純、憂、梓が高校三年生になって、もう12月に突入していた。

12月某日  三年生の教室

憂「ああ、N女の受験まで一月くらいしかないよ、もう」

純「はは、そんな遠い先の話し。私も梓もN女志望だけどさ、そんな気をやまない方がいいと思うよ?」

憂「私はそれでも心配なんだよねぇ」

純「そういえばさ、軽音部の先輩たちっていつ帰ってくるの?」

憂「たしか、三が日に帰ってくるみたいだよ」

純「夏休みに戻ってきたときはさ、焼肉パーティみたいなの開いたじゃん? 今年もああいうのやるの?」

憂「うーん、やりたいのは山々なんだけどさ。一月に入るとさ、受験勉強をしなきゃあ本当にヤバい時期になるでしょ? 私立でもさ」

純「あー、それが一番ネックだね」

憂「せっかくお姉ちゃん達が帰ってくるのに、何もしてあげられないなんて……」

純「せめて、初詣くらいはいけるんじゃない?」

憂「ああ、それは出来ると思うけど」

純「あとはさ、憂が作ったお節食べながら、積もり積もったお話しするの。そう言うのもいいと思うよ?」

憂「まあ……たまにはそういうのんびりとしたのもいいかもね」

純「でしょ?」

憂「まあ何にせよ、楽しみだな」

純「うん。ああ……澪先輩、とっても格好良くなっているんだろうなあ……」

梓「何の話ししているの?」

純「ああ、お正月に軽音部の面々が返ってくるって話」

梓「え、本当!? いついつ?」

憂「三が日」

梓「その日、私も憂の家行ってもいい?」

憂「うん、もちろん」



正月    駅前

梓「唯先輩たちがここに到着するのって、何時くらい?」

憂「うーんと、あと五分後だね」

梓「うわ、何かドキドキする」

憂「八月以来だもんね、会うの」

梓「ああ……夏休みのとき以来かあ」

純「感慨深いね」

憂「もしもさ、私たちがN女合格したら……ずーっとお姉ちゃんたちと一緒にいられるんでしょ?」

梓「まあ、そうね」

憂「うわー、私、頑張れちゃう」

梓「はは、憂らしい」

純「でも、もう私たちそんな時期なんだねえ……」

梓「早いよね。ついこの間修学旅行行ったばかりだよ」

純「本当にね」

梓「時間がたつのってかなり早いね。この調子じゃあ、すぐにおばあさんになっちゃうよ」

憂「だねー」

純「ああ、そういえばさ、今年の学園祭の時に、私たち三人でライブやったじゃん?」

梓「うん、したね」

純「その時の映像持っているからさ、先輩達に見せようよ!」

憂「ああ、いいね。それ」

和「楽しそうね」

憂「――和ちゃん!?」

和「あなたたちも唯たちのこと待っているの?」

憂「あ、うん! 和ちゃんは何でここに?」

和「私はおとといにもう里帰りしていたのよ。したら昨日、唯から電話あってね。明日帰省するから、だって」

憂「それで、ここに?」

和「ええ。――ああ、そろそろ来るみたいよ、電車」

数秒して、改札口から一人の少女が現れた。

唯「――あ! 憂! 来てくれたんだ!」

憂「お姉ぇちゃぁんっ!」

憂は唯に走り寄り、抱きつく。

唯「ういいぃ……逢いたかったよ……」

憂「私もだよぉ、お姉ちゃん」

二人は頬を摺り寄せ合う。

澪「相変わらずだな、唯」

その後ろから、澪と律が現れる。

律「まあまあ。感動の姉妹の再開なんだから。生温かく見てやれよ」

紬「ああ、懐かしいなあ……」

更にその後ろから、両手を胸の前で組んだ紬が現れる。

澪「半年ぶりくらいかな?」

紬「そのくらいかしらね」

澪「それにしても、この街も変わっていないなあ」

紬「本当ね。あのあたりの町並みなんて、むしろ退化しているような気がするわ」

澪「あ、本当だ」

律は梓に歩み寄ってきた。

梓「あ、律先輩。あけましておめでとうございます」

律「おう。梓。いい子にしてたかー?」

律は梓の頭をガシガシと撫でる。

梓「ちょ、やめてくださいよぉ」

言いつつも、どこか嬉しそうだった。

律「梓はあーい変わらず成長していないな」

梓「なっ、どう意味ですか、それ」

律「胸的な意味だ」

梓「私は外見よりも内面で勝負するタイプなんです」

律「へーえ、ちなみに私はどんどん大きくなっているぞ?」

和「律も相変わらずね」

律「おう、和。大学生活はどうだ? 彼氏出来たか?」

和「残念ながら、そういうものとは縁遠い生活を送っているわ。律の方は」

律「私は音楽に人生を捧げるって決めたんでねー。男とかそういうものには興味ないの」

和「彼氏ほしい、ってメールしてきたのはどこの誰かしら」

澪「おお、和もいたのか」

和「ええ。澪も元気にしてた?」

澪「ああ。こいつらがいるからな。元気すぎるほど元気だよ」

和「それは何よりね」

律「あーあ、始発の電車でここに来たから何も食べてないんだ。朝飯食いてー」

梓「多分、このまま初詣に行きますから朝ご飯には当分ありつけないと思いますよ」

律「何! 本当か!」

梓「残念でしたね」

律「くぅー、澪! カロリーメイト寄こせ!」

澪「だから買っとけって言っただろ。お腹すくからって」

律「うるせー、お金がもったいなかったんだよ!」


純「…………わかってるよ。私は空気キャラなんだって」

紬「駄目よ。めげちゃ」

純「……はい」

紬「あなたにしか出来ない役割ってモノが必ずあるから。自分が空気扱いだからって気にしないで」

純「……はい」

紬「つねに誰かに気づかいをする。これは忘れてはいけないわ」

純「はい」

紬「大丈夫。あなたはとても可愛いから、ヒロインにだってなれるわ。そう自分を卑下しないで」

純「ありがとうございます……、何か、力が湧いてきました」

紬「頑張ってね」

純「はい!」



神社

八人はさい銭箱にお金を入れると、無言で手を合わせた。

唯「………………」

梓「………………」

律「………………」

澪「………………」

紬「………………」

憂「………………」

和「………………」

純「………………」


そして、一斉に願い事が終わる。

律「澪は何願った?」

澪「私は、梓達が合格しますように、だよ」

律「なーんだ、私と同じか」

澪「ムギは何にしたんだ?」

紬「私は……世界平和を」

澪「……スケールが大きいな」

唯「和ちゃんは何お願いしたの?」

和「…………秘密よ」

唯「えー、教えてよー」

和「それよりお守りを買ったりしないの?」

唯「ああ、合格祈願のお守りとかも買わなきゃね」

和「でしょう? ほら、唯行くわよ」

唯「和ちゃんは何のお守り買うの?」

和「…………秘密よ」


お守り売り場

唯「ほー、いっぱいお守りあるね」

和「早く買っちゃった方がいいわよ。混んでるから」

唯「それじゃあ、えっと、合格祈願のお守りみっつ下さい」

巫女「はい、かしこまりました。945円になります」

唯「…………和ちゃん」

和「なに? 唯」

唯「お金、ほとんど残っていないの忘れてた」

和「……まったく、しょうがないわね」

唯「出してくれるの?」

和「ええ。ただし、後で返してね」

唯「ありがとう! 和ちゃん!」

和「はい、945円」

巫女「ありがとうございます」

唯「あれ? 和ちゃんお守り買った?」

和「買ったわよ」

唯「何のお守り?」

和「御想像にお任せするわ」

唯「ふぅん……しゃくぜんとしないけどまあいいや。澪ちゃん達は?」

和「みんな、おみくじのところ行ってるわよ」

唯「おみくじ! 私もやりたい! 行こう行こう!」


おみくじ売場

純「うわー、私小吉だ。何だ、つまんない」

梓「あ、私は大吉」

憂「私も大吉だったよ?」

純「私だけか……、何々、健康運には恵まれないって……余計なお世話だ」

梓「あ、でも純、その分学業成績は良くなるって書いてるじゃん。受験生としたら幸先いいよ」

純「まあ、そうなんだけどね」

律「うがー! 末吉だ!」

澪「あ、私大吉」

紬「私も~」

律「異性に恵まれない……って、余計なお世話だ!!」

澪「まあまあ、落ち着け。律」

律「澪のはなんて書いてあるんだ~……って、お前は異性に縁がある、だとぅ!?」

澪「日ごろの行いだな」

律「くそう……くそぅ」

紬「私は、金運の年らしいわね」

澪「ムギはそれ以上金運いらないんじゃないか?」

律「なんで澪ばっかり……」

唯「あ、りっちゃん。おみくじひき終わった?」

律「ああ……終わったよ」

唯「よーじ、私も引くぞー」

律「もういいよ……腹減った、飯にしようぜ」

唯「え、おみくじは!?」

律「おみくじなんてただ神社にお金をむしり取られるだけだよ。唯、やらないほうがいいぞ。だから飯にしよう」

唯「うーん、リっちゃんがそこまで言うなら……」



平沢家

唯「いやー、初詣楽しかったね」

憂除く七人が、平沢家のテーブルを囲んでいた。

憂「みなさんお待たせー」

そう言いながら憂はお節を運んでくる。

唯「おおー、いいにおいー!」

律「あ、梓。おまえ伊達巻きとるなよ」

梓「早い者勝ちです」

律「いや、年功序列だろ。ちょっと梓、食べすぎだって、伊達巻き」

梓「私、伊達巻き大好きなんですよね」

律「大好きなのはわかったから、私にも寄こせ! 朝飯食ってないんだ!」

梓「いくら先輩と言えども伊達巻きだけは譲れません!」

律「うるせー! とにかく伊達巻き食わせろ! お前伊達巻き全部食うつもりか?」

梓「つもりです!」

律「あ、お前、私の箸から奪うな! 汚え!」

梓「私の伊達巻きを盗まないでください!」

律「私のだああああああああああ!!!!」

紬「あ、何これ?」

澪「ああ、それは酢レンコンだな」

紬「すれんこん?」

澪「お酢につけたレンコン、みたいなものだと思う」

紬「美味しい?」

澪「美味しいんじゃないか? 憂ちゃんの作った料理だし」

紬「じゃあ、一つ食べてみようかしら」 ヒョイパク 「……ああ、何だか癖になりそうな味ね」

紬「もう一つ」

カリカリコリ

紬「ああ、いいわねこれ」 ヒョイパクッヒョイパクッヒョイパクッヒョイパクッヒョイパクッ 

澪「……一人で全部食べる気か……」


純「…………………………」

純(……何か、居づらいな)

純(…………話相手がいないからか、それとも、単に私が内気なだけか)

純(…………まあ、お節美味しいからよしとしよう)

憂「ねえ、純ちゃん?」

純「何?」

憂「美味しい? お節」

純「ああ、うん。絶品だよ」

憂「そっか、よかった」

純「……賑やかでいいね」

憂「そう? 私は純ちゃんと二人だけで食べる方がいいけどね」

純「…………へ?」

憂「なんて。冗談」

純「……あ、そうだよね。あはは、冗談だよね」

憂「それよりさ、もっと食べてよ。残すのももったいないでしょ」

純「うん、わかってるって」

純は澪を見る。楽しそうに紬と談笑していた。

純「あれだね、やっぱ大学生ってなると、みんな、凛として見えるね」

憂「一年後、私たちもああなっているんだよ。きっと」

純「一年後、かあ」

それは遠いようで近い、未来のことだった。

純「私たちがN女に合格して、そうしたら、お正月とかはどうするんだろう」

憂「多分、向こうで今日みたいにはしゃぐんだろうね」

純「それはそれで、いいなあ」

憂「そう? 私は寂しいけどね」

純「何で?」

憂「だって、この家で、この街で、みんなで騒ぐことはもうできないでしょ?」

純「ああ……今回が最後だね。ここではしゃげるの」

憂「まあ、N女に合格したらだけどね」

純「嫌なこと言わないでよ」

憂「あはは、ごめんごめん」

純「…………絶対合格しようね、N女」

憂「もちろん」

純「絶対だよ?」

憂「分かってるって」

純「ずっとさ、来年も再来年もこのメンバーで、正月とかお盆とかに集まれるようにしようね」

憂「うん」

純「ずっと、一緒だよ」

憂「もちろん」

純は黒豆に箸を伸ばす。甘い甘い味がした。

こういう正月も、いいかもしれない。
                              終わり



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