……大丈夫だったよ。梓は何も無かった。っていうか、ムギが抱きついたんだって?」
紬「うん……」
澪「それで照れてただけだよ。気にしなくて大丈夫」
唯「なぁんだ。澪が恥ずかしがったりするのと一緒か」
澪「なんだとはなんだ、なんだとは」
澪「って言うか、さっきから唯はなんで純ちゃんに抱きついてるんだ?」
唯「頭が気持ち良いからだよ~」
澪「純ちゃんが困ってるだろ?」
純「み、澪先輩……!」
純(やっぱり澪先輩は天使だ……!)
唯「え~? そんなことないよ? ねえ純ちゃん?」
純「いえ、その……まぁさすがに、そろそろ離れて欲しいって言うか……」
澪「ほら、離れてやれよ」
唯「む~……じゃあ……澪ちゃんに抱きついてやる!」バッ
澪「あっ! ちょっ、やめろっ!」
律「なぁにやってんだか……」
律「んじゃ、次は私が行って来るか」
唯「行ってらっしゃ~い」グググ…
澪「ああ……! ちゃんとして、来いよ……!」グググ…
律「分かってるよ。澪も、唯に抱きつかれたくなかったら頑張れよ」
タッタッタッタ…
唯「……澪ちゃん、私に抱きつかれるの、イヤ?」グググ…
澪「唯にじゃなくて、抱きつかれるのがイ・ヤ・だ!」グググ…
純「唯先輩の執念を見た……」
憂「ふふっ、お姉ちゃん可愛いなぁ……」ホワホワ
紬「本当ねぇ~……」ホワホワ
純(そしてこの二人は、どうしてこうも平然と眺めていられるのだろう……?)
唯「む~……澪ちゃんったら強情だね?」パッ
澪「まあな」
唯「っと油断させておいて――」バッ!
澪「油断なんてしてないぞっ」ヒラリ
唯「あぁ……もぅ、澪ちゃんのいけず~……良いよ良いよ、ムギちゃんに慰めてもらうから~」ギュッ
紬「きゃっ、もう唯ちゃんたら~」
澪「何やってるんだか……」ハァ
純「……そう言えば澪先輩」
澪「ん? どうした、純ちゃん」
純「話変わっちゃいますけど、どうして軽音部の部長が律先輩だったんですか?
澪先輩の方がしっかりしてそうなのに……」
澪「ああ……ま、成りゆき、だな」
純「成りゆき、ですか?」
澪「ああ。私は部長だなんて目立つことはしたくなかったし、最初に部活を立ち上げたのが律だってのもあったしで、そのまま律が部長になったんだ。
ま、最初から律自身、部長になりたがってたみたいだし、誰も不満は無かったよ」
純「へえ~……律先輩がそんなリーダーシップを……」
澪「……ま、私に気を遣って、率先してくれてるってのもあるんだろうけどな……」
純「?」
澪「それよりも純ちゃん、私も聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
純「え? あっ、はい! 何でも聞いてください!
不肖、この鈴木純、スリーサイズから昨日の晩ご飯まで、知り得る限りのことがお答えしましょうっ!」
澪「いや、何もそこまでしなくても良いんだけど……その、さ……最近の梓って、どうなんだ?」
純「どうって……どういうことですか?」
澪「ああ、いや……なんか部活中、妙に気を張り詰め過ぎてないかな、って思って」
純「ああ……でも梓って、前からあんな感じじゃありませんでしたっけ?
部活動のことには必死になるっていうか……」
澪「う~ん……そんな感じとはまた違う気がするんだけどなぁ……」
純「澪先輩は梓を見て、何か違和感でもあったんですか?」
澪「まぁ、そういうことなんだけど……でもま、友人の純ちゃんが言うんなら、とりあえず律が戻ってくるまでは良いか……」
純「?」
憂「あの、ムギ先輩……私も、お姉ちゃんと一緒に抱きしめてもらっても、良いですか?」///
紬「え?」
憂「ダメ、ですか……?」
紬「いいえ! ダメじゃないわ! むしろ私からお願いしたいところよ!
さあ! どんと来て! 憂ちゃんっ!」
憂「っ! はいっ!」ダキッ///
純「……っていうか、あっちはあっちで何やら盛り上がってますね……」
澪「だな。……巻き込まれないうちに、ちょっと距離を置いておくよ」
純「あ、私もそうさせてもらいます」
~~~~~~
バンッ!
律「あずさ~! 元気か~!?」
ビクッ
梓「ちょっ、律先輩! そんな乱暴に開けられたらビックリしますよっ」
律「いや~……梓を驚かせる方法がコレぐらいしか思いつかなくてな」
梓「無理に驚かせる必要も無いでしょうに……」
律「まあまあ、そう言うなって」
律「それで早速だけど、コレがホワイトデーの贈り物。
中身は写真立てが二つ入ってるから、好きなように使ってくれ」
梓「はぁ……ありがとうございます」
律「それと、コレは例のケーキな」
梓「……っていうか、なんで部室にも入らずに全部渡してくるんですか?」
律「いや、さっさと唯に出番を回そうかと思って。
それとも何か? 梓は私とお話がしたい程寂しいのか~?」
梓「そ、そんな訳ありません! 律先輩なんてさっさと帰れば良いんです!」
律「うわひでぇ! ってそう言われると逆らいたくなるのが私! という訳でお邪魔しま~す」
梓「うえっ!?」
律「おいおい……この部室は客にお茶も出さないのか?」
梓「元部長のあなたがそういうのしてるところは見たことありません! 図々しい要求すぎますっ!」
律「いや、だっていつもムギがしてくれてたしな~……私がする必要もなかっただろ?」
梓「万一ムギ先輩がしてくれなくても、律先輩がしてくれていたとは思えません……」
律「そ、そんなことねぇよっ!?」
律「ま、それはともかく……新しく部長になってみた感想はどうだ?」
梓「どうも何も、まだ部長になって一ヶ月も経ってませんし……特に何も」
律「そうか? なぁんか梓のことだから、はりきりまくってるもんだと思ったけど」
梓「確かにはりきって無いとは言いませんけど……新入生歓迎会も近いですし。
でもそれって去年と一緒ですし……特にコレと言ってって程では……」
律「ふ~ん……ま、梓がそう言うならそうなんだろうけどさ……部活は楽しく、だぞ。
なんせ音楽ってのは、音を楽しむものだからなっ」
梓「分かってますよ、それぐらい。改めて律先輩に言われるまでもありませんっ」プイッ
律「…………」
梓「……? なんですか、いきなり人の顔ジッと見て」
律「いや……やっぱ梓が部長で正解だわ、って思ってな。……頑張ってるよ、お前は」
ポンッ
梓「にゃっ!?」
律「ああ……いきなり頭撫でられるのはイヤか?」ナデナデ
梓「いえ……そんなことは、ありませんけど……ただ律先輩らしくないなぁ、と思いまして」///
律「……確かに、こうやって改めてって感じで梓を褒めるのは、初めてかもしれないなぁ……」ナデナデ
梓「…………」///
律「でも、頑張ってるのは本当だし……頑張りすぎてるのも本当みたいだし……」ナデナデ
梓「そんな……頑張りすぎてるだなんて……確かに律先輩の頃に比べれば頑張ってるかもしれませんけど……」///
律「……ま、そういうことにしておくか」
スッ
梓「あ……」
律「そんな寂しそうな顔するなって。またいつだって会えるだろ?」
梓「でも……こうやって撫でてくれるのは、もうありませんよね?」
律「なんだ~? 梓らしくも無い。そんなに私に甘えたいのか?」ニヤニヤ
梓「そ、そんなことありません! 勘違いしないでくださいっ!」
律「はははっ、そうだよ、それでこそ梓だよ。それじゃあな」
ガラッ…パタン
梓(全く……。……っていうか結局、部室には入ったけど席に座ることなく帰っちゃったな……相変わらず賑やかな人だなぁ、あの人も。
にしたって……もうちょっと落ち着いても良いと思うんだけど。あとガサツなのも何とかした方が……
って、何考えてるんだろ……私は……ちょっと、昔を引きずりすぎかな……?)
梓「…………」
梓(……それでも、もう少しだけ、律先輩と話をしたかったな……)
梓「……ってあれ? 純と憂のカバンが無くなってる……」
~~~~~~
律「ただいま~……って、何してんだ? ムギと唯と憂ちゃんチーム対澪と純ちゃんチームみたいに対峙して」
唯「ふっふっふ……澪ちゃんと純ちゃんだけムギちゃんに抱きついてないからね……コレを機に抱きつかせようかと思って……」
律「……はぁ……なぁにバカなこと言ってんだよ。
次は唯だろ? 早くしないと、梓が待ちくたびれて帰りだすぞ?」
唯「おぉ! そうだったね! それじゃあ行って来るよ! りっちゃん!」
律「ああ、行って来い行って来い。カバン、持って行くのを忘れるなよ」
唯「オーケーさぁ~!」
タッタッタッタ…
澪「……ふぅ……助かったよ、律」
純「ありがとうございます、律先輩」
律「いや、そんな大したことはしてねぇよ。
っつか、マジでそろそろ下校時刻になりそうだしな」
紬「うぅ~……」
律「って、なんでムギはそんなに悲しそうなんだよ……」
紬「だって……純ちゃんと澪ちゃんが、私に抱きつきたくないって言うから……
もしかして私、嫌われてるのかなぁ、って」ウルウル
澪「そ、そんなこと無いぞ! ムギ!」
純「そ、そうですよ! 私、ムギ先輩のこと大好きですよっ!?」
紬「ホント!?」パァッ
澪純「「ホント、ホント」」
紬「じゃあ、抱きしめてくれる!?」
澪「えっと……それは恥ずかしいって言うか……」
紬「……やっぱり……」シュン
澪「……あぁもう! ムギ! こういう形ではこれっきりだからなっ!」
紬「えっ?」
ギュッ
紬「ふわっ!」///
澪「…………!」///
サッ
澪「はい! 恥ずかしいからもうおしまいっ!」///
紬「ふぁ~……澪ちゃん、ありがとう」///
澪「お、お礼を言うのはおかしいだろっ」///
純「え、えっと……ムギ先輩! 失礼しますっ!」///
紬「えっ!?」
ギュッ
紬「あ……っ! 純ちゃんまで……!」///
純(うわぁ~……かなり恥ずかしい……!
っていうか前に梓が言ってたみたいに、スゴイいいにおいがするし無性に柔らかい……!!)///
バッ
純「え、えと……ありがとうございました!」///
紬「い、いえ! こちらこそ! わざわざありがとうございましたっ!」///
律「……なぁにやってんだか」
律(ムギの冗談を冗談だって認識できない澪の真面目さと、ソレに乗せられただけの純ちゃん……ま、仲良きことは美しきかな、か)
最終更新:2011年01月03日 03:55