純「そ、それよりもほら、ムギ先輩は梓に何をあげるつもりなんですか?」

唯「ティーセットだって」

純「ティーセットですか?」

憂「でも部室には私たちの分と、新入生が入ってきた時のための予備として、いくつかムギ先輩が置いて行ってくれてますよね?」

律「あぁ~……そうじゃなくて、梓の家で使ってもらうための物だって」

唯「前にあずにゃんにギターを教えてもらった時、紅茶の淹れ方とか教えたんだって」

純「へぇ~……」

憂「なんか素敵ですね、そういうの」

純「……そう言えば去年までの軽音部のお菓子とかお茶って、全部ムギ先輩の家から持ってきたものなんですよね?」

律「そうだぞ~! メチャクチャ美味しかったんだぞ!」

澪「最初はお茶が苦いって言ってたくせに……。
  ……でもよくよく考えてみると、私たちも結構図々しいことしてきたよな……」

唯「そうだねぇ~……ムギちゃんが構わないって言ってるからって、甘えすぎてたかもねぇ~」

律「ん~……そう言われるとそうだな……こうなってくると、ムギにも何か送って上げた方が良いのかもな……」

純「そんな必要ないと思いますよ?」

唯澪律「「「え?」」」

純「え……っと……そこまで注目されるとは思わなかったんですけど……
  私は、そんなことしなくても良いかなぁ、って思っただけで……」

唯「純ちゃんはどうしてそう思うの?」

純「ん~……あんまり皆さんとは直接関わってきませんでしたし、梓から聞いてた話でしかないんですけど……
  ムギ先輩は、皆さんとの楽しい時間を過ごしていたんですよね? きっとその対価がお茶とかお菓子なんじゃないかなぁ……と」

律「でもさ、私たちだってムギと一緒にいて楽しかったぞ? その理論だと、まるでお茶やお菓子目当てでムギと仲良くなってたみたいじゃん」

純「そうじゃなくてですね……えっと……上手く言えないんですけど、
  だからと言ってお茶やお菓子に対してのお礼をいきなり渡したら、逆にまたムギ先輩に気を遣わせてしまうというか……
  むしろお礼を渡すことで、お茶やお菓子目当てだったって言ってるみたいになるって言うか……」

澪「……確かに……純ちゃんの言うことも一理あるかもな……」

純「あっ、分かってくれましたか?」

澪「なんとなくだけどな」

純(さすが澪先輩!!)

唯「どういうこと? 澪ちゃん」

澪「たぶんムギは、私たちと楽しく過ごす時間のために、無意識に、無自覚にあのお茶とお菓子を持ってきてたんだと思う。
  私たちがムギのことをお金持ちって知っていても、ソレを日頃は意識してないのと同じでな」

律「あぁ~……なるほど。
  ってことはココでいきなりお礼だなんて言って何か渡したら、私たちがいきなりムギに『私ってばお金持ちなの~♪』って言われるようなもんか」

澪「似てないな、オイ」

唯「そんなのムギちゃんじゃない……」

律「悪かったな!」

唯「でも、私もムギちゃんに何かお礼をしたいよ」

憂「だったら、これから毎日少しずつお礼をしたら良いんだよ、お姉ちゃん

唯「? どういうこと?」

憂「これから毎日、少しずつ、ムギ先輩にお礼を言うように……ちょっとずつ、感謝の気持ちを形にしていけば良いんだよ。
  えっと……まずはそうだなぁ……手始めに、これからのティータイムのお菓子をお姉ちゃんも持っていくとか」

唯「おぉ! 憂ってば天才!!」

澪「そうだな……そもそも日頃の感謝の気持ちを、一度きりのプレゼントでどうにかしようってのが虫の良い話しだもんな」

律「だな。ムギには積み重なってきた感謝の気持ちがあるし、少しずつ返していくのが正しい、か」

澪「私たちも後輩達と一緒に演奏するためにバイトとかするし、そのバイト代がお菓子代に多少消えたところで、問題ないさ」

律「本当の意味での対等は無理でも、せめて感謝の気持ちだけは対等にならないとな」

澪「おっ、今の律の言葉良いな。今度歌詞に使わせてもらうよ」

律「澪に使われると、甘々になるからご遠慮願いたいんだけどな……」

澪「なにおぅ!」

純(これが軽音部のノリか……何か気が付いたら置いていかれてるや……)

~~~

ガラッ

梓「あっ、もう憂達ったらいきなり飛び出してどうしたの? 早く新入生歓迎会の練習しないと――」クルッ

紬「憂ちゃんでも純ちゃんでもなくて、ムギちゃんでしたーっ!」バッ!

梓「ってムギ先輩!? え? へっ!? え!? な、なんでこんなところに制服でいらっしゃるんでしょうかぁ!?」

紬「学校だもの。制服で来ないと怒られちゃう」

梓「あっ! ですよね! 学校に全裸で来れるはずありませんもんね!」

紬「……えっと……梓ちゃん? もしかして、結構パニくってる?」

梓「そんな! ムギ先輩の裸なんて想像してませんよ!?」

紬「ちょっとティーセット借りるわね。お茶を淹れるから落ち着きましょう」

梓「はぁ~……すいません。いきなり取り乱してしまって……」

紬「ふふふ……別に良いわよ。梓ちゃんらしいところが見られたもの」

梓「アレは全然私らしくは無いんですけどね……。
  ……と、そんなことより、本当にいきなりどうしたんですか? って言うか、ムギ先輩一人ですか?」

紬「ううん。皆も下にいるわよ。
  ただちょっと、今日は特別な日だし、サプライズもしたかったから、一人ずつ梓ちゃんに会おうってことになって。
  憂ちゃんと純ちゃんにも席を外してもらったの」

梓「あっ……それで二人共いきなり……でも、特別な日って、一体なんですか?」

紬「あら? 忘れちゃったの、梓ちゃん。今日は私の誕生日よ」

梓「にゃっ!? そ、それは本当に失礼――」

紬「ふふっ、冗談よ」

梓「――……ですよね、慌ててから気付きました」カァッ///

紬「照れた梓ちゃんって、やっぱり可愛いわ」

梓「もぅ……からかわないで下さい……」///

紬「本当の用事はコレ」

梓「? 何です? この箱。まるでプレゼントみたいですけど……」

紬「ええ。プレゼントだもの。中はティーセットよ。
  梓ちゃんの家で、梓ちゃん個人に使ってもらおうと思って」

梓「……本当に、今日は何の用事なんですか?
  そんな包装紙からして高そうなティーセット、私受け取れませんよ?」

紬「受け取って欲しいの。だってコレは、チョコレートのお返しだもの」

梓「チョコレ……? ……ってあぁ! 今日はそう言えば……!」

紬「そ。今日はホワイトデ~♪」

梓「なるほど……って、それでもこれは受け取れませんよ!
  私のは手作りチョコケーキが一つでしたし、ソレに対してこんな高そうなものは……!」

紬「気持ちに値段をつけるのは、私自身あまり好きじゃないのだけれど……
  梓ちゃんのケーキには、このティーセットの値段なんて目じゃないほどの価値があったのよ。
  少なくても、私の中ではね」

梓「ムギ先輩……」

紬「だって、私の大切な後輩の手作りなんだもの。合格祝いも兼ねた、とっても嬉しくて甘い、ね」

紬「だから、気にせず受け取って頂戴」

梓「……じゃあ、遠慮なく……」

紬「はい♪」

梓「その……ありがとうございます。嬉しいです、ムギ先輩。
  ……私、ムギ先輩に教えてもらった紅茶の淹れ方、コレで練習します。
  だから……その……良かったら今度、機会があれば、飲んでもらえますか……?」

紬「えぇ、もちろん♪ 楽しみにしてるわね、梓ちゃん」

梓「っ! はいっ!」

紬「あと、コレは皆で作ったケーキ」

梓「そこまでしてもらえるなんて……って、皆さんで作った割には小さいですね」

紬「ふふっ、皆で一つずつ作ったの。一人ずつ梓ちゃんに会うのは、こうやって一人一人でホワイトデーのお返しを渡すためなの。
  だからこの中には、私が作った一口サイズのケーキが一つ入ってるだけ」

梓「本当……何から何まで、ありがとうございます」

紬「お礼を言うのは私たちなのよ、梓ちゃん。だってコレは、バレンタインのお返しなんだもの」

梓「でもホワイトデーのプレゼントですよね? なら、貰う立場の私がお礼を言ってもおかしくはありませんよ」

紬「……確かにその通りね。梓ちゃんに一本取られちゃった」

紬「じゃ、渡すものも渡したし、一本も取られたし、私はもう行くわね。澪ちゃん達を待たせるのも悪いから」ガタッ

梓「あっ、すいません。何のおもてなしも出来ませんで」

紬「ここは部室よ? そんなに気を遣うことも無いわよ」

梓「でも、せっかくムギ先輩が来てくれたんですし……もう、コレが部室で会う最後なんですし……」

紬「この前みたいにスタジオで会えるでしょ?」

梓「そうですけど……」

紬「……寂しい? 梓ちゃん」

梓「そ、そんなことありませんよ!?
  私だってもう軽音部の部長ですし、ムギ先輩にも沢山のものもらいましたし、大丈夫です!」

紬「……そう?」

梓「はいっ! 信じてくださいっ!」

紬「……ふふっ、そうね。梓ちゃんなら大丈夫よね」

梓「はい!」

紬「でも、私が寂しくなっちゃった」

梓「え?」

紬「だから、抱きしめさせて」

梓「え、えぇ!?」///

紬「ねえ、お願い、あ・ず・さ・ちゃん♪」

梓(うぅ~……手を広げて満面の笑み浮かべて待ってる……
  っていうかもう、あの格好からしてキレイだし、いつもとは違う言葉遣いなのがもうさらに良すぎて……
  ああもう! 頭の中が色々と分からなくなってきたっ!)///

紬「なぁんて、梓ちゃんが混乱してる隙に――」

ギュッ

梓「にゃっ!?」

紬「――抱きしめちゃいました~♪」

梓(ああぁぁぁ……! 相変わらずなムギ先輩のいいにおいが……っていうか胸に顔埋めるように抱きしめてきてるせいでとんでもなく柔らかいものがあるんですがコレは一体……! …………あ、限界)

梓「はにゃぁ~……」///

紬「あ、梓ちゃん!?」


~~~~~~


唯「あ、ムギちゃんおかえり~」

紬「ただいま、唯ちゃん」

澪「どうだった? 梓、喜んでくれたか?」

紬「えっと……梓ちゃん、顔を真っ赤にして倒れちゃった」

澪「…………え?」

紬「ちょっと、色々とからかったり、ふざけたりしてたら……」

律「あぁ~……なるほどね」

律(ムギのやつたぶん、梓に抱きついたな……)

唯「大丈夫なの? あずにゃん」

紬「たぶん、大丈夫だとは思うけど……」

律「よしっ、じゃあ澪。様子見に行くついでに行って来い」

澪「ってえぇ!?」

律「どうせ次はお前だろ? そのまま梓の看病をしてこれば良いじゃないか」

澪「そ、それもそうか……そうだな、じゃあ行って来るよ」

律「おお、いってらっしゃ~い」

唯「澪ちゃん、あずにゃんをお願いねっ!」

澪「えっと……うん、任せて」

タッタッタッタ…

律「……で、梓を強く抱きしめて、一体どうしたってんだ?」

紬「り、りっちゃん!? もしかして見てたの!?」

律「いや、見てはいないけど……っつか見れないけど……なぁんとなくそうだろうなぁ、って思っただけ」

紬「うぅ~……ごめんなさぁい」シュン…

憂純 *1

律「いや、別に責めてる訳じゃないし。ただ本当にふざけあってただけなのかな、って想って」

唯「そうだよね、あずにゃん可愛いから思わず抱きしめちゃうよね!」

律「いやいや、そんな話はしてないぞ……?」

唯「えぇ~? でも可愛いと抱きしめちゃうじゃん。こうやって」

ダキッ

純「ひわっ!?」

唯「ん~……やっぱり純ちゃんのモコモコは気持ちいい~」

純「ひいいいぃぃぃ~~~……ちょ、ちょっと皆さん、助けて下さ――」

紬「実はね、梓ちゃん、ちょっと寂しそうだったの」

純「――って助けてくれるはず無いですよね! ココにはストッパーの澪先輩はいませんしっ!」

純「憂……は無理なのは知ってるし……」

憂「純ちゃん良いなぁ~……」

純「うぅ~……終わるまで待つしかないのか……」

律「あ~……ほら、唯。純ちゃんが困ってるぞ」

純「律先輩……! 実は良い人……!?」

律「実はってなんだよ。もう助けてやんねぇ~」

純「あぁ! 口は災いの元を自ら体現してしまった!」

唯「りっちゃんもほら、純ちゃんの頭、触ってみてよ。気持ち良いよ~」

律「いや、ソレはこの前スタジオで会った時、散々やったから」

唯「じゃあムギちゃんは?」

純「そうだ! ムギ先輩助けて――」

紬「私はいいわ~。二人のその姿を見てるだけで満足だもの~……」ウットリ

純「――まぁ、そんな気はしてましたよ。……はぁ……早く澪先輩戻って来ないかなぁ……」


~~~~~~

ガラッ

澪「えっと……梓? 大丈夫か?」

梓「…………」グッタリ///

澪「あ……」

澪(机に突っ伏したままだ……本当に大丈夫なのかな?)

ガラッ…パタン

澪(顔も真っ赤だし……もしかして熱でも出してるのか……?)

澪「それなのに無理して、とか……?」

澪(梓のことだからな……倒れるまで無理して、なんてことはありえそうだ……。
  ……そうだ、熱を測れば……って、体温計なんか常備して無いし……額の熱さは……
  ダメだ。汗ばんでるし、何より手に伝わってくるこの熱さが私より低いのかどうかも分かんない……)

澪「……仕方が無い」

澪(梓には悪いけど、気絶してる間に額と額を合わせて体温を測らせてもらおう)

澪「…………」

澪(……なんだか、改めてそういうのするってなると、妙に緊張するな……)///

澪(えっと……まずは上体を起こして……って重っ! 力が抜けた人って上半身だけでもこんなに重いのか……日頃ベース担いでるのに、案外難しいな……)

梓「…………」グッタリ///

澪(……とりあえず、椅子にもたれかけさせる形で上を向かせたし……後は額を合わせるだけだ。
  ……うん、別に、その……コレは、梓が風邪をひいてないかどうかを確認するためのものだから、別に緊張することも無い訳で……
  って誰に言い訳してるんだ! 私はっ!)///

梓「…………」///

澪(……なんか、こうやって見ると、梓って結構、小動物系で可愛いよな……私とは全然違う……じゃなくてっ!
  えっと、えっと……額と額を合わせるんだから……って、このままだと難しいな……ちょっと、もうちょっとだけ椅子を後ろに下げて、真正面に立てるようにして……)

澪「……よいしょっ、と」

澪(ふぅ……さて後は、梓の額に自分の額を当てて体温を……って、顔が近付いてくるとやっぱり緊張す――)///

梓「……ふぁ」パチ

澪「えっ?」

梓「…………」

澪「…………」

梓「…………」

澪「…………えっと……」///

梓「にゅ、にゅわああぁぁぁ!! み、澪先輩どうして!?」///

澪「お、落ち着け梓! コレには深い訳が……」ワタワタ///

梓「さっきまでムギ先輩だったのに今目の前にいるのは澪先輩でしかもキ、キスをしようとしてきてて……」///

澪「だ、だから違うんだ梓! その、コレは、梓が顔を真っ赤にして倒れてたから、熱でも出したのかと思って……!」///

梓「た、倒れてた!? 私がですか!?」

澪「あ、ああ」///

梓(……ああ~……)

梓「そっか……私ムギ先輩に抱きしめられて、気絶しちゃってたんだ……」

梓「すいません……どうも澪先輩に心配を掛けさせてしまったようで……」

澪「いや……私もその、早とちりしてしまったみたいで……ごめんなさい」

梓「そんな! 澪先輩が謝ることは無いんですよ!」

澪「でも、そもそもムギと話をしてたのは知ってる訳だし、熱を出してるかもしれないなんてのは早とちり以外に考えられない訳だし……
  って言うか、本当に熱を出してたんならムギが真っ先に知らせてくれたはずだもんな……」

梓「で、ですから気にしないで下さい! それに私だって、澪先輩にキスしてもらえたかもしれないという役得が――」

澪「え?」


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