唯「という訳で、皆であずにゃんへのプレゼントを考えよう」

律「……いや、唯さぁ。一つ言いたいことがあるんだけど」

唯「どうしたの? りっちゃん」

律「さすがにこの時期は……色々とダメだろ」

唯「何で? 皆で一緒の大学行けるのも決まったし、卒業式も終わったし、あとは14日の放課後学校に潜入して渡すだけじゃん!」

律「いや、そうじゃなくてだな……」

唯「あっ! それとももう制服なおしちゃったとか? 気が早いなぁ、りっちゃんは。
  まぁ私服でも割と大丈夫だと思うよ、私は」

律「でもなくて……」

唯「もしかして、私の一人暮らしのための準備が終わってるかどうかの心配をしてくれてるの?
  本当、りっちゃんは優しいなぁ」

律「……いやな、唯。さすがに……13日にホワイトデーの話は遅すぎる、って私は言いたいんだ」

唯「えぇ~? そんなことないよ~。
  だって皆もまだ渡すもの決まってないでしょ? だからこうして私の呼び出しに応じてくれたんでしょ?」

紬「え~っと……」

澪「悪いけど唯……私もムギも律も、もう全員用意してあるんだ……」

唯「……え? もしかして、私に内緒で皆で買いに行ったとか?」

律「そんな仲間はずれみたいなことする訳ないだろ……
  ただな、合格祝いも兼ねたバレンタイン貰って、梓のための曲の練習に追い込みかけてたって言ってもさ……時間はあっただろ?」

唯「え~? 練習で一杯一杯だったよぉ~。あずにゃんのいない時にバレないよう練習してたんだし」

澪「その練習でもムギのお菓子ばっか食ってたのは唯だろ……」

唯「りっちゃんもだよ」

律「私は食べながら何をあげるか考えてたからな」

唯「ズルイ~……」

律「いや、むしろ普通だと思うけど……」

紬「そ、それよりも唯ちゃんは、梓ちゃんに何をあげたいとか考えてないの?」

唯「考えてないです!」フンス

律「威張るなよ」

澪「う~ん……でも今日丸一日使ったら、何か良いアイディアは出るかもしれないし、今から考えるだけ考えるか」

唯「あっ、そうだ! 皆は何をあげるつもりなのか教えてよ!」

律「えぇ~? でもソレを参考にしたら被っちゃうじゃん」

唯「でも皆だって、それぞれが何をあげるのか分かんないんだよね? 一人一人で考えて買いに行ったみたいだし。
  だったら、もしかしたらとっくに被っちゃってるかもよ?」

澪「確かに……そうかもしれないな」

紬「私たちがそれぞれあげる物が被ってないかどうか分かるものね」

唯「でしょ? それに私だって、被らないようにって参考に出来るでしょ」

律「まぁ、私は普通に写真立てを買ったけどな」

唯「そんなのりっちゃんのキャラじゃない……」

律「お前は三年も一緒にいて私のキャラを把握してくれないのか……?」

唯「さすがに冗談だよ」

澪「でも写真立てか……律にしては中々良い選択じゃないか」

律「まぁな。ってか、私にしてはってさっきから二人共酷くね?」

紬「写真立てなら部室でも使ってもらえるし、梓ちゃんの部屋でも使ってもらえるものね」

律「そう言われるだろうと思ってな、実は部室用と梓の部屋用に二つ包装してもらってるんだ~」

唯「おぉ~……」

澪「すごい気が利いてるじゃないか……」

紬「さすがりっちゃんね~」

律「へへっ、褒めろ褒めろ」

澪「私は、クッションを買ってあげたんだ」

紬「クッション?」

澪「そう。梓ってさ、強がってるだけで基本的には寂しがりやだからな。
  そうやって抱きつけるものがあったら落ち着くかな、と思って」

唯「なるほど……」

律「もしとっくに自分用のがあっても、部屋でならいくらあっても使ってもらえるもんな」

澪「そういうこと」

唯「澪ちゃん……なんだか梓ちゃんのお姉ちゃんみたいね」

澪「そうかな……?」テレテレ

紬「私は紅茶の葉とティーセットにしてみたの~
  お菓子は軽音部の頃に沢山出してたからいらないかなって」

澪「ティーセットって……とっくに部室にあるんじゃないのか?」

紬「う~ん……確かに梓ちゃんの分とか、入ってくるかもしれない新入部員の分とかは置いたままだけど……
  これはね、梓ちゃん個人に、家で使ってもらうためのものなの」

唯「あずにゃんのためだけのってやつ?」

紬「そう。本当はご家族様の分も用意するべきなのかもしれないけど……そこまですると重いかなって」

律「あ~……確かにそれはあるかもなぁ~……」

紬「でしょ? それに、梓ちゃんにギターを教えてもらった時、代わりに紅茶の淹れ方を教えてあげてたから……」

澪「淹れるたびに思い出して欲しい、か」

紬「うん……思い出してもらえたら嬉しいな、って」

澪「……なんか私たちのあげるものって全部、私たちのことを梓に覚えておいて欲しい、っていう想いが形になったようなもんばっかだな」

律「確かにな……もうコレだけで若干の重みがあるぐらいだし……」

紬「でも、それだけ梓ちゃんのことを私たちが好きって事だし……」

唯「あずにゃんのことが好きだから、あずにゃんに覚えておいてもらいたいんだよね」

澪「梓が私たちのことを忘れるわけも無いんだけどな」

律「スタジオでも会う約束してるから、当然なんだけどな」

紬「でも、放課後毎日会っていたことを覚えておいてほしいのよね……きっと、私たちは」

律「だな……」

唯「…………そうだ!」

唯「お菓子を作ろう!」

律「は?」

澪「お菓子?」

唯「そう! いつもはムギちゃんの家の余り物だったけど、今度は私たちが手作りしたお菓子をあずにゃんにプレゼントするんだよ!」

紬「良いわね、それ!」

澪「でも、なんでさっきの会話からお菓子に繋がったんだ?」

唯「皆のものは、高校の頃の自分を忘れて欲しくないものだったでしょ?
  でもお菓子なら食べたらなくなるし、そういう意味では対になるかなって」

律「おぉ……さすがU&Iの作詞者……」

唯「えへへ~……」

澪「でも皆でってことは、唯が梓に、個人的にあげるものがないってことだぞ?」

唯「そんなことないよ。皆で何を作るにせよ、私は私で何か別の物を作れば良いんだよ」

律「んまぁ、唯がそれで良いって言うんなら良いんだけど……私、そもそもの疑問が一つあるんだが?」

唯「なに?」

律「このメンバーの中で、誰がお菓子作りに詳しいんだ?」

唯澪紬「「「…………」」」

律「だよなぁ……」

紬「お、お料理はそれなりに出来るわよ?」

律「まぁ、ムギと澪はそうだろうし、私もそれなりだけど……」

唯「私だって! 最近は一人暮らしに備えて憂に教わってるよっ」フンス

律「でもま、今はその言葉を信用するしかないか……」

唯「まかせんさい! という訳で、お菓子作りが危ういんなら、お菓子作りの本を買って来れば良いんだよ!」

律「って本に頼るのかよっ!」

澪「でも実際、それしかないよな。お菓子作りって、分量が少し違うだけで味が変わるって言うし」

紬「そうね……やるからには本格的に、皆で一生懸命作りましょう!」

唯「おぉ!」

律「んじゃ、材料とか買出しに行くか。適当に分担していかないと、憂ちゃんが帰ってくる時間になってしまうしな」


~~~よくじつ!~~~

律「とまぁそんなこんなで、それぞれがそれぞれのものを食べてもらえるよう、サイズを小さめにしたパンケーキを作ってきた訳だが……」

紬「うふふ」ニコニコ

澪「あぁ……」ドヨーン

唯「えへ~……」ポワポワ

律「……昨日失敗してまだ後悔しているヤツが一人いる訳だが……」

澪「だ、だって! せっかく梓に食べてもらえるから頑張ったのにまさか……!」

律「あぁ! しーっ! しーーっ!! 一応制服着てきたって言っても、私たちは卒業生だ!
  放課後っていってもこんなとこ先生に見つかったらややこしい事に――」

さわ子「なにやってんのよあなた達……」

律「――なるんだよなぁ、コレが」


律「――……と言うわけなんです、すいません」

さわ子「なるほどね……ま、事情は分かったわ。それなら早く梓ちゃんに渡して、帰っちゃいなさい」

紬「はい、ありがとうございます、さわ子先生」

さわ子「別にお礼を言われる程のことじゃないわよ。
    三月が終わるまでは、まだあなた達はうちの生徒なんだもの。
    ちゃんと制服着て来てるんだから、特に咎める理由も無いものね」

律(良かった……昨日ムギが言った通り制服で来て……)

さわ子「でも、それならどうしてこんな部室前の階段で皆集まってるのよ。さっきも言ったけど、早く渡しに行けば良いじゃない。
    梓ちゃんもきっと、あなた達と部室で会えると喜ぶわよ」

律「いや~……そうしたいのは山々なんだけど……」

唯「じつはね、どうせだったら一人一人渡していこうかなって思って」

さわ子「あぁ……皆が一つずつ準備したの?」

唯「準備したんじゃなくて、手作りしたんだよ!」

さわ子「え……? そんなの梓ちゃんに食べさせて大丈夫なの?」

唯「酷いよさわちゃん!」ガーン

さわ子「冗談よ。唯ちゃんの料理の腕が最低限食べれる程度なのは、風邪をひいた時に分かったもの」

唯「その言い方でもやっぱり酷いっ!」ガーン!

さわ子「それに、りっちゃんも何だかんだで料理が出来そうだし、澪ちゃんとムギちゃんに至っては心配する必要も無いし」

澪「っ!」ビクッ

さわ子「え?」

律「いや~……実はこの中で失敗したの、実は澪一人なんだよねぇ……」

さわ子「えぇ~……?」

澪「…………」

さわ子「あぁ~……まぁ、その、ね……ドンマイ、澪ちゃんっ」

さわ子「っとあぁ! こんなところで油売ってる場合じゃなかったわぁ~」

律「うわ~……わざとらしいぃ~……」

唯「空気が悪くなったから逃げる気だね、さわちゃん」

さわ子「ひ、人聞きの悪いことを言わないで、唯ちゃん。私にも教師としての用事があるのよ」

紬「忙しそうですもんね、さわ子先生」

さわ子「そういう無垢に信用されると良心が痛むわ……」

紬「??」

さわ子「ま、ともかく、三月中はこの学校の生徒って言っても、用事が無いのに学校に来るのって本当はダメなことだから、早めに帰りなさいな」

唯律紬「「「は~い」」」

澪「……はい」

さわ子「……はぁ……そんなに落ち込まないの、澪ちゃん。
    あなたの作ったものなら、梓ちゃんだって喜んで食べてくれるわ。もっと自信を持ちなさい」

澪「……はいっ」

さわ子「うん、良い返事。それじゃあね、皆」

澪「……なんか、久しぶりにさわ子先生に励まされたら、ちょっと元気出たかも」

紬「良かったね、澪ちゃん」

澪「うんっ」

律「でも、逃げたことに変わりは無いよな……」

唯「そうだね……珍しくちょうだいの一言も無かったもんね……」

澪「…………」

紬「…………」

律「……ごほん……さて、それじゃあ澪の元気も戻ったところで、早速実行に移そうと思うんだけど」

唯「あっ、それじゃあ作戦通り憂に連絡するね」

律「ああ。そうやって憂ちゃんと純ちゃんに部室から抜け出してもらって、梓を一人きりにしたところで……」

紬「まずは私が、ティーセットを持って突入ね!」

律「ああ、頼むぞ」

唯「連絡したよ~」


憂「おねえちゃ~ん」タッタッタ

唯「あ、憂」

純「ちょ、ちょっと憂。なんで私までトイレに付き合わないと――って澪先輩!?」

澪「やあ」

律「いや、私たちもいるんだけどなぁ~……」

純「あっ、これはどうも、律先輩、ムギ先輩」

律「梓達の年代の後輩って、先輩に対する礼儀がなっていない気がする……」

紬「まあまあ」

純「それで皆さん、どうかしたんですか?
  制服まで着てうちに来て……まだ持って帰ってない荷物でもあるんですか?」

澪「いや、そういう訳じゃないんだけど……」

唯「憂、説明してないの?」

憂「ごめんなさい。純ちゃんに説明するの忘れてて……」

唯「うっかり屋さんだなぁ~、憂は」

律「唯にだけは言われたくないと思うぞ?」

唯「酷いよ、りっちゃん」

澪「いや、前日になってホワイトデーのお返しとか言いだす辺り、説得力無いよ」

唯「み、澪ちゃんまで!?」

純「ホワイトデー、ですか?」

律「ああ……その辺りの説明はしてやるよ。
  それよりもムギ、この様子だと梓が不審がるかもしれないし、早く行って来な」

紬「うん。それじゃあ先に行って来るわね」

タッタッタッタ…

純「……で、梓とムギ先輩を二人きりにして、何をするつもりなんですか?」

律「おおぅ……! 新しい放課後ティータイムのメンバーは怖いぜ……」

純「別に怖がらせてるつもりもありませんけど……その辺りのノリ、梓ほど付き合いが長くない私にされても困りますよ」

唯「純ちゃんは純ちゃんでいてくれたらそれで良いんだよ」

純「良いセリフのつもりなのかもしれませんけど、皆さんから見た私らしいって何……?」

唯「モフモフ可愛い!」

律「その場のノリで生きてる感じ……?」

澪「梓と憂ちゃんの友達、かな?」

純「やっぱり付き合いの短さってこういうところでくるよね……ちょっと悲しくなってきた……」

憂「まあまあ」

純「――……えっとつまり、先輩方は梓にホワイトデーのお返しを渡そうと、そういうこと?」

唯「うん!」

純「なぁんだ……それだったら連れ出す前に言ってくれたら良かったのに」

憂「言ったら梓ちゃんにも聞かれちゃうでしょ?」

純「でも梓が驚くのって、一番最初に行ったムギ先輩だけじゃない? 後の皆さんはもう分かっちゃう訳ですし」

澪「まあ、そうなるな」

律「でもやっぱサプライズ的なことはしたくなるじゃん?」

純「そういうの好きそうですよね……この前スタジオで顔合わせした時も、梓を利用したサプライズでしたし」

唯「あの時は皆で演奏できて楽しかったねぇ~」

律「って言うか、憂ちゃんは唯の世話があったから仕方ないにしても、純ちゃんは普通に梓と一緒に軽音部入ってくれても良かったじゃん」

澪「そうだよな。ちゃんとベースも弾けるから即戦力だったのに」

純「いやぁ~……あの頃は、その……はははっ」

律(笑って誤魔化した……)

純(さすがに、真面目に部活やってるように見えなかったとは、入った手前本人達を前にしては言えない……)


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